2010年12月31日金曜日

泥棒成金

☆☆☆★    アルフレッド・ヒッチコック    1954年

なんとか年間100本のノルマは達成。
こんなにギリギリになるとは。ふう。

ヒッチコックとしてはまあまあの作品。しかしながら、
グレース・ケリーが最高。ほんとにキレイなひとだなぁ、
と思いながら鑑賞。映画は女優である(しつこい)。

                                                    12.31(金)  BS-2

知りすぎていた男

☆☆☆★★    アルフレッド・ヒッチコック    1956年

秀作。サスペンスのおいしいとこが詰まっている。
これで99本。

                                                                   12.30(木)  BS-2

タカダワタル的

☆☆☆★★    タナダユキ     2004年

急いでおります。本数を稼いでおります。
こういう時はドキュメンタリー。なぜなら、短い。

しかし本作は素通りしてしまうのは惜しい、気持の
良いドキュメンタリーであった。高田渡、ステキだ。
酔っ払いっぱなしだけど。
素面の場面はひとつでもあったんだろうか。
おもしろかった。

                                 12.30(木)  DVD

玄牝 -げんぴん-

☆☆☆     河瀬直美     2010年

                              12.29(水) ユーロスペース

チャップリンの独裁者

☆☆☆★★★   チャールズ・チャップリン    1940年

恥ずかしながら初めて観たが、噂どおりの傑作。
ちょっとくどい部分もありつつ、ただ圧倒的。

                                                       12.26(日) BS-2

夫婦善哉

☆☆☆★       豊田四郎      1955年

淡島千景が色っぽく可愛い感じで、非常にタイプである。
映画は女優だ!

                                                  12.23(木) BS-hi

サイコ

☆☆☆★★  アルフレッド・ヒッチコック   1960年

再見。殺人者のあの素早さがすばらしい。

                                                       12.13(月) BS-2

ノルウェイの森

☆☆☆    トラン・アン・ユン    2010年

初日に観ることになるとは思わなかった。
決して悪くはなかったと思う。各所で言われていることだが、
緑を演じた水原希子が良い。映画は女優である。
詳しい感想は、いずれ。

                                                12.11(土) 新宿ピカデリー

2010年12月26日日曜日

南の島のティオ

池澤夏樹 著       文春文庫

子ども向けに書いた短篇小説とのこと。どおりで最初の
二篇ぐらいは結構かったるかったが、だんだん楽しくなっ
てきて、一日一篇寝る前に読んでいたのだけれど、最後
のほうは寝るのが楽しみなぐらいだった。やりおるわ。

太平洋のどっかにあるらしい架空の島で、親の観光ホテ
ルの仕事を手伝いながらも、まだまだ遊び盛りの十代前
半の少年「ティオ」が主人公。
あいかわらず「南の島での生活」と「手仕事」への著者の
偏愛が溢れている連作である。カヌーを大木からくりぬい
て作ったり、小屋を立てて屋根を葺いたりするのだが、
工程が実に具体的で、その通りにすればカヌーも小屋も
作れそうだ。傾向として、海外に長く住んだりする人は、
その手の「工程」が好きな人が多い気がする。海外では
面倒なことも多いだろうが、そういうのも含めて「工程」そ
のものが好きなんだろう。またそれを細かく描写するの
も面倒だと思わないのだろう。読者に「面倒」と思わせな
いためにはまた別の高度な技術が要るだろうけど。

2010年12月18日土曜日

めまい

☆☆☆     アルフレッド・ヒッチコック    1958年

ヒッチコックの最高傑作に推すひとも多い作品だが、えーと、
あんまりおもしろくなかった。
高所恐怖症の元警察官が、夫の依頼で、先祖の霊がとり
憑いて不審な行動をしているらしい人妻を尾行する、という
前半は申し分ない。ということはやはり、元警察官と人妻
が恋に落ちるというラブロマンスの要素が入ってきてから
途端に輝きが鈍ったみたいである。別にそういう作品があっ
てもいいが、最高傑作には推せない。もっと面白い作品に
は事欠かない気がする。

余談だが本作は「ダーティ・ハリー」以上の「サンフランシス
コが盛りだくさん映画」である。街を車で徘徊する人妻を尾
行するもんだから、もうサンフランシスコのあらゆる坂が出
て来たんじゃないかというぐらいの紹介っぷりだった。人妻
はゴールデンゲートブリッジのたもとで溺れそうになるし。

                                                12.9(木)   BS-2

2010年12月17日金曜日

絶対の愛

☆☆☆★      キム・ギドク      2007年

最高におもしろかったのなら、あらすじの説明もする
甲斐があるというものだが、本作ははっきり言ってま
あまあの出来で、そのわりにストーリーが盛りだくさん
で説明するのに手間がかかる。気分もあまりのらない
ので、「整形する女の映画」という説明にとどめておく。

「うつせみ」ではストレートな表現を慎み深く抑制して
いる印象だったキム・ギドクだが、本作はいろんな
シーンのはしばしが、結構あざとかった。
そんなに嫌な感じでもないのだけれど。

                                        12.06(月)    早稲田松竹

2010年12月12日日曜日

うつせみ

☆☆☆★       キム・ギドク       2004年

前にも書いたが、韓国映画はけっこう好きで、ちょくちょく観る。
表現のストレートさと、猥雑な感じの画面が魅力だ、と思ってい
る。少なくともこれまで観てきた韓国映画は例外なく、その二点
を備えていた。しかし何にでも例外はつきものであって、今回観
たキム・ギドクには当てはまりそうもない。
本作は抑制の効いた表現と、キレイな画面が大きな特徴で、こ
れは日本映画と変わらんな、というのが最初の感想。
主人公は、留守と見定めた家にあがり込んで生活している、ど
こか飄々とした男。一晩だけ泊まって、散らかっている衣服を集
めて洗濯して、干して、取り込んでから家を出る、なかなか変わっ
たキャラクターである。
この男が、留守と見込んでいつもどおり鍵をピッキングで外して
入った豪邸に、明らかに家庭内暴力を受けているとみられる、
顔にあざのある女が軟禁されたような状態でいたことから、物語
が奇妙にゆがんでいき、「そっち!?」と言いたくなるような方向に
どんどん進んでいき、なんだかすごいところに着地して終わる。

この主人公と女が、一切会話を交わさないというのがミソで、二
人の微妙な感情の綾をセリフなしで表現するという、韓国映画ら
しからぬ(失礼)繊細さを発揮している。監督としての手腕はそう
とう確かなものとお見受けする。

                                                             12.06(月)    早稲田松竹

2010年12月10日金曜日

【LIVE!】 宇多田ヒカル "WILD LIFE"

M1 Goodbye Happiness
M2 traveling
M3 テイク5
M4 Prisoner Of Love
M5 COLORS
M6 Letters
M7 Hymne a l'amour
M8 SAKURAドロップス
Eclipes
M9 Passion
M10 BLUE
M11 Show Me Love (Not A Dream)
M12 Stay Gold
M13 ぼくはくま
M14 Automatic
M15 First Love
M16 Flavor Of Life -Ballad version-
M17 Beautiful World
M18 光
M19 虹色バス

(アンコール)
M20 Across The Universe
M21 Can't Wait 'Til Christmas
M22 time will tell

                                                 横浜アリーナ     12/8


終わってしまうのかぁ、という思いがいちばん強かったライブ
終盤。ライブ自体が終わってしまうというのもあるが、もちろん
それ以外にもう一つ、宇多田ヒカルという、眩しいような才能
のきらめきを、もう当分の間見ることができないんだ、という
ことをしみじみと実感して、あまりライブを見ていて襲われた
ことの無い種類の感情に襲われた。

セットリストを眺めてみてもわかるが、ほとんどの曲が、その
へんのソングライターが一生に一曲書けるかどうか、という
ぐらいの名曲で、それをけっこう無造作にぽんぽん並べてい
る観がある。実際に会場で聴いたわけだが、これ全部あなた
が作ったんすか、マジすか、という感じだった。分け入っても
分け入っても凄い曲、というやつである。かといってシングル
ばかりというわけでもなく、大好きな「虹色バス」や「BLUE」を
やってくれたし、個人的にイマイチだと思っている「誰かの願
いが叶うころ」「Be My Last」ははずしていて、なんだか気が
合った。ラストが「time will tell」というのは意表を突かれたけれ
ど、いま思うとぴったりで、さすがの選曲。ベストアクトは、私
の一存で、Passion ~ BLUEの一連に認定する。

ひとつのライブとしても、充分すばらしかった上に、いろんな
文脈も重なって、「特別な一夜」という感じが強くするライブ
だった。ヒッキーはやっぱり可愛くて、そしてカッコよかった。

2010年12月1日水曜日

ノルウェイの森

村上春樹 著       講談社文庫

インタビュー集『夢を見るために 毎朝僕は目覚めるの
です』はまだ読んでいる途中だが、急にむらむらと『ノル
ウェイの森』が読みたくてたまらなくなり、結局また全部
読んだ。もう通算で6回目か7回目か、そのぐらいだと思
う。もちろん、こんなに読み返している小説はこれだけ
である。僭越ながら自分の「帰るべき場所」という感じが
してきている。ここから訣別する日は来るのか。

何度読んでも、というか、読むたびにその度合いは増し
ている気がするが、のちの直子の運命を知っているから
こそ、冒頭の草原の場面で、直子がワタナベ君に「私の
ことをいつまでも覚えていて」とお願いするシーンは胸が
詰まる。こんなに哀しい場面を私は他の小説に知らない。


2010年11月28日日曜日

Split the Difference

☆☆★★★       森原裕二      2010年

9月に劇場公開もされたMr.Childrenのドキュメントフィルム。今年
の3月から何度かおこなわれた超小規模なライブと、その練習風
景などをバンドに密着して撮っている。どのぐらい小規模かという
と、烏龍舎の社員を30人ぐらいスタジオに招待してライブ、とかそ
ういうレベルで、いくら社員でもうらやましすぎる。

ここでは、ミスチルの楽曲じたいがひとを揺さぶるパワーを持って
いることはあまり考慮せず、あくまでドキュメンタリー映画として観
る。そうしてみると、ドキュメンタリーとしてはごく平凡である。落第
であるといってもいい。特段、撮り方に工夫があるわけでもなく、
ディレクターがメンバーに鋭い質問をして困らすわけでもない。た
だ何時間も素材を撮って、それなりに編集しただけである。だから
クレジットはディレクターよりエディターが上なんだろう。これを劇場
で見せられてもなぁ、と思う。

そして本作を観ると、いかにして最近のミスチルの「ピアノ偏重アレ
ンジ」が出来上がっていくかがわかる。昔の曲、たとえばCROSS
ROADなんかをやる時に、1番をピアノとヴォーカルだけでしっとりと、
2番からバンドアレンジになだれ込んでドラマチックな感じを演出す
る、というパターンが最近のミスチルには非常に多い。はっきり言っ
て多すぎて辟易している。言うまでもなくそれは、小林武史が演奏
に積極的になり始め、ライブアレンジを検討していく上でそういうの
を「いいね」と言っているからなのだが、どうも見る限り、桜井さんも
そういうアレンジを積極的によしとしているようだ。桜井さんからピア
ノバージョンを提案している場面もある。だが、何度聴いても私には
普通のバンドアレンジのほうがずっと良いように思えて仕方がない。
Everything(It's you)をワンコーラスどころかツーコーラスまでピアノ
のみでやられた時にはさすがに頭にきた。それに比べてAnother
Mind、虜、Heavenly Kiss、アンダーシャツのなんとカッコいいことか。

まあしかし、桜井さんがそれでよしとしているなら、これは根が深い。
とうぶんピアノ偏重は治まりそうもない。やれやれ。

                                                            11.22(月)  DVD

2010年11月24日水曜日

トロッコ

☆★★        川口浩史       2010年

ひさびさに観たよ、どうしようもない映画。
一緒に観に行った友達には悪いことをした。
いやぁ、残念な映画だったー。

とにかく出てくるカットのすべてに何の引っ掛かりも無い。
こちらを「ほほう」と思わせてくれるカットもセリフもひとつ
も無く、ただただ凡庸きわまりない陳腐そのもののシーン
が延々と続き、はっきり言ってうんざりだった。

私は尾野真千子という女優に宿命的に惹かれているの
で、この映画も尾野さんが目当てであったのだが、うー
ん、出ない方が良かったかな。
芥川の原作もこんなにひどいんだろうか、そんなはずは
あるまい、読んでみよう、と原作を読む気にさせることが
この映画の唯一の効能かもしれない。










<併映>

Shikasha

☆☆★★★      平林勇     2010年

10分間の短編映画。
荒地で何かを探す男たち、棺おけのような狭い空間で
縄でぐるぐる巻きにされている母子。なにか禍々しい、
不吉なものを画面に現出させることに成功しているん
じゃないだろうか。少なくとも、2時間あった「トロッコ」よ
りもはるかに映画として充実していた。

                            11.13(土)  渋谷シネマアンジェリカ

2010年11月23日火曜日

ケンタとジュンとカヨちゃんの国

☆☆★★       大森立嗣     2010年

ビルの解体屋の下っ端として、日々粉塵にまみれな
がらいわゆる「はつり」に明け暮れていたケンタ(松
田翔太)とジュン(高良健吾)が、ある日静かな狂気
をもってして、解体屋の事務所とイジめられた先輩
(新井浩文)の愛車を思いっきり「解体」し、ナンパし
たブスのカヨちゃん(安藤サクラ)とともに網走まで旅
をするロードムービー。
設定は悪くない、キャスティングもかなりセンス良い、
お膳立てはそろっている、しかし面白くなかった。

なんだか核になるもののない映画、という気がした。
雰囲気と状況だけ。ちゃんとした映画の“体”は成し
ていただけに、残念な感じだった。
良い脚本があれば、傑作を撮れるひとなのかもしれ
ない。
ちなみに麿赤兒の息子である。大森南朋の兄。

                                        11.9(火)  早稲田松竹

2010年11月18日木曜日

息もできない

☆☆☆★★      ヤン・イクチュン     2010年

主人公は暴力を厭わず、金を返さないやつに殴る蹴るは
当たり前という、容赦ない借金取立て屋のチンピラ。見る
からに凶悪なツラがまえをしている。が、実は監督・脚本・
主演のヤン・イクチュンその人らしい。エンドクレジットでも
それは分からず(ハングルだったので)、帰って来てネット
で情報を見ていて驚愕。
そのチンピラだが、彼の家庭は彼が幼いときから荒廃して
いる。そして、同じように崩壊した家庭に身を置き、家では
心休まることがなく、学校にもなじめない一人の少女が、こ
の強面のチンピラと出会い、徐々に心を通わせていく、とい
うお話。

韓国映画というものは表現がストレートで、ベタになってしま
うことを恐れない。という傾向があると思う。本作にも、「おい
ちょっとやめろよ。照れるだろ」と言いたくなるようなベタな表
現が散見。人を殴って稼いだ金で、チンピラが甥っ子にこっ
そりお菓子やらおもちゃを買ってやっている「ほんとは心優し
い男」の描写なんて、邦画だともう恥ずかしくてできない。そ
れを無自覚にやるような映画には、ロクなものはないと思っ
て間違いないが、本作ではそれほど違和感なく観れるのが
不思議である。チンピラが少女の膝の上で思わず泣き出す
シーンなど、けっこうベタに感動する。

ひねくれてるのも好きだが、ストレートなのもたまにはいいな、
という気になった。秀作といって良いと思う。

                                            11.9(火)  早稲田松竹

2010年11月17日水曜日

戦場のピアニスト

☆☆☆★★     ロマン・ポランスキー   2003年

題名から勝手にメロドラマを想像して、たまには甘いのも
いいか、と思って観たのだが、ご存知のように実際は、一
切の甘さを排した徹底的にストイックな2時間半であって、
想像と違い過ぎてしばし茫然となる。

時は第二次大戦、ユダヤ人である主人公一家はドイツ軍
(横柄なドイツ軍!)によってじわじわと住む所を追われ、
ゲットーに閉じ込められ、同胞を殺され、しまいには強制
収容所に向かう列車に乗せられて(おそらくは)全員死ぬ。
ただ一人生き延びた主人公は、知人を頼りながら、逃げ
て、隠れて、また逃げて、延々と逃げ続ける。ピアニスト
だったのは最初だけで、あとはピアノなんかロクに出ても
来ない。隠れ家にはあったが、身を潜めているので弾け
ない。指を乗せて動かすだけで、音を鳴らすことはできな
い。
戦争という運命に押し流され、翻弄され続ける主人公。
戦争が終わり、ピアニストとして劇的に復活をとげた様子
が、ごくあっさりとしか描かれないのも、一貫してて良い。

                                            10.31(日)  BS hi

2010年11月4日木曜日

ハート・ロッカー

☆☆☆★★       キャスリン・ビグロー    2010年

「オーケストラ!」と続けて観ると、冒頭のほんの数分でこれが「別
次元」の映画であることを思い知らされることになった。画面の情
報量と密度がまったく違う。私は瞬く間に緊密な「砂漠の戦争」に
没頭させられ……たかったのだが、いかんせん画面が揺れに揺
れる。ハンディカメラのブレブレ映像で臨場感を出したいのは分か
るが…。揺れまくり、カットを切り返しまくった挙句に、ちょいちょい
インサート映像まであり、「爆弾処理をベランダから見つめる現地
の住民」だの「びっこの猫」だのが1秒ずつぐらい挟まれる。しかも
その画面も揺れる。むしろそっちの方が揺れが激しい。
はい、そうです。すっかり酔って気持ち悪かったです。私は「揺れ」
に弱いのです(宣言)。「A」も「A2」(森達也 監督)も「マラドーナ」
(E.クストリッツァ 監督)も、漏れなく気分が悪くなりました。

しかしそれでも、この映画は面白かった。ときどき目を閉じて休憩
しながらの鑑賞でもじゅうぶん戦場のひりひりする感じは伝わって
きたので、あなたがずっと目を開けていられるなら、もっと面白い…
かもしれない。ドキュメンタリー風の劇映画というのは、いかに「あ
ざとい」「都合がいい」と思わせないかが勝負だろうが、その辺は
かなり巧かったと思う。いかにも「アメリカ映画」している箇所も散
見されて、そういうのはもう飽きたなあ、とは思ったが。

                                    10.23(土)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2010年10月30日土曜日

オン・ザ・ロード

ジャック・ケルアック 著    青山南 訳    河出文庫


読了にずいぶんかかってしまった。
おもしろくなかったわけではないが、あまり熱中できなかった
感じ。すみれ(『スプートニクの恋人』)の愛読書じゃなかった
ら、第3部ぐらいでやめてたかもしれない。

解説で青山南は、ケルアックの魅力は、その語感の鋭さと、
独特の造語の面白さである、という意味のことを書いている。
つまるところ、ケルアックの面白さをそっくりそのまま日本語
に移植するのは無理です、と言ってるようにも聞こえるが、
どうしても翻訳で読めば、個々の語感とか造語とかよりは、
ディーン・モリアーティやサル・パラダイスの「人物そのもの」
とか、路上(ロード)をひた走る「旅そのもの」に目がいってし
まう。そして、人物そのものや旅そのものは、まあ言ってしま
えばそんなに面白いもんでもない。と、思ったのだが、異論
があればお待ちしています。

2010年10月29日金曜日

オーケストラ!

☆☆☆★      ラデュ・ミヘイレアニュ   2010年

なんだかイマイチな100分 + それを全部ぶっ飛ばしてしまう圧巻
の終盤20分、という感じの本作。オーケストラの団員を集める過
程のすべては、最後のチャイコフスキーを盛り上げるためのお
膳立てに過ぎず、制作側も別にそれで構わんさと思っているフシ
さえある。でもそれはいくらなんでもチャイコフスキーに頼り過ぎ
だろう。そういう意味では「もっとがんばりましょう」のハンコを押
したい所だが、いかんせん後味がよかった…。ヴァイオリン・コン
チェルト、良い曲すぎる。私のような忘れっぽい観客は、後味だ
けを頭に留めて劇場をあとにするから、なんだか良い映画だった
ような気がしてしまう。が、決して褒められるような映画じゃなかっ
たぞ、とわずかに残った理性がいう。そんな映画。

「イングロリアス・バスターズ」のショシャーナことメラニー・ロラン
女史が主役級の役で出演している。「バスターズ」の関係者が出
てる、というだけでテンションが上がるのは、ほとんど病気だろうか。

                                    10.23(土)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2010年10月27日水曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN

だいぶ前になってしまったが、札幌でTHE BACK HORN
のライブを観て来た。以下はセットリスト。

  雷電
  ラフレシア
  サニー
  再生
  罠
  カラビンカ
  羽衣
  ワタボウシ
  汚れなき涙
  冬のミルク
  閉ざされた世界
  太陽の仕業
  コバルトブルー
  戦う君よ
  パレード

(アンコール)
  無限の荒野

                      Zepp Sapporo     10/16


開演時、調子にのってステージ中央の前から3列目ぐらいに
居たのだが、スピーカーがこちらを向いてないからなのか、
山田(Vo)の声のバランスが非常に小さく、なんでもっと音上
げねーんだよとイライラしたので、少しずつ上手側に移動。
スピーカーの前まで来ると、だいぶマシになった。それでも
ちょっとヴォーカル小さい気がしたが。

まあそんなのは些細なことで、ライブは快調そのものだった。
いちばん大事なのは山田の「喉の調子」で、これが良ければ
だいたい最高のライブになることは保証される。選曲は、珍し
いところでは「冬のミルク」を中盤にもってきたのと、一昨年の
マニアックヘブン以来の「カラビンカ」をやった。

ライブが終わって会場を出ると、冷たい風の吹きすさぶ札幌。
すすきのに晩飯を食いに行くと、一軒だけ場違いな古本屋が
あり、吸い込まれるように入ってしまった。店主が異様に話好
きな人で、私がじーっと演劇関係の書棚を見ていると、「他じゃ
なかなか見ないようなのがあるでしょう」から始まり、それらの
本の来歴から何からいろいろ聞かされる。たしかに珍しい本が
たくさんあったが、いかんせん高い。買うのは我慢した。

2010年10月15日金曜日

エレニの旅

☆☆☆★      テオ・アンゲロプロス     2005年

このぐらいストーリーの展開がはっきりあると助かる。
が、このストーリーがまた戦争で子どもを失う救いの無い話で、
2時間50分映画を観て結局誰も救われないとなると、さすがに
暗い話が好きな私でも気が滅入る。
果てしなく続く長回しとロングショットは、3作目の鑑賞なので、
もういちいち目くじら立てることもなく、むしろ楽しみである。5分
ぐらいカットを割らないのはもはや当たり前で、これの撮影って
誰か間違えたらカットの最初からやり直しなんだよなぁ、と思う
と「ご苦労さんです」とスタッフを労わりたくもなってくる。

しかし考えてみれば、テレビドラマと映画を隔てるものは何かと
問えば、まず挙がるのは長回しとロングショットの自由度だろう。
それをここまでおおっぴらに「映画でごわす」と行使されるのは
なかなか爽快なことでもあるなぁ、と思いながら観た。

                                                       10.11(月)  BS-2

2010年10月14日木曜日

セルフ・ドキュメンタリー                 映画監督・松江哲明ができるまで

松江哲明 著    河出書房新社

いままさに現役で走っているドキュメンタリー作家のセルフ・ドキュ
メント本。いかに映画に、ドキュメンタリーに関わることになったか。
そして、数ある自作の制作のきっかけや、その時の葛藤なんかが
つづられる。

松江哲明と聞いてもピンと来ないかもしれないが、映画好きならこ
の人が監督もしくは編集した作品を知っていると思う。

監督作(クレジットは「演出・構成」)は
『あんにょんキムチ』
『セキ☆ララ』
『童貞。をプロデュース』
『あんにょん由美香』
『ライブテープ』
他、AVなどが多数。TSUTAYAで借りられるのは『セキ☆ララ』と『あ
んにょん由美香』だけかな。『ライブテープ』は劇場に観に行った。

編集したものになると
『森達也の「ドキュメンタリーは嘘をつく」』
『谷村美月 17歳、京都着』
などなど。これはどちらも買えば観られる。どちらも秀作。

本書では、これらの作品のそもそもの成り立ちから、映画の専門学
校時代から監督が築いてきた多岐にわたる人間関係まで、まさに「
セキ☆ララ」に書いてくれていて、おもしろい。
文章は、まあ及第点といったところ。ブログで書き慣れているからか、
読み易い文章ではある。

2010年10月11日月曜日

オリエント急行殺人事件

☆☆☆        シドニー・ルメット     1974年

なんだか洒脱な洋画が観たい気分だったので、「スティング」
みたいな感じを想像して本作を鑑賞。原作を読んだのは遠
い昔だが、あの犯人は忘れようがないので結末を知ってい
たわけだが、まあ雰囲気とディテイルを楽しもうというわけで。

スマートでインテリジェントなエルキュール・ポアロを想定して
観始めるも、ポアロ役は小太り・猫背で、下卑た笑い方をす
るちっちゃいオッサン(アルバート・フィニー)で、早速出鼻を
くじかれる。えーと、原作でもポアロってあんな人物描写だっ
たんだっけ。とても灰色の脳細胞を持つ天才には見えない
が…。
後半、乗客の取調べから解決にいたる会話劇の進め方は、
さすが「12人の怒れる男」の監督、と思わせてくれる手際の
よさ。雪の中を牽引されるオリエント急行とのカットバックが
おしゃれである。
かなり豪華なオールスターキャストの映画とのこと。残念な
がら私にはイングリッド・バーグマンとショーン・コネリーしか
分からないが。そんなことでも自分はやはり邦画好きなんだ
なと再認識する。だってこの時代の邦画の「オールスターキャ
スト」を謳う映画なら、たぶん8割以上顔と名前を一致させら
れると思う。

                                                          10.9(土)   BS hi

2010年10月10日日曜日

あんにょん由美香

☆☆☆★       松江哲明     2009年

私がブログを愛読する若きドキュメンタリー作家の2009年の
近作。TSUTAYAで借りることができる。2005年に急逝したAV
女優・林由美香の短い生涯を、1本のピンク映画を軸に、湿っ
ぽくなく、カラリとたどったドキュメンタリー。
そのピンク映画というのが、なぜか日韓合作で制作された「東
京の人妻 純子」というそれはもうムチャクチャな代物で、いく
つも場面が引用されるが、爆笑するしかないひどさである。

「由美香さんはなぜこの映画に出たのだろう」という問いを真
ん中に据え、関係者をたどりたどって韓国にまで飛んでしまう、
わりとフェイクドキュメンタリーの要素も含んでいるだろう本作。
だが、林由美香にゆかりの深かった人間たち(カンパニー松
尾、いまおかしんじ、平野勝之など)へのインタビューで、林由
美香という人物像をくっきりと浮かび上がらせていくのはドキュ
メンタリーならでは。
あまりこういう映画ってないので、新鮮である。

                                                       10.9(土)   DVD

2010年10月8日金曜日

最近の愛聴盤

「アサイラム」 THE BACK HORN
彼らの爆音と叫びには飽きがこない。非常に稀有なバンドだと思う。
新作もなかなか良い。ライブが楽しみだ。札幌まで聴きに行く。

「乱暴と待機」 相対性理論と大谷能生
レンタルを待ってるといつになるか分かったもんじゃないので、
買ってしまった。表題曲はまあまあ良いが、エレクトロな感じに
やくしまるの声を乗せるのは、新しいようで新しくない。
あの90年代風のバンドサウンドに乗せるから新しく響くんだと思う。
だからカップリングの「Summer Of Nowhere」にはあまり感心しない。

「音楽図鑑」 坂本龍一
TIBETAN DANCEが流れてくると毎回わくわくする。
聴けば聴くほど味が出るような、さすがの名盤。

「04」 坂本龍一
車でいつもかけている。何周しても取り替える気にならない。
聞き流すにはもったいないが、心地よく運転できる。






2010年10月3日日曜日

俺たちに明日はないッス

☆☆☆★★   タナダユキ   2008年

愛すべき青春映画。ちょっとざらざらした画質が、
何ごとにも粗野でガサツな高校生を映すのにちょ
うどいい感じで、非常に心地よい。冒頭20分は完
璧といっていい出来で、シビれた。まあ徐々に慣
れて落ち着いてしまうのだが。シビれさせ続ける
のは、本当に難しい。
主役の柄本時生は、素でやってるのか演技して
るのかよく分からない例の無表情で、見事に青春
の痛々しさを観ているこちらに照射してくるが、観
てて恥ずかしくなったり、いたたまれなくなったりす
ることが無いのが素晴らしい。柄本時生の喫煙シ
ーンをこれでもかと入れてくるのがおもしろい。
安藤サクラも相変わらずの「怪演」で、この事から
も分かるように、「正しい二世俳優」だけを使うタナ
ダさんの選球眼にうなるしかない。「峯」を演じた遠
藤雄弥も良かった。彼はどこかで見たことがあると
思っていたら、「のだめ」で、千秋を勝手にライバル
視している指揮の大河内くんを演じてる奴だった。
そういえばそうだ。

                                                 9.29(水)   DVD

2010年9月29日水曜日

永遠と一日

☆☆☆     テオ・アンゲロプロス   1998年

岩波ホールが似合う映画。『霧の中の風景』からは10年
経っているが、まあ良きにつけ悪しきにつけ、相変わら
ず、である。
興味を惹かれるのは、まずは極端な長回し。今回カット
の切れ目を意識しながら観ていると、その「割らなさ」と
いったら、意地になっているとしか思えない。長回しは好
きだし、たしかにアンゲロプロスは巧いが、ほとんど全て
のカットがそうなのはどうなんだろう。
そして、長回しに次ぐ長回しの合間に、すっと異物をまぎ
れこませて印象的なカットにしてしまうのが、この人のや
り方のようだ。主人公の乗るバスに三重奏の楽団が乗り
込んできたり、豪雪の国境地帯(こんどはトルコとの)の
金網にたくさんの人が貼りついていたり、子どもが妙に
厳粛な詩を口走ったり……と書いていていま気が付いた
が、「国境」「バス」「子ども」「詩」って『霧の中の風景』と
まったく一緒やん!

今回はタイトルが良い。相変わらずキャッチーでは全然な
いが、映画を観るとこの「永遠と一日」という言葉がけっこ
う染みる。

                                                      9.27(月)   BS-2

2010年9月28日火曜日

霧の中の風景

☆☆★★★     テオ・アンゲロプロス    1988年

「文化人」が好みそうな映画。皮肉な意味も多少こめて。
「叙情的」というのか何と言うのか。意味ありげな間、意味あり
げなロングショット、意味ありげな引用。そして象徴として語り
やすそうなオブジェ。曰く、国際急行列車、古いバス、石像の
手、雪、大木など。

幼い姉と弟が、ドイツに居るというまだ見ぬ父親をさがして、
ギリシアから国際急行に乗って旅する、れっきとしたロードム
ービーである。こないだロードムービーが好きだと言ったばか
りだが、これは今までに観てきたロードムービーとはかなり趣
きが異なる。「静謐」なロードムービーといったら良いか。
アンゲロプロスがとても特異な映画的空間を創り出しているの
は確かなのだけれど、それが心地よいかといえば、全面肯定
しかねるところである。
しかし、あのどうしようもないタルコフスキー(このブログでは完
全に悪役だな)と違って、深く焼きつくような印象的なシーンも
いくつかあった。そのシーンについては全面肯定したい。とく
に、国境近くの砂浜で青年と女の子がロックに合わせて踊ろう
とするシーンは、まぎれもなく美しいシーンであった。

                                                            9.25(土)   BS-2

2010年9月26日日曜日

モル

☆☆☆          タナダユキ       2002年

タナダユキ監督のデビュー作であり、主演作。ばっちり
ヒロインを演じている。他の役者の素人っぷりは見たこ
とがないほどで、映像も音も安っぽい中で、ひとりタナダ
ユキの可愛さと、そこそこできる演技がひたすら際立つ。
けれどももちろんそれだけではPFFのグランプリは獲れ
ない。
本作は、生理になると飛び降りようとしている自殺者と
目が合ってしまう女の子が主人公で、ところどころに秀
逸なギャグをはさみつつ、最後はなかば強引にタイトル
の「モルモット」でオチをつけるという、いかにも才能が
ありそうなのが分かる感じの映画。ちゃんと予算をつけ
れば面白いものを撮るんじゃないかという気が俺でもす
る。まず可愛いし、ね、タナダさん。

                                                9.23(木)   DVD

2010年9月22日水曜日

続・男はつらいよ

☆☆☆★★         山田洋次  1969年

「男はつらいよ」の2作目。当たり前なんだが、さくらの子ども
の満男はまだ生まれたてである。そして寅さんのキャラもそ
んなに固まっていない。ヤクザものの雰囲気を濃く残してい
るし、その割に本作ではよく泣く。実の母親(ミヤコ蝶々)に
会っては泣き、とらやに帰ってからも泣き、女(佐藤オリエ)
にフラれては泣き、とやけにメソメソしている。おいちゃんお
ばちゃんも、久々に帰って来た寅次郎に「寅さん」と呼びか
ける場面があり、まだまだ遠慮がある。
まあそんなことは別にどうでもよくて、初期らしい密度の濃い
寅さんであり、観ているだけで幸せな気分になる。椅子によ
りかかって倒し、照れ笑いをしながら障子にもたれかかって
そのままスライドして庭に落ちる、というドタバタの名人芸も
見れる。
役者もなかなか豪華で、ギラギラしている山崎努と、黒澤映
画の超常連・東野英治郎の登場がうれしい。そして何といっ
ても倍賞千恵子の可愛さは異常。キム・ヨナは、かの国では
「国民の妹」と呼ばれているそうだが、元祖・国民の妹は断然
こちらである。

                                           9.19(日)   DVD

2010年9月20日月曜日

あの夏、いちばん静かな海。

☆☆☆★★★          北野武  1991年

近くの車で5分のTSUTAYAには置いておらず、近いゲオにも
なく、やむなく遠い方のゲオでようやく発見。即ゲオに入会し、
借りて帰って、すぐに観た。そんなことをしてる間にこの作品
への期待が結構高まってしまっていたのだが、そんなものは
やすやすと跳び越えていくような、素晴らしい傑作だった。こ
の映画に「あの夏、いちばん静かな海。」と名付けたたけしに
震えた。
聴覚障害の主人公が、壊れたボードを拾ってサーフィンに夢
中になるだけの話。しかも夢中になりすぎて最後死ぬ。なの
になぜこんなに幸福に満ち足りた気分で画面を見続けていら
れるのか、細かく分析していけば理由はわかるのかもしれな
いが、「理由はわからない」でいい気がする。セリフの少なさ
は異常なほどで、タルコフスキー並だが、あちらが20分も耐え
られず眠くなるのに対して、本作は100分で終わるのが惜しい。

「その男~」「3-4x10月」、本作、ときて「ソナチネ」である。
ほんとにどうかしてる。

                                                        9.18(土)  DVD

2010年9月16日木曜日

夏至

☆☆☆     トラン・アン・ユン  2000年

「ノルウェイの森」の予習ということで、借りてきた。

なんだか摑みどころのない映画だった。
ハノイに暮らす家族、とくに三姉妹を中心に据えて話は
ゆっくりと進む。肌と髪がたいへんに美しい三姉妹で、
独特のライティングによるアジアな感じの映像美と相まっ
て、姉妹が髪を洗っているシーンなんていうのは、特別
何も起きないが艶めかしい。
映像は良い感じなのだが、いかんせん話がよくわから
ん&つまらん。淡々とするにも程があるんじゃないか。
まあ、でもあの村上先生が認めた監督であることだし、
もう1本観てから判断することにしよう。

それほど感心しなかったこの映画だが、私の音楽ライ
フにはけっこうな影響を与えた。兄妹が朝「目覚める」
というシーンが何度も反復されるのだけれど、その時
になんか良い曲が流れてるな、と思ったら、ルー・リー
ドの曲であった。そこで、実にひさしぶりにヴェルヴェッ
ト・アンダーグラウンドのMDを引っ張り出してきて、昔
は何がすごいのかさっぱり分からなかった例のウォー
ホルのバナナのジャケットのアルバムを聴いたら、す
こぶるカッコいいではないか。
今日に至るまで毎日バナナのアルバムを聴いている。

                                             9.11(土)   DVD

2010年9月14日火曜日

ナチュラル・ボーン・キラーズ

☆☆☆        オリバー・ストーン   1994年

名作、と言われるけど私はいまひとつ肌に合わなかった「俺たちに
明日はない」を、より残酷に、よりサイケデリックに、より大げさにし
た上でそれを一度ズタズタに切り刻み、色んな映像を混ぜ合わせ
てぐちゃぐちゃのまま仕上げたような作品。自分はどうも、カップル
が道行く人を殺しながら逃避行するのがカッコいいと思えず、全然
ノレなかった。刑務所に入ってから、ちょっと面白くなってきたと思っ
たが、インチキタレントのインタビューのくだりが始まると、もうダメ
だった。サブリミナル的にインサートされる各種のイメージも、なん
だかだんだんうるさくなってくる。
脚本にタランティーノ先生が参加していて、なるほどそれっぽい話
だが、先生の監督作には到底及ばず。観ている最中から、「レザ
ボア・ドッグス」が観たくなって困った。

                                                           9.10(金)  Blu-ray

2010年9月11日土曜日

夏の朝の成層圏

池澤夏樹 著    中公文庫


池澤夏樹のデビュー作、とのこと。
実はよく知らないまま、同期が貸してくれたので読んだ。
独り暮らしにしては立派な5段組の彼の本棚を前に、「何か貸せ」と言っ
たら、池澤夏樹を偏愛する彼が(たぶんテキトーに)これを選んだ。
マグロ漁船を取材中に船から落ちた新聞記者が、無人島に流れ着いて、
そのへんの椰子の実とかバナナとかでひとまず生活する、という話で、
現代の文明社会に生きるわれわれが一度はやってみたい(ですよね?)
生活が描かれる。文明から隔絶された所で生活してみたい、という漠然
とした憧れを刺激されて、読んでいて楽しかった。厄介な虫とか猛獣も
居ない南の島ということなので、なおさらである。
会話する相手がいないため、地の文がずーっと続くが、なかなか文章が
巧い。デビュー作にして、たいしたものだと思う。
芥川賞をとった「スティル・ライフ」より面白いんじゃないかと思った。

【業務連絡①】

本については、採点はしないことにする。
小説やら評論の採点をするのは難しいし、なんとなく嫌だというのもあ
る。『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』と『1Q84』のどれが一番
高得点ですか、と言われても、とてもじゃないが私には決めかねる。
それに本の場合「最後まで読んだ」ことが「ある程度おもしろかった」
ことを保証している、というのも理由のひとつ。
つまらなくても2時間で勝手に終わる映画と違って、本は読むのにはる
かに時間がかかる上に、内容を頭に入れながら、ページをめくって自分
で先に進めていかなくてはならない。そのぶん、途中で投げ出しやすい
メディアであると考える。読みながら「これつまんねーなー」と思ったわけ
でもないのに、ふっと気付くと「あれまだ途中だったのに、しばらく読んで
ねーな」ということがたまにある。無意識に投げ出しているのである。
そういう場合はブログには上がってこないので、ここに上がった本はまあ
まあ面白かったんだなと思っていただいて構わない。めちゃくちゃおもし
ろかった場合は、そう書く。

2010年9月6日月曜日

菊次郎の夏

☆☆☆★             北野武   1999年

自分がロードムービーに甘いのは自覚している。
ロードムービーっていうだけでなんで面白く見えてしまう
のだろう。
本作も、別に悪口をいうほど悪いわけでは全然ないが、
「気の抜けたビール」ならぬ「気の抜けた『ソナチネ』」
だろう。川原での暇つぶしのシーンで「ソナチネ」を思い
出さないたけしファンは少ないと思うが、たけしはそれを
承知の上でやったのだと思う。「ソナチネ」を超えようと
したのか。まあそれは分からないが、「ソナチネ」には遠
く及ばないのは確か。
しかし、繰り返すが全然悪くないし、たけしのショートコ
ントの連続みたいで面白かった。敢えてツボを挙げるなら、
岸本加世子ってこんなにガラの悪い下町のオバハンの格好
してもけっこう似合うな、という所。豹の顔が入った服で
岸本さんに真面目に演技されたら、笑うしかない。
いやあ、ロードムービーってなんで面白いんだろうな…。
あるいは俺の潜在意識が旅行したがっているのかもしれな
い。

つれづれなるままに、好きなロードムービー…

パリ,テキサス、カナリア、都会のアリス、
リトル・ミス・サンシャイン、ドッペルゲンガー、
モーターサイクルダイアリーズ、
男はつらいよ、もある種のロードムービーかな…

                                                        9.5(日) DVD


2010年9月5日日曜日

ブギーナイツ

☆☆☆        ポール・トーマス・アンダーソン   1997年


ひさびさに洋画が観たくなって借りてきた。
Paul Thomas Anderson(略してPTA)が今までに撮った5作の
うちの1本。寡作だが、大長篇が多いのがこの人の特徴。まあ
寡作といってもまだ40歳。もうすでに巨匠の感があるが。

本作は、類まれな巨根の持ち主である主人公の青年が、ポル
ノ映画界の巨匠にその才能(まあ一種の)を見出され、大成
功して栄華をきわめ、調子に乗り、思い上がってドラッグに
溺れ、転落して地に堕ちていく様を、ポルノ界の風変わりな
人物たちと80年代のヒット曲でいろどった一大群像劇。
期待して観たが、評点はあまりふるわず。理由は途中で眠く
なったから。たまに恐ろしく長い長回しが出てきてハッとす
るが、ストーリーの流れにどうも新しさが感じられなかった。
ただ、27歳でこれを撮ったPTAに才能があるというのは間違
いないだろうと思いながら観ていた。私は本作と、一番新し
い「There will be blood」を観ただけなので、残り3作ある。
楽しみはまだ残っているということだ。

                                                               9.3(金) DVD

2010年9月1日水曜日

借りぐらしのアリエッティ

☆☆☆★            米林宏昌  2010年

なかなか良かったよ。うん。
映画より先に、NHKのドキュメンタリーを見てしまい、
わずか4秒のカットにも30枚以上の絵が使われている
こととか、マロさんの年末年始も返上の終わらない苦
しみをたっぷり見た後で「なかなかだったよ」とは、
本人に面と向かってはとても言えないが、ここはブロ
グなのでしょうがない。
この「お話」を成立させるためには、アリエッティが
身の危険をかえりみずに恋してしまうほどの人間的魅
力が、翔くんにあるかということが大事だが、そのへ
んはちょっと厳しかった。単なる「素直な子」だよな、
あれじゃあ。

8.29(日)  ワーナーマイカルシネマズ釧路

FRIED DRAGON FISH

☆☆★★             岩井俊二   1996年

高校生のとき以来の再見。当時は面白く思ったように記憶していたが、
今観るとどこが面白かったのかよく分からない。
画面は安っぽいし、演出もうまいとは言い難く、単調だと思った。二十歳
の浅野忠信の放つ存在感だけがかろうじて画面を支えている。
岩井俊二は高校のときに熱中して、アホみたいに観た。ひととおり全部
観たと思う。そのときは何といっても「リリィ・シュシュのすべて」が1番好き
で4回は観たが、熱が冷めた数年後に観てみるともうあまり感心しなかっ
た。観返してもちゃんと面白かったのは「Love Letter」「花とアリス」「スワ
ロウテイル」ぐらいか。「undo」とか、もう一回観てみたい気はする。

                             8.28 (土) DVD

2010年8月30日月曜日

3-4×10月

☆☆☆★★             北野武   1990年

たけしの監督2作目であり、これまた秀作。
草野球チームに属する主人公(柳ユーレイ)が、勤務先のガソリ
ンスタンドでヤクザに脅かされる、というストーリーはあれど、
そんなのは別に重要ではない。目新しい話の筋でもないし、セリ
フは極端に少ないし、有名な役者が出ているわけでもない、なの
になぜこんな面白いのか、と不思議がっているうちに終わってし
まうような映画。
たけしは中盤の沖縄のシーンになってようやく登場。そこから映
画の崩壊と狂気がグレードアップする感がある。女の頭をハタき
続けるたけしが怖い&カッコいい。
若きトヨエツのヤクザと、同じく相当に若い石田ゆり子が秀逸。

8.19 (木) DVD

2010年8月28日土曜日

SHADY GROVE

☆☆☆★★             青山真治   1999年

私は続けて観たので知っているが、「ソナチネ」と「SHADY GROVE」
の共通点を挙げられる人はそうは居ないだろう。
正解は「どちらも矢島健一が出ている」である。そうだっけ?と思った人
は確認してみて欲しい。
どうでもいいことだが、本作を観ながら、「この人電車で旅をするのが仕
事の関口知宏に似てるなー。瓜二つとはこのことだ」と思ってたら、ほ
んとに関口知宏が出ているだけだった。俳優なんだね。
その関口と話すときのヒロイン(ストーカー風)と、ARATAと話すときの
ヒロイン(物静かで繊細なひと)が、まったく別人格のように描かれてい
るのに興味を覚える。他人のことなんて、見ようによっては両極端にも
なり得るもんさ、と言いたいのかもしれない。
                             8.18 (水) DVD



ソナチネ

☆☆☆☆              北野武   1993年


東京のヤクザ達が沖縄でやることもなくただ暇をもて余す、という
内容にまず驚く。しかし画面の中のヤクザ達とは逆に、観ている
こちらは一瞬たりとも退屈しない。傑作というに相応しい鮮やかな
ショットの連続にただただ茫然とする。
修学旅行のようにバスに詰め込まれて移動するヤクザ。ロシアン
ルーレット。砂浜での相撲。人間トントン相撲。勝村政信は沖縄の
あんちゃんにしか見えない。そして、巧くやらないとわざとらしくな
りそうな女(国舞亜矢)の登場とヤクザ達との交流。だがめちゃく
ちゃ巧いので気にならない。


                             8.17 (火) DVD





2010年8月23日月曜日

はじめに

このブログの性質については、これからおいおい説明を加えて
いくことになろうと思うが、まず簡単に紹介するならば、これは
私が観た映画、読んだ本、聴いている音楽、そしてたまには鑑
賞した芝居や視聴したテレビ番組を、ただ羅列するだけのブロ
グになると思う。そこに感想が付けば良い方だ、と考えていた
だきたい。

ただ、映画については、必ず点数を付けることにする。
点数の付け方は、私の愛読するモルモット吉田さんのブログに
準ずる。もっとも、これはもともと、最近亡くなった映画評論家の
双葉十三郎さんの採点方式らしいが。
その採点方式は、☆が20点、★が5点として表示する。
たとえば「☆☆☆★★」だと何点になるか、お分かりか。
……そう、「70点」である。ちなみに70点は、なかなかの秀作を
意味すると思っていただいて良い。80点(☆☆☆☆)以上が出
ることは、年に何度も無い。
なぜそんな点数設定なのかと訊かれても困る。モルモット吉田
さんがそうしてるから、としか答えようがないから。
60点(☆☆☆)は「フツーの出来」で、良くも悪くもないぐらい。
それ以下だとつまらなかった、となる。

前置きはこれぐらいにしておこう。