2017年11月29日水曜日

予兆 散歩する侵略者 劇場版


☆☆☆★★     黒沢清     2017年

「ホラー」に特化した別のストーリーという触れ込み
だったので、どれほどの恐怖が待ち構えているのかと
おそるおそる観に行ったが……ちっとも怖くない!

菊地凛子の夫(染谷)と爆笑ヨーグルト姫(夏帆)の
夫婦はこれまで穏やかに暮らしていたのだが、杏の夫
(東出)が同じ病院に勤めだした頃から、染谷くんの
様子がおかしくなり始める。

冒頭は何の変哲もないマンションの階段で、これだけ
でワクワク。黒沢清の映画を観る楽しみのひとつは、
黒沢が提示してくる人物の居ない画の「何の変哲もな
さ」に愉悦を覚えることである。もうひとつは「移動
ショットの愉楽」というものもある。とりあえずこれ
だけあれば俳優もストーリーもひとまずどうでもよく
て、それらが良ければもう儲けものというのが、一義
的に黒沢ファンの鑑賞法であると私は勝手に考えてい
る。

その意味では今回は、ホラーというには恐怖成分が少
なく、東出くんは顔は不気味だけどそんなに強そうで
はなく、染谷くんもそれほど精彩を欠くように見えた。
ヨーグルト姫は若干芝居が単調かな。役柄から言って
しょうがないかもしれないが。

                                        11.23(木) 新宿ピカデリー


2017年11月26日日曜日

ブラッド・ダイヤモンド


☆☆☆★   エドワード・ズウィック   2007年

シエラレオネのダイヤモンド採掘をめぐる血塗られた抗争
と搾取と悲劇をレオ様主演で描く。政府とRUFという人民
解放軍みたいなのとの内戦状態で、何万人という難民が発
生しており、RUFは子どもを拉致して洗脳し、兵士にして
いる。人権団体やジャーナリストも押し寄せているが、レ
オ様は南アフリカ生まれの元傭兵という設定。これまでも
紛争地帯で際どい取引を成功させて闇社会で生きて来た、
筋金入りのタフガイである。

いろいろあって子どもを拉致されたソロモンを相棒にして
幻のピンク・ダイヤモンドで儲けようと企み、戦場を駆け
抜ける。この戦場が、なぜかちっともハラハラしない。レ
オ様が死ぬわけないからというのも一因かもしれないが、
どうも漂白された戦場という気がした。死臭がしない。
ソロモンが難民キャンプで家族と再会するところなど、少
しわざとらしいところもあり、だいぶ興を削がれる。題材
がリアルでいくらでもおもしろくなりそうなだけに、惜し
い。

                                                11.18(土) BSプレミアム


2017年11月24日金曜日

ヘッドライト


☆☆☆★   アンリ・ヴェルヌイユ   1955年

先週号の週刊文春で小林信彦が久しぶりに連載を
再開した。慶賀すべきことだ。再開されたコラム
には「約一週間、生きるか死ぬかというところに
いたらしい」とある。脳梗塞の症状が出て緊急搬
送され、生死の境をさまよった由。

さて、本作は小林信彦も評価していた(と思う)
フランス映画。どう評価していたかは覚えていな
いが、少なくともフランソワーズ・アルヌールは
好きだと言っていたはず。

妻子もちのトラック野郎ジャン・ギャバンと、あ
まり理由は分からないが彼に惚れて駆け落ちのよ
うにトラックに飛び乗る女給のフランソワーズ・
アルヌール。いまでいうゲス不倫だが、映画の文
法に従えばこれは「許されぬ恋」そして「メロド
ラマ」ということになる。
ジャン・ギャバンはたしかに渋いが、美人女給が
くらくらするほどかなぁ。

原題は"Des Gens Sans Importance"で、「とる
にたりない人々」といった意味らしい。「ヘッド
ライト」という邦題は、まあ悪くない。

                                      11.15(水) BSプレミアム






2017年11月21日火曜日

読書⑪


『五分後の世界』
村上龍 著    幻冬舎文庫

ふと意識が戻ると、自分が何かの行軍に加わって密林の中の
細い道を歩かされていることに気付く。ここがどこで、今が
いつなのかも分からない。道はぬかるみ、空腹も疲労も耐え
難いが、列から落伍した者には死が与えられることだけは明
らか…。
という幕開けからして映画的というか、映画を観ている観客
の気分というか。やがてこの世界の一端が見えてきて、一種
のパラレルワールドに入り込んでしまったことが分かってく
る。それがどういう世界か言ってしまうとおもしろくないの
で言わないが。
エッジの効いたヒリヒリするような文体は心地いい。
戦闘シーンの描写など、力のこもったすさまじい熱量である。









『非道に生きる』
園子温 著   朝日出版社

映画監督・園子温がいかにして生まれたのかを語り下ろしで
一気に語り尽くした本。
早熟の詩人で、若くしてPFFの大賞を獲り、『自転車吐息』
という成功作がありながら、なおかつ40歳を過ぎて『自殺サ
ークル』でメジャーに殴りこんできた"遅咲き"の映画作家で
もある。つまりほとんど映画を撮れなかった期間が10年ぐら
いあるのだ。

私は御多分にもれずユーロスペースで『愛のむきだし』を観
て、その過剰さと疾走感とゆらゆら帝国にノックアウトされ、
以来ずっと監督作を追い続けている。正直いって毎回おもし
ろいわけでもないが、「次はなにが飛び出すか」という怖い
もの見たさではダントツで一番である。本書を読めばわかる
が、本人がまずもうめちゃくちゃな人である。もうどんな映
画を撮ったって驚かない。








<ツイート>
BRUTUSの「観てない映画」特集。私は50本中25本でした。
ちょうど半分。寄稿者の平均が29本(観てる)だったという。
まだまだ修行が足りないようなので、精進します。

2017年11月16日木曜日

アウトレイジ 最終章


☆☆☆★★      北野武    2017年

このシリーズも終わってしまったかー。
物語も最終章に至り、たけし(大友)は済州島に身を
隠しており、中盤まで活躍の場は与えられない。明ら
かに『仁義なき戦い』を意識しながら紡がれたこのシ
リーズは、最終章においても『仁義なき戦い 完結篇』
の枠組を拝借しているといっていいだろう。

前回は加瀬亮がやっていた役回りを、今回は大杉漣が
つとめる。いきがっている大杉漣に、西田敏行と塩見
三省という"モノホン"がお灸を据える話である。この
ふたりの老獪な感じがたまらない。たけしはやはり、
滑舌がけっこう危なっかしく、しゃべり出すとハラハ
ラする。

いずれにせよ、このシリーズにはたいへん楽しませて
もらった。3作も撮ったということは、もう当分ヤク
ザ映画は撮らないのかもしれないが、またいつか撮っ
てほしいものである。

                                      10.14(土) 新宿ピカデリー


2017年11月15日水曜日

読書⑩


『卵を産めない郭公』
ジョン・ニコルズ 著  村上春樹 訳  新潮文庫

『結婚式のメンバー』もヘンな話ではあったが、この
小説もかなりヘンだ。この2作には、春樹のアメリカ文
学の好みがよく表れているような気がする。2つの小説
に共通するのは、ちょっと変わった女の子が出て来て、
とにかく饒舌である事ない事しゃべりまくるという点だ。
若干『フラニー』に似た雰囲気も感じる。
カレッジを舞台にした一風変わった青春小説。









『愛と子宮に花束を 夜のオネエサンの母娘論
鈴木涼美 著   幻冬舎

半分ぐらいはネットで公開されているのを読んでいたが、
お母さんをめぐる章が追記されているのでもちろん購入。
鈴木涼美のお母さんの、AV女優をやった娘への愛憎なか
ばした刺すような言葉がいつも楽しみなのである。

2017年11月13日月曜日

【LIVE!】 銀杏BOYZ


日本の銀杏好きの集まり

 1. エンジェルベイビー
 2. まだ見ぬ明日に
 3. 若者たち
 4. 駆け抜けて性春
 5. べろちゅー
 6. 骨
 7. 円光
 8. 二十九、三十(クリープハイプCover)
 9. 夢で逢えたら
10. ナイトライダー
11. トラッシュ
12. I DON'T WANNA DIE FOREVER
13. 恋は永遠
14. BABY BABY
15. 新訳 銀河鉄道の夜
16. 光
17. NO FUTURE NO CRY
18. 僕たちは世界を変えることができない

<Encore>
 1. 人間
 2. ぽあだむ
 3. もしも君が泣くならば

                                      10.13(金) 日本武道館

レキシのおふざけが過ぎるライブから、44時間後。
わたしは再び武道館にいた。
今度は、銀杏BOYZの初武道館を目撃するためである。

宗男おじさんが活躍するずっと前に買ったためか、ア
リーナで、しかも前から6列目という驚異的に良い席で
あった。武道館で20回以上はライブを観ているが、ま
ともにチケット買ってアリーナ席だったことなど一度
も無い。

1曲目は「エンジェルベイビー」。もう最後の曲かと
いうぐらいのフルスロットル、よだれを垂らしてマイ
クを咥えこんだりしながら歌う。狂気のパフォーマン
スを見せたかと思えば、朴訥としたMCで笑わせる。

代表曲はいつもなぜか1節まずアコギで弾き語って、
観客にも歌わせてからあらためてバンドで演奏してい
たが、もう最初の合唱ですでに武道館の一体感にグッ
とくる。みんな峯田さんのことが好きなんだなー。
あんなに絶叫しながら、3時間を超えるライブで最後
まで野太い声が健在だったのはさすが。もう山田将司
には無理な芸当だなぁ…。

ベストアクトは、普通だけど「BABY BABY」。
ちょっと別格な曲なのかな。特別な場所で鳴らされる
特別な曲という感じがした。

2017年11月10日金曜日

【LIVE!】 レキシ


レキシツアー2017
不思議の国の武道館と大きな稲穂の妖精たち ~キャッツの日~

 1. KATOKU
 2. 年貢 for you
 3. KMTR645~タッチ~
 4. 妹子の馬 LOVEメドレー (妹子なぅ LOVE弁慶 やぶさめの馬)
 5. SHIKIBU

 6. Takeda' with ニセレキシ
 7. 古墳へGO! with ニセレキシ

 8. 最後の将軍
 9. 古今 to 新古今
10. 墾田永年私財法
11. 憲法セブンティーン
12. 刀狩りは突然に
13. きらきら武士

<Encore>
 1. 狩りから稲作へ

                                            10.11(水) 日本武道館

いつもながら楽しいライブで。
武道館2DAYSの2日目に参戦。笑い疲れた。 
ふざけ散らしていながら音楽的にも高度なことをやっ
ているのだから、1粒で2度おいしい感じ。そりゃあ
客も来るし、稲穂も売れるわ。

ゲストはU-zhaan(ニセレキシ)。
もちろん「Takeda'」を披露。盛り上がる。

ベストアクトは「墾田永年私財法」。この曲すきだ
わー。743年ってことはもう忘れない。
今回は特に、元気出せ遣唐使をいじり倒すところは
会場もずっと爆笑。すごかった。

2017年11月9日木曜日

湯を沸かすほどの熱い愛


☆☆☆★★     中野量太     2016年

銭湯を経営する肝っ玉かあちゃんが癌により余命宣告
されて…と聞くともうさんざん量産されているその類
型の映画・ドラマに食傷ぎみの身としては観る気を失
うのだが、なるほど今作は「余命もの」の王道の展開
をたどりながらも、どうしようもない悲壮感に陥るこ
とをたくみに避けている。それは脚本と演出を手がけ
た監督の力量だといっていいだろうと思う。

しかしラストがちょっと…なんかなぁ。別に不謹慎と
か言うつもりはないけど、それってどうなの、と思っ
てしまう。

                                                10.9(月) Blu-ray


2017年11月6日月曜日

読書⑨


『映画評論・入門!』
モルモット吉田 著   洋泉社

「映画評論」というものが今よりずっと影響力を
持っていた時代のおもしろいエピソードが満載。
"国辱映画"と呼ばれた若松孝二の『壁の中の秘事』、
市川崑を擁護するため立ち上がった高峰秀子、幻
の映画評論家・増田貴光、ロマンポルノの評価の
変遷…。なにより『あの夏、いちばん静かな海。』
が、『稲村ジェーン』を観たたけしが「俺ならこ
う撮るね」ということで出来た映画だというのは
驚きだ。やはりたけしは"反射神経"のひとであり、
"批評"のひとなんだとあらためて思う。









『アイスクリームが溶けてしまう前に』
小沢健二と日米恐怖学会    福音館

どういう経緯でできた絵本かは知らないが、とりあえず
「小沢健二」と名の付くものは買ってみるのである。
ハロウィーンをめぐる「おはなし」。にしても、「日米
恐怖学会」ってなんだ。






2017年11月4日土曜日

散歩する侵略者


☆☆☆★★★    黒沢清    2017年

いやぁ最高。おもしろいわー。
宇宙から偵察に「散歩する侵略者」がやってくる。まず
は3人。地球人の身体を乗っ取り、人間のことを学習する
ために色んなひとから概念を奪って理解する。奪われた
者はその概念を失ってしまう。「家族」「仕事」「敵」
などなど。長澤まさみの妹の前田敦子は「家族」の概念
だけを奪われて、見た目には何も変わらないのに急によ
そよそしくなる。
長澤まさみは、離婚しようとしていた夫の松田龍平が侵
略者に乗っ取られて、まともに歩くこともままならず、
ヘンなことばかり言い出すのでそのまま見捨てるわけに
もいかない。しょうがないから仕事をしながらそのまま
面倒をみるのだが、家から出るなと何度言っても松田龍
平はふらふら散歩するのである。このへんのやりとりは
笑える。散歩する侵略者だからね。

                                              10.9(月) 新宿ピカデリー