2024年5月19日日曜日

読書③

 
『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選
モーパッサン 著 太田浩一 訳 光文社古典新訳文庫

古典新訳文庫のモーパッサン傑作選も3冊目。
モーパッサン晩年の作品を収める。充実したシ
リーズだったので、これで最後というのは寂し
い。
「怪奇小説」とでも呼べそうな「オルラ」が異
色である。
「オリーヴ園」を読むと、短篇小説はやはり
「切れ味」がいちばん大事だなと思わされる。
お手本のような秀作。
「ラテン語問題」、「離婚」、「オトー父子」、
「ボワテル」、「港」などもそれぞれ粒ぞろい
である。まあ名手が書いた膨大な数の短篇から
厳選しているのだから粒ぞろいは当たり前かも
しれないが、150年前の小説をいま読んでも充
分に鮮烈なのには驚かされるばかりである。













『子どもの育ちと脳の発達』
佐藤佳代子 著   文芸社

27年間保育の仕事をしてきた著者による育児
書なのだが、すこし変わっているのは、著者
が脳科学を学んだということ。0歳~6歳まで
の子どもの発達と、その過程で表れるさまざ
まな特質(イヤイヤ期や人見知りや愛着行動
など)を、保育の仕事の経験則だけでなく、
脳科学的に説明することで、ある程度の理屈
が分かると親の方も気持ちの余裕ができるで
しょう、ということである。
とはいえ「本当に危険なこと以外は子どもが
何をしても「ダメ!」は言わないようにしま
しょう」と言われても、いざ悪戯を目の前に
するとなかなか難しいのだが、まあそれでも
「いやもしかしたらこの子の大脳辺縁系では
いま…」とか考えて一瞬、間を置くことはで
きるかもしれない。

2024年4月29日月曜日

オッペンハイマー

 
☆☆☆★★  クリストファー・ノーラン 2024年

初めは日本での公開が決まらなかったという
が、クリストファー・ノーランの新作が観ら
れない国なんて住みたくないわ。しかも劇中、
オッペンハイマーは「原爆が戦争を早く終わ
らせて多くの人間の命を救った」という説に
は与していない。トルーマンに「弱虫」とく
さされるほど原爆開発を悔いているという描
かれ方なのに、ノーランほどの作家の映画を
公開すらしないなんてのはおかしな話である。

いつものように、予備知識ゼロで観ようかと
も思ったのだが、おそらくアクション少なめ
の会話劇である。3時間もの間置いてけぼり
を食らうのはさすがにキツいと思い、補助線
として「映像の世紀 バタフライエフェクト」
の「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄
光と罪」という回を観てから臨んだ。これが
成功のようで失敗だったかもしれない…。

たしかに理解度は5割増しだったと思う。アー
ネスト・ローレンスというサイクロトロンの
開発者であるライバルの存在や、同じく物理
学者の弟がいて、トリニティ実験に参加して
いたことなど知らないことばかりだった。し
かし、まるで番組は45分で映画を要約したか
のようだった。同じ原作に依拠したから、と
いうことなのだろうか…。理解度が高まった
のと同時に映画としての感興が削がれたのは
疑いない。「映像の世紀」は本当の映像が流
れるので、場面によっては映画を凌ぐほどド
ラマチックだったりもした。映画ではアメリ
カに亡命したアインシュタインが出てきて、
オッペンハイマーと会話を交わすが、どうも
嘘くさいと思ってしまった。ドイツの若き天
才・ハイゼンベルクとの関係などは、映画は
ほとんど省略していたので、「映像の世紀」
の方が詳しかったほどである。

しかしロバート・ダウニーJr.っていつの間に
あんなおじいさんになったんだ。いまだに
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のイメー
ジだったからびっくり…。

                       4.7(日) TOHOシネマズ池袋





2024年4月16日火曜日

DUNE 砂の惑星 PART2

 
☆☆☆★★ ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2024年

冒頭の戦闘シーンは緊迫感があって良かった。
襲撃してきた相手を殺害したあとに、体の水
分を抜いて再利用するというのが「砂漠の民」
らしくて良いディテールである。その「搾水
器」みたいなのの気持ち悪い音が絶妙。

しかしその後の、予言の実現と復讐の成就の
展開となると、やはり途端にどこかで見たよ
うな話に堕すというのか、まあ端的に言って
しまえば、なぜかドキドキしないのである。
関ジャニの横山を坊主にしたようなファルコ
ンネン家の悪役も、いまいちだった。PART1
であんなに夢見た砂漠の民の女の子とも昵懇
になれたのに、ロマンスもやはり復讐の責務
の前にはかすんでしまう。まああんまりイチ
ャイチャされても困るのだが。

PART1でも音響のおもしろさが際立っていた
が、今回もいまひとつハラハラしない物語を、
音でがんばって盛り立てていたと思う。予言
者みたいになった母の「命令する声」の圧力
とか、なかなかおもしろかった。ハンス・ジ
マー先生の音楽もいつものように荘厳である。

        3.13(水) グランドシネマサンシャイン




2024年4月3日水曜日

カラオケ行こ!

 
☆☆☆★★   山下敦弘   2024年

『落下の解剖学』のようなワンカットたりとも
緩みのないシリアスな映画も別に嫌いじゃない
が、こういうばかばかしくてちょっとしみじみ
するような映画はもっと好みである。比べる必
要もないのだが。

ヤクザが合唱部のリーダーの男の子にカラオケ
の指導を頼みに来るという冒頭の、大げさな稲
光に笑えるかどうかが分かれ目という気がする。
「紅」の歌唱指導を求めにくるヤクザを綾野剛
が演じるが、この映画は綾野剛を味わうための
映画だと言えるだろう。すっかりいい役者になっ
た。脚本は「MIU404」でもタッグを組んだ野
木亜紀子。

個人的には合唱のすべてを精神論でかたづけよ
うとする薄っぺらい顧問の先生を芳根京子が演
じていて、ツボだった。

                  2.25(日) TOHOシネマズ日比谷




2024年3月9日土曜日

読書②

 
『映画の生まれる場所で』
是枝裕和 著   文春文庫

『真実』の企画が動き出し、実際に撮影に
入り、完成するまでの撮影日誌。カトリー
ヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが
共演するフランス映画だった『真実』は、
ドヌーヴ演じるキャラクターの設定はもち
ろんのこと、ロケ地の選定(郊外はダメよ、
遠いから!)から撮影スケジュール(寝て
いるので午前中はNG)に至るまで、すべて
はドヌーヴを中心にまわっていた。女王様
ぶりを遺憾なく発揮しても、スタッフから
愛されてしまうチャーミングさがこの大女
優にはあるようだ。

絵コンテや撮影中にスタッフにあてた手紙
なども載っていてなかなか興味深い。フラ
ンス側のプロデューサーとの対立も正直に
書いていて、そういえば西川美和も初期か
らの制作担当者を解雇せざるを得なかった
気まずさの極みみたいな顛末を書いていた
ことを思い出す。

各地の映画祭を『万引き家族』を携えて飛
び回りながらの脚本執筆と撮影と編集は多
忙というほかない。さらに樹木希林が亡く
なって撮影中パリから東京にとんぼ返りま
でしたという。監督というのは常人の体力
ではとうてい無理である。













『家族終了』
酒井順子 著   集英社文庫

両親と兄が亡くなり、子どもの時から一緒
だった家族がひとりも居なくなってしまっ
た状態を「家族終了」と呼んで、そこから
想起される家族にまつわる個人的な、ある
いは一般的なあれこれを書いたエッセイで
ある。インパクトある書名に、思わず手に
取ってしまった。
すでに亡くなった酒井順子のお母さんとい
うひとがなかなか性的に奔放なひとだった
らしく、なるほど家庭のありようというの
は様々だし、中にいないと分からないもの
なんだなと思わされる。「昔から下ネタと
いうと筆が走るタイプ」と自分で言ってい
るのがおかしいが、たしかにそういう時の
文章の方がいきいきとしているようである。



2024年2月19日月曜日

落下の解剖学

 
☆☆☆★ ジュスティーヌ・トリエ 2024年

今年最初の映画は、遊びで応募してみた試
写会。「やっているSNSを選んでください」
の項目に「何もやっていない」と回答した
ので絶対当たらないと思っていたのだが、
なぜか当選。試写会なんて久しぶりである。

40人ぐらいが入れるギャガの試写室。青山
通り沿いの入り口を開けたらもうすぐにス
クリーンがある。あんなところがあるんで
すね。

タダで観といてなんだが、非常に宣伝に困
る映画である。まあ「カンヌっぽい」とい
えば伝わるだろうか。感情の補助線となる
ような音楽とか、美男美女が出てくるとか、
余計な装飾は一切無く、地味で、そしても
ちろん暗い。
夫婦生活の危機と破綻を、法廷サスペンス
で描いているが、ミステリのようでいて、
真相は最後まで分からないから謎解きでは
ない。心理劇を味わう作品である。

主演はドイツ人の女優ザンドラ・ヒュラー。
作家の役どころで、冷徹さも感じさせなが
ら、脆さもある、複雑な芝居で非常にうま
い。劇中では英語とフランス語を話す。昔
なじみの弁護士の役でスワン・アルロー。
磯村勇斗くんをシブくした感じの、かっこ
いいおじさんである。
そしてなにより犬が可愛い。

試写会のあとには鈴木涼美さんのトークイ
ベント。まあこちらが目当てだったと素直
に認めてしまってもいい。涼美さんのユー
モアの感覚が好きである。本作を観て『M
 愛すべき人がいて』という浜崎あゆみを題
材にした小説を想起したという話題から入
るあたりが最高。

タイトルを『アナトミー・オブ・ア・フォ
ール』とせずに、『落下の解剖学』という
邦題を付けたのは良い判断であったという
話にうなづく。

                        2.12(月) GAGA試写室




2024年2月10日土曜日

【LIVE!】 スガシカオ


    L'ULTIMO BACIO Anno23

 1. あまい果実
 2. おれ、やっぱ月に帰るわ
 3. バニラ
 4. 痛いよ
 5. あなたひとりだけしあわせになることは許されないのよ
 6. 夕立ち
 7. 海賊と黒い海
 8. 灯火
 9. さよならサンセット
10. アストライド
11. 獣ノニオイ
12. 覚醒
13. ハチミツ
14. 国道4号線
15. 労働なんかしないで光合成だけで生きたい
16. 東京ゼロメートル地帯
17. はじまりの日
18. コノユビトマレ
19. Thank you

ENCORE
 1. Cloudy
 2. 午後のパレード
 3. Progress

      12.23(土) 恵比寿ガーデンホール


いまさら去年のライブですが…。
恵比寿ガーデンホール恒例のクリスマス
ライブだが、アルバム"イノセント"のツ
アーファイナルも兼ねている。このツアー
行かなかったからちょうどよかった。
行かなかったのは、アルバムがさほど心
に響かなかったから。この日も、"バニラ"
はさすがにライブ映えしたものの、その
他はさらっと終わっていったような印象。
アンコールに「せっかくクリスマスなん
でね…」と言いながら"Cloudy"を弾き始
めた瞬間がいちばん嬉しかった。新曲の
"ハチミツ"はなんかK-POPみたいだった
し、選曲ももう一工夫ほしいところ。
次に期待かな!