2015年12月28日月曜日

母と暮せば


☆☆☆★★        山田洋次      2015年

井上ひさしが「父と暮せば」と対になるように構想していた
という長崎が舞台の「母と暮せば」。遺志を継いで、山田
洋次が実現させたという。ただし題名と、長崎が舞台とい
うこと以外は、山田洋次がオリジナルで作りあげた物語ら
しいよ。

たぶん今年最後の映画になると思うのだが、まさか嗚咽
をこらえながら観ることになろうとは思わなかった。くそう、
泣けたぜ。「父と暮せば」の関係性をひっくり返しただけな
ので、予想を超える展開なんかはひとつもないのだが、
それでも泣けて仕方なかった。やっぱり男は「母子もの」に
本質的に弱いんだろうか、と分析してみたのだが、先に観
た友人にはまったく刺さっておらず、逆にビックリ。あいつ
が冷血なのか、俺が単に涙腺がユルユルになってきてい
るだけなのか……。

ひさしぶりにこんなにウェットな邦画を観たが、なんという
か、いやなウェットさではない。やはり山田洋次のウェット
さなのである。
坂本教授の音楽は映画を邪魔せず、しかし絶妙な和音で
芝居を補強する。さすが。

                                                12.16(水) 新宿ピカデリー


2015年12月18日金曜日

【LIVE!】 レキシ


レキシツアー IKEMAX THEATER

 01. 姫君Shake!
 02. 真田記念日
 03. キャッチミー岡っ引きさん
 04. ベリーダンシング
 05. salt & stone
 06. SHIKIBU
 07. 憲法セブンティーン

 08. Takeda'
 09. アケチノキモチ
 10. 妹子なぅ
 11. ハニワニハ
 12. LOVE弁慶

 13. 年貢 for you
 14. きらきら武士

(Encore)
 01. 狩りから稲作へ

                                                  12.16(水)両国国技館


単独公演を観るのは2回目。
ただ、ライジングサンでは3回観ている。いちばん最初に、
ボヘミアン・ガーデンという小さいステージで"狩りから稲
作へ"を聴いて爆笑したときには、「すげぇ!」と感動はし
たものの、まさか5年後に1万人の会場を爆笑の渦に巻き
込んでいるとは、想像もしなかった。

客層は、30代のOLが多い印象。それもキレイなひとが多
かったように思う。今まで行ったことのあるどのライブとも
異なる客層である。強いていえば、スガシカオに近いか。

まあ池ちゃんはあいかわらずおもしろい。
そしてやはり、曲と演奏がしっかりしていてこそのおもしろ
さなのだ。どの曲にも固有のグルーヴがあり、気持ちいい。
そして「アケチノキモチ」も「ハニワニハ」も、しっとり歌われ
ると、良い曲なんだよな。

ベストアクトは終演後も後を引いた「憲法セブンティーン」に。


2015年12月17日木曜日

初冬の読書②


『NOVEL 11, BOOK 18』
ダーグ・ソールスター 著  村上春樹 訳  中央公論新社

タイトルからしてすでに奇妙だが、中身も相当にヘンである。
ダーグ・ソールスターは、ノルウェイではれっきとした国民的
作家らしいが、本邦にはこの村上春樹の翻訳で初めて紹介
されたとのこと。もちろん元はノルウェイ語なので、英語から
の重訳になる。それじゃあダメなんじゃないかと春樹も悩んだ
らしいが、それでも翻訳してみたいという気持ちがまさったと、
あとがきにある。

段落分けがまったくなく、語り口はずーっと同じ調子で淡々と
変わらない。改行も、読みやすいように春樹が適当に増やし
たが、本来はもっと少ないらしい。

ノルウェイのコングスベルグという街を舞台に、最初はビョー
ン・ハンセンとツーリー・ラッメルスという中年の男女を中心に
話が進む。が、途中で急にツーリーは退場して、ビョーンの息
子のペーテルが登場し、あとはそのまま最後まで。
いったいどういう話なのか、説明することにあまり意味はない
と思う。ただ、ペーテルが登場してからの方がおもしろいので、
途中でやめない方がいいです、というのだけは言っておく。









『本当はこんな歌』
町山智浩 著  アスキー・メディアワークス

「週刊アスキー」に連載されたコラム。
毎回、洋楽の曲をとりあげ、「実はこんなこと歌ってるんですよ」
と解説するという、なかなかありそうでなかったコラムである。特
にアメリカの抱える病理とか社会問題をさりげなく(でもないか)
織り込んだ曲を取り上げているので、いつもの町山さんのコラム
とテイストは一緒である。
もっと知ってる曲が多いと「へぇー」も増幅されただろうが、当方
それほど熱心な洋楽ファンでないため、知ってたのはほんとに
数曲。それでも、ひとつ読んではYouTubeで曲を聴く、という作
業に思わず熱中してしまった。

私の世代だと、エミネムの"Stan"、レイジ・アゲインスト・ザ・マ
シーンの"Sleep Now In the Fire"、エアロスミスの"Walk This
Way"あたりは、洋楽ファンならずとも知っているのでは。
これら3曲も、解説を読むと「へぇー」となること請け合いである。

2015年12月13日日曜日

【LIVE!】 Base Ball Bear


Base Ball Bear Tour 「三十一歳」

 01.「それって、for 誰?」 part.1
 02.そんなに好きじゃなかった
 03.short hair

 04.文化祭の夜
 05.Good bye
 06.不思議な夜
 07.Tabibito In The Dark
 08.レインメーカー
 09.どうしよう
 10.新呼吸

 11.曖してる
 12.青い春、虚無
 13.十字架 You and I
 14.yoakemae
 15.祭りのあと

 (encore)
 01.「それって、for 誰?」 part.2
 02.SHE IS BACK

                                                        12.4(金) 豊洲PIT

豊洲PITは初めて。思ったよりデカい。ZEPP TOKYOよりもひと
まわりデカいような気がした。周りに何もないのはZEPPと一緒。

これが何のツアーなのかいまいち分かってなかったのだが、どう
やらニューアルバム"C2"のツアーだったらしい。ツアーも中盤に
なって、ようやくアルバムが出た、という事のよう。
ファイナルだったので、予習する時間はあった。うん、聴いたよ、
一応。でも"C2"の曲がライブの核になる、というよりは、随所に
ちりばめられてる感じ。まあ、また"C2"のツアーが来春からある
みたいだし。

それにしても小出くんの「べしゃり」が冴え渡った夜だった。おもし
ろい奴だなー。湯浅くんの言葉をいちいち繰り返すのがおもろい。

"Good bye"という曲は知らなかったが、どうも"Electric Summer"
のカップリングだってね。そりゃ知らんわ。

ベストアクトは"yoakemae"にしよう。

2015年12月9日水曜日


☆☆☆★★        市川崑       1959年

実に奇怪で、悪意に満ちたホームドラマを堪能。
ストーリーは谷崎の原作にどこまで忠実なのか。たぶん、
だいぶ逸脱してるだろうと思うが。

中村鴈治郎と京マチ子は、小津の『浮草』(リメイク版)と
同じ組み合わせだ。そこに絡むは仲代達也と叶順子。
お手本のようなカット割り、ストップモーションの心にくい
使い方、たまに入って来る竹林とか塀とかの実景の不気
味さ、俳優たちの怪演、どれひとつとして目を離すことが
できず、思わず見入ってしまう。特筆すべきは叶順子だ
ろう。美人女優に、顔にコンプレックスのある不美人の役
をやらせる市川崑もすごいが、それに見事に応える女優
もすごい。

この時期の市川崑の文藝映画にハズレなしということら
しいが、それも頷ける。本作はちょっと増村保造に似たテ
イストを感じた。と、あんまり知らないのに言ってみる。

                                               11.30(月) BSプレミアム


2015年12月7日月曜日

初冬の読書


『ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集
村上春樹 著     文藝春秋

ひさびさの旅行記。
春樹の旅行記はいつもおもしろい。ハズレってあまり無いと思う。
あ、『使いみちのない風景』だけはおもしろくなかった。

今回は、いろんな媒体に書いたものを集めたもので、統一的なコン
セプトがあるわけではない。ラオス、ボストン、ギリシャ、トスカーナ、
熊本、アイスランド……と、場所もさまざまである。
「シベリウスとカウリスマキを訪ねて」と題されたフィンランド旅行記
が出色である。『多崎つくる』にも出て来たフィンランドだが、いつも
のように想像で全部書いて、後から当地を訪ねたらしい。カウリス
マキ兄弟の経営するバーにいたカップルの描写が秀逸である。










『狭き門』
アンドレ・ジッド 著   中条省平・中条志穂 訳
光文社古典新訳文庫

「題名は知ってるけど、どんな話かは知らない小説シリーズ」のひと
つ。前から読みたかったのだった。ちなみに題名は『マタイによる福
音書』から来ているらしい。受験戦争の話ではない。

「滅びに至る門は広々している。命に通じる門は狭く、その道も細い。
だから力を尽くして狭き門より入れ。」
という内容の一節からとられた。

主な登場人物は、ジッド本人を思わせるジェロームという青年、いと
このアリサ(2歳上)とジュリエット(1歳下)。美人姉妹である。
物語の序盤、ジェロームはアリサが好きらしい。両想いに近いのだ
が、途中でジュリエットがいたく熱烈にジェロームを愛していることが
判明すると、控えめなアリサは遠慮して身を引くと言い出し、いやい
やちょっと待て……みたいな展開である。まあよくある三角関係の
恋愛譚、なのかと思いきや、ジェロームに愛されていないことを知っ
たジュリエットはあっさりと、求婚してきた熊みたいな男と結婚してし
まう。
そしてここからがフランス的というか形而上的というか、観念的な話
になってくるのだが、アリサが、ジェロームを愛することと信仰を貫く
ことが両立できないっつーことで悩みはじめ、さんざんジェロームを
苦悩させ、アリサ自身も苦しみ抜いた挙句、信仰を貫く方を選ぶの
である。面倒くせぇ……。と思ってしまうのは、私が宗教に極めて無
関心な国に住んでいるからだろうか…。

「信仰と愛の相克」ということになるらしい。うーむ、ピンと来ない!


2015年12月6日日曜日

【LIVE!】 グッドモーニングアメリカ


挑戦 㐧七夜


同期に誘われたので、前の日に慌てて何曲か予習して臨む。
わりとオーソドックスなギターロックの印象だったが、当日武道
館で聴くと、ずいぶんギターがおとなしいな、と思った。席が真
横だったので、音響的に良い場所とはいえないが、それを差し
引いても。リバーブが深すぎて奥に行っちゃった感じがした。

バンド初の武道館公演とのこと。
ここに至るまでの苦労を、まじめそうなVo/Gtがとつとつと語っ
てくれたのだが、いかんせん共有できなくて申し訳ない。万感
の思いであることは伝わってきた。

いちばん良かったのは「空ばかり見ていた」という曲かな。

                                                       11.27(金) 日本武道館


2015年12月3日木曜日

恋人たち


☆☆☆★★      橋口亮輔        2015年

モルモット吉田さんが今年のベストワンと断言していたので観に
行った。『ハッシュ!』も『ぐるりのこと。』も未見なので、お名前は
よくうかがっていたが、橋口監督(の作品)とは初対面。いくら観
ても、世の中には観るべき映画が際限なくありますね。

それぞれに、村上春樹的にいえば「損なわれてしまったもの」を
抱えながら懸命に生きる3人を、あわく交叉させつつ描く作劇は、
たしかに見事な手腕。危なげない。橋梁の補修をする兄ちゃん
と、雅子様を見に行った時のビデオを繰り返し見ている主婦に
対する監督の視線は優しいが、ゲイの弁護士に対してはなぜか
厳しい。まあいけ好かない奴なんだけど。
演じる3人はみな、ワークショップで橋口監督が見出したシロウト
同然の役者とのこと。3人とも素晴らしかった。

それでも点が伸びないのは、どうしても観ている間、つい「みみっ
ちいなー。映画ってもっと華やかな方が好きだなー」という思いを
禁じ得ないから。なんというか、祝祭性というものが欠片もないで
しょう。もちろんそういう映画があってもいいのだが、私はベストワ
ンにはしない。

                                                         11.25(水) テアトル新宿