2024年4月29日月曜日

オッペンハイマー

 
☆☆☆★★  クリストファー・ノーラン 2024年

初めは日本での公開が決まらなかったという
が、クリストファー・ノーランの新作が観ら
れない国なんて住みたくないわ。しかも劇中、
オッペンハイマーは「原爆が戦争を早く終わ
らせて多くの人間の命を救った」という説に
は与していない。トルーマンに「弱虫」とく
さされるほど原爆開発を悔いているという描
かれ方なのに、ノーランほどの作家の映画を
公開すらしないなんてのはおかしな話である。

いつものように、予備知識ゼロで観ようかと
も思ったのだが、おそらくアクション少なめ
の会話劇である。3時間もの間置いてけぼり
を食らうのはさすがにキツいと思い、補助線
として「映像の世紀 バタフライエフェクト」
の「マンハッタン計画 オッペンハイマーの栄
光と罪」という回を観てから臨んだ。これが
成功のようで失敗だったかもしれない…。

たしかに理解度は5割増しだったと思う。アー
ネスト・ローレンスというサイクロトロンの
開発者であるライバルの存在や、同じく物理
学者の弟がいて、トリニティ実験に参加して
いたことなど知らないことばかりだった。し
かし、まるで番組は45分で映画を要約したか
のようだった。同じ原作に依拠したから、と
いうことなのだろうか…。理解度が高まった
のと同時に映画としての感興が削がれたのは
疑いない。「映像の世紀」は本当の映像が流
れるので、場面によっては映画を凌ぐほどド
ラマチックだったりもした。映画ではアメリ
カに亡命したアインシュタインが出てきて、
オッペンハイマーと会話を交わすが、どうも
嘘くさいと思ってしまった。ドイツの若き天
才・ハイゼンベルクとの関係などは、映画は
ほとんど省略していたので、「映像の世紀」
の方が詳しかったほどである。

しかしロバート・ダウニーJr.っていつの間に
あんなおじいさんになったんだ。いまだに
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のイメー
ジだったからびっくり…。

                       4.7(日) TOHOシネマズ池袋





2024年4月16日火曜日

DUNE 砂の惑星 PART2

 
☆☆☆★★ ドゥニ・ヴィルヌーヴ 2024年

冒頭の戦闘シーンは緊迫感があって良かった。
襲撃してきた相手を殺害したあとに、体の水
分を抜いて再利用するというのが「砂漠の民」
らしくて良いディテールである。その「搾水
器」みたいなのの気持ち悪い音が絶妙。

しかしその後の、予言の実現と復讐の成就の
展開となると、やはり途端にどこかで見たよ
うな話に堕すというのか、まあ端的に言って
しまえば、なぜかドキドキしないのである。
関ジャニの横山を坊主にしたようなファルコ
ンネン家の悪役も、いまいちだった。PART1
であんなに夢見た砂漠の民の女の子とも昵懇
になれたのに、ロマンスもやはり復讐の責務
の前にはかすんでしまう。まああんまりイチ
ャイチャされても困るのだが。

PART1でも音響のおもしろさが際立っていた
が、今回もいまひとつハラハラしない物語を、
音でがんばって盛り立てていたと思う。予言
者みたいになった母の「命令する声」の圧力
とか、なかなかおもしろかった。ハンス・ジ
マー先生の音楽もいつものように荘厳である。

        3.13(水) グランドシネマサンシャイン




2024年4月3日水曜日

カラオケ行こ!

 
☆☆☆★★   山下敦弘   2024年

『落下の解剖学』のようなワンカットたりとも
緩みのないシリアスな映画も別に嫌いじゃない
が、こういうばかばかしくてちょっとしみじみ
するような映画はもっと好みである。比べる必
要もないのだが。

ヤクザが合唱部のリーダーの男の子にカラオケ
の指導を頼みに来るという冒頭の、大げさな稲
光に笑えるかどうかが分かれ目という気がする。
「紅」の歌唱指導を求めにくるヤクザを綾野剛
が演じるが、この映画は綾野剛を味わうための
映画だと言えるだろう。すっかりいい役者になっ
た。脚本は「MIU404」でもタッグを組んだ野
木亜紀子。

個人的には合唱のすべてを精神論でかたづけよ
うとする薄っぺらい顧問の先生を芳根京子が演
じていて、ツボだった。

                  2.25(日) TOHOシネマズ日比谷