2011年6月29日水曜日

シャイン・ア・ライト

☆☆☆★★★     マーティン・スコセッシ     2008年

ローリング・ストーンズといっても、ベスト盤ぐらいしか聴いてないし…
分かんない曲ばっかやってるライブ映像見てもね、などと思ってる方
がもし居たら(かくいう私がそうだったわけだが)、これはかなーり素
晴らしいですよ、と微力ながら私が断言したいと思う。そうか、と目か
ら鱗がハラリと落ちた。ストーンズがいまだに、こんなにも熱狂的に
支持されるのは、なにも現役最年長バンドとして、懐かしいヒット曲を
円熟のプレイで聞かせてくれるからではないのだ。いまだに誰よりも
カッコいい音で、誰よりも挑発的に、最高のロックンロール・ショーを
世界各地で繰り広げていることの帰結なんだ、という当たり前のこと
がストンと腑に落ちる圧倒的な120分である。

自宅で観るときは、ぜひデカい音で鑑賞したいところ。私の場合は、
ある日曜日、家で勉強していたら上の階の住人(と友人たち?)が、
パーティーでもしてるのかキャーキャードタドタと非常にうるさかった
ので、勉強を中断し、気兼ねなくアンプのゲインを思いっきり未だか
つて上げたことない所まで上げて、ものすごい爆音で鑑賞すること
ができました。上の住人に感謝します。

ストーンズの曲って、歌詞が面白いものが多いというのも今回初め
て知った。歌とその対訳を追ってるだけでも楽しい。そして特筆すべ
きはミック・ジャガーのお腹のペッタンコさ。あれがロック・スターの腹
ってもんでしょう。日本なら、吉井和哉だね。吉井さんが六十過ぎま
でスタイルを保ちつつロックスターをやってたら、日本のミック・ジャガー
と呼んで差し支えないかと思う。

                                                                    6.26(日) BS 2

2011年6月26日日曜日

劇場版TRICK 霊能力者バトルロイヤル

☆☆★★★        堤幸彦      2010年

去年、釧路でやってたのにも関わらず観に行かなかったんだった。
くしくも受験の年にあたっていたテレビドラマの第3シーズンは、あ
んなに熱心に観たのにね。フフフ。受験の年だったのに。

いろいろ思い出をありがとう、最高のドラマだったよ、という感じで
すかな。このクオリティなら、もう続編はいいや。だいたい劇場版2
で終わりだったんじゃないのかよ。しかし今回の舞台の村にみず
から万練(マンネリ)村と付ける批評性には、TRICK製作者の意地
というか、最後の一矢を見た気がした。

                                                      6.21(火) HTB

2011年6月24日金曜日

車輪の下で

ヘルマン・ヘッセ 著    松永美穂 訳   光文社古典新訳文庫

とうぜん再読…と言いたいところだが、実は初めて読んだ。
…ヘッセいいよ、ヘッセ。
読書感想文で『デミアン』を読んで以来のヘッセ先生。
ほんとに良い文章で、さくさく読めた。一読、なんてことない、
癖のない普通の文章なんだけど、読んでて気持いいのは
やっぱりヘッセがうまいのか。
翻訳でも、ヘッセの文章が美しいのは十分伝わってくる気
がいたしましたよ。

しかし…かわいそうだね、ギーベンラートくん。もうちょっと
気楽に生きれなかったものか。

2011年6月23日木曜日

砲艦サンパブロ

☆☆★★       ロバート・ワイズ     1966年

スティーヴ・マックイーン主演の大作映画だが、どう観ても
「普通」としか言い様がない。別の表現がもう一つあるとす
るなら、「大味」。軍艦による戦闘シーンとかが、公開当時
は度肝を抜かれるすごさだったのだろうか。あるいは。今
観ると「うん…」という感じである。

このひと「ウエスト・サイド物語」と「サウンド・オブ・ミュージック」
の監督なのか。大作をつくりたくなっちゃうんだね。

                                       6.17(金) BSプレミアム

2011年6月21日火曜日

なんとなく

最近、といっても先月末から今月にかけて、
観たい映画が立て続けに公開されていて、
そのことごとくを観ることができないのである。
まあそんなの覚悟していた事態ではあるが…。
こうも続くと、若干もどかしいね。
誰か代わりに観て来てくれー。

「マイ・バック・ページ」(山下敦弘監督 川本三郎原作!)

「東京公園」(青山真治! 傑作「サッド・ヴァケイション」以来4年ぶり)

「あぜ道のダンディ」(石井裕也 「川の底からこんにちは」の監督!)

「軽蔑」(廣木隆一監督 中上健次の遺作が原作!)

「奇跡」(是枝監督、久しぶり)

ぜんぶ邦画(笑)。
観たいのう。

2011年6月19日日曜日

緑の家

バルガス=リョサ 著  木村榮一 訳   岩波文庫

これまた長篇。ええ、好きなんですわ。
ただ、長い小説って、まとまった時間が取れることがわかってないと、
読む気がしませんね。来週は札幌往復(8時間強)がある、とか。特
に予定の無い三連休がある、とか。これの場合も、GWにオランダに
行くっつーんで。釧路~羽田~成田~香港~アムステルダムの経路
で移動時間がしこたまあるっつーんで。やったーっつって、喜び勇ん
で持って行ったわけです。

これが大変に複雑な構成の小説で、時系列を異にする5つのストーリ
ーがこれでもかと絡み合っている。それも、章ごとにストーリーが入れ
替わるなら普通だが、地の文の途中で、段落も改めずにあっちから
こっちと行ったり来たりする乱暴さで、もうこちら(読者)が混乱するの
は当たり前・折込み済みなのである。それでも読ませてしまうこと自体
が売りなわけです。まあジクソーパズルのバラバラの断片を見せられ
て、それを著者が鮮やかに組み合わせていくのを眺めるような感じと
いえばいいか。おぼろげな絵が見えてくるまで読むのに、けっこう根気
が要るのは想像がつくかと思う。

かつて、六十年代、ラテン・アメリカ文学の一大ブームがあったそうな、
と我々若者は伝え聞いておるわけですが、『百年の孤独』(ガルシア=
マルケス)『石蹴り遊び』(コルタサル)など錚々たる面々とともにその一
翼を担ったのが、まさに本書である(らしい)。私はそれ程ラテン・アメリカ
の小説を読んでるわけではないが、ちょっとかじった者としてささやかな
意見を述べると、その魅力とは、
①まず物語に独特の「柄の大きさ」があること。小さくまとまろうとせず、
風呂敷はなるべく大きく広げる。
②そして語り口、叙述形式が変わってるものが多い。ラテン・アメリカ文学
の象徴である『百年の孤独』が典型例だが、あれなんて、なんだこりゃと
思いながらも、ついつい熱中してしまう。
③極めつけに、例の「マジック・リアリズム」という言葉。これはまあ、要す
るに、物語の随所で、ちょっと不思議なことが起こるわけである。ある偉大
な人物が死んだとき、死体に蝶が群がって空に運んでいったとか、そうい
う類の話。そのような非現実の出来事の描写を、現実の出来事の描写と
何ら変わらぬ地平でおこなうので、一種異様な、いびつな物語になる。
この三つの特徴は、大江健三郎と中上健次の書く世界にピッタリと当ては
まる。中上の『千年の愉楽』は、ガルシア=マルケスが百年なら俺は千年
だぜってことで「千年」になったとかならないとか。まあそれだけ、目に見え
る部分でも見えない部分でも影響を受けている、ということであろう。私は
大江さんの小説をけっこう読み慣れていたので、ラテン・アメリカの世界に
もすんなり入れたのかな、とも思う。

リョサで最初に読んだ『楽園への道』が飛び上がるぐらい面白かったので、
どうしても比べまいとしても比べてしまうわけだが、やっぱり『楽園~』の方
が好きだったなぁ。確かに『緑の家』でやってることも離れ業ではあるんだ
けど。

2011年6月15日水曜日

プリンセス トヨトミ

☆☆☆       鈴木雅之      2011年

こういう、大風呂敷を広げる感じの話は嫌いじゃない。歴史
ミステリめいた展開も、飽きさせなくていいと思う。ただ、あの
男の子が性同一性障害という設定は、映画だと何の必然性
も無い気がしたけど、小説には何か理由づけがあるのだろう
か。父親と息子、という軸をより印象づけようとしたのか。
まあ面白かったかと問われれば、普通、かな。

独立国の話というと、『吉里吉里人』『同時代ゲーム』『希望の
国のエクソダス』なんかが思い浮かぶが、なぜかどれも大阪
ではない。もう半分異国みたいなものだから意外性に欠ける
のか。私の住む釧路は、空港の到着ロビーに「釧路という異
国」と銘打ったポスターを貼って、その異国性を観光の売りに
しているぐらいである。釧路がどのぐらい異国かは、気象情報
で日々の「予想最高気温」をご覧いただければ、お分かりにな
るかと思う。昨日今日と仕事で霧多布にいたのだが、寒さに震
えながら仕事をしていた。夏場、冷房が使えなくて死にそうだと
いうひとに、避暑地としての釧路をアピールしているところであ
る。去年居た感じだと、今日は半袖着たいな、という日が年に
4、5日ですよ。

                                 6.4(土) ワーナーマイカルシネマズ釧路

2011年6月12日日曜日

エイリアン2

☆☆☆★      ジェイムズ・キャメロン      1986年

続編なのにおもしろい、非常に稀有な例としていつも挙げられる
のは、「ゴッドファーザー PART Ⅱ」「ターミネーター2」そして「エ
イリアン2」である、というのは大方の異論なき所かと思う。「3」以
降では聞かないね。個人的には「ゴッドファーザー PART Ⅲ」は
かなり良いと思うけど。というか「PART Ⅱ」より面白いですよね、
という会話を最近スティーブ・マックイーン好きの職場の先輩とし
たばかり。

まあそれはおいといて、エイリアン2である。
1のラストで宇宙にさまよい出てから57年もの間、昏々と眠り続け
ていたシガニー・ウィーバーがついに救出されるシーンから始まる。
57年とはだいぶ思いきったね。手早い展開でシガニーは結局、ま
たあの悪夢の星に舞い戻ってエイリアン退治をするハメになるわ
けだが、その往きの宇宙船でのみんなの張りきり様たるや、どうせ
またエイリアンに全滅させられるのが映画の約束上明らかなだけ
に、けっこう笑える。小藪千豊が言うところの「イキる」という関西弁
が何度も頭をよぎる。
エイリアンの姿を巧いこと「出し惜しみ」して成功した1の後だけに、
今回はもう惜しむことなく彼らはバンバン襲って来て、1では体が
シリコン製だっつってあんなに殺せなかったエイリアンだけど、取り
敢えず銃か火炎放射器で殺せることになったらしく、お互い殺しまく
りの殺されまくりで、もう完全なアクション映画なのですね。ただ、1で
は諸悪の根源だったアンドロイドを敢えて再び乗組員に加えたことと、
ニュートという生き残った少女を登場させるのが今回のひと工夫で、
これは二つとも成功していると思う。
ニュートはあれだよね、いま日本でリメイクするなら芦田愛菜ちゃん
だね。

                                                5.31(火) BSプレミアム

2011年6月11日土曜日

エイリアン

☆☆☆       リドリー・スコット     1979年

遠い昔、幼い頃に観たか観ないか、おぼろげな記憶はあるが、
怖い映画は嫌いだったので、通して観たことはたぶん無い。そ
うか、登場人物のみなさんは貨物船の乗組員だったんだね。
地球まであと10ヶ月のとき(遠いね)、ある星から等間隔の信号
が発信されていることに気付き、その星に着陸する(そういうの
を発見したら調査する法的義務があることになっている)。この
へんの展開はなかなかだなあ、と感心していた。そして、探検し
たりいろいろあって、エイリアンの子どもを船内に持ち込んでし
まって、あれよあれよという間にほぼ全員が抵抗むなしく殺され
てしまうという話である。

うちの職場では「基本に忠実で丁寧な仕事」という、なんというか、
レトリックの欠片も無い標語のようなスローガンのようなものが
盛んに唱えられるのだけれど、「エイリアン」を観ながら、この好
きでも何でもない言葉が何度も脳裏をよぎって仕方なかった。
なぜ、未知の凶暴な生物がいると分かっている部屋にそんなに
簡単に入るんだ…。なぜそこでちゃんと扉を閉めておかない。
そんなことするからエイリアンが自由に船内を動きまわるんだよ!
なぜちゃんと後始末をしない。なぜもっと周囲をよく確認しない。
猫なんかこの際どうでもいいだろ! 自分が生きるか死ぬかの
瀬戸際だぞ。
「基本に忠実で丁寧な仕事」の励行で、この乗組員たちだいぶ
命が助かっただろうに、と歯がみしながら観ることになろうとは。
映画のくせに仕事を思い出させたので、★ひとつ減点。

                                                 5.30(月) BSプレミアム

2011年6月8日水曜日

百万円と苦虫女

☆☆☆★★★      タナダユキ    2008年

試写会で一度、劇場でもう一度観た、お気に入り映画。当時は
蒼井優の人となりはまったく謎に包まれていたので、彼女がか
つての同級生にパックの生卵などを投げつけて「おまえら全員、
死ね」というシーンに「蒼井優にこんなこと言わせるなんて…」と
勝手に興奮していたが、案外普通にそのぐらい言いそうな人で
あることが分かってきて、今回そこでは興奮しなかった。
むしろ引っ越すたびに必ずカーテンをつけるシーンが出て来る
のが気になった。別に絶対必要なカットでもないので、余計気
にかかることがあるよね。
ラスト15分が残念なのは、何度観ても変わらない。が、そこも
含めて愛おしい映画なのである。

                               5.26(木)  DVD

2011年6月7日火曜日

ブラック・スワン

☆☆☆      ダーレン・アロノフスキー    2011年

話題作だもんで、ストーリーが漏れ聞こえてきてましたが、ざっと
おさらいすると、才能は認められているものの、いまひとつ自分
の殻を破れないでいる(と評価されている)バレエダンサー、演じ
るはナタリー・ポートマン。「白鳥の湖」の主役に抜擢され、白鳥
と「ブラック・スワン」両方を演じなくてはならない重圧と、周囲の
ねたみと、舞台監督の度重なる執拗なセクハラで、だんだん頭
がおかしくなっていく、という題材じたいは、最高にわたしの好み
である。
ホラー要素もあると聞き及んでいましたので、けっこう期待したの
であるが、いやいや「痛い」描写はべつにホラーじゃないだろ。
親に爪切ってもらうシーンとかマジで痛そうで「ひえー」だったけど、
それはあなた、誰だって「共感する力」があるんだから(by ルソー)、
そうなるよ。心理的に追い詰められる「怖さ」はほとんど無かった。

                                       5.21(土) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年6月6日月曜日

こんな日本でよかったね

内田樹 著   文春文庫

なんとなく避けてきた内田樹をはじめて読む。
あくまで「なんとなく」であって、「読まない」と固く心に決めていた
わけではいない。なにしろすごい人気、すごい著作数である。
その数多の本の題から察するに、硬い話題からタイムリーでとっ
つきやすい時事問題まで、これ以上ないぐらい手広くやってらっ
しゃる。でも人気があるってことは、きっと一読、とても分かり易
いんだろう。いろんな社会問題について、ずばっと分析して、た
とえ話なんかも巧くて、分析するばかりでなく「じゃあどうすりゃい
いのよ」という疑問にも答えてくれて、そこに至る著者の思考の
跡がくっきりたどれるようになっていて、なんだか自分で考えた
ことのような錯覚すらおぼえてしまうのだろう。それで時たま専門
のフランス現代思想から滋味のある言葉なんか紹介してくれて、
ちょっと勉強になっちゃったりするんだろう。
だいたい読む前はこういうイメージだったのだけど、果たして読ん
でみると、けっこう当たってるような。そして、しっかり面白かった
のであった。いやー、こりゃ巧い。巧いぞう。
「不快という貨幣」の話、あれはずしりと来た。そうかも、と思った。
心の中で反論をさがしたが、うまく見つからない。