2021年12月30日木曜日

エッシャー通りの赤いポスト

 
☆☆☆★         園子温   2021年

出演しているのはほとんどがワークショップ
で集まった若者たちということで、知らない
ひとたちばかりである。
新進気鋭の監督の新作『仮面』に出演するた
めにオーディションに参加した若者たちのそ
れぞれのエピソードが描かれ、それが束ねら
れた末に、あるワンシーンですべてが爆発す
るという構成になっている。最後はいつもの
園子温で、みんなが血管ブチ切れそうになり
ながら疾走し、絶叫し、殴り殴られで、ひさ
びさに観たわーこの感じ、と思うこと請け合
いである。

                        12.26(日) ユーロスペース










今年の映画はこれにて終了。113本でした。
数少ない読者のみなさま、1年間ありがとう
ございました。

2021年12月28日火曜日

偶然と想像


☆☆☆★★★  濱口竜介  2021年

約40分の短篇が3つで上映時間は120分。
あまり見たことのない形式なので、どう見たら
いいか戸惑ったりするのかなと思いきや、ずっ
と魅了されっぱなしの120分。脚本、演技、演
出、すべてがとんでもない精度で計算されてい
る感じ。まあでも今回は脚本がすごかった。各
話のあいだをシューマンの音楽でつなぐぐらい
で、劇中に音楽はほとんど付いていない。舞台
のようだ、と感じる場面もあったけど、やはり
紛れもなくこれは映画である。

「偶然」をテーマにした短篇集ということで、
インタビューではエリック・ロメールの影響
を語っている。でもロメールなんかより全然
おもしろいような…。なんつって。

2021年に傑作を2つも世に放った濱口竜介。
これから長いお付き合いになりそうである。

                12.24(金) Bunkamura ル・シネマ




2021年12月26日日曜日

GUNDA/グンダ

 
☆☆☆★ ヴィクトル・コサコフスキー 2021年

文春の映画欄でほぼ満点を獲得するなど、え
らく評判がいいので観に行ってみた。

グンダという母ブタを追ったドキュメンタリ
ーである。グンダの寝息から映画は始まり、
そういえばブタの寝息は初めて聴いたな、な
どと思っていると、ぽろぽろと10匹ほど子ブ
タたちが現れて母ブタの乳を争うように吸い
始める。

ま、結果的にはここがいちばん感動的で、出
オチと言えば言えなくもない。直球といえば
直球。いろんな撮影手法は駆使しているよう
だが、なんだか真っ当すぎてどうも…という
のが正直な感想。唯一ひねりがあるといえば、
全篇モノクロにしていることぐらいか。

あと一部、どうも後付けっぽい音があるなと
思ったら(鶏のはばたきだったか)、Foley
のクレジットがあるのを発見。まあ、ドロー
ンはうるさいから音だけ差し替えるのは仕方
ないと思うけれど、音だけ別録りじゃなくて
Foleyでやったりもしてるんですね。

     12.19(日) ヒューマントラストシネマ渋谷




2021年12月24日金曜日

ワン・プラス・ワン

 
☆☆☆  ジャン=リュック・ゴダール 1968年

ゴダールとローリング・ストーンズというのが
なんだか結びつかなくて、どういう内容なのか
気になってはいた。なぜ今またリバイバル上映
しているのかは理由は知らないが、やってるな
ら観に行くか、ということで。

ローリング・ストーンズが、かの有名な「悪魔
を憐れむ歌」をレコーディングしている様子を
撮影している。初めはあの特徴的なパーカッシ
ョンが入っておらず、テンポも遅めで、レコー
ディングをリードするミック・ジャガーも明ら
かに演奏に満足していない。そして思えばブラ
イアン・ジョーンズのいるローリング・ストー
ンズというのは初めて映像で観る。ブライアン
はセッションには積極的に参加せず、居心地が
悪そうである。レコーディング・スタジオで当
然のようにみんながタバコを吸いまくっている
のはまさに隔世の感。さらにロケクルーの音声
さんが持っている棹の先に付いているマイクの
デカさにも時代を感じる。

レコーディング風景の合間に、革命にまつわる
文章や、探偵小説みたいなものを読み上げるい
ろんなシチュエーションのショートフィルムめ
いたものが挟み込まれる。これがまったくの意
味不明で、実にゴダール的。

                             12.18(土) 新宿ピカデリー




2021年12月22日水曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN

 
 マニアックヘブン vol.14

 1. ワタボウシ
 2. 魚雷
 3. 孤独な戦場
 4. 路地裏のメビウスリング
 5. さざめくハイウェイ
 6. 情景泥棒 ~時空オデッセイ~
 7. 墓石フィーバー
 8. アカイヤミ
 9. ゆりかご
10. 君を守る
11. ホログラフ
12. ハロー
13. 疾風怒濤
14. 浮世の波
15. 反撃の世代
16. 赤い靴
17. パレード

(Encore)
 1. 天気予報
 2. 希望を鳴らせ
 3. さらば、あの日

              12.5(日) 新木場スタジオコースト


とっても久しぶりにスタンディングのライブ。
足元に☆マークが等間隔に打たれていて、そ
こに立っていなければならない。まあギュウ
ギュウになるよりはずっと良いけども。

内容的にはいつものマニアックヘブン。とは
いえそれが無事に挙行されるだけで御の字と
思わなければ。出だしの3曲、特に"魚雷"~
"孤独な戦場"には胸が熱くなるものがあった。
腐って死ね!と叫ぶ憎悪と絶望の曲から「暗
闇の中 ドアを叩き続けろ」と連呼されると、
なんだか壮大なドラマを観終わったような虚
脱感さえあった。が、あとから思えばそこが
ピークだったかも。出だしを除くと新しめの
曲が多かった印象。

しかしコーストも閉館か。
ま、新木場なんてやたら遠かったからそんな
に悲しくもないけど。でもいろんなライブを
ここで観ましたなー。

ベストアクトは「孤独な戦場」。




2021年12月20日月曜日

黄色いリボン

 
☆☆★★  ジョン・フォード  1949年

西部劇の楽しみ方の一端が見えた気がした。
…なんて書いた直後に心苦しいのだが、こ
の映画、いったいなにがおもしろいのだろ
う。ジョン・ウェインは老い、乗馬の名手
ベン・ジョンソンが活躍する。アパッチは
あいかわらず味方を残酷なやり方で殺し、
若い女性をめぐって恋のさや当てがある。
いつもの西部劇の話、いつもの映像。
私には退屈だった。

                     11.29(月) BSプレミアム




2021年12月17日金曜日

駅馬車


☆☆☆★★  ジョン・フォード  1939年

銀行家、ギャンブラー、ウィスキーの販売
人、アル中の医者、妊婦…。立場の違う強
烈なキャラが馬車に乗り合わせる。アパッ
チの襲撃が予期される危険な旅路であり、
乗客がお互いの利害を超えて一致団結する
ことだけが生き延びる道である。

ドンパチよりも、このクセのあるキャラた
ちの思惑のぶつかり合いこそがこの映画の
おもしろさであって、この映画が西部劇の
名作と言われているのには膝を打つ思いが
する。これまでさんざんジョン・フォード
の映画を観てきてあまりおもしろいとは思
えなかったが、西部劇の楽しみ方の一端が
見えた気がした。

                       11.28(日) BSプレミアム



2021年12月14日火曜日

読書⑮

 
『下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
内田樹 著    講談社文庫

経営者を対象にした講演をもとにしている。
そういう意味でいつものブログ本とは違って
1章が長いというか、じっくりと各章のテー
マについての論考を寄り道もしながら存分に
語っている感じはある。そしてなかなかおも
しろかった。
当日のテーマは「学びからの逃走、労働から
の逃走」だったそう。

第1章の「学びからの逃走」で繰り広げられた
論考が興味深い。最近の子どもはなぜ「わか
らないことがあっても気にしない」のか、な
ぜ自分の非を認めないのか、そしてなぜ「こ
れは何の役に立つんですか?」と質問するの
か。
内田の説明では、家庭内で労働をして対価を
得る、という経験をするよりも前に、おこづ
かいを与えられて「消費主体」として自己を
確立してしまうがゆえに、小学校の教室を、
不快という"貨幣"をやりとりする「等価交換
の場」だと思ってしまう、ということになる。
内田はこれらの論考を苅谷剛彦や諏訪哲二と
いったひとたちの受け売りだと言っているが、
そこで出される「たとえ話」がまぎれもなく
内田樹印なのでついつい読まされてしまうの
である。映画や落語や能のアナロジーを持ち
出してきて多少強引でもねじ伏せるように説
明する。そこがおもしろいところなんですけ
どね。











『雑文集』
村上春樹 著    新潮社

最初に読んだときの記憶では、はじめのうちは
楽しく読んでいたのだけれど、後半はなんだか
いまひとつ身が入らなくて、ちょっと「流し読
み」してしまった覚えがあり、いつかもう一度
しっかりと腰を据えて読み直したいと思ってい
た。何が気に入らなかったのか、今となっては
はっきりしないが、たぶん収録された文章が多
すぎて、前に聞いたことのある話が何度も出て
来るのでいまいち集中できなかったのかもしれ
ない。
しかし丁寧に読むと、どれひとつとしてつまら
ないものはないし「東京の地下のブラック・マ
ジック」のような読みごたえのある力作もある。
日本人のジャズ受容と人種問題のやっかいな関
係についての文章もかなり「読ませる」もので、
村上春樹はこういう込み入った事情をささっと
説明させると、ものすごく解り易くてうまい。
『1Q84』の左翼運動の変遷の説明とか。




2021年12月11日土曜日

【演劇】 ザ・ドクター

 
作・ロバート・アイク 翻訳・小田島恒志
演出・栗山民也

今まさに死を迎えようとしている14歳の少女。
そこに「少女の両親から傍についていてほし
いと頼まれた」というカトリックの神父が現
れるが、担当医のルース(大竹しのぶ)は面
会を許可しない。典礼を授けることを拒絶さ
れたことを問題視した神父は、インターネッ
トや報道機関に事件を発信し、それはやがて
大きな騒動になっていく…。

信仰と医学の問題だけでなく、騒動の拡大に
つれて病院内のパワーゲームも熱を持ち始め、
やがて人種やジェンダーも含んだとても複雑
な糸の絡み合いの様相を呈してくる。
いったいいま何を問われているのか、何がい
ちばんの問題だったのか、劇中でルースも常
に問われ続け、観客にもそれは問われ続ける。

大竹しのぶは常に冷静なエリート医師を好演。
セリフの量は膨大で、ほとんど舞台に出ずっ
ぱりであるが、息切れする様子もない。終演
後のカーテンコールでもニコニコしていた。
まわりの役者も盤石で、なかでもやはり出番
は少ないが益岡徹の存在感が際立つ。良い芝
居だった。

                          11.27(土) PARCO劇場




2021年12月5日日曜日

そして人生はつづく

 
☆☆☆★★ アッバス・キアロスタミ 1992年

イラン北部を襲った大地震により多くの村が
被害を受けた。『友だちのうちはどこ?』を
撮影した村も例外ではなかった。地震発生直
後、キアロスタミは息子を連れて、出演した
子どもたちの無事を確かめるべく車を走らせ
た。

この映画は地震から半年後、そのエピソード
をもとに再構築した劇映画とのことだが、ま
だ撮影地は地震の爪痕も生々しく、村人たち
は瓦礫の片づけなどをしている。被災地で再
現ドラマを撮っているようなもので、映画は
ドキュメンタリーと劇映画のあわいを漂って
いるようである。
馬力のなさそうな小さい車でジグザグの坂道
を登っていくラストシーンが渋い。

                       11.15(月) ユーロスペース




2021年12月1日水曜日

【LIVE!】 でんぱ組.inc


 でんぱ組.inc ワンマンライブ 特別公演「箱庭の掟」

 1. プリンセスでんぱパワー! シャインオン!
 2. 最Ψ最好調!
 3. 玉虫色ホモサピエンス
 4. でんぱーりーナイト
 5. でんぱれーどJAPAN
 6. NEO JAPONISM
 7. 愛♡舞☆ミライ!
 8. とんちんかんちん一休さん
 9. 千秋万歳! 電波一座!
10. おやすみポラリス さよならパラレルワールド
11. アンサンブルは手のひらに
12. Phantom of the truth
13. 秋の葉の原っぱで
14. 待ちぼうけ銀河ステーション
15. キラキラチューン
16. くちづけキボンヌ
17. サクラあっぱれーしょん
18. Future Diver
19. 衝動的S/K/S/D

(Encore)
 1. 好感Daybook♡
 2. いのちのよろこび
 3. キボウノウタ

                         11.13(土) 中野サンプラザ

これまた近年それほど聴いていたわけではな
いが、サンプラザだったので行ってみようか
なと。

思えば2017年の正月にわけも分からず、直前
に数曲を予習しただけでアリーナツアーの幕
張メッセに参戦し、そのステージにおけるパ
ワーと楽曲の複雑怪奇さに圧倒されて、ライ
ブ後に3枚組のベスト盤を買って熱心に聴いた
ものだった。
聴けば聴くほどにヒャダインと玉屋2060%と
いうひとの作る曲の「作りこみ」はすさまじ
く、サビで別の曲になり、大サビでまた別の
曲になるという感じで、"転調"という言葉で
は言い尽くせない。1曲の中に普通のポップ
ソング3曲分ぐらいのメロディが詰め込まれ
て、それがせわしなく展開していく。とって
も忙しいのである。でも聴き込んでメロディ
を覚えてくると、その忙しさが中毒性を帯び
始める。

私はまだ最上もがの在籍した頃までしかちゃ
んと認識していないが、それからメンバーの
入れ替わりが何度かあって、当時のメンバー
でいま残っているのは、りさちーとピンキー
だけ(みりんは産休中)。新メンバーは多す
ぎて覚えられないけど、曲は新旧とりまぜて
やってくれたのでよかった。みんな一生懸命
でよかったが、それにしてもすごい体力だよ。

ひとつ不思議だったのが「サクラあっぱれー
しょん」のイントロで会場がどよめいたのは
何だったのだろうか。
ベストアクトは「NEO JAPONISM」。