2024年1月21日日曜日

読書①

 
読了したのは昨年ですが…あいかわらず感想を書くのが遅い。

『湖の女たち』
吉田修一 著  新潮文庫

100歳の寝たきりの老人が人工呼吸器を止め
られて殺されるという事件から始まる物語は、
湖の周りで平穏に生活してきた人間たちにそ
の事件が波及していく様を描写しながら、ど
んどんグロテスクさを増していく。

あいかわらずの「映像喚起力」というか、絵
が目に浮かぶ的確な描写力にはうならされる。
シーンの切り替わりや並べ方もすでに映画の
プロットのようで、そりゃ映画化もされるわ、
という感じ。しかし今回の内容だと、松本ま
りかは相当な"体当たり演技"を求められそう
だが…。

読後感としては後味はあまりよくなく、あま
り好きになれる登場人物もいないので、スッ
キリはしない。まさに湖のように、苦さが底
の方まで静かに沈殿していく感じである。















『テロルの原点 安田善次郎暗殺事件
中島岳志 著   新潮文庫

かの安田財閥の祖である安田善次郎を刺殺し
た朝日平吾という人物の半生を調査した評伝
である。もともとの『朝日平吾の鬱屈』を改
題した。
彼が資本家を「悪」とみなして、「君側の奸」
を成敗し、自らの死をもってその意義を世に
知らしめなければならないと決意し実行した
のはなぜなのか。
テロは連鎖し、原敬首相の暗殺は朝日平吾を
上司が褒めていたからという理由で別の青年
(中岡艮一)によって決行され、その不穏な
空気はやがて二・二六事件へとつながってい
く。

朝日という人物は文章を多く残しているが、
そこから窺われるのは苛立ち、不満、そして
高いプライドであって、こんなひとが職場に
居ようものなら相当扱いに困りそうである。
実際、仕事はひとつとして長続きせず、いく
ら大言壮語したってこれでは付いてくる人間
はいなかろうと思う。

著者はこの暗殺事件と社会背景に秋葉原無差
別殺傷事件の加藤智大の置かれていた状況を
重ねて見ているのであり、今回文庫になった
のは当然、2022年の安倍晋三の暗殺があった
からである。テロは往々にして連鎖する。負
の連鎖を許さないためにも、過去から学ぶ必
要があるということである。

2024年1月6日土曜日

2023年の1本(+ 1本)

 
去年は映画館で新作を13本、栃木のビジネ
スホテルのWOWOWで1本の計14本という、
惨憺たる数字であった。ベスト5を選ぶのさ
えもはやバカらしいので、1本だけベストを
選ぶことにする。
去年の私的ベストワンは…

『フェイブルマンズ』

である。
物心ついた時から老境に至るまでずっと映
画が好きで、映画を撮らずにはいられない
というスピルバーグの「業」を描いた映画
であった。暗いストーリーを最後の最後で
お茶目に変えてしまうラストカットが実に
見事。


もう1本、言及しておきたいのが(+ 1本)
の…

『PERFECT DAYS』

年末に観たこの映画も素晴らしかった。
仕事に不真面目な同僚やその彼女、飲み屋
の女とその元亭主なんかが絡んでくる部分
は陳腐かなーとも思いながらも、やはり役
所広司の淡々とした佇まいに惹かれるもの
があった。『都会のアリス』を思わせる
「おじさんと美少女」のべたべたしない関
係性もおもしろく観た。