2020年2月28日金曜日

火口のふたり


☆☆☆★★    荒井晴彦   2019年

脚本家・荒井晴彦の3本目の監督作。
去年見逃してしまって、まあでもそのうち観る
機会もあるだろうよ、と気長に構えていたらな
んとキネマ旬報のベストワンになってしまった。
ベストワン記念でアップリンクにて限定公開し
たのでいそいそと出かけた。

ひと組の男女以外ほぼ登場人物はなく、しかも
ほぼ全篇にわたってリビドーのおもむくままに
お互いの身体を貪り合うという映画なのだが、
不思議と観終わってもべたついた感じはなく、
むしろ突き抜けた先の爽やかさすら感じる。ぽ
つりぽつりと交わされるセリフがやはり良いね。

男女とはいま絶好調の柄本佑と瀧内公美なのだ
が、瀧内公美のいい女っぷりたるやすさまじい。
『日本で一番悪い奴ら』でもその気前のいい脱
ぎっぷりには瞠目させられっぱなしだった。
瞠目とは「目をみはる」ということで、今回も
己の集中力の限り凝視させていただきました。
ありがたや。

                               2.10(月) アップリンク渋谷


2020年2月26日水曜日

読書③


『82年生まれ、キム・ジヨン』
チョ・ナムジュ 著 斎藤真理子 訳  筑摩書房

クローズアップ現代でも取り上げていたので、
「いったいなにごと」と思い買ってきた。一読、
出だしから惹きつけられて、するすると読了し
てしまった。なかなかうまく出来た小説で、「い
まそこにある」社会問題と、叙述のうまさと、読
者の求めているものと、タイミングと、すべてが
合致した結果という気がする。

著者は放送局のディレクターとのこと。
解説を読んでまたひとつビックリ、という仕掛け
もある。まあこれに関しては、気付かなかったわ
たしが鈍いだけかもしれないが…。









『エンピツ戦記 誰も知らなかったスタジオジブリ
舘野仁美 著  平林享子 構成   中央公論新社

「なつぞら」が放送されてるときから読んでいた
のだが、たまたま読み終わったのが最近、という
わけで。

スタジオジブリで長い間「動画チェック」という
ポジションで仕事をしていた舘野さんによる一種
の回顧録である。初めにジブリの広報誌「熱風」
に連載するように提案したのは鈴木敏夫だったと
のこと。しかも
「私は宮崎駿のせいで結婚できませんでした」
という書き出しで、と指定したというのがいかに
も悪徳プロデューサー鈴木敏夫である。








2020年2月24日月曜日

翔んで埼玉


☆☆☆★      武内英樹   2019年

徹頭徹尾、とことんバカバカしいが、ちゃんと
笑えるところが凡百のマンガ原作映画とは違う
ところだろう。
私は田舎で生まれ育って上京してきた人間だか
ら埼玉をコケにする気持などさらさら持ち合わ
せないし、埼玉の各地域の、それこそ草加とか
春日部とかがどんな場所なのか知らないし、そ
もそも正確な場所すらも分からないし……と思
いかけてふと気付くのは、東京や神奈川で生ま
れ育ったひともきっと埼玉についての知識はさ
ほど変わらないのだろうということで、そうい
う間隙をうまく突いて笑いに昇華させたところ
がウケたのだろう。

ぱるるは「ひよっこ」とまったく同じ演技だっ
たな…。

                                       2.8(土) フジテレビ


2020年2月21日金曜日

ジョジョ・ラビット


☆☆☆★★  タイカ・ワイティティ 2020年

第二次大戦中のドイツ、まさにユダヤ人を強制
収容所に送っているときのドイツを舞台にしな
がらも、苦いばかりでない、爽やかで愛らしい
青春映画にもなっている秀作である。

子役ってすごいね。
自分がこの年頃だった時を思うと、いったい何
をどういうふうに考えてこんな芝居ができるん
だろうと、もう想像すらもつかない。小生意気
なのがまた逆に可愛いというのも分かってやっ
てるんだよね、きっと。

スカーレット・ヨハンソンは過去最高の芝居で
はなかろうか。体温の伝わってくる素晴らしい
演技だった。
この映画の教訓としては、いかに崇高な忠誠心
さえも、キレイなおねえさんの前には形無しと
いうことか…。

                                   2.7(金) シネクイント


2020年2月19日水曜日

舞踏会の手帖


☆☆☆  ジュリアン・デュヴィヴィエ  1937年

昔からタイトルは聞いていて、観たいなぁと
思っていた。例によって得意のBSで捕獲。
監督は『望郷』を撮ったデュヴィヴィエ。あ
の映画はカスバの迷路のような街と若きジャ
ン・ギャバンが印象的だった。

夫に先立たれた未亡人が、昔の手帖を頼りに、
かつて自分に愛を告げた男たちを順番に訪ね
る。ひとりづつが短篇のようで互いに関係は
無いので、オムニバス形式と呼ばれるのだろ
う。

しかし、のっけから息子に死なれて半狂乱に
なった母親が出て来てひとしきりヤバい感じ
の気まずいやりとりになり、わたしだったら
この時点で旅はあきらめて帰宅すると思う。

それからもまともな男はひとりとして出て来
ず、おまえかつてどんだけヒドいことをして
きたんだとヒロインを問い詰めたくなる。

                                  2.2(月) BSプレミアム
   

2020年2月15日土曜日

ロマンスドール


☆☆☆★    タナダユキ    2020年

意外にもタナダユキ作品に蒼井優が出演するのは
あの『百万円と苦虫女』(2008年)以来だという。
そういえばそうか。しかし本作を観ていて、監督
と女優との間の信頼関係の確かさを感じた。それ
は単に蒼井優にしては大胆ないわゆる濡れ場があ
るとか、まあそれも一端ではあるけど、それだけ
でなく画面から滲み出るものがあるように思った。

高橋一生の方が一目惚れして結婚した夫婦なのだ
が、自分がラブドールの職人であることを言えず
にいる。やがてすれ違いから夫婦の危機を迎えた
ときに蒼井優の口から意外な告白があり…という
話。
しかし蒼井優だけで2時間観ていられる、既にそ
ういう女優なのだとあらためて思う。観る者をス
クリーンに釘付けにする芝居のちからがあるし、
ちょっとした声の出し方なんかも非常に巧い。

                                       2.1(土) 新宿バルト9


2020年2月13日木曜日

読書②


『ひと皿の記憶 食神、世界をめぐる
四方田犬彦 著    ちくま文庫

文学、映画、音楽、とにかく何にでも造詣が
深すぎる四方田センセは、当然ながら食べ物
にも一家言ある。世界中を旅し、いろいろな
国の大学で教鞭もとってきた批評家の、食に
まつわる書き下ろしのエッセイが本書なのだ
が、これがまたどこまで本当でどこまでハッ
タリか分からないのはいつものことで、わり
とおもしろい。
タイを旅行しながらタイの項目を読むために
携行したので、イサーン地方の昆虫食のくだ
りなど読んでちょっと食べてみたくなったが、
実食する勇気は出ず。ピョンヤンのホテルを
抜け出してお粥を恵んでもらった話など虚飾
のないルポになっているし、八ヶ岳の別荘の
まわりに生えるきのこや、幼い頃に美食家の
祖父に連れられて食べた鮎のエピソードなど
も印象的。











『生きづらさについて考える』
内田樹 著   毎日新聞出版

新しめの内田センセの文章を集めた本。
政治、教育制度、人口減少、若者の動向など。
若者への提言、若者の行動の分析が増えてき
ている印象。

定期的に内田樹の本を読みたくなるというこ
とは、やはり好きなんだろうか…。


2020年2月11日火曜日

バルカン超特急


☆☆☆★  アルフレッド・ヒッチコック  1938年

久しぶりにヒッチコック。
イギリス時代の一種の「密室モノ」として名高い
本作。原題の"The Lady Vanishes"のとおり、汽
車の中でご婦人が消えてしまい、周りの乗客に尋
ねるも一様に「そんなひとは乗っていなかった」
と証言するというミステリーである。
クリケットに夢中のイギリス人コンビが狂言回し
の役割を果たし、なかなか可笑しい。
ヒロインのマーガレット・ロックウッドは正統派
の美人だが、金髪でないからヒッチコックの好み
からは外れるらしい。

                                   1.28(火) BSプレミアム


2020年2月9日日曜日

さよならテレビ


☆☆☆★    土方宏史     2020年

ドキュメンタリーの秀作・問題作を連打する
東海テレビが、自らの組織そのもの、そして
恥部にさえも容赦なくカメラを向けた衝撃作。

…のように宣伝しているわりに、どうも衝撃
がヌルかった。
派遣社員の彼や、反骨精神を秘めた記者など、
密着対象はたしかに的確に見えたし、途中ま
ではそれなりにおもしろく観た。しかしラス
トで記者から投げかけられた本質的な疑問に
特に答えることなく映画が終了してしまい、
肩すかし感があったのは否めない。

「さよならテレビ」という題も、誇大広告の
観があるというか、大仰すぎる。ドキュメン
タリーには裏も表もあって、「真実を映し出
す」というのは幻に過ぎないのはもう承知の
上なので、この内容でなぜ「さよならテレビ」
なのか、いまひとつ呑み込めなかった。

                              1.23(木) ポレポレ東中野


2020年2月6日木曜日

【LIVE!】 NUFONIA MUST FALL


"マルチメディアパペットショー"
と聞いて「ああ、なるほどね」と言うひとは
たぶんいないだろうが、どういうステージか
説明が難しい。要するに操り人形と複数のカ
メラを使って、その場で映画を撮りつつ上映
するという、ものすごく計算され尽くした即
興的なパフォーマンス、とでもいうか。しか
も弦楽四重奏で音楽もリアルタイムであてて
いく。

 孤独なOLと都会の喧騒の中で自身の声をみ
 つけようとしている古びたロボットの運命
 のラブストーリー。 (パンフレットより)

まあ観てみないとなんとも見当もつかないっ
すよねー。おもしろかったです。

      1.19(日) 渋谷区文化総合センター大和田さくらホール


2020年2月3日月曜日

リチャード・ジュエル


☆☆☆  クリント・イーストウッド 2020年

いつの間にか製作されていたイースト
ウッド翁の最新作。予告編を見て初め
て知った。

一見した感想は、あらなんだか普通か
も…、というもの。メディアによって
英雄から爆弾テロ犯にされてしまった
男の絶望と奮闘を描くが、メディア側
の悪意の描写がわりに「昔ながら」と
いうか、だいたい体を武器にスクープ
を獲る女記者とか、いまのご時世あま
り感心しない。その記者が真相に気付
いて後悔する場面など、失笑を誘う。
『運び屋』ではあんなにヒリヒリさせ
てくれたのになぁ…。

                    1.17(金) 新宿ピカデリー