2015年9月30日水曜日

サンダーボルト


☆☆☆★       マイケル・チミノ      1974年

原題は"THUNDERBOLT AND LIGHTFOOT"

銀行の金庫を大砲で破壊して圧倒的な素早さで犯行を終え
ることから「サンダーボルト」の異名をもつのがイーストウッド。
昔の仲間に追われているところをジェフ・ブリッジス演じる「ラ
イトフット」というチンピラの兄ちゃんに助けられ、旅を続けるう
ちに、ふたりはコンビを組むことになる。そこに昔の仲間が絡
んできて…。

ロードムービーであり、クライム・アクションでもあるのだが、
全体を流れる空気はなんだかのんびりしている。
のちに大作ばかり撮るようになるマイケル・チミノの初監督作。
この時点では『ダーティハリー2』の脚本をイーストウッドに気
に入られたただの脚本家だったそうだ。

実はこれで92本目だったりする。
東京に転勤して、今年こそ100本観てる暇はないだろうと思っ
たが、とてもあっさり達成しそうである。日々のたゆまぬ努力
のおかげであろう。とあるビッグ・プロジェクトに組み込まれる
来年こそ、無理かも……。

                                                       9.24(木) BSプレミアム


2015年9月29日火曜日

回路


☆☆☆★★         黒沢清        2000年

お目当てはもちろんこちら。

黒沢清の映画に出て来る幽霊たちは、直接人間を殺すことは
ほぼない。むしろ魅入られた人間が精神に異常をきたして自殺
するか、他の人間を殺し始める。それがまた怖いのだが。
今回は、霊界から溢れた幽霊が地上に現れ、普及し始めていた
インターネット回線を伝わって移動・増殖するという話。
恐怖演出は、もちろん怖いのだけど、「冴えてる」までは行かない
かな。
人が飛び降り自殺するのをさりげなくワンカットで撮ってるのだけ
ど、どうやってるんだろう。たしか『叫』にも同じようなシーンがあっ
た。

                                                        9.13(日) シネマヴェーラ


2015年9月23日水曜日

ココロ、オドル


☆☆★★         黒沢清       2004年

シネマヴェーラの黒沢清"レトロスペクティブ"に参戦。
レトロスペクティブとは「回顧上映」の意。

これは短篇映画だが、存在すら知らなかった。
なんか雑誌の付録DVDのために制作されたとのこと。

相変わらず、何がなんだか分からないが、即興でやって
いる場面が多いのか? エチュードみたいな感じだった。

                                            9.13(日) シネマヴェーラ









<ツイート>
まったく関係ないんだけど、「MJ」でNegiccoの「アイドル
ばかり聴かないで」という曲をチラッと耳にしたときに、
それこそ雷に打たれたような衝撃が走り、すぐにiTunes
で買ってしまった。曲自体はもう2年前の曲とのことなの
で、マメにアイドルをチェケラしてるひとには有名なのだ
ろうけど。

歌詞もなかなかおもしろいのだけど、一聴すればすぐ分
かように、小西康陽がプロデュースしている。もろにピチ
カート・ファイヴのサウンドである。独特の流麗なストリン
グスにのせて、「アイドルばかり聴かないで ねえ、私を
見てよね」という歌詞を、アイドルであるNegiccoが歌うと
いう、なんとも倒錯した感じにかなりグッとくる。倒錯にこ
そグッとくるとか言ってると、なんだか自分が島田雅彦に
でもなった気分ですが。
愛聴してます。

2015年9月21日月曜日

残暑の読書②


残暑もそれほど厳しくないですが。


『職業としての小説家』
村上春樹 著      スイッチ・パブリッシング

私も村上主義者のはしくれなので、正直いって一度ならず
読んだことのある話も多い。
普段の生活、長篇小説と短篇小説とエッセイの位置づけ、
執筆の方法、学校がおもしろくなかったこと、ジャズ喫茶を
やってた頃のこと、『風の歌を聴け』を最初ためしに英語で
書いてみたこと、奥さんに最初に読ませること、登場人物
に名前を付けるのが気恥ずかしかったこと、などなど…。
枚挙にいとまはない。

でも、初めて書いた(と思われる)ことも、同じぐらい多いな、
という印象。文学賞について思うこと、小説家の「寛容さ」に
ついて、また、10回ぐらい書き直すというのは聞いていたが、
各回でどういう風に書き直すのかは初めて明かしたのでは
ないか、あとは、キャラクター設定をするときの詳細や、子ど
もの頃や学校でのエピソードにも、初めて読むものが少なか
らずあった。そしてどれも興味深いものばかりであった。

もちろん村上春樹という小説家の成り立ちも興味深いのだ
が、やはり村上主義者のはしくれとしては(2回目)、「なぜ
村上春樹はこの本を書こうと思ったのか」という方にも関心
が向かってしまう。そしてそれは、66歳という年齢とも無関
係ではないだろう。











『紫式部の欲望』
酒井順子 著       集英社文庫

『源氏物語』を、作者である紫式部の「欲望」から読み解いて
いくという、なかなか意欲的なエッセイ。こういう本を手に取る
とこをみると、私はいまでも『源氏』を読みこなすことに一種の
憧れがあるんだなと思う。足を骨折して1ヶ月入院せざるをえ
なくなったら、また谷崎訳に挑戦してみたいものだ。でも、ほん
とにそうなったらそうなったで、他に読みたい本がいっぱいあ
る。『白鯨』も『魔の山』も読みたいし、『感情教育』も『荒涼館』
も、『明暗』も池澤夏樹訳の『古事記』も、『サハリン島』も…。
ということで、「1ヶ月入院したら何を読むか」というのは私の中
ではしばしば真剣にやる妄想なのだが、皆さんはそんなことな
いですか。ないですよね。










2015年9月19日土曜日

世界の果ての通学路


☆☆☆         パスカル・プリッソン      2012年

世界は広い。
ケニアには、象に遭遇しないよう注意しながらサバンナを15km
歩いて通学している兄妹がいる。アルゼンチンには、愛馬にま
たがって妹と一緒に荒野を学校に向かう優しい兄がいる。本当
に見渡す限り何もない荒野である。
かくいう私も、レベルは比較にならないが、毎日11kmの道のり
を、自転車で爆走して高校に通っていた。それもポータブルMD
でレッチリを聴きながら。危険走行である。

目のつけどころは面白いのだが、この映画にはおおいに疑問
がある。
本当に子どもたちの通学に密着して撮ったのなら「はじめての
おつかい」のような画にならないとおかしい。しかし実際は、観
ていただければ分かるが、かなり綿密なカット割りのもと構成
された流麗なシークエンスが展開される。ケニアの兄妹を迎え
打つアングルの次に切り返しで後ろからのカットがあり、足の
アップの歩きフォローがあり、兄の越しショットがあり、妹の越
しショットがあり、ロングショットがあるかと思えば湖の対岸から
のショットまであったりする。中には、絶対に同じ動作を3回繰
り返してもらわないと撮れない(カメラが写り込むから)カットが
平然と連続で並んでいたりする。まあつまり、これは密着ドキュ
メントではなく、再現ドラマに近いものだと思ったほうがいい。

以前「怒り新党」で観た海外の胡散くさい猛獣ハンターの番組
(アナコンダと水中で格闘したりするやつ)にも驚き呆れたが、
海外のひとってこういうのはあまり抵抗ないんだろうか。想像し
てみて欲しいが、「はじめてのおつかい」がものすごい計算され
たカット割りで展開されたら、誰も観なくなると思うのだが。

                                                       9.8(火) BSプレミアム


2015年9月16日水曜日

ミッション:インポッシブル


☆☆☆★★      ブライアン・デ・パルマ      1996年

初めて観ました。
冒頭のたるんだ感じの作戦会議と作戦行動に、なんだこんな
もんか…と思ってしまったが、なるほどあれは全然布石なわけ
ね。さすがはブライアン・デ・パルマ。観終わって疑問点もいくつ
かあるにはあるが、結局、最後には手に汗握らされてしまった。
おもしろかったです。

ジム役のジョン・ヴォイトって、『真夜中のカーボーイ』の、あの
自信過剰の絶倫男か! そしてアンジェリーナ・ジョリーのお父
さん…。

                                                        9.7(月) BSプレミアム


2015年9月14日月曜日

肉弾


☆☆☆★         岡本喜八        1968年

寺田農、主演。ちょっと雰囲気が緒方拳とカブるが、かなり
の怪演である。岡本喜八流のユーモアが炸裂する一作。

女優・大谷直子のデビュー作らしい。『ツィゴイネルワイゼン』
の妖艶さは忘れがたいが、この頃はまだ女学生の役がぴっ
たりである。惜しげもなく裸体をさらしている。原田美枝子と
いい、昔の女優はえらいなぁ。

                                                    9.7(月) BSプレミアム


2015年9月11日金曜日

ロマンス


☆☆☆★★★       タナダユキ      2015年

落ち目の映画プロデューサーを大倉孝二、ロマンスカー
の売り子を大島優子が演じる。全篇、ほぼ二人による芝
居で展開していく。口八丁と厚かましさで世を渡ってきた
業界人を大倉が見事に体現していてかなりおもしろいの
だが、大島優子もまったく引けをとらない堂々とした演技
で、正直いって期待以上。この役は「ふてくされていても
可愛い」というのが条件だと思うが、なかなかにキュート
だった。

こういうの好きだわぁと思いながらキネマ旬報を読むと、
モルモット吉田さんはけっこう酷評。あらら…。
まあたしかにロマンスカーという設定はあまり活きてい
なかった。

                                                9.4(金) 新宿武蔵野館


2015年9月9日水曜日

残暑の読書


「橋を渡る」
吉田修一 著

まだ単行本になっていないが、週刊文春の連載を毎週律儀に読んだ。
いちおう、長篇小説を1冊読んだことになろう。

読み終わった今だから分かるのだが、これは一気に読むべき小説で、
雑誌連載には不向きだ。構成としてはいくつかの短篇小説のような断
片が提示され、それが最後のピースで収斂していく。最後は近未来が
舞台のSF風のピースなのだが、そこに来るまで、各々の断片の関連
性はまったく分からない。

近未来SFというのは吉田修一の新境地かもしれないですね。おそらく
50年後ぐらいの世界で、そこでは「サイン」と呼ばれるクローン人間(?)
たちが、半分ぐらい市民権を与えられて生きている。サインと結婚する
こともできるようだが、その結婚生活の内実は、主人と召使の関係と変
わりない。おおかたのサインたちは、兵士や家政婦や、言い方は悪い
が慰みものとして生きているようだ。
その世界に生きる、元兵士のサインを主人公として最後のピースは展
開し、そこに、それまでのいくつもの断片に登場した人物の、つまり50
年前の人物たちのとった行動が、様々に影響を与えていることが少し
ずつ分かってくる。なかなか巧みな構成になっているのである。

単行本が出て、文庫になったぐらいでもう一度読み返してみよう。

一時、文春が嫌韓・嫌中記事を派手に書いていたとき(今もなくなって
はいないが)に「ひとり不買運動」をしていたのだが、この連載が始まっ
てからは、買わざるを得なくなった。運動は一時休戦となった。
でもまた再開してもいいかもなと思っている。百田尚樹の連載なんかを
ありがたがってる週刊誌はほんとはあまり買いたくない。



『「4分33秒」論』 「音楽」とは何か
佐々木敦 著     ele-king books

5回にわたる「4分33秒」についての講義を採録したもので、ほんとにま
るごと1冊「4分33秒」の話をしているという、狂気の書である。
「何も演奏されない曲」について、これまで書かれた批評も引用しなが
ら語り続けるわけである。批評ってすごいよね。


2015年9月7日月曜日

モーターサイクル・ダイアリーズ


☆☆☆★★       ウォルター・サレス      2004年

ふと思い立って借りて来た。
バイクの音をどういう風にしてるのかなーというのを確認した
くて再見したのだが、そういえばバイクは中盤までも行かない
とこで壊れるんだった! 忘れていた。日記を書いてるシーン
もごくわずかだし、「モーターサイクル」も「ダイアリー」も、なん
だか実状を反映していない。でもまあ、カッコいいタイトルだか
らいいか。

チェ・ゲバラが医学生だった時の「南米大陸バイクの旅」を元
にしたロードムービーである。嘘のつけない、真面目で一本気
な青年として描かれている。
あの銅山の夫婦に会ったことが、彼にとって決定的な経験に
なった、ということなんだよね? 久しぶりに見返して、やっぱ
り良い映画だと思った。

                                                                  8.29(土) DVD







<ツイート>
9/12から渋谷のシネマヴェーラで黒沢清の特集上映が始まる。
東京近郊にお住まいの方は、これを逃す手はない。どれを観て
も、時間を損することはないと保証します。私も通えるだけ通お
うと思っている。きっと橋本愛や前田敦子も出没するのでは…?
分からないけど。

2015年9月5日土曜日

黒部の太陽


☆☆☆★         熊井啓        1968年

黒部ダムの建設に文字通り骨身を削って尽力した男たち
の姿を「骨太に」「重厚に」描く超大作映画。三船敏郎と石
原裕次郎、二大スターの共演で当時話題だったらしい。

工事は当然、困難に次ぐ困難が降りかかり、もうこれでき
ねぇんじゃね、という空気が現場にも漂い、士気は下がり
まくっていた。掘れば掘るほど、水が噴き出してきて作業
員が流されるし、補強材も壊れる。補強材が壊れる直前
のミシミシいう音が恐い。

本作とか『八甲田山』とか、昔はこうやって凄まじい製作費
をかけて、大物俳優にも尋常ではない肉体的な負担を強
いて、それでも大赤字という話は聞かないのでちゃんと元
が取れていたのだろう。斜陽斜陽と言われながらも、それ
だけ多くのひとが劇場に足を運んだということだ。

                                                   8.25(火) Blu-ray Disc


2015年9月3日木曜日

この国の空


☆☆☆★★       荒井晴彦        2015年

茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」を、戦時下
に生きた二十歳の女の子(二階堂ふみ)に重ねたその企み
はナイスである。
荒井晴彦の脚本はさすがに巧みで、隣に住む、妻子を疎開
させた男(長谷川博己)と関係を結ぶのは分かっているのに、
うまく焦らすというかかわすというか……。そうやってじりじり
しながら待っていると、川辺での工藤夕貴のセリフに驚くこと
になる。

二階堂ふみはなんだか変わった喋り方をしていたが、小津や
成瀬を観て自分なりに昔の女の子の喋り方を研究したらしい。
ふーん。彼女もけっこうなシネフィルなんだよね。末恐ろしいわ。

そしてとてもナイトシーンの多い映画だった。
照明さんお疲れ様です。

                                                     8.24(月) テアトル新宿