2011年4月9日土曜日

肉体の門

☆☆☆     五社英雄    1988年

五社英雄と聞くと、友近が浮かんでしまう人も多いのではない
かと思う。少なくとも私はそうだ。1本も観たことがなかったので、
ちょうど民放BSでやってたのを観てみた。

敗戦直後の日本で、裕福な生活を夢見て、春を鬻ぐことでコツ
コツとお金を貯めているいわゆる「パンパン」たちの話。かたせ
梨乃と名取裕子が共演。たくましく戦後の混乱期を生きるパン
パンを迫力十分に演じる。二人ともまだ若く、ときたまのぞくあ
どけなさが良い。
しかし、観たあとで知ったけど、この話って5回も映画化されてい
て、1964年には鈴木清順のもあるのかよ。しまった、そっちだっ
たな。

                                                3.13(日)  BS-TBS


2011年4月7日木曜日

ラヴァーズ・キス

☆☆       及川中      2003年

花も恥じらう、当時17歳の宮﨑あおいが出演している。それはもう、
その点に関しましては、間違いないです。が、ただそれだけの映画。
おもしろくもなんともないわ! と、ちゃぶ台があるならひっくり返した
かった。
何が哀しくてこんなくだらない映画に出演するのか。宮﨑さんおよび
その事務所には「ユリイカ」で始まったキャリアをもっと大事にしてほ
しいものだ。

この先も「ツレがうつになりまして。」「神様のカルテ」と、観る前から
いうのもなんだけど、あまり期待できそうにないラインナップが控えて
いるというではないですか。もっと出演する映画を慎重に選んだらど
うでしょうな、と誰かあおいさんの事務所に言ってくれませんか。
「少年メリケンサック」は、良かったですから。

                                                        3.12(土)  HBC


2011年4月6日水曜日

亀も空を飛ぶ

☆☆☆     バフマン・ゴバディ    2004年

イラン出身の監督バフマン・ゴバディの2本立て。
1本目は、子どもの目から見た戦争。不思議な題名の意味は、
観終わってもよく分からず。なかなか普通じゃない、奇妙な味
わいのある映画だったが、出来としてはまあ普通、かなぁ…。









ペルシャ猫を誰も知らない


☆☆     バフマン・ゴバディ    2009年

2本目は、イランの首都テヘランを舞台に、アンダーグラウンド
で活動するミュージシャンたちの話。なのだが、反政府的なき
わどいことをしているという緊張感が彼らからまったく伝わって
来ず、ただ退屈だった。
この2本立ては久々にイマイチだったなー。早稲田松竹のライ
ンナップはいつも素晴らしいだけに、ちょっと残念だった。しか
し日本一の名画座だと思っています。

                                                3.5(土)  早稲田松竹

2011年4月5日火曜日

雑文集

村上春樹 著   新潮社

インタビュー集ならまだしも、文章を集めた春樹の新刊を
読むのがこんなに後回しになったというのは、我ながら
(というか我だけが)驚くべきことだ。
なんだかんだ言っても、やはり優先順位が下がってきてい
るのだろう。徐々に。小説は発売日に買って貪り読むけれ
ども、小説以外にはそれほど熱心になれなくなってきている、
ということか。そういえば、フィッツジェラルドの『冬の夢』も、
チャンドラーの『リトル・シスター』もまだ読んでいない。やれ
やれ。


2011年4月4日月曜日

花を運ぶ妹

池澤夏樹 著  文春文庫

とにかく長いやつがいい、と注文したら、これを貸してくれた、
いつもの同期である。
バリ島を舞台にした小説を読むのは初めてだ。相変わらず
南国が好きだな、池澤さんは。帯広出身なのに。

絵描きの兄と、フランスで通訳などをして生計を立てている
妹。それぞれが語り手の章が交互に現れる、いわば「世界
の終わりとハードボイルド・ワンダーランド」方式(長いな)。
そして絵描きの兄の章では、地の文で著者が主人公に「お
まえ」と呼びかける形式で、完全に『楽園への道』を先取りし
ている。それには驚いたものの、小説としての柄の大きさと、
ドライブ感に関しては、…まあ比べちゃいけない。まったく及
ばないなー、残念ながら。文章はうまいから許そう。

2011年4月3日日曜日

名文どろぼう

竹内政明 著       文春新書

著者は、数ある新聞コラムの中でも随一といわれる讀賣新聞の
「編集手帳」担当を長くつとめた人物とのこと。いわばコラムの名
人だが、その著者が古今東西の「粋な」文章を引用し、紹介して
いくという趣向。「粋な」文章とは、なにも文学に限ったものではな
く、サラリーマン川柳から電報まで、多岐にわたる。

一読して、なんだか高島俊男さんの「お言葉ですが…」を水で薄
めたような本だな、という印象。たしかにおもしろい文章、ハッとさ
せられる表現がたくさんあって楽しいが、高島さんを読んでしまう
とどうも、薄味に感じる。

とは言っても、この趣向が嫌いなわけがない私であるので、一気
に読了してしまった。
中でも特に良かったものをひとつ。北杜夫が高校時代、苦手だっ
た物理の試験の答案に書いたという詩を、引用の引用になってし
まうけれど、書き写してみる。


恋人よ
この世に物理学とかいふものがあることは
海のやうにも空のやうにも悲しいことだ

恋人よ
僕が物理で満点をとる日こそ
世界の滅亡の日だと思つてくれ

僕等には
クーロンの法則だけがあれば澤山だ
二人の愛は
距離の二乗に反比例する

恋人よ
僕等はぴつたりと
抱き合はう!

                       <帝国芸術院賞授賞作品>
                               ――斎藤宗吉


これが北杜夫の作だというのがまた面白さを倍増させていると思う。
才能というのは、もちろん環境に左右される部分もあるにせよ、親
から直接受け継ぐ天才というのも、厳然としてあるんだなぁ、としみ
じみ感じ入る。小沢健二や宇多田ヒカルを見ててもそう思いますよ。

2011年4月2日土曜日

悪童日記

アゴタ・クリストフ 著        ハヤカワepi文庫

これはたしかに凄い。ここまで平易な言葉で書かれた戦争ってあるだろ
うか。徹底的に平易な言葉を選択するのは、ちょっと村上春樹を思い起
こす。明らかに第二次大戦中のハンガリーを舞台にしながらも、「大きな
町」「小さな町」などと、寓話的な要素を盛り込んでいるのも、どことなく春
樹好みのやり方だろう。

本書は、避難所で読んだ。大地震が起きたとき、私は帯広出張の帰りの
電車の中だった。白糠で停車中に揺れを感じた。震度3~4ぐらい。揺れ
がおさまるとすぐに車内アナウンスがあり、「避難所に誘導いたします」と
のこと。せいぜい4ぐらいの震度で、なにをおおげさな、これだからJRは、
と思いながら、しぶしぶ駅員に付いていった避難所の体育館でテレビを見
て、愕然とすることになる。緊急ニュースでは「震度7」という阪神大震災以
来聞いたことの無い震度を告げている。地震による被害の詳細はその時
点では分からなかったが、ヘリから撮ったリアルタイムの津波による激甚
な破壊の様を見せられて、茫然と時間は過ぎ、気付くと1時間以上もテレビ
を見つめ続けていたのだった。

結局その日は、大津波警報が出続けていたため、電車は動かず、道路も
通行止めで、おまけに電話も繋がらない。避難した体育館に泊まるしかな
かった。
眠くないし、話す相手もいないので、ひたすら『悪童日記』を読んでいた。20
分おきにニュースを見るために立ったりしていたが、不思議と読み始めたら
集中できた。読む本が無かったら危なかった。帯広に大きい本屋があった
ので、感動して思わず3冊買ったうちの1冊が本書だった。初めての土地で
本屋に入ると必ず記念に何か買ってしまう性癖がこんなところで役に立った。

ということで『悪童日記』はおそらく生涯、あの白糠の寒い避難所で過ごした
一夜と分かちがたく結びついた小説となるだろう。私など、たった一夜で済ん
で幸運なほうだというのは分かっているのだが。