2019年8月29日木曜日

バベル


☆☆☆★★   A. G. イニャリトゥ  2007年

モロッコ、メキシコ、日本、それぞれの場所で
進行しつつある悲劇、それもタイトルになぞら
えて「言葉が通じない」がゆえに何倍にも増幅
された悲劇を交互に行き来しながら紡がれてい
く物語。本当に絶望的なフィルムというか、救
いはことごとく拒絶され、希望は光を失い、だ
れもが孤独の中に取り残される。あるいは不運
にも命を落とす。それもこれも人類がバベルの
塔なんか作ろうとした報い、ということか。
『21グラム』『バードマン』『レヴェナント』
とこの人のフィルムを観ているが、安易な物語
を徹底的に拒絶する姿勢は一貫している。

菊地凛子の好演が光っている。JKという鎧を意
気揚々と身に付けた姿と、弱さと不安に押しつ
ぶされそうな少女を体現してすばらしい芝居を
していると思う。

                                  8.9(金) BSプレミアム


2019年8月25日日曜日

新聞記者


☆☆☆★    藤井道人    2019年

この内容の映画でユーロスペースがいっぱいに
なっていると聞いて、少なからず勇気づけられ
もしたのは7月のはじめ。その後も1カ月ロング
ランを続け、私が観に行った8月初旬の平日は
さすがに客席はまばらだったが、続いているこ
とが驚きである。まあそれだけあの傲慢さと、
ひとを舐めくさった態度に我慢ならない人たち
も多いということだ。

東京新聞の望月衣塑子の著作を原案として、フィ
クションの皮をかぶった告発映画のようにも読
み取れるようになっている。観ながらふと『ねじ
まき鳥クロニクル』に出て来た「下品な島の猿の
話」を思い出した。早くこの下品さの自己増殖の
サイクルを断ち切らなければと思っているひとは
多いはずだが…。

                                 8.7(水) ユーロスペース


2019年8月22日木曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


マニアックヘブン Vol.12

 1. 野生の太陽
 2. セレナーデ
 3. 楽園
 4. 8月の秘密
 5. 幸福な亡骸
 6. 海岸線
 7. 夏草の揺れる丘
 8. 虹の彼方へ
 9. 自由
10. 甦る陽
11. 何もない世界
12. 水芭蕉
13. 太陽の仕業
14. 真夜中のライオン
15. 導火線
16. 蛍
17. 夏の残像

(Encore)
 1. 天気予報
 2. 心臓が止まるまでは(新曲)
 3. さらば、あの日

                     8.12(月) 新木場STUDIO COAST


初の夏開催ということで、ライブが進行していくうち
に薄々わかってはいたが、"夏"縛りの選曲であること
が途中で明かされた。うーむ、なるほど。おもしろい。
それでこれだけの曲が集められるのだから、これはや
はりたいしたものだろう。熱い夜だった。

しかし「海岸線」とか「虹の彼方へ」のような難しい
曲を軽々と演奏するのを見ていると、演奏がほんとに
うまくなったと思う。これは謙遜でも卑下でも何でも
なくて、昔のバックホーンはベース以外全員下手だっ
た。「魂」で演奏していたからそれでもいいのだ。
山田の喉の調子はあいかわらず。ちゃんと出たのは
「セレナーデ」まで。いつか本調子に戻るのだろうか。

ベストアクトは「甦る陽」~「何もない世界」の流れ。
秀逸だった。「真夜中のライオン」~「導火線」も捨
てがたいが、マニアックさに欠けるといえなくもない。

2019年8月18日日曜日

お米とおっぱい。


☆☆☆★   上田慎一郎   2011年

『カメ止め』監督の自主制作による長篇1本目。
テレビで深夜にやっていたのを捕獲。

あるテーマについて、その場にいる全員の意見
が一致するまで議論を尽くし合う密室劇である。
当然ながら『12人の怒れる男たち』や、それを
三谷幸喜が翻案した『12人の優しい日本人』と
比べられるのは覚悟の上だろう。真っ向勝負と
いうところか。

今作が巧妙なのは、その肝心となる議題を、
「お米とおっぱい、どちらかがこの世からなく
なるとしたら、どちらを選ぶか」
という心底ばかばかしいものにしたことである。
全員が一致した結論を出せれば10万円の報酬が
あるという、いわゆる「うまい話」である。そ
れに釣られて集まってきた人たちのほとんどが、
「おっぱい」でさっさと意見を一致させて10万
手にして帰ろうとするが…、という話で、もち
ろん議論しているだけでは退屈してしまうので、
いろいろと工夫が凝らされている。まあ『カメ
止め』とは似ても似つかない映画であることは
たしかである。

                                      8.6(火) 日テレ


2019年8月14日水曜日

イメージの本


☆☆☆  ジャン=リュック・ゴダール  2019年

公開時は怠慢からつい見逃してしまったので、
アップリンクで捕獲。当時、「キネマ旬報」で
はゴダール特集をしていて、巻頭対談は佐々木
敦と菊地成孔だった。開口一番、菊地が「今回
はよかったですよ、よく寝られて」と言ってい
たのはなかなかおもしろかった。

私ももちろん途中で寝た。1章、2章は確かに起
きていたのは覚えていて、3章からはあやしい。
5章が始まったときに覚醒したので、4章を観た
記憶がまったくないのはまことに遺憾である。

映像でつづるエッセイという表現も「キネ旬」の
中にはあったが、もはやエッセイとすら呼べない
のではないか。コラージュ、断片、思考の流れ…。
これはいったい何なんでしょうね。

                             7.28(日) アップリンク渋谷


2019年8月9日金曜日

ドゥ・ザ・ライト・シング


☆☆☆★★★    スパイク・リー   1990年

「正しきことを成せ」
ゴキゲンなラジオDJの語りにのせて、ニューヨーク
のとあるストリートの1日を描いたスパイク・リー
の出世作。HIPHOPに代表される「ナウな」ストリ
ートカルチャーを活写した無邪気な映画かと思いき
や、ある行き違いが元で黒人たちの怒りが爆発し、
暴動にまで発展してしまう。イタリア系移民の経営
するピザ屋が主な舞台となっており、最終的にはこ
こで悲劇が起こる。

才気煥発という言葉がピッタリくる、がちゃがちゃ
しているがパワーに満ち満ちているフィルムである。
観ていて楽しい。デカい黒人のあんちゃんがデカい
ラジカセを担いでいるだけで画になる。

                                          7.22(月) 早稲田松竹


2019年8月6日火曜日

ブラック・クランズマン


☆☆☆★    スパイク・リー   2019年

早稲田松竹でスパイク・リーの2本立て。

スパイク・リーは初鑑賞と思っていたら、ずーっと
前に2本立ての1本で『セレブの種』を観ていた。そ
れも早稲田松竹で。もうほとんど覚えていないけれ
ども…。

本作は、黒人警官がKKKに潜入捜査するという、あ
りえないような実話を基にしている。らしい。

潜入がバレるバレないのハラハラもあるにはあるが、
そこまでサスペンスフルではなく、どちらかといえ
ば軽口や人種差別ジョークに笑いながら、最後は差
別主義者たちが死んだりボコられたりして痛快、と
いう感じ。しかし一方にはもちろんシリアスな流れ
も確固としてあり、主張の強い映画でもある。画像
はラストカットに据えられる、さかさまの星条旗。
しかしKKKに電話する人間と潜入する人間をどうし
ても分けなくてはならない理由が弱い気がして、そ
こがずっと引っ掛かっていた。

                                          7.22(月) 早稲田松竹



2019年8月3日土曜日

【LIVE!】 山下達郎


  PERFORMANCE 2019


去年に続き、抽選に応募しまくりなんとか1枚
だけ当たった。東京に住んでいて嫌なことは
ほとんど無いが、達郎のコンサートに行くの
が困難なことだけは嫌だ。

運よく仕事も早めに終わり、開演の3分前に席
に滑り込んだ。3階の最後方ではあったが、音
響はさすがに良い感じで、心置きなくすばら
しき"パフォーマンス"を堪能した。

セットリストにおなじみの曲が多いのはいつ
ものこと。めずらしいところだと"土曜日の恋
人" "サウスバウンドNo.9" "PAPER DOLL"あ
たりか。
そして大瀧さんが亡くなってしまって6年が経
ち、ようやく歌える気持ちになってきたと言っ
てカバーしたのはなんと"君は天然色"。完成度
の高さについ感涙してしまった。その日いちば
んの拍手がいつまでも続いたところを見ると、
みんな感激したんだと思う。

                                     7.18(木) NHKホール