なぜとはいわないが、読書がすすむ。
『スタン・ゲッツ ―音楽を生きる―
』
ドナルド・L・マギン 著 村上春樹 訳 新潮社
「微に入り細を穿つ」とは本書のためにある
ような言葉だ。音楽の神に魅入られたとしか
思えない天才的なテナーサックス奏者の詳細
を極めた伝記を、ずっと昔から彼を最も敬愛
するジャズ・ミュージシャンと言っていた村
上春樹が訳した「大著」である。
どうやら人間的にはとても問題の多いひとで、
長いことアルコールとドラッグの中毒を克服
しようとして果たせず。しょっちゅう内なる
"怒り"が抑えきれなくなって、奥さん(2番目
の)を殴打したり、家の中をめちゃくちゃに
破壊したりしている。にもかかわらず、ひと
たびサックスを手にステージにあがれば「そ
の夜のゲッツの演奏はすばらしかった」とい
う伝記作家の記述がどこまでも繰り返される。
ジャズは即興の音楽であり、本書にあるとお
り、その営為はその場でメロディを作曲して
いるのと同じである。よくそんな心理状態で、
天上の音楽のような創造性を発揮できるもの
だ、という感想を誰もが禁じ得ないだろう。
読了後、毎日スタン・ゲッツの音楽を聴いて
いるのは言うまでもない…。
新潮社にしては珍しく誤植が何か所もあり、
ひさびさに趣味のメールを送ってしまった。
『コンビニ人間』
村田沙耶香 著 文藝春秋
これも語り手が相当にゆがんでいるのが、な
んとなく、受賞の順番はこちらが早いが『む
らさきのスカートの女』に似た空気を感じさ
せる。こちらの主人公はコンビニの仕事をお
ろそかにするどころか「愛しすぎている」の
は異なるが。
妹に「まともな会話の仕方」を教えてもらっ
ているという設定がおもしろいが、まあそれ
でもこんなひといたら、たぶん同級生の女子
会には混ぜてもらえないか、一度で放逐され
るだろう。
☆☆★★★ 齋藤武市 1959年
渡り鳥シリーズの第1作。ずいぶんヒットし
たらしい。全部で8作の「渡り鳥」が撮られ
ることになる。今回は宍戸錠の追悼で放送さ
れた。
馬車の干し草の上にギターと一緒に寝転んだ
小林旭が函館に着くという、けっこう気恥ず
かしい西部劇風の場面から始まる。
そこから始まるストーリーは東映の健さんの
映画などを見慣れている目にはどうも内容が
スカスカでマイトガイ・小林旭のキャラクタ
ーもはっきりせず、中途半端に映った。おも
しろくない…。
浅丘ルリ子は最初わからなかった。
宍戸錠はフラリとやってくる売人であり殺し
屋でもある男で、存在感が不気味である。
4.5(土) BSプレミアム
『人間』
又吉直樹 著 毎日新聞出版
初の新聞連載とのことで、新聞連載って新聞
とってないからリアルタイムで読むことない
けど、漱石みたいでいいよね。それとやはり
定期的にやって来る区切りがだんだん癖にな
るというか、独特のリズムが生まれると思う。
島田雅彦の『忘れられた帝国』とか、吉田修
一の『悪人』とかも新聞連載だったですね。
本人を思わせる主人公に、実在の人物を思わ
せる登場人物や、実在と思われるバーとかも
出て来て、けっこう際どいところを行ってる
ような気もしたけど、やはり人物の造型がお
もしろくて、一気に読まされた。
長篇が書けたらもう何も怖くないだろう。ど
んどん書いていってほしい。
『むらさきのスカートの女』
今村夏子 著 朝日新聞出版
芥川賞受賞作。
「こちらあみ子」から既にある程度の知名度が
あったこともあり、近年ではわりと受賞が話題
になったほうではないか。
語り手の職場にやって来た「むらさきのスカー
トの女」。初めはさも変人のように描写されて
いるが、読み進めるとだんだん雲行きが怪しい
というか、描写自体を疑いだすというか、語り
手の方に違和感を覚えることが多くなり、やが
て…。
途中まではわりと牽引力があるというか、読ま
せるな、と思いながら読んでいたが、その後の
展開にはさほど感心せず。
☆☆☆★★ 陳凱歌(チェン・カイコー) 1993年
京劇の役者として、激動の中国の歴史に翻弄
されながらも芝居に生涯をささげたふたりの
男を、絢爛豪華な映像と冴えわたる演出で描
き切った172分の大河ドラマ。
主演はレスリー・チャンとチャン・フォンイ
ー。幼少期、超絶スパルタの京劇の養成所か
ら始まるのだが、これが完全に虐待である。
やがて役者として頭角を現すふたりは、京劇
の演目『覇王別姫』で共演を繰り返し、人気
を博す。中国映画だからといって何でも「大
陸的」で済ますのもどうかと思うけれど、や
はりこの時間軸の壮大さと大地の雄大さをお
もうと、そう呼びたくなってしまう。
それにしても街の飾りや遊郭の構造など、去
年末の『ストレンジャー 〜上海の芥川龍之介
〜』に似ているカットが多かったように思う。
3.18(水) BSプレミアム
『アンジュと厨子王』
吉田修一 著 小学館
「安寿と厨子王」という話、恥ずかしな
がら私はよく知らなかったのだけれど、
本作のおおかたの物語の流れはその有名
な話に基づいていながら、後半、吉田修
一オリジナルの物語に展開させていると
のこと。講談調というのか、神田松之丞
に机をバンバンやりながら語って欲しい
文体になっている。
それにしても前半の内容はすさまじく悲
惨で救いがない。後半は光が射すが、前
半にくらべてインパクトが弱い。
「謝肉祭」「品川猿の告白」
村上春樹 著 文學界
ここのところの連作「一人称単数」の一部
である。
「品川猿の告白」は『東京奇譚集』に書き
下ろした「品川猿」の続編。キレイな女の
子に恋をするとそのコの「名前」を盗む衝
動に駆られる品川在住の猿の話だったが、
今回この品川猿は群馬県のある温泉地の旅
館で働いている。
「謝肉祭」はシューマンのピアノ曲と醜い
女の話。いかにも「らしい」短篇で、不思
議な読後感がのこる。
ふたつとも短篇としてとても良い出来だが、
そろそろ短篇集にまとまるのだろうか。
まさか『一人称単数』なんて無味乾燥なタ
イトルじゃないよね。
☆☆☆★★ スティーヴン・スピルバーグ 1993年
ナチによるユダヤ人虐殺を圧倒的なスケー
ルとリアリティで描写し続ける3時間15分
の超大作。
主人公のドイツ人実業家オスカー・シンド
ラーは、自らの工場にユダヤ人を雇い入れ
ることで収容所から救済していく。その綱
渡り的な所業にもハラハラするが、映画の
大半を占めるのは酷たらしいユダヤ人殺害
の描写である。おそろしく狭いゲットーに
追い込まれ、そこも襲撃された挙句、収容
所に送られて理不尽に虐殺されていく様子
を、スピルバーグは詳細に、丁寧に、カッ
トを積み重ねていく。その詳細さと丁寧さ
にスピルバーグの執念を感じる。
『ガンジー』でガンジーを演じていたベン・
キングスレーが有能な会計士を好演。
3.7(土) BSプレミアム
ハンバート家の旧正月 2020
(第一部)
1. バビロン
2. 教訓Ⅰ
3. 横顔しか知らない
4. N.O.
5. 怪物
6. ひかり
7. 新曲D
8. さようなら君の街
9. さよなら人類
(第二部)
10. 新曲C
11. 新曲A
12. ぼくのお日さま
13. 虎
14. Farewell Song
15. 長いこと待っていたんだ
16. 国語
17. メッセージ
18. ホンマツテントウ虫
<encore>
19. あたたかな手
20. おなじ話
2.27(木) 渋谷CLUB QUATTRO
2人だけのライブ。
良成はアコギを弾き、エレキを弾き、キー
ボードに移動し、コーラスをとり、時にヴァ
イオリンを奏でて、とても忙しいが、いつも
涼しい顔である。遊穂さんの歌い方は擦れて
ないというか、素朴さが素敵である。
クアトロで椅子席がある形式は初めてだった
が、ファンクラブでもなく普通に先行抽選で
とったチケットが整理番号2番と3番(!)
こんなことあるの…。もちろん最前列で観た。
ハンバートは音数が少なくて歌詞が聞き取れ
るのが良いねー。新曲もギョッとするような
ヘンな歌詞でおもしろい曲だった。
ベストアクトは…どれも良かったが、「N.O.」
にしようかな。