2018年2月25日日曜日

リバーズ・エッジ


☆☆☆★★★    行定勲    2018年

なぜいまこれを映画化するのか、観終わってもわからな
いままだ。でもまあいいか。本当は★半分足りないけれ
ど、なんせ主題歌が良いからなー。オザケンの新曲のひ
そやかなシンセが流れてくるフィナーレは、死と暴力の
匂いのするこの街を軽やかに浄化していくかのようだ。
以来、毎日3回以上聴かないと落ち着かない。私の心も
浄化を必要としているのだろうか。あるいは。

宮沢章夫が90年代サブカルチャーの最重要作品に位置づ
けていたこの岡崎京子のマンガは、汚れた川の河口の街
に暮らす高校生たちの、どうしようもない倦怠と頽廃が
色濃く出た物語だった。白骨化した死体を見ることにの
み安らぎを見出すという倒錯で、今までもさんざん描か
れてきたし、これからも描かれ続けるだろう若者たちが
感じる"閉塞感"、どこにも行けない感じを鮮やかに切り
取ってみせた。

主演は二階堂ふみ。冒頭のインタビューはちょっとわざ
とらしい感じがしたものの、さすがの芝居でこの世界を
壊すことなく存在感を発揮していた。『この国の空』で
は解禁していなかったものも解禁していたような…。
『オオカミ少女と黒王子』で共演した時に吉沢亮を見て
「山田くんがいる!」と思ったとどこかで語っていたが、
そのプロデューサー勘には感嘆するしかない。
吉沢亮も良かったが、土居志央梨が出色だった。なんた
る見事なビッチ…。あんな高校生いたら風紀が乱れるに
も程がある。

                                     2.16(金) TOHOシネマズ新宿


2018年2月22日木曜日

ポーラX


☆☆☆★★★   レオス・カラックス  1999年

カラックスの作家性が爆発している"異形のフィルム"である。
ワケのわからない映画を撮るひとは別に少なくはないけれど、
カラックスは破綻することをよしとしないひとだと思う。ど
こまでも拡散していく想像力と物語をいつかは収斂させよう
という意志を感じるのである。しかしその特異性とスケール
の壮大さゆえに、キレイにまとまるなどということは決して
ないだろう…。

長篇映画としては『ポンヌフの恋人』(1991年)と『ホー
リー・モーターズ』(2011年)の間にある、あまり観るこ
とのできないフィルムである。レンタルビデオ屋でも見かけ
ない。原作はメルヴィルの『ピエール』という小説らしい。
こちらもそのへんの本屋では見かけない題名である。

主人公が結婚間近だった恋人を捨てて、姉だと名乗る怪しい
女と暮し始める動機が、まったくもって分からない。説明も
皆無である。それはこのストーリーにおいて紛れもなく肝心
の所であり、凡百の映画ならそこに説得力が無いとフィルム
全体がダメになってもおかしくないのだが、まあとにかくカ
ラックスの提示してくる画がすごすぎて、センスが横溢して
いて、だんだんどうでもよくなってくる。少なくともわたし
はカラックスのセンスがぽたぽたしたたっている画を見られ
て幸せな時間でした。

これであとは『TOKYO!』を観ればカラックス制覇だー!

                                                    2.10(土) 早稲田松竹


2018年2月16日金曜日

デトロイト


☆☆☆★★   キャスリン・ビグロー   2018年

よく「悪夢のような時間」とか言ったりするが、当時者た
ちにとって思い出すのも辛かろうと思われるその「数時間」
を、わざわざ克明に再現してその悪夢の一端を観客にも体
感させようという映画である。

実際にあった「デトロイト暴動」のさなかに起きたレイシ
ストの白人警官たちよる強迫的な尋問と3人の黒人の殺害
事件。映画はそれを丹念に追っていく。冒頭、油絵のよう
な絵で時代背景をさらっと説明したあとは、ドキュメンタ
リータッチのぶれぶれカメラで、いちど火がついた暴動が
燃え盛っていく様を当時のニュース映像を交錯させながら
積み重ねる。その一方で、モータウンでスターダムを目指
す才能あるコーラスグループの若者たちの物語が、数々の
ソウル・ミュージックに彩られて展開するが、その行き着
く先は…。

悪夢のような映画の中核をなすのは、アルジェ・モーテル
事件と言われる酷たらしい出来事である。オモチャの銃の
発砲音を聞いた警官がモーテルに駆けつけ、一斉射撃を加
えたのち、無関係の者を含む若者たちを一晩中脅し続けて
黒人青年3人を殺害する。レイシストの白人警官を演じた
役者の憎たらしい顔といったらない。観ていて永遠にも感
じられる終わりの無い「悪夢」である。

                                       2.6(火) TOHOシネマズ新宿


2018年2月7日水曜日

嘘を愛する女


☆☆☆     中江和仁     2018年

なんだか、感動的な映画となるためのお膳立て
は万端ととのっているのだが、どうにも心を打
つことのない映画であった。仏つくって魂入れ
ず、とでも言うか。
そもそも、いま最もキャスティングしたいひと
が多かろう高橋一生と長澤まさみの共演映画で
ある。それを監督するのが、CMディレクター
あがりのまだ1本も長篇映画を撮ったことのな
い人間って、なんだかそれだけで「監督は所詮
お飾り」ということを語っているようだ。私の
勝手な想像なので違っていたら申し訳ないが。
でも映画として何か冒険をしたようにも思えな
いし、「共同製作」には12人もの名前がずらず
らと連なっているし、きっと色んなひとが色ん
な勝手な「意見」を言って、紆余曲折があり、
こういう最大公約数のような、危険でない映画
ができるんだろうなぁと、つい思ってしまうの
である。
長澤まさみは『散歩する侵略者』の時のほうが
数段よかった。

                                 1.28(日) 新宿バルト9


2018年2月4日日曜日

ばしゃ馬さんとビッグマウス


☆☆☆★★★     吉田恵輔     2013年

脚本家を目指してひたすら賞に応募しては落選を繰り返し
ている麻生久美子と、大口たたくわりに何も書かない安田
章大を主軸に、夢と現実と挫折の間でもがく登場人物たち
をちょっとビターな成分も多めで描く。じりじりするよう
な、もどかしい関係が最後まで続くという、ラブの要素が
薄めのラブコメともいえるだろうか。あるいはこういうの
をムズキュンというのか。「逃げ恥」を観ていないのでよ
く分からないけれど。

しかし今作もまたこちらの予測を気持ちよく裏切っていく
展開がたいへんに巧く、2本続けて観て感嘆にたえない。
吉田恵輔というひとは、映画の「勘所」をほんとうによく
心得ているひとなんだと思う。
すっかりファンになったので、全部観よう。それほど本数
も多くない。キャリアの最初は蒼井そら主演のお色気映画
とのこと。城定秀夫みたいな感じなのかな。

                                              1.23(火) キネカ大森


2018年2月2日金曜日

さんかく


☆☆☆★★★    吉田恵輔    2010年

キネカ大森で吉田恵輔の特集。

この人のことは小林信彦がだいぶ買っていたので、近作の
『ヒメアノ~ル』よりはこういうコメディ・タッチの映画
のほうが得意なのだろうと思ってはいたが、なかなかどう
して、抜群にうまい。
昼下がりの電車で眠りこける美少女をつま先から舐め回す
ようなねちっこいカットがあるかと思えば、高岡蒼甫が15
歳という設定の小野恵令奈に翻弄される一連ではしっかり
笑わせる。間の取り方など絶妙である。のみならず、田畑
智子がストーカー化していく描写なんてちょっとした怖さ
があるし、ラストシーンのとても繊細な芝居もうまく掬い
取っていた。なんでもできちゃう人なのだ。

                                                     1.23(火) キネカ大森