2017年12月31日日曜日

花筐


☆☆☆★★   大林宣彦   2017年

『グランド・マスター』がカンフーによる映像
絵巻物ならこちらは何だろうか。そう思ってい
たらモルモット吉田氏の評言に「デジタル紙芝
居」とあり、なるほどあの横ワイプは紙芝居の
紙のスライドだったのかと得心したのであった。

唐津を舞台にした極彩色の曼荼羅のようなフィ
ルムである。反復される赤のイメージ、奇妙な
ズームイン、色も素人がいじったような気持ち
の悪い色だし、CGも違和感満載でおかしい。
しかしこの圧倒的な熱量はなんだろう。
窪塚俊介、満島真之介、長塚圭史、いずれもよ
かった。特に蛇のような気味の悪い男を演じさ
せたら右に出る者はいない長塚圭史が最高。

                            12.26(火) 有楽町スバル座







<ツイート>
本年の営業はこれにて終了。
80本を目標として映画を観てきましたが、65本
という不本意な結果に終わりました。BSではそ
こそこ観ているので、もっと映画館に足を運ば
なければ。新作の鑑賞が21本というのはあまり
に少ない。来年は立てなおしを図りたいと思い
ます。では失敬。

2017年12月30日土曜日

グランド・マスター


☆☆☆★   ウォン・カーウァイ    2013年

映像絵巻物、といった観のあるカンフー映画。
偉大な師の死により勃発する流派どうしの抗争が描か
れるが、『仁義なき戦い』のような「獲るか獲られる
か」ではなく、卑怯なことはまずしない。きちんと形
式を踏んで勝たないと、それは勝ったことにならない
のである。戦いは様式美の極地のような、人間離れし
たものとなる。
途中「カミソリ」という異名の男のエピソードが挟ま
るのだが、本筋にまったく絡まず、いったい何だった
のか…。

                                        12.25(月) BSプレミアム


2017年12月29日金曜日

8人の女たち


☆☆☆★★★   フランソワ・オゾン   2002年

年の瀬になって、観る映画に思いがけずおもしろいものが
続いている。この映画、想像していた内容とはだいぶ違っ
たが、遊び心と真剣さと皮肉とのブレンド具合が絶妙で、
監督のたしかな手腕を感じる。

いわく「歌う推理劇」。
金田一少年の事件簿ばりに、外部と遮断された屋敷で殺人
が起こり、「犯人はこの中にいる」。犯人さがしが行われ
るが、登場人物が途中で歌い出したりする。カトリーヌ・
ドヌーヴをはじめとする錚々たる大女優たちも、コミカル
な振付けをノリノリで楽しんでいることが伝わってくる。

監督は若いイケメンで、準備段階では1人づつ相手に説明
すればよかったけど、撮影初日に8人の女優たちと相対し
たときにこれはエライことになったと思った(意訳してま
す)、みたいなことを正直にインタビューで喋っていてお
もしろい。

                                                            12.24(日) DVD


2017年12月28日木曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


マニアックヘブンツアー Vol.11

 1. ハッピーエンドに憧れて
 2. 証明
 3. 真冬の光
 4. 異国の空
 5. 白い日記帳
 6. 新世界
 7. 怪しき雲ゆき
 8. ミスターワールド
 9. 運命複雑骨折
10. 負うべき傷
11. ガーデン
12. 砂の旅人
13. 旅人
14. 青空
15. イカロスの空
16. 共鳴

Encore
 1. 夏の残像
 2. 天気予報
 3. ピンクソーダ
 4. さらば、あの日
 5. サイレン

                            12.24(日) 新木場STUDIO COAST

今年はついにマニアックヘブン「ツアー」である。
こうしてB面や目立たぬアルバム曲に光をあてるライブは
どのバンドもやりたいだろうが、やはり興行として成立さ
せるのは難しいのだろう。B面だろうと制作の手を抜かな
いバンドの誠実さと、B面も等しく愛すファンたちの誠実
さの結晶を見るようで、わたしはこのライブがとても好き
である。

今年は1曲ごとにベストアクトを更新していくようなすば
らしい展開で、『運命複雑骨折』でいったんピークを迎え
るまでの流れは、少なくともここ5年でもっとも優れていた
と思う。唯一『負うべき傷』だけは「はて…こんな曲あっ
たっけ」と思ってしまったが、それはこちらの勉強不足。
山田の声の調子も良く、言うことなしのすがすがしいライ
ブであった。

2017年12月26日火曜日

カラーパープル


☆☆☆★★★  スティーヴン・スピルバーグ  1985年

スピルバーグが『シンドラーのリスト』を撮ったこと
を知っている今の我々はこの映画をすんなりと受け入
れることができるが、『E.T.』や『JAWS』のような
映画を期待していた観客はこのヒューマンドラマをか
ならずしも歓迎せず、興行的に低迷し「賞狙いだ」と
いう批判もあった由。

そんなことは今となっては関係ないので…。
大河ドラマに弱いわたしとしては、この悠々としたリ
ズムでじっくりと展開していく黒人姉妹の絆をめぐる
感動作に、まことに素直に感動してしまう。
スピルバーグ万歳。すばらしい映画だった。

                                              12.23(土) BSプレミアム


2017年12月25日月曜日

ギャンブラー


☆☆☆★★   ロバート・アルトマン  1971年

この映画が71年当時、どう受け止められたのかは分からない
が…。すでに西部劇ははやらなくなっていたのではなかろう
か。しかし独特のリズムがあって、最後の降りしきる雪の中
の幾分だらだらした決闘も、良い味がある。
ときどきはさまるレナード・コーエンの歌が渋い。

                                                 12.14(木) BSプレミアム


2017年12月21日木曜日

読書⑫


『秘密の花園』
F. H. バーネット 著  畔栁和代 訳 新潮文庫

これも「題名は知ってるけどどんな話か知らない」
シリーズの一環で読んでみた。

インド生まれの偏屈な少女メアリ、こころ優しき野
生児ディコン、そしてみずからを奇病と思い込んで
いるコリン、3人の子どもと庭園をめぐる物語である。
「バスカヴィル家の犬」のように、ムーアと呼ばれ
るイギリス独特の地形(荒野)が物語の中心に据え
られ、広い屋敷の中のよく手入れされた庭園と対比
をなしている。庭園の塀に囲まれて、ある理由から
長い間放置された「秘密の庭園」がある、というわ
けである。
児童文学といえども、どことなく、たしかにイギリ
ス文学の香りがするのが、さすがイギリスであった。








『冥土めぐり』
鹿島田真希 著   河出文庫

芥川賞受賞作が文庫になると一応買うのだが、あま
り読まない。優先的に読もうという気になれないの
である。ときどき、こうして思い出したように読む。

ある日突然、障碍者になってしまった夫と一緒に、
熱海か箱根か分からないがあの辺の温泉地に旅行に
出かけ、幼い頃に憧れだった高級ホテルに泊まって
帰って来るという小説である。全体にいやーな感じ
が漂っているのはなんだろう。主人公が心中か自殺
を決意して出かけるが、それを思いとどまる話だと
私は思ったのだが、はっきりとそう書いてあるわけ
ではない。

他に「99の接吻」を収める。去年のトルコ映画の
「裸足の季節」を思わせる姉妹の話。もっとずっと
陰湿だが。

2017年12月18日月曜日

銀座カンカン娘


☆☆☆★    島耕二   1949年

高峰秀子と笠置シヅ子が歌って踊る、音声はノイズ
がひどいがなかなか楽しい和製ミュージカルになっ
ている。

五代目古今亭志ん生が出演しており、短縮版ながら
落語を披露するラストシーンがたいへん貴重らしい。

                                         12.12(火) BS日テレ


2017年12月14日木曜日

グレムリン


☆☆☆    ジョー・ダンテ   1984年

誰でもご存じの映画。
わたしも幼きころに観ているが、20年振りぐらいに
観ると、ほとんど何も覚えていなかったことに、驚き
を通り越して呆れてしまう。こんなに忘れるんなら、
いくら観ても意味がないんじゃあるまいか…。

まあ気を取り直して。ギズモ可愛いよねー。歌うしね。
最初に売ってもらった時は「モグワイ」という生物だ
と教わる。それを「ギズモ」と名付けた。変態して凶
暴になったモグワイを「グレムリン」と自然に人々が
呼び始めた。

グレムリンは機械にいたずらをする妖精的な存在なの
で、あいつらはメカに強いのである。除雪車は運転す
る、ターンテーブルでレコードはかける、なんでも使
いこなしてしまう。最後のおもちゃ屋での対決は少々
長過ぎて退屈した。

                                      12.8(金) BSプレミアム


2017年12月11日月曜日

いとこ同志


☆☆☆★★★  クロード・シャブロル  1959年

お人好しの田舎青年のシャルル(ジェラール・
ブラン)が、パリのいとこポール(ジャン=ク
ロード・ブリアリ)のもとで同居を始める。
まじめに禁欲的に試験勉強に励むシャルルに対
して、いつも女と遊び呆けているポール。声が
大きく、態度も不遜である。同年代に加えて、
うさんくさいおっさんともよくつるんでいる。
しかしいざ試験結果が出てみると…。
ヌーヴェル・ヴァーグの先駆けともいわれる映
画なのだが、『勝手にしやがれ』とか『大人は
判ってくれない』とかとは、あまり似た雰囲気
もないような。

少なくとも受験生には見せるべきではない映画
だね。

画像はジュリエット・メニエル。きれいなひと
であった。しかし出演作の一覧を見ると、あま
り多くない。

                                 11.26(日) BSプレミアム


2017年12月8日金曜日

恐怖のメロディ


☆☆☆★★   クリント・イーストウッド  1971年

イーストウッドの初監督作品。音楽のモチーフの使い方
や、起承転結がはっきりしている所など、イーストウッ
ドの「好み」は今でも変わっていないのだな、と思う。

みずから演じる色男のラジオDJのもとに毎夜かならず、

「ミスティ」をかけて(Play Misty For Me)

というリクエスト電話がかかってくる。熱心な彼のファ
ンなのだ。やがて相手と一夜限りの関係をもったイース
トウッドは、愛し合っていると勘違いした女の強烈なス
トーキングに悩まされる。ぐずぐずと中途半端な対応を
しているうちに行為はどんどんエスカレートし、お手伝
いさんはメッタ刺しにされ、恋人にも危険が迫る…。

ひとを刺すとき、いつも「あ゛ぁぁぁぁっ!!」と絶叫し
てから刺すのが最初はヘンに思ったが、じわじわ怖い。
日本でリメイクするなら、この狂女を演じられるのはや
はり松居一代しかいない!
イーストウッドはもちろん船越英一郎。

                                              11.25(土) BSプレミアム


2017年12月5日火曜日

普通の人々


☆☆☆★   ロバート・レッドフォード  1980年

ロバート・レッドフォード初監督作にして、高い評価を
受けた名作、と聞いていますよ。アカデミー作品賞をふ
くむ4部門を受賞。スタートとしては破格ですねぇ。

平穏な暮らしを営んでいた4人家族が、長男の事故死を
きっかけとして、少しづつ歯車が狂い始める。カウンセ
ラーが重要な役割を果たすので、「グッド・ウィル・ハ
ンティング」を思い出すひとも多かろう。
過度にセンセーションを起こさない淡々とした演出は、
いくら名優といえどもそれだけで出来るものではあるま
い。独特の嗅覚を備えていたということだろう。しかし
それほど慎重に、大切に演出するのが「家族が崩壊して
いく様をリアルに描く映画」というのが、以前からだけ
ど私には引っ掛かるのである。どうも観ていて良い気が
しない。それがリアルで克明であればあるほど…。
失恋とか挫折とかだったら別になんとも思わないのだが、
なんでだろう。あるいは私の深層心理に関わるのかもし
れない。

                                          11.24(金) BSプレミアム



2017年12月2日土曜日

ミニー&モスコウィッツ


☆☆☆★   ジョン・カサヴェテス   1971年

黒沢清が偏愛するカサヴェテス。前に早稲田松竹で
2本観てどうもピンと来ず、これでおもしろくなかっ
たらもう観ないと心に決めて観た。

モスコウィッツというヘンな男を軸に、話は進む。
長髪に髭のヒッピー風の外見、声は大きく態度はと
ことん厚かましく、まったく関係ないパーティーに
もぐりこんでは手当たり次第女に話しかけたり酒を
飲んだりして黒服に蹴り出されたりしている。出て
くる他の人間も変人ばかりで、いわば変人の見本市
の様相である。ヒロインのミニーは、中でも極めつ
けの変人のひとりにからまれているところをモスコ
ウィッツに助けられ、その変人ぶりに当惑しつつも
惹かれていく…。
それにしてもミニーはなんでこんなにも入れ代わり
立ち代わり怒鳴られなくてはならないのか。理不尽
である。

まあこの映画で見捨てるのはやめた。でもカサヴェ
テスの何がそんなに良いのかは分からないままだ。

                                     11.23(木) BSプレミアム