2024年6月9日日曜日

【LIVE!】 小沢健二


   monochromatic

 1. フクロウの声が聞こえる
 2. 天使たちのシーン
 3. ラブリー
 4. さよならなんて云えないよ
 5. 運命、というかUFOに(ドゥイ、ドゥイ)
 6. 台所は毎日の巡礼
 7. いちごが染まる
 8. River Suite 川の組曲
 アルペジオ(きっと魔法のトンネルの先)/いちょう並木のセレナーデ
 9. サマージャム'95
10. 魔法がかかる夜、大阪にいる
11. Noize
12. ある光
13. 輝夜神楽(巨大な哀しみの時代に)
14. ぶぎ・ばく・べいびー
15. 強い気持ち・強い愛
16. ライツカメラアクション
17. 今夜はブギー・バック
18. 台所は毎日の巡礼

(Encore)
 1. 彗星
 2. 流動体について
 3. 弾き語りメドレー ぶぎ・ばく・べいびー~魔法がかかる夜、大阪にいる~輝夜神楽(巨大な哀しみの時代に)
 4. ぶぎ・ばく・べいびー

                        5.8(水) NHKホール


monochromaticがテーマの東名阪ツアーとい
うことで、演出として照明に色を付けない。
それゆえ観客もmonochromaticな服を着てき
てください、という注文である。もともとオザ
ケンが嫌いなひとならもうこの時点で「そうい
うとこが嫌い」だと思うが、ファンはいそいそ
と「えー、何着ようかな」などとブツブツ言い
ながらもちゃんと考えてライブに臨むのである。

バンドも良いバンドであるし、NHKホールは音
も良いし、新曲がほどよく混ざったセットリス
トもよく練られているし、出ないことになって
いたスチャダラパーもちゃんと出演し、おおい
に満足であった。今回もサポートギターは無し。
自信の表れだと思うが、しっかりと高い水準を
保っているからさすがである。「流動体につい
て」のギターソロなんて「もっとやればいいの
に!」だった。

ベストアクトは「Noize」か、と思ったぐらい
よかったのだが、「ある光」がそれを上回って
きた。前もベストに選んだからまたか、とは思
うものの、どうしようもなく良かった。もとも
と宗教的な側面のある歌だと個人的には捉えて
いるのだが、チューブラーベルが加わっていっ
そう神々しさが増した素晴らしい演奏だった。
「僕のアーバンブルースへの貢献!」という
小沢君の叫びで感慨に打たれる。


2024年5月26日日曜日

悪は存在しない

 
☆☆☆★★★  濱口竜介   2024年

あのラストカットの意味をずっと考えている
が、正直言って分からない。しかし諦めきれ
ずに何度も何度も、頭の中でラストシーンを
再生してみる。そしてそこに至るまでの過程、
どうしてああなってしまったのか、映画の始
まりからいま一度考えてみる。しかもそこに
「悪は存在しない」と濱口は云うのである。
うーん。

真上に向けて固定されたカメラによる移動
ショット(真俯瞰と逆のこのショットはなん
と呼べばいいのか)でとらえられた冬の森。
枝の連なりが次第に別の何か禍々しいものに
見えてくる。もともと石橋英子のライブで流
す映像を制作してくれという依頼から生まれ
た映画だからか、ワンカットが長く、時に技
巧的でもある。しかしこの役者たちの「そこ
で生きている」感はいったいどこからうまれ
てくるのか。かくも演出とは奥の深いもので
すね…。

    4.27(土) Bunkamuraル・シネマ 渋谷宮下




2024年5月19日日曜日

読書③

 
『オルラ/オリーヴ園 モーパッサン傑作選
モーパッサン 著 太田浩一 訳 光文社古典新訳文庫

古典新訳文庫のモーパッサン傑作選も3冊目。
モーパッサン晩年の作品を収める。充実したシ
リーズだったので、これで最後というのは寂し
い。
「怪奇小説」とでも呼べそうな「オルラ」が異
色である。
「オリーヴ園」を読むと、短篇小説はやはり
「切れ味」がいちばん大事だなと思わされる。
お手本のような秀作。
「ラテン語問題」、「離婚」、「オトー父子」、
「ボワテル」、「港」などもそれぞれ粒ぞろい
である。まあ名手が書いた膨大な数の短篇から
厳選しているのだから粒ぞろいは当たり前かも
しれないが、150年前の小説をいま読んでも充
分に鮮烈なのには驚かされるばかりである。













『子どもの育ちと脳の発達』
佐藤佳代子 著   文芸社

27年間保育の仕事をしてきた著者による育児
書なのだが、すこし変わっているのは、著者
が脳科学を学んだということ。0歳~6歳まで
の子どもの発達と、その過程で表れるさまざ
まな特質(イヤイヤ期や人見知りや愛着行動
など)を、保育の仕事の経験則だけでなく、
脳科学的に説明することで、ある程度の理屈
が分かると親の方も気持ちの余裕ができるで
しょう、ということである。
とはいえ「本当に危険なこと以外は子どもが
何をしても「ダメ!」は言わないようにしま
しょう」と言われても、いざ悪戯を目の前に
するとなかなか難しいのだが、まあそれでも
「いやもしかしたらこの子の大脳辺縁系では
いま…」とか考えて一瞬、間を置くことはで
きるかもしれない。

2024年4月29日月曜日

オッペンハイマー

 
☆☆☆★★  クリストファー・ノーラン 2024年

初めは日本での公開が決まらなかったという
が、クリストファー・ノーランの新作が観ら
れない国なんて住みたくないわ。しかも劇中、
オッペンハイマーは「原爆が戦争を早く終わ
らせて多くの人間の命を救った」という説に
は与していない。トルーマンに「弱虫」とく
さされるほど原爆開発を悔いているという描
かれ方なのに、ノーランほどの作家の映画を
公開すらしないなんてのはおかしな話である。

いつものように、予備知識ゼロで観ようかと
も思ったのだが、おそらくアクション少なめ
の会話劇である。3時間もの間置いてけぼり
を食らうのはさすがにキツいと思い、補助線
として「映像の世紀 バタフライエフェクト」
の「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄
光と罪」という回を観てから臨んだ。これが
成功のようで失敗だったかもしれない…。

たしかに理解度は5割増しだったと思う。アー
ネスト・ローレンスというサイクロトロンの
開発者であるライバルの存在や、同じく物理
学者の弟がいて、トリニティ実験に参加して
いたことなど知らないことばかりだった。し
かし、まるで番組は45分で映画を要約したか
のようだった。同じ原作に依拠したから、と
いうことなのだろうか…。理解度が高まった
のと同時に映画としての感興が削がれたのは
疑いない。「映像の世紀」は本当の映像が流
れるので、場面によっては映画を凌ぐほどド
ラマチックだったりもした。映画ではアメリ
カに亡命したアインシュタインが出てきて、
オッペンハイマーと会話を交わすが、どうも
嘘くさいと思ってしまった。ドイツの若き天
才・ハイゼンベルクとの関係などは、映画は
ほとんど省略していたので、「映像の世紀」
の方が詳しかったほどである。

しかしロバート・ダウニーJr.っていつの間に
あんなおじいさんになったんだ。いまだに
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のイメー
ジだったからびっくり…。

                       4.7(日) TOHOシネマズ池袋





2024年4月16日火曜日

DUNE 砂の惑星 PART2

 
☆☆☆★★ ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2024年

冒頭の戦闘シーンは緊迫感があって良かった。
襲撃してきた相手を殺害したあとに、体の水
分を抜いて再利用するというのが「砂漠の民」
らしくて良いディテールである。その「搾水
器」みたいなのの気持ち悪い音が絶妙。

しかしその後の、予言の実現と復讐の成就の
展開となると、やはり途端にどこかで見たよ
うな話に堕すというのか、まあ端的に言って
しまえば、なぜかドキドキしないのである。
関ジャニの横山を坊主にしたようなファルコ
ンネン家の悪役も、いまいちだった。PART1
であんなに夢見た砂漠の民の女の子とも昵懇
になれたのに、ロマンスもやはり復讐の責務
の前にはかすんでしまう。まああんまりイチ
ャイチャされても困るのだが。

PART1でも音響のおもしろさが際立っていた
が、今回もいまひとつハラハラしない物語を、
音でがんばって盛り立てていたと思う。予言
者みたいになった母の「命令する声」の圧力
とか、なかなかおもしろかった。ハンス・ジ
マー先生の音楽もいつものように荘厳である。

        3.13(水) グランドシネマサンシャイン




2024年4月3日水曜日

カラオケ行こ!

 
☆☆☆★★   山下敦弘   2024年

『落下の解剖学』のようなワンカットたりとも
緩みのないシリアスな映画も別に嫌いじゃない
が、こういうばかばかしくてちょっとしみじみ
するような映画はもっと好みである。比べる必
要もないのだが。

ヤクザが合唱部のリーダーの男の子にカラオケ
の指導を頼みに来るという冒頭の、大げさな稲
光に笑えるかどうかが分かれ目という気がする。
「紅」の歌唱指導を求めにくるヤクザを綾野剛
が演じるが、この映画は綾野剛を味わうための
映画だと言えるだろう。すっかりいい役者になっ
た。脚本は「MIU404」でもタッグを組んだ野
木亜紀子。

個人的には合唱のすべてを精神論でかたづけよ
うとする薄っぺらい顧問の先生を芳根京子が演
じていて、ツボだった。

                  2.25(日) TOHOシネマズ日比谷




2024年3月9日土曜日

読書②

 
『映画の生まれる場所で』
是枝裕和 著   文春文庫

『真実』の企画が動き出し、実際に撮影に
入り、完成するまでの撮影日誌。カトリー
ヌ・ドヌーヴとジュリエット・ビノシュが
共演するフランス映画だった『真実』は、
ドヌーヴ演じるキャラクターの設定はもち
ろんのこと、ロケ地の選定(郊外はダメよ、
遠いから!)から撮影スケジュール(寝て
いるので午前中はNG)に至るまで、すべて
はドヌーヴを中心にまわっていた。女王様
ぶりを遺憾なく発揮しても、スタッフから
愛されてしまうチャーミングさがこの大女
優にはあるようだ。

絵コンテや撮影中にスタッフにあてた手紙
なども載っていてなかなか興味深い。フラ
ンス側のプロデューサーとの対立も正直に
書いていて、そういえば西川美和も初期か
らの制作担当者を解雇せざるを得なかった
気まずさの極みみたいな顛末を書いていた
ことを思い出す。

各地の映画祭を『万引き家族』を携えて飛
び回りながらの脚本執筆と撮影と編集は多
忙というほかない。さらに樹木希林が亡く
なって撮影中パリから東京にとんぼ返りま
でしたという。監督というのは常人の体力
ではとうてい無理である。













『家族終了』
酒井順子 著   集英社文庫

両親と兄が亡くなり、子どもの時から一緒
だった家族がひとりも居なくなってしまっ
た状態を「家族終了」と呼んで、そこから
想起される家族にまつわる個人的な、ある
いは一般的なあれこれを書いたエッセイで
ある。インパクトある書名に、思わず手に
取ってしまった。
すでに亡くなった酒井順子のお母さんとい
うひとがなかなか性的に奔放なひとだった
らしく、なるほど家庭のありようというの
は様々だし、中にいないと分からないもの
なんだなと思わされる。「昔から下ネタと
いうと筆が走るタイプ」と自分で言ってい
るのがおかしいが、たしかにそういう時の
文章の方がいきいきとしているようである。