2020年3月29日日曜日

読書④


『アンジュと厨子王』
吉田修一 著   小学館 

「安寿と厨子王」という話、恥ずかしな
がら私はよく知らなかったのだけれど、
本作のおおかたの物語の流れはその有名
な話に基づいていながら、後半、吉田修
一オリジナルの物語に展開させていると
のこと。講談調というのか、神田松之丞
に机をバンバンやりながら語って欲しい
文体になっている。
それにしても前半の内容はすさまじく悲
惨で救いがない。後半は光が射すが、前
半にくらべてインパクトが弱い。










「謝肉祭」「品川猿の告白」
村上春樹 著   文學界

ここのところの連作「一人称単数」の一部
である。

「品川猿の告白」は『東京奇譚集』に書き
下ろした「品川猿」の続編。キレイな女の
子に恋をするとそのコの「名前」を盗む衝
動に駆られる品川在住の猿の話だったが、
今回この品川猿は群馬県のある温泉地の旅
館で働いている。
「謝肉祭」はシューマンのピアノ曲と醜い
女の話。いかにも「らしい」短篇で、不思
議な読後感がのこる。
ふたつとも短篇としてとても良い出来だが、
そろそろ短篇集にまとまるのだろうか。
まさか『一人称単数』なんて無味乾燥なタ
イトルじゃないよね。



2020年3月25日水曜日

シンドラーのリスト


☆☆☆★★  スティーヴン・スピルバーグ  1993年

ナチによるユダヤ人虐殺を圧倒的なスケー
ルとリアリティで描写し続ける3時間15分
の超大作。
主人公のドイツ人実業家オスカー・シンド
ラーは、自らの工場にユダヤ人を雇い入れ
ることで収容所から救済していく。その綱
渡り的な所業にもハラハラするが、映画の
大半を占めるのは酷たらしいユダヤ人殺害
の描写である。おそろしく狭いゲットーに
追い込まれ、そこも襲撃された挙句、収容
所に送られて理不尽に虐殺されていく様子
を、スピルバーグは詳細に、丁寧に、カッ
トを積み重ねていく。その詳細さと丁寧さ
にスピルバーグの執念を感じる。

『ガンジー』でガンジーを演じていたベン・
キングスレーが有能な会計士を好演。

                            3.7(土) BSプレミアム


2020年3月22日日曜日

【LIVE!】 ハンバート ハンバート


 ハンバート家の旧正月 2020

(第一部)
 1. バビロン
 2. 教訓Ⅰ
 3. 横顔しか知らない
 4. N.O.
 5. 怪物
 6. ひかり
 7. 新曲D
 8. さようなら君の街
 9. さよなら人類

(第二部)
10. 新曲C
11.  新曲A
12. ぼくのお日さま
13. 虎
14. Farewell Song
15. 長いこと待っていたんだ
16. 国語
17. メッセージ
18. ホンマツテントウ虫

<encore>
19. あたたかな手
20. おなじ話

              2.27(木) 渋谷CLUB QUATTRO

2人だけのライブ。
良成はアコギを弾き、エレキを弾き、キー
ボードに移動し、コーラスをとり、時にヴァ
イオリンを奏でて、とても忙しいが、いつも
涼しい顔である。遊穂さんの歌い方は擦れて
ないというか、素朴さが素敵である。

クアトロで椅子席がある形式は初めてだった
が、ファンクラブでもなく普通に先行抽選で
とったチケットが整理番号2番と3番(!)
こんなことあるの…。もちろん最前列で観た。

ハンバートは音数が少なくて歌詞が聞き取れ
るのが良いねー。新曲もギョッとするような
ヘンな歌詞でおもしろい曲だった。

ベストアクトは…どれも良かったが、「N.O.」
にしようかな。

2020年3月18日水曜日

世界の中心で、愛をさけぶ


☆☆★★★    行定勲    2004年

いまさらながらの初鑑賞…。

率直に申し上げて、デビュー直後の長澤まさ
みの「いましかない瞬間」を焼き付けた、と
いうこと以外は、特筆すべきものの無い映画
であった。特に大沢たかおと柴咲コウの現代
パートはまったくおもしろくなく、話の辻褄
も合わず、音楽も似たようなピアノの曲ばか
りでたいそう退屈で、長く長く引き延ばされ
た愁嘆場に辟易しっぱなしだった。坂元裕二
の脚本と行定勲の演出なのに…。

それでも写真館のシーンは山崎努のおかげで
まともなシーンになっていたと思う。

                             2.27(木) BSプレミアム


2020年3月15日日曜日

県警対組織暴力


☆☆☆★★★   深作欣二   1975年

笠原和夫を脚本に迎え、『仁義なき戦い』の
「濃い」役者の多くが警察側として出て来て
ドスのきいた広島弁で怒鳴りまくるのは混乱
必至。
脚本は見事のひと言で、菅原文太と松方弘樹
の応酬を聞いているだけで幸福感に包まれる。
松方の狂犬のような眼に圧倒されない者はい
まい。
梅宮はなんと不正を許さない本部のエリート
警部補として登場し、最初は吹き出しそうに
なる。その潔癖ぶりをもって辛うじて危うい
均衡を保っていた警察とヤクザとの関係をぶ
ち壊してしまう。ヤクザに深く入り込んだ警
官という意味で、『日本で一番悪い奴ら』
『孤狼の血』などの源流にあたる映画だろう。

最後に、おもしろかった言い回し。

 昔から間男は、医者か坊主か警察官いうけぇのう

そ、そうなんだ…。知らなかったです。

                                      2.24(月) 新文芸坐


2020年3月13日金曜日

資金源強奪


☆☆☆★   ふかさくきんじ   1975年

池袋文芸坐にて、追悼・梅宮辰夫。
深作欣二の監督作2本立ての日を狙って駆け
つける。

ヤクザから賭場で強奪した3億5千万もの金を
めぐる、欲深い男たちの命を張った攻防。
主演は北大路欣也で、ギラついた頭のキレる
ヤクザを好演。一方の梅宮は、ヤクザとずぶ
ずぶの刑事を演じる。展開に多少の無理はあ
り、女性の扱いなどヒドいものだが、策略と
裏切りの連続で飽きさせず、ラストも「そう
くるか」とニヤリとさせられるオチがついて
いる。暑苦しい痛快活劇。チャカポコいうエ
レキギターが耳に残る劇伴も気分を盛り上げ
る。

                                        2.24(月) 新文芸坐


2020年3月11日水曜日

帰れない二人


☆☆☆★   ジャ・ジャンクー  2018年

変貌する中国の地方都市を舞台に、ひと組の
夫婦に流れた長い時間をゆるやかなタッチと
激しい暴力描写を織り交ぜて巧みに描く。
『青の稲妻』と比べるとストーリーの運びも
会話の内容も断然分かりやすく、映画の文法
というものに則っている感じ。観やすいが、
そのぶん「普通」の映画になってしまってい
ると言えなくもない。

『青の稲妻』にも出ていたチャオ・タオとい
う美人女優が主役。ほとんどのジャ・ジャン
クー作品に出演しているいわゆる"ミューズ"
で、よくあることだが、監督の妻でもある。

                             2.19(水) 早稲田松竹


2020年3月8日日曜日

青の稲妻


☆☆☆   ジャ・ジャンクー  2002年

早稲田松竹にてジャ・ジャンクー監督作の
2本立て。

山西省の地方都市に暮らす二人の若者の報
われない恋を軸にして、鬱屈と憧れと閉塞
感に押しつぶされそうな若者の姿を切り取っ
ている。わりと淡々としていて、思わず覚
醒するような場面もなく、そのまま終わっ
てしまった…。

いきなり「オフィス北野」と「ビターズ・
エンド」のクレジットが出て面食らったが、
どうやらプロデュース(資金集めのことだ
が)とか配給とかにオフィス北野がひと役
買っているのだそう。
ネットのとあるインタビュー記事によると、
デビュー作の『一瞬の夢』を、中国政府の
検閲を通さずに海外の映画祭に出品したた
めに、それ以後当局から映画製作を禁止さ
れていたジャ監督に手を差し伸べたのがオ
フィス北野の市山プロデューサーだったと
のこと。ふーん。

                                2.19(水) 早稲田松竹


2020年3月5日木曜日

動くな、死ね、甦れ!


☆☆☆★★  ヴィターリー・カネフスキー  1989年

目当てはこちらのほう。
一度聞いたら忘れないタイトルで、以前の
リバイバル時にいろんなひとが絶賛してい
たが、とりわけ二階堂ふみと蓮實重彦が同
時に褒めていたのが、その組み合わせを含
めて印象に残っている。

極東のスーチャンという貧しい炭鉱の町が
舞台。地面はいつも泥でぬかるみ、居住環
境も上等とは言えない感じだが、そこで生
きる二人の子ども、ワレルカとガリーヤの
物語である。
ヤンチャで思慮の足りない男子と、それを
呆れて見つつも時々助けてあげる賢い女子
という構図で、まあ舞台を日本に置き換え
ると普通の話なのかもしれないが、荒涼と
したソヴィエトの平原と荒々しい貨物列車
のある風景で撮影されることで、より純度
の高い清新な映画に見えてくるから不思議
である。

                                     2.13(木) 早稲田松竹


2020年3月1日日曜日

フルスタリョフ、車を!


☆☆☆   アレクセイ・ゲルマン  1998年

早稲田松竹でソヴィエト映画の2本立て。
まずは何年か前『神々のたそがれ』が話題
になったアレクセイ・ゲルマン。

なにしろパワーに満ち溢れた力作なのは充
分に伝わってくるのだが、いかんせんスト
ーリーがさっぱり分からない。スターリン
時代のソヴィエトを知らないのもあるだろ
うが、それだけじゃない気がする…。セリ
フも色んな人物が好き勝手にしゃべってる
としか思えず、関連性というものが摑めな
いのである。
ただ画は長回しが多くて、人物の動かし方、
カメラの動き方など観ていておもしろいカッ
トが多い。雪が積もっているので雪の効果
音が多いのだが、音の付け方も独特。

                                 2.13(木) 早稲田松竹