2022年10月29日土曜日

マイ・ブロークン・マリコ

 
☆☆☆★  タナダユキ  2022年

ラーメンをすする永野芽郁がニュースで偶然
耳にした友人(奈緒)の訃報から幕を開けた
物語は、少しづつ、この2人の間のいびつで
奇妙な友情を明らかにしていく。
永野は奈緒を虐待していた親の元から遺骨を
無理やり「奪還」し、それを抱えたままある
岬にやってくる。漁師(?)の窪田正孝が出
てきたあたりからだいぶタナダユキ節が出始
めて期待が高まるものの、炸裂するまでには
至らず。
観ながら「奈緒がヘンな友人の役」という共
通点のある『君は永遠にそいつらより若い』
を思い出したが、あちらの方が秀作。

                  10.11(火) TOHOシネマズ新宿




2022年10月23日日曜日

読書⑭


『ダロウェイ夫人』
ヴァージニア・ウルフ 著  土屋政雄 訳
光文社古典新訳文庫

私もご多分に漏れず最初は『めぐりあう時間た
ち』という映画を観て本書を手に取ったのだが、
途中で挫折(そういう人は多いのではないだろ
うか。たいがいおもしろくないものね)。
それをもう一度読んでみようと思ったのは、私
の読書生活を深く浸食していることでおなじみ
Eテレの番組「100分de名著」の特別編、その
名も「100分deパンデミック論」で、パネリス
トの英文学者、小川公代がこの本をとり上げて
述べた内容に興味を惹かれたから。とはいえ小
説内でパンデミックが直接描かれるわけではな
い。

この小説は1923年6月のある1日、自宅で開く
パーティーの準備をするために、主人公のクラ
リッサ・ダロウェイが朝、花を買いに行くとこ
ろから始まり、夜のパーティーの場面で幕を閉
じる。その1日だけを、いろいろな人物の意識
に憑依するように移り変わりながら描いている。
小川が言うには、ヨーロッパは1918年~20年
にかけてスペインかぜの大流行に見舞われ、多
数の死者を出した。クラリッサも病後だという
記述があるので、おそらくスペインかぜに罹患
して回復した後である。墓地に関する記述もあ
り、鐘が時を告げるという文章が何度も繰り返
し出てくる(「鉛の同心円が空気に溶ける」)。
鐘とは弔鐘でもある、というのである(これを
言ったのはあるいは高橋源一郎だったか?)

ほう、そうか、と思った。最初に読んだときに
はそんなことまったく気がつかなかった。とて
もおもしろい指摘であるので、次はぜひ気を付
けて読んでみよう、と決意して、どこかにパン
デミックの痕跡がないかと注意深く、目を皿に
して再読したつもりなのだが、結論からいうと、
どこにもその痕跡は発見できなかったのである。

もちろん「スペインかぜ」という言葉は一度も
出てこないし、3年前の大流行を匂わせるような
描写もまったく見当たらない。墓に目をやって
何かを思うという描写はあれど、それは第一次
世界大戦の死者を葬った墓である。問題の「ク
ラリッサが病気で臥せっていた」という記述だ
が、果たしてそんな文章あったかな? まさか
英文学者がこの本についてでたらめを言うとは
思えないので、単調な文章に集中が続かなくて
私が読み飛ばしてしまった可能性もあるが、そ
んな記述はどこにも無かったように思う。

つまり、この小説はパンデミック文学の範疇に
入れるには無理があるどころか、直近にあった
パンデミックをわざと「言い落している」よう
にも思えるのである。逆にそちらのほうが興味
深いのではないか。













『ちぐはぐな身体 ファッションって何?
鷲田清一 著  ちくま文庫

そもそも服ってなんで着るんだっけ?
という地点から話は始まる。そこから制服を
「着くずす」こと、という誰もが覚えのある
事柄に論を進めるのがおもしろい。それは贈
り物の箱を振って中身を推測するように、規
範の中で自らがはみ出せる限界を探っている
行為なのだという比喩が卓抜である。
そしてヨウジヤマモトやコム デ ギャルソン
の、裏返しになった服や奇妙なフォルムの服
など、「服の常識を覆すような服」は、どう
して作られたのか。「制度と寝る服」と「制
度を侵犯する服」という対比は刺激的である。





2022年10月17日月曜日

8 1/2

 
☆☆☆★  フェデリコ・フェリーニ  1965年

実に3か月ぶりの映画館である。予告編が
終わって暗くなる瞬間はわくわくしました。
東宝の「午前10時の映画祭」ってまだやっ
てたんですね。強制的な早起き生活になっ
たため、朝ご飯をしっかり食べて家事を終
えても、朝8時半に新宿にいるのは苦でも
なんでもない。

マルチェロ・マストロヤンニ主演の、言わ
ずと知れた映画史に刻まれた作品である。
フェリーニ自身を思わせる映画監督を主人
公に、夢とうつつを行き来しながら描き出
される錯乱と混沌の世界。妻を演じるアヌ
ーク・エーメ、湯治場の幻の女クラウディ
ア・カルディナーレなどキャストも豪華そ
のもの。せわしなく流麗なワークを続ける
「動的な」カメラとともに、この映画に陶
然となったかというと…いまいち乗り切れ
なかったというのが正直なところ。ラスト
の、キャスト全員が輪になってダンスする
シーンはもともと無かったが、予告編とし
て撮影の機会が設けられたときにこのラス
トも撮ってしまったというのはおもしろい。

                9.29(木) TOHOシネマズ新宿




2022年10月11日火曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


KYO-MEI ワンマンライブ ~第四回夕焼け目撃者~

 1. 幾千光年の孤独
 2. 金輪際
 3. 涙がこぼれたら
 4. 情景泥棒
 5. ファイティングマンブルース
 6. 悪人
 7. 疾風怒濤
 8. カラビンカ
 9. 何もない世界
10. I believe
11. ひとり言
12. 輪郭
13. 瑠璃色のキャンバス
14. 世界中に花束を
15. 希望を鳴らせ
16. Running Away
17. ヒガンバナ
18. コバルトブルー
19. 刃

<ENCORE>
 1. 風の詩 
 2. 導火線 
 3. 太陽の花

             9.24(土) 日比谷野外音楽堂

台風の接近によるあいにくの大雨。
私は屋外での仕事もあるし、RISING SUN
ROCK FESTIVALという野外フェスにもけっ
こう毎年のように行っていたので、そこそ
この雨ならば、打たれるままに仕事をした
り音楽を聴いたりした経験はあるが、この
夜ほど長時間、体の隅々までぐっしょりと
重たく濡れるほど雨に打たれたことはない。
まあでもそれも野音である。

どちらかというとインドアなイメージのあ
るバックホーンだが、野音の空間に響くバッ
クホーンの音もなかなか良い。MCで山田も
言っていたが、秋の虫の声を聴きながら、
ビル街にロックンロールが響いていくこの
時期の野音の興趣というのは、格別である。

ファンのひと以外にはどうでもいいことだ
が、バックホーンの野音といえば1曲目は
「レクイエム」と相場が決まっていて、私
ももう勝手にその気になっていたので、菅
波が「幾千光年の孤独」のリフを弾き始め
てちょっと肩すかし。1曲目じゃないにし
てもどこかでやってくれると思って期待し
て待ったが、最後までやらず。久しぶりに
聴きたかったので残念であった。

ベストアクトは「ひとり言」。
「僕のそばにいて」と叫びながら床をのた
うちまわる山田にキュンキュンする曲であ
る。とはいえ山田の調子はまだいまひとつ。
10曲を超えたぐらいから明らかに高音が出
なくなってくる。手術してもなかなか元ど
おりとはいかないようだ。ま、ファンとし
ては、歌えなくなったりしなくて本当によ
かったと思ってますけどね。




2022年10月6日木曜日

【LIVE!】 銀杏BOYZ


 「君と僕だけが知らない宇宙へ」

 1. 人間
 2. NO FUTURE NO CRY
 3. YOU & I VS. THE WORLD
 4. 夢で逢えたら
 5. I DON'T WANNA DIE FOREVER
 6. トラッシュ
 7. 援助交際
 8. SEXTEEN
 9. 漂流教室
10. 新訳 銀河鉄道の夜
11. 東京
12. ぽあだむ
13. 夜王子と月の姫

<Movie 〜二回戦〜>

14. 若者たち
15. 駆け抜けて性春
16. 大人全滅
17. アーメン・ザーメン・メリーチェイン
18. 骨 (Vo.岡山健二)
19. 恋は永遠
20. エンジェルベイビー
21. 光
22. GOD SAVE THE わーるど
23. 金輪際
24. BABY BABY
25. 僕たちは世界を変えることができない

<Encore>
 1. 少年少女

                9.22(木) 中野サンプラザ

春のアコースティック・ツアーの特別編とし
て東京と大阪で開催。特に中野サンプラザは
銀杏BOYZとして改築前の最後の公演となるの
で、いろいろと思い出も語っていた。地下の
スタジオでよくリハーサルをしたとか、友達
だったフジファブリックの志村のお別れライ
ブを客として観たとか。とにかくほぼ1曲ごと
に喋らずにいられないのが、なんとなくエレ
カシの宮本と似ていると思った。

「今日はいっぱい曲やりますよ」と繰り返し
言っていたが、「夜王子と月の姫」で一度終
わって、「なんだそんなにやらないじゃん」
と思っていたら、第2部が長かった。アコー
スティック・ツアーの延長だった第1部から
打って変わって、耳をつんざくエレキギター
の轟音と峯田の絶叫が響き渡る、ハードでソ
リッドな第2部が始まった。ものすごい音量
なのだが、サンプラザで鳴ると少し嫌な周波
数成分が減衰するのだろうか、耳に優しい轟
音なのである。ほんとに良い会場だ。

第1部がわりと和気藹々というか、ほんわか
していたので、第2部の「若者たち」の絶叫
でやはりピリッとした感はある。しかしどち
らも峯田のもっている味なのである。どちら
もすばらしかった。

ベストアクトは「東京」。「漂流教室」もよ
かったけどね。



2022年10月1日土曜日

読書⑬

 
『下山事件』
森達也 著   新潮文庫

調べれば調べるほど、沼にはまっていくよう
に抜け出せなくなる。新たな事実が判明した
と思っても、深追いするとどこかで辻褄が合
わなくなり、また全体像が遠のく。それでも
調査することをやめられない。複雑怪奇な下
山事件を長年にわたって調査してきた斎藤茂
男はそれを「下山病に感染する」と呼んだ。

初代国鉄総裁の下山定則が、常磐線の線路上
で轢断死体となって発見されたのは昭和24年
7月。本書では新たな手掛かり「亜細亜産業」
から細い糸をたぐるようにして事件の関係者
(と思われる人物)にたどり着き、何とか事
件の新たな像を結ぼうとする。見えてきたの
はどす黒い戦後の闇に暗躍するGHQの諜報機
関とその協力者たち…。
チームで調査していたものの、週刊誌の事情
から分裂を余儀なくされ、3人がそれぞれ別々
の本を上梓することになる。そのへんの事情
を自分の過失も含めて正直に書いてしまう所
が森さんらしい。

あまりに面白くて思わず夜更かししてしまっ
た本は久しぶりである。














『1歳の君とバナナへ』
岡田悠 著   小学館

妻の妊娠判明から、子どもが1歳になって大
好物のバナナの皮をぽいっと捨てられるよう
になるまでの育児エッセイ。
著者は会計ソフトか何かの開発をしているら
しい。兼業で旅行記を書いて出版していると
のこと。文章は軽妙でなかなかおもしろいし、
改行が多くてざくざく読めるのが快感。いま
読んでいる『ダロウェイ夫人』がまた全然進
まないから、余計に。
8か月ころから、子どもが保育園で風邪をも
らいまくってくる描写がおそろしい。