2016年9月27日火曜日

君の名は 第一部


☆☆☆      大庭秀雄      1953年

いいかげん昔に録画した山田洋次セレクションで(!)、
未見であった。ついでなので、本家の「君の名は」の方
も観ておくことに。

もとはラジオドラマで、放送時には女風呂からひとが居
なくなったというほど絶大な人気だったという。
岸恵子と佐田啓二。空襲で逃げ惑うなか出会い、助け
合った二人は、半年後の同じ日に、銀座の数寄屋橋で
再会することを約束する。しかし、襲い来るさまざまな
外的要因(ロマンティックに換言すれば「運命」ともいう)
に翻弄され、すれ違うばかりの二人。互いの気持ちを
知る前も、知ってからも、徹底的にすれ違いまくる。こ
の非情な運命のいたずら、鉄板の嫁いびり、無理解な
夫、そして健気に耐えるヒロイン像に、世のご婦人がた
は紅涙をしぼられたというわけであろう。

まあ…今観ても、それほどおもしろいわけではない。

                                            9.22(木) BSプレミアム


2016年9月24日土曜日

君の名は。


☆☆☆★     新海誠     2016年

絵はほんとうにキレイで、脈動する東京の風景などは、
ずっと眺めていたい。バンプもどきのラッドがその絵に
よく溶け合って、ある種の高揚感がある。

私は新海監督のことはほとんど何も知らず、こないだの
「SWITCHインタビュー」で得た情報がすべてである。
「すれ違い」を描くので有名というだけあって、たしかに
後半などは主役の男女が怒濤のすれ違いっぷり。宙づ
り感がずっと続くわけだが、みんなはそれを「切なさ」と
名付けて感じ入っているというわけだろうか。私にはた
だの「宙づり感」でしかなかったが。
時空を超えたすれ違い、となると「時かけ」に似てくるの
は必然である。時空を超えるためには仕方ないが、よく
意識を失う高校生であった。

大ヒットしているのは結構なことで、水を差すつもりはさ
らさらないけれど、ひとつ不満があるとするなら、言葉が
ない、という印象をぬぐえない。展開はよく考えられてい
るものの、心に引っ掛かるセリフが無かった。
ラスト、三葉が町長を説得する"言葉"が描かれなかった
のは単なる怠慢だと思う。

                                                 9.21(水) 新宿バルト9


2016年9月22日木曜日

オーバー・フェンス


☆☆☆★★★    山下敦弘    2016年

函館の職業訓練校という設定が絶妙である。一度は挫折を
味わい、人生の再出発をはかるひとたちが集い、技能の習
得をめざす。経歴もさまざまなら、技能習得への意欲もさま
ざま。教官は若造のくせに居丈高。このアンバランスさが、
歪みとなって弱い者を追い詰めていく。

オダギリジョーは将来に展望をもてないまま、無気力にから
揚げ弁当とスーパードライ2缶を、テレビも何もない簡素きわ
まりない部屋で空ける。オダギリジョーほど「ほんとにそうい
うひとにしか見えない」と思わせてくれる俳優はいないが、
今回も期待を裏切らない。

連れて行かれたキャバクラで、サトシという名前の女(蒼井
優)に出会うことで、少しづつ変わっていくというのが物語の
おおまかな筋だが、このサトシのエキセントリックさがすごい。
いくら可愛くても、実生活ではいっさい関わりたくない人物で
ある。

佐藤泰志の小説を映画化した「海炭市叙景」「そこのみにて
光輝く」とともに、"函館三部作"と呼ばせたいらしい。「海炭
市叙景」(監督:熊切和嘉)も秀作だった。

                                                         9.17(土) テアトル新宿


2016年9月17日土曜日

桐島、部活やめるってよ


☆☆☆★★★     吉田大八    2012年

劇場で観て以来の再見。

清新な青春映画という印象は変わらないが、意外とオーソ
ドックスなつくりだったんだな、と思った。
金曜日、金曜日、金曜日…とループする構造と、それを飽
きないよう処理する技巧の方に、最初観たときは目を奪わ
れていた。しかし、違う視点でのループなのだから違う方向
から撮ったカットを使うのは当然といえば当然だし、撮り方
もそれほど奇抜なことはしていない。

あと公開時、ほんとの高校生はあんな話もあんな話し方も
しない、という評を目にしたが、私はけっこう近いものがあ
るのでは、と感じていた。地方と東京では高校生の生態に
もずいぶん違いがあるだろう。私の高校は田舎中の田舎
にあったので、どちらかといえば東出くんを「今度の日曜の
試合」に誘ってくる野球部のキャプテンのような人物のほう
が親和性があるけれど、私のまわりの数少ない東京出身
のひとを見ていてもそう思う。

初見のときから、清水くるみと橋本愛が二の腕を触りあう
シーンがとても印象に残っていて、別にシーンとしてはどう
ってことないシーンなのだが、こういう繊細なシーンを作れ
るのはやっぱりたいしたものだと思う。あと橋本愛が松岡
茉優をビンタするシーンの爽快感はすごい。

画像は清水くるみ、橋本愛、後ろ姿だが松岡茉優。いま思
えば豪華共演。

                                                     9.8(木) BSプレミアム


2016年9月12日月曜日

冬冬の夏休み


☆☆☆★★      侯孝賢     1984年

冬冬(トントン)と婷婷(ティンティン)の兄妹は、夏休みを
田舎で開業医をしている祖父の家ですごすことになる。
母が入院し、父は看病でつきっきりなのである。

映画は、兄妹のひと夏を切り取ったものである。台湾の
田舎の風景がすばらしいし、都会っこである冬冬の手足
がひょろ長いのがなんとなくおかしい。

後半、「寒子」という知的障害のある女が登場し、ひとつ
物語に芯を与えている。日本でリメイクするなら、この役
は市川実和子がやるべきである。いや、ただ似てるって
いうだけなんだが…。

                                              8.27(土) 早稲田松竹


2016年9月9日金曜日

風櫃の少年


☆☆☆★      侯孝賢     1983年

早稲田松竹で、侯孝賢の2本立て。
こないだ特集したばかり、という気もするが。しかし、観
に行く人間がいるから特集も組まれるのである。今回も
ほぼ満員だった。

台湾、澎湖諸島にある小村の名が風櫃。
そこに暮らす悪ガキたちの他愛ない日常が活写される。

後半は舞台をスイッチ。
地元にいられなくなった悪ガキたちは台南の都市・高雄
に居をうつし、働き始める。そこで何が起こっていたのか、
詳細に叙述する能力を私は有していないが、なんか「眺
めてるだけでいい」という感じなんである。あの2階建て
のアパートがいいよね。よく見つけてきた。

                                                8.27(土) 早稲田松竹


2016年9月7日水曜日

カンバセーション…盗聴…


☆☆☆★★★   フランシス・F・コッポラ   1974年

盗聴を生業にしている男(ジーン・ハックマン)。
広場でたわいもない会話をかわす男女から、じんわりとズーム
バックして広場の全景が見えるオープニングからもう映画に引
き込まれてしまう。
はじめは明瞭だったふたりの会話に、ときどき奇妙なノイズが
のったり、途切れて聞き取れない部分があることで、どうやら今
聞いているこの音声が、複数の地点からさまざまな技術を使っ
て収音されたものだということがわかってくる。
この冒頭の男女の盗聴が、単なる主人公の職業紹介ではなく、
最後まで効いてくるというのが巧い。

映画全体をとおして、抑制的なピアノの音楽が絶妙にクールで
ある。カッコいい。またこれがラストシーンに効いてくるのである。
巧い。

ハンサムで有能で冷酷な秘書。わたしは『羊をめぐる冒険』に出
て来る秘書を勝手に思い出した。こっちの秘書は猫の"いわし"
を預かってくれそうもないが。

                                                          8.25(木) BSプレミアム


2016年9月4日日曜日

ジョニーは戦場へ行った


☆☆☆★    ダルトン・トランボ    1973年

原作・脚本・監督がダルトン・トランボ。
このフィルムをいま放送するのは偶然ではなく計らいなの
だろう。『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』が公開中
である。「これで予習しなさいよ」ということだ。すばらしい
計らい。勉強させていただきます。

主人公は"意識のある肉塊"として野戦病院のベッドに横
たわっている。第一次大戦の爆撃で、両手両足、そして顔
の組織の大部分をも失ったのである。生殖器だけが無事
という設定は、のちの『ガープの世界』を想起させる。

主人公の、声にならないモノローグと、回想とで物語は進
んでいく。現在のシーンはモノクロ、回想はカラー。『初恋
のきた道』といっしょだ。

                                                   8.24(水) BSプレミアム


2016年9月3日土曜日

盛夏のテレビ②


「ある文民警察官の死 ~カンボジアPKO 23年目の告白~(Nスペ)

1993年、カンボジア。タイとの国境近くの村、アンピル。
「はっきり言って危険だよ」という場所に仕事とはいえ赴かな
ければならない心境とはいかばかりか。

「文民警察官」という言葉は恥ずかしながら初めて聞いた。
「文民」とは「非武装」のことなのか。
初の海外派遣で、一挙手一投足が注目されていた自衛隊
とは対照的だった文民警察官の派遣。「あとはUNTACの
いうこと聞いて、自分の身は自分で守って、任務をしっかり
遂行してください」という感じで、ポル・ポト派の跋扈する異
国の地に放り出された、その心細さ、恐怖が、当時の日記
などから直に伝わってくる。思い出すのは『地獄の黙示録』。
番組ではカーツ大佐…はいなかったが、当時アンピルの
近くでテロ活動を行なっていたポル・ポト派の准将にインタ
ビューしていた。日本の文民警察官が殉職した襲撃事件に
ついては、「ポル・ポト派が疑われても仕方がない状況だ」
という言葉までは引き出せたが、それ以上はすべて話をは
ぐらかして何も意味のあることは言わなかったという。


「村人は満州へ送られた ~“国策”71年目の真実~(Nスペ)

満洲開拓が"国策"となり、是が非でも、何を犠牲にしてでも
「推し進めなければならないもの」に変化していく。各村から
何人出せるかがノルマとして課されたも同然で、多く村人を
差し出せばそのぶん補助金がもらえる。今も昔もやり方は
いっしょである。

集団自決で幼い子どもに手をかけ、自身は大けがを負いな
がらも生き延びた人物がインタビューに答える。その苦悩の
深さは、とても察することなどできないが…。

アップになった当時の日記や文章にも「満洲」とあるのに、
番組タイトルは「満州」の表記。「八重洲」の字なんだから、
禁じられた文字でもあるまい。なぜ「洲」を使わないのか。


「一番電車が走った」(ドラマ、2015年)

去年のドラマですが。最近、観ました。

原爆投下の3日後に一部区間で運転を再開した路面電車、
その運転手の女の子と良識ある役人の話。「あまちゃん」
もそうだが、ひとは運転再開にまつわるドラマが好きなの
だろうか。たしかに大吉さんの心意気には感動したものだ。

川で行水する黒島結菜がラストシーンとは意外であった。
ドキッとするラストだ。"エラン・ヴィタール"と呼びたい少女
の瑞々しい身体はそれ自体まさに「生」を体現している、
などと書くともっともらしいかもしれないが、要するに目が
釘付けだった。