2015年12月28日月曜日

母と暮せば


☆☆☆★★        山田洋次      2015年

井上ひさしが「父と暮せば」と対になるように構想していた
という長崎が舞台の「母と暮せば」。遺志を継いで、山田
洋次が実現させたという。ただし題名と、長崎が舞台とい
うこと以外は、山田洋次がオリジナルで作りあげた物語ら
しいよ。

たぶん今年最後の映画になると思うのだが、まさか嗚咽
をこらえながら観ることになろうとは思わなかった。くそう、
泣けたぜ。「父と暮せば」の関係性をひっくり返しただけな
ので、予想を超える展開なんかはひとつもないのだが、
それでも泣けて仕方なかった。やっぱり男は「母子もの」に
本質的に弱いんだろうか、と分析してみたのだが、先に観
た友人にはまったく刺さっておらず、逆にビックリ。あいつ
が冷血なのか、俺が単に涙腺がユルユルになってきてい
るだけなのか……。

ひさしぶりにこんなにウェットな邦画を観たが、なんという
か、いやなウェットさではない。やはり山田洋次のウェット
さなのである。
坂本教授の音楽は映画を邪魔せず、しかし絶妙な和音で
芝居を補強する。さすが。

                                                12.16(水) 新宿ピカデリー


2015年12月18日金曜日

【LIVE!】 レキシ


レキシツアー IKEMAX THEATER

 01. 姫君Shake!
 02. 真田記念日
 03. キャッチミー岡っ引きさん
 04. ベリーダンシング
 05. salt & stone
 06. SHIKIBU
 07. 憲法セブンティーン

 08. Takeda'
 09. アケチノキモチ
 10. 妹子なぅ
 11. ハニワニハ
 12. LOVE弁慶

 13. 年貢 for you
 14. きらきら武士

(Encore)
 01. 狩りから稲作へ

                                                  12.16(水)両国国技館


単独公演を観るのは2回目。
ただ、ライジングサンでは3回観ている。いちばん最初に、
ボヘミアン・ガーデンという小さいステージで"狩りから稲
作へ"を聴いて爆笑したときには、「すげぇ!」と感動はし
たものの、まさか5年後に1万人の会場を爆笑の渦に巻き
込んでいるとは、想像もしなかった。

客層は、30代のOLが多い印象。それもキレイなひとが多
かったように思う。今まで行ったことのあるどのライブとも
異なる客層である。強いていえば、スガシカオに近いか。

まあ池ちゃんはあいかわらずおもしろい。
そしてやはり、曲と演奏がしっかりしていてこそのおもしろ
さなのだ。どの曲にも固有のグルーヴがあり、気持ちいい。
そして「アケチノキモチ」も「ハニワニハ」も、しっとり歌われ
ると、良い曲なんだよな。

ベストアクトは終演後も後を引いた「憲法セブンティーン」に。


2015年12月17日木曜日

初冬の読書②


『NOVEL 11, BOOK 18』
ダーグ・ソールスター 著  村上春樹 訳  中央公論新社

タイトルからしてすでに奇妙だが、中身も相当にヘンである。
ダーグ・ソールスターは、ノルウェイではれっきとした国民的
作家らしいが、本邦にはこの村上春樹の翻訳で初めて紹介
されたとのこと。もちろん元はノルウェイ語なので、英語から
の重訳になる。それじゃあダメなんじゃないかと春樹も悩んだ
らしいが、それでも翻訳してみたいという気持ちがまさったと、
あとがきにある。

段落分けがまったくなく、語り口はずーっと同じ調子で淡々と
変わらない。改行も、読みやすいように春樹が適当に増やし
たが、本来はもっと少ないらしい。

ノルウェイのコングスベルグという街を舞台に、最初はビョー
ン・ハンセンとツーリー・ラッメルスという中年の男女を中心に
話が進む。が、途中で急にツーリーは退場して、ビョーンの息
子のペーテルが登場し、あとはそのまま最後まで。
いったいどういう話なのか、説明することにあまり意味はない
と思う。ただ、ペーテルが登場してからの方がおもしろいので、
途中でやめない方がいいです、というのだけは言っておく。









『本当はこんな歌』
町山智浩 著  アスキー・メディアワークス

「週刊アスキー」に連載されたコラム。
毎回、洋楽の曲をとりあげ、「実はこんなこと歌ってるんですよ」
と解説するという、なかなかありそうでなかったコラムである。特
にアメリカの抱える病理とか社会問題をさりげなく(でもないか)
織り込んだ曲を取り上げているので、いつもの町山さんのコラム
とテイストは一緒である。
もっと知ってる曲が多いと「へぇー」も増幅されただろうが、当方
それほど熱心な洋楽ファンでないため、知ってたのはほんとに
数曲。それでも、ひとつ読んではYouTubeで曲を聴く、という作
業に思わず熱中してしまった。

私の世代だと、エミネムの"Stan"、レイジ・アゲインスト・ザ・マ
シーンの"Sleep Now In the Fire"、エアロスミスの"Walk This
Way"あたりは、洋楽ファンならずとも知っているのでは。
これら3曲も、解説を読むと「へぇー」となること請け合いである。

2015年12月13日日曜日

【LIVE!】 Base Ball Bear


Base Ball Bear Tour 「三十一歳」

 01.「それって、for 誰?」 part.1
 02.そんなに好きじゃなかった
 03.short hair

 04.文化祭の夜
 05.Good bye
 06.不思議な夜
 07.Tabibito In The Dark
 08.レインメーカー
 09.どうしよう
 10.新呼吸

 11.曖してる
 12.青い春、虚無
 13.十字架 You and I
 14.yoakemae
 15.祭りのあと

 (encore)
 01.「それって、for 誰?」 part.2
 02.SHE IS BACK

                                                        12.4(金) 豊洲PIT

豊洲PITは初めて。思ったよりデカい。ZEPP TOKYOよりもひと
まわりデカいような気がした。周りに何もないのはZEPPと一緒。

これが何のツアーなのかいまいち分かってなかったのだが、どう
やらニューアルバム"C2"のツアーだったらしい。ツアーも中盤に
なって、ようやくアルバムが出た、という事のよう。
ファイナルだったので、予習する時間はあった。うん、聴いたよ、
一応。でも"C2"の曲がライブの核になる、というよりは、随所に
ちりばめられてる感じ。まあ、また"C2"のツアーが来春からある
みたいだし。

それにしても小出くんの「べしゃり」が冴え渡った夜だった。おもし
ろい奴だなー。湯浅くんの言葉をいちいち繰り返すのがおもろい。

"Good bye"という曲は知らなかったが、どうも"Electric Summer"
のカップリングだってね。そりゃ知らんわ。

ベストアクトは"yoakemae"にしよう。

2015年12月9日水曜日


☆☆☆★★        市川崑       1959年

実に奇怪で、悪意に満ちたホームドラマを堪能。
ストーリーは谷崎の原作にどこまで忠実なのか。たぶん、
だいぶ逸脱してるだろうと思うが。

中村鴈治郎と京マチ子は、小津の『浮草』(リメイク版)と
同じ組み合わせだ。そこに絡むは仲代達也と叶順子。
お手本のようなカット割り、ストップモーションの心にくい
使い方、たまに入って来る竹林とか塀とかの実景の不気
味さ、俳優たちの怪演、どれひとつとして目を離すことが
できず、思わず見入ってしまう。特筆すべきは叶順子だ
ろう。美人女優に、顔にコンプレックスのある不美人の役
をやらせる市川崑もすごいが、それに見事に応える女優
もすごい。

この時期の市川崑の文藝映画にハズレなしということら
しいが、それも頷ける。本作はちょっと増村保造に似たテ
イストを感じた。と、あんまり知らないのに言ってみる。

                                               11.30(月) BSプレミアム


2015年12月7日月曜日

初冬の読書


『ラオスにいったい何があるというんですか? 紀行文集
村上春樹 著     文藝春秋

ひさびさの旅行記。
春樹の旅行記はいつもおもしろい。ハズレってあまり無いと思う。
あ、『使いみちのない風景』だけはおもしろくなかった。

今回は、いろんな媒体に書いたものを集めたもので、統一的なコン
セプトがあるわけではない。ラオス、ボストン、ギリシャ、トスカーナ、
熊本、アイスランド……と、場所もさまざまである。
「シベリウスとカウリスマキを訪ねて」と題されたフィンランド旅行記
が出色である。『多崎つくる』にも出て来たフィンランドだが、いつも
のように想像で全部書いて、後から当地を訪ねたらしい。カウリス
マキ兄弟の経営するバーにいたカップルの描写が秀逸である。










『狭き門』
アンドレ・ジッド 著   中条省平・中条志穂 訳
光文社古典新訳文庫

「題名は知ってるけど、どんな話かは知らない小説シリーズ」のひと
つ。前から読みたかったのだった。ちなみに題名は『マタイによる福
音書』から来ているらしい。受験戦争の話ではない。

「滅びに至る門は広々している。命に通じる門は狭く、その道も細い。
だから力を尽くして狭き門より入れ。」
という内容の一節からとられた。

主な登場人物は、ジッド本人を思わせるジェロームという青年、いと
このアリサ(2歳上)とジュリエット(1歳下)。美人姉妹である。
物語の序盤、ジェロームはアリサが好きらしい。両想いに近いのだ
が、途中でジュリエットがいたく熱烈にジェロームを愛していることが
判明すると、控えめなアリサは遠慮して身を引くと言い出し、いやい
やちょっと待て……みたいな展開である。まあよくある三角関係の
恋愛譚、なのかと思いきや、ジェロームに愛されていないことを知っ
たジュリエットはあっさりと、求婚してきた熊みたいな男と結婚してし
まう。
そしてここからがフランス的というか形而上的というか、観念的な話
になってくるのだが、アリサが、ジェロームを愛することと信仰を貫く
ことが両立できないっつーことで悩みはじめ、さんざんジェロームを
苦悩させ、アリサ自身も苦しみ抜いた挙句、信仰を貫く方を選ぶの
である。面倒くせぇ……。と思ってしまうのは、私が宗教に極めて無
関心な国に住んでいるからだろうか…。

「信仰と愛の相克」ということになるらしい。うーむ、ピンと来ない!


2015年12月6日日曜日

【LIVE!】 グッドモーニングアメリカ


挑戦 㐧七夜


同期に誘われたので、前の日に慌てて何曲か予習して臨む。
わりとオーソドックスなギターロックの印象だったが、当日武道
館で聴くと、ずいぶんギターがおとなしいな、と思った。席が真
横だったので、音響的に良い場所とはいえないが、それを差し
引いても。リバーブが深すぎて奥に行っちゃった感じがした。

バンド初の武道館公演とのこと。
ここに至るまでの苦労を、まじめそうなVo/Gtがとつとつと語っ
てくれたのだが、いかんせん共有できなくて申し訳ない。万感
の思いであることは伝わってきた。

いちばん良かったのは「空ばかり見ていた」という曲かな。

                                                       11.27(金) 日本武道館


2015年12月3日木曜日

恋人たち


☆☆☆★★      橋口亮輔        2015年

モルモット吉田さんが今年のベストワンと断言していたので観に
行った。『ハッシュ!』も『ぐるりのこと。』も未見なので、お名前は
よくうかがっていたが、橋口監督(の作品)とは初対面。いくら観
ても、世の中には観るべき映画が際限なくありますね。

それぞれに、村上春樹的にいえば「損なわれてしまったもの」を
抱えながら懸命に生きる3人を、あわく交叉させつつ描く作劇は、
たしかに見事な手腕。危なげない。橋梁の補修をする兄ちゃん
と、雅子様を見に行った時のビデオを繰り返し見ている主婦に
対する監督の視線は優しいが、ゲイの弁護士に対してはなぜか
厳しい。まあいけ好かない奴なんだけど。
演じる3人はみな、ワークショップで橋口監督が見出したシロウト
同然の役者とのこと。3人とも素晴らしかった。

それでも点が伸びないのは、どうしても観ている間、つい「みみっ
ちいなー。映画ってもっと華やかな方が好きだなー」という思いを
禁じ得ないから。なんというか、祝祭性というものが欠片もないで
しょう。もちろんそういう映画があってもいいのだが、私はベストワ
ンにはしない。

                                                         11.25(水) テアトル新宿


2015年11月30日月曜日

夜叉


☆☆☆★★★       降旗康男       1985年

前半90点、後半60点というところか。
最初の1時間はシビれまくった。田中裕子(当時30歳!)の色っ
ぽさが尋常じゃない。後半がちょっとダレたかなぁ。私の集中力
が落ちただけかもしれないが。

舞台は福井県、敦賀の港町。漁師町である。
それなりにうまくやっていた共同体に、異物としての"女(=田中
裕子)"が入り込んでくる。映画としてはよくあるパターンである。
田中裕子は大阪のミナミから流れてきて、この地で飲み屋を開
く。そのコケティッシュな魅力もあって店は繁盛するが、地域共
同体の関係には徐々にきしみが生じ始める。そこへ田中裕子の
ヒモで、立派なヤク中のビートたけしがやって来て、おクスリを
「栄養剤だ」と言って皆に売りさばくようになる。それに心を痛め
る健さん……。健さんも元ヤクザなのだが、背中の"夜叉"を隠し、
この地で漁師として堅実に生きているのである。

ギラギラしたビートたけしが最高。包丁を持って田中裕子を追い
かけまわすシーンがあるのだが、演技だと分かっていてもほん
とに刺しそうで怖い。

                                                        11.19(木) BSプレミアム



2015年11月28日土曜日

オープニング・ナイト


☆☆★★★      ジョン・カサヴェテス     1978年

これは、あまりにバカげてないか。
私はラストがまずいからといって文句をつけることは極力し
ないように心掛けているが、この何の決着にもなっていない
ラストには茫然というか、「やれやれ。」というか。それまで観
てきた144分はいったい何だったんだ、という若干の憤りを覚
えたことはここに記しておくべきだろう。

いくらなんでも劇中劇が長すぎる。これで尺が144分なんだ
から、私がプロデューサーだったなら、劇中劇のシーンを7割
削れと言いたいところである。私は1978年には生まれていな
かったのでいかんともしがたいが。

ヒロインを演じるのはジーナ・ローランズ。うまいね。

                                                       11.17(火) 早稲田松竹


2015年11月25日水曜日

チャイニーズ・ブッキーを殺した男


☆☆☆        ジョン・カサヴェテス      1976年

カサヴェテス。よく名前は聞いていたが、観るのははじめて。
特に黒沢清がこのひとの監督作が好きなイメージ。
前号のキネマ旬報は「カメラの後ろに回った俳優たち」の特
集だったが、カサヴェテスも俳優。俳優が撮った映画って、
シネフィルは好きだよね。なんとなくだけど。

私のあまり好きじゃない、手持ちカメラを多用した画づくりに、
開始早々から不安がよぎる。結果的には、気分が悪くなるほ
どは揺れなかったのでよかった。

ストリップ・ショーをやるクラブのオーナーが、ポーカーで大負
けしたぶんを払うために、どんどんと犯罪に巻き込まれていく
という展開。この主役のオーナーが普段は厚かましくて、偉そ
うで、女好きで、でも実は小心で、という、いい感じの「小物感」
が出ていた。下の画像で笑っているのがオーナーです。

虚無的・頽廃的な犯罪映画をフィルム・ノワールというが、今
作はおもに50年代のモノクロ映画でよく作られたフィルム・ノ
ワールを76年によみがえらせた、という評価らしい。犯罪映画
としては作りが雑なのが気にかかるが……。

                                                       11.17(火) 早稲田松竹




2015年11月22日日曜日

ハタリ!


☆☆☆★         ハワード・ホークス      1962年

タイトルの「ハタリ!」は「危ない!」という意味らしい。
「ジャンボ!」なんかと同じく、アフリカの言葉なのだろう。

アフリカ(のどこの国かはわからない)で、動物園やサーカスの
依頼を受けて野性動物の狩りをする男たちの話。冒頭、タイトル
が出るよりも前に(アバンタイトル、というやつですね)、獰猛で巨
大なサイを捕獲しようして失敗する場面から始まる。なかなか迫
力のあるシーンだが、普通に投げ縄で捕まえようとするのだけど、
麻酔銃とかまだ無いのかね。それとも、傷つけずに捕獲するには
あれが一番なのか…。

ハワード・ホークス。よく名前を目にするひとだが、観るのは初め
てかも。おもに戦前に有名な作品が多くあり、今作などはキャリア
の後半に属する。まあそのうち、他の作品も観る機会があるだろ
う。


今年の100本目!
例年にもまして余裕綽々の達成には、よろこびよりもむしろ不安が
まさる。仕事は忙しくなっているはずだが、なぜこんなに早く……。
出張が減ったので、移動時間で本を読むことは減った。これは間
違いない。車でどこか出掛けるということもなくなった。そのぶんが
映画にまわったということなのだろうか。あとは…。
まあくよくよ考えても仕方がない。答えは、友よ、風に吹かれてい
る……ということで、さっさと今年のベストテンでも考えることにしよ
う。

                                                        11.14(土) BSプレミアム


2015年11月20日金曜日

【LIVE!】 チャットモンチー


チャットモンチーのすごい10周年 in 日本武道館!!!!

01. ハナノユメ
02. 8cmのピンヒール
03. シャングリラ

04. 親知らず
05. 湯気
06. 染まるよ
07. 東京ハチミツオーケストラ

08. 変身
09. きらきらひかれ
10. ウタタネ
11. ときめき
12. 毒の花
13. Last Love Letter
14. 真夜中遊園地
15. こころとあたま
16. 満月に吠えろ
17. 風吹けば恋
18. きみがその気なら

<Encore>
01. 新曲
02. ドライブ


                                                       11.11(水) 日本武道館

チャットモンチーもデビュー10周年。
この10年、チャットモンチーがガールズバンドの概念を常に拡張し
続けてきたのは間違いないことだと思う。

クミコンが抜けて二人になり、サポートを入れずに二人でライブを
やっていた時期、ライジングサンでチャットを観た。2012年だった。
本当に隙間だらけのスカスカの音で、メロディ楽器はエレキギター
しかないから、ギターの音量がハンパなくデカかった。
今でも鮮明に覚えているのは、終盤にやった「満月に吠えろ」で、
えっちゃんがかき鳴らすギターの、攻撃的に研ぎ澄まされた轟音
に、つい「音楽の悪魔に魂を売り渡した少女」というイメージが浮
かんだ。えっちゃんは魂を売るのと引き換えに、ソリッドなギター
ソロを弾けるようになったが、その代わり中学生で体の成長が止
まってしまったのだ。深夜1時の夏フェスでしか浮かばないバカげ
た発想だが、まあそのぐらいすごい演奏と、叫びのような歌だった。

今回久しぶりに見たえっちゃんは、結婚して子どもも生まれたはず
だが、全然変わっていなかった。やはり成長は止まったままである。
あれじゃあ息子が中1になっても、高2のお姉さんにしか見えまい。

ライブはデビュー曲「ハナノユメ」で始まり、3人の時期、2人の時期、
サポートが入った今、の各パートに分かれていた。
やはりというべきか、スリーピースでやった4曲が圧倒的に良かった。
親知らず~湯気、という流れには「知ってんなー俺の好きな曲!」と
思った客も多いはず。
ツインドラムはやっぱガチャガチャしてるし、チャットの曲には音圧
があり過ぎるように思った。どうしてもボーカルが負けてしまう。

ベストアクトは「東京ハチミツオーケストラ」。最高。

<追記>
あっこのことに一言もふれなかったけど、あっこもコーラスうまくなっ
たよ。最初の頃は悲惨だった。


2015年11月18日水曜日

犬神家の一族


☆☆☆☆         市川崑        1976年

観るのは二度目。至福の映画体験である。

冒頭の犬神佐兵衛翁の死去の場面から、ワクワクしっぱ
なし。推理ものとして完璧だとはまったく思わないが、映画
としては超一級品である。

大学の時、5月の連休の5日間で市川崑の金田一シリーズ
5本を毎日放送したときがあり、夢中で毎日観た。惨殺死体
を何十体も眺める大型連休も悪くなかった。

画像は「佐清、その頭巾をとっておやり!」 と言われた場面。

これで99本目!

                                                11.09(月) BSプレミアム


2015年11月16日月曜日

白い肌の異常な夜


☆☆☆         ドン・シーゲル       1971年

一応スリラーなのか。まったく恐くないけど。
時は南北戦争中のアメリカ。負傷した軍人(イーストウッド)が、
女だらけの小さな女学校に運び込まれたまではよかったが、
なんせ野性的な男前だったため、欲求不満の女たちに続々と
誘惑されるという話。
これはイーストウッドがいかんでしょう。途中、一応ひとりに決
めたみたいなのだが、それからもふらふらと他の女の部屋に
行ってしまう。あんな、耳をすませば足音も笑い声も聞こえちゃ
う屋敷でラブ・アフェアなんて、どだい無理である。軍人ならも
うちょっと慎重さがあっていいのでは。

黒人奴隷と思しき女の子が住み込みで働いていて、南軍寄り
の女学校の中でひとり、複雑な思いを抱えながらも働いている。
このひとが、キャラも良いし役者も良い。くだらない騒動よりも、
この黒人娘の出番をもっと増やせばよかった。

                                                        11.8(日) BSプレミアム








<ツイート>
今週のBSプレミアムは市川崑特集か。
『おとうと』と『細雪』はもう一回観ておきたいところだが、そんな
余裕はないな。『映画女優』『野火』『鍵』は未見。録画だ。

そして再来週は菅原文太特集! 『ダイナマイトどんどん』がある。
月末には『桐島、部活やめるってよ』がついに放送される。
もう容量がヤバい。万年言ってるが、今度はほんとにヤバい。

2015年11月14日土曜日

秋の読書④


ちかごろ全然映画を観ていないのは、観たい新作があまり無い
のもありますが、いちばんの要因は97本まで観て、すっかり気
が緩んでいるからです。人間気が緩むとロクなことがありませ
ん。2週間に1度は映画館に行かないと禁断症状が出ると思っ
てたのも、100本観なきゃという強迫観念からくる思い込みだっ
たみたいです。

というわけで、『火花』を別にすると、今年いちばんの話題作と
言っていい長篇小説をじっくりと読みました。


『忘れられた巨人』
カズオ・イシグロ 著  土屋政雄 訳  早川書房

私はあまり前情報を入れるのが好きじゃないので、今作に関し
てはほとんど何も内容を知らずに読み始めた。そして、かなり
びっくりポンだった。「じぇ!」4つぐらい。
少なくとも『日の名残り』『わたしを離さないで』の記憶がある人
なら誰しもが思っただろうと推測するが、私も「な、なにコレ!」
と困惑を隠せなかったひとりである。なんせ……。

前情報が嫌いなひとはこの先は読まないほうがいい。



今回の主人公は老夫婦。それは別にいいのだが、物語はなん
とアーサー王の時代の騎士物語がベースになっており、RPG
よろしく竜だの鬼だの魔法だのが当たり前のように出て来るん
だから面食らう。
ただイシグロらしいのは、この世界は奇妙な霧に覆われており、
どうやらそのせいで人々の記憶がすこしずつ奪われているよう
なのだ。村に居づらくなった老夫婦は、息子に会いに旅に出る
ことを決意するのだが、息子がどこに住んでいるのか、そもそ
も息子は生きているのか、それすらも忘れかけてしまっている。

ここまで読めば、これまで一貫して「記憶」を重要な主題にして
きたカズオ・イシグロの姿勢は、今回もまったく変わっていない
ことが分かる。

訳文もとても読みやすい。"Buried"を敢えて「忘れられた」と訳
したのはさすがですな。「埋められた巨人」じゃイマイチ文学的
じゃない。
休日に腰を据えて読むにじゅうぶん値するんではないでしょう
か。


2015年11月9日月曜日

秋の読書③


『あこがれ』
川上未映子 著     新潮社

いつもは村上春樹以外の作家は文庫になるまで3年待つ
のだが、『きみは赤ちゃん』と『すべて真夜中の恋人たち』が
たいへんたいへん良かったので、特別扱いで単行本を購入。
しかもすぐに読む。なぜか昂まっている……未映子熱が…。

2章立ての長篇というか、2つの連作中篇といえばいいか。
主要な登場人物は、小学生の男の子・麦彦と、同級生の女
の子・ヘガティー。第1章「ミス・アイスサンドイッチ」は、小学
校4年の麦彦の視点で語られる。それに応じて文体も、あま
り詰め込みすぎないようになっており、わざと甘めにしてあ
る感じ。いつものキレがないというか、はじめはそれが気に
なってなかなか入り込めなかったのだが、読んでいくと慣れ
てきた。
たまたま今年観たマイケル・マンの『ヒート』が出て来るのが
うれしい。ヘガティーが愛好する映画なのだ。

「あこがれ」というタイトルは、読み終わって内容を振り返っ
てもなかなか、「はは~ん、だからね」という理由が思い当
たらず、ちょっと考えてしまう。誰かが書いていたが、ひらが
なで「あこがれ」といえばトリュフォー。ちょっとは意識してる
のだろうか。











「MONKEY  vol.7」
スイッチ・パブリッシング

特集が「古典復活」で、村上春樹と柴田元幸がさんざっぱら、
こちとらほとんど聞いたこともない作家の話をしたあとのペー
ジには、「復刊してほしい翻訳小説50」である。それって全部
絶版ってことじゃん! 俺たちどうすりゃいいんだよ! と誰も
がツッコまずにいられない。村上春樹のネームバリューがあ
れば、こんなむちゃくちゃな企画だって実現してしまうのであ
る。うー、1ヶ月ぐらい八ヶ岳のふもとの別荘で翻訳小説を読
みまくりたいぜ。

そして未映子さんが聞き手となった村上春樹へのインタビュー
も載っている。『職業としての小説家』を踏まえたうえで、未映
子さんが訊きたいことをさらに訊く、という形。
意外に、といったら失礼かもしれないが、インタビュアーとして
の未映子さんが非常にすぐれていて、キャリアは全然違うが、
同じ実作者としての経験や陥りやすい陥穽もからめた未映子
さんの質問に、村上春樹も楽しみながら答えているのがあり
ありと伝わってくる。とても気持ちのいいインタビューになって
いる。

短篇を翻訳したのもいくつか載っている。カーソン・マッカラー
ズのやつがおもしろかった。







2015年11月7日土曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN / ストレイテナー


KYO-MEI 対バンツアー  ~命を叫ぶ夜~

【ストレイテナー】

何の予習もしなかったので、曲は全然わからん。
以前、ライジングサンでちらっと聴いたときは、あまり色の
ない無機質な感じのロックという印象だったが、今回ちゃん
と聴いてみると意外にメロディアス。バラードも歌っていた。
なんだかスキマスイッチみたいな曲だったが。


【THE BACK HORN】

1. その先へ
2. ブラックホールバースデイ
3. 戦う君よ

4. 幻日
5. ファイティングマンブルース
6. 悪人
7. キズナソング

8. 真夜中のライオン
9. コバルトブルー
10 .シンフォニア

Encore
1. 路地裏のメビウスリング
2. 刃

                                               10.30(金) ZEPP TOKYO


対バンだから(ストレイテナー「だけ」のファンもいるので)、
ある程度はシングル曲でまとめてくる……かと思いきや、
そうでもない。最初の3曲は、セットリストに入ること自体は
意外ではないが、ここでこの3曲をたたみかけるのは今ま
でにないパターン。一気にものすごい熱気に包まれる。
マツが軽く喋ったあと、「幻日」からの「ファイティングマン
ブルース」(!)、そして「真夜中のライオン」には驚いた。
振り返ってみても、実に見事な流れですなー。

「キズナソング」の代わりに「初めての呼吸で」をやった
会場もあったとか。そ、そっちがよかったなぁ。なんて。

2015年11月5日木曜日

秋の読書②


『あしながおじさん』
J.ウェブスター 著  土屋京子 訳  光文社古典新訳文庫

帯の「おじさまは、ハゲですか?」という一行だけの引用に
ヤラれ、思わず購入。カンボジアに行く飛行機で半分読ん
だところで、見事に機内に忘れて来たので、帰国後にもう
1冊おかわり。無事、読了できた。

もとは婦人雑誌に連載された(いまの日本でいうところの
『ミセス』とかだろうか?)ということからも分かるように、
想定されている読者は中流階級以上の女性であり、別に
子どもむけの児童書ではない。かくいう私もなんとなく、そ
ういうイメージだった。

主人公は孤児院で育ち、親の顔も名前も知らないが、いつ
も元気で作文が得意な女の子、ジュディ・アボット。
さる「評議員のおじさん」の厚意で大学に通えることになる
のだが、そこで出された条件が一つ。最低でも月に一度、
おじさん宛てにキャンパスライフのあれこれや、勉強してい
ることについて手紙を書くこと。ただし、おじさんからは一切、
返事は期待しないこと。以上。
作文の得意なジュディは、飾らない文章で楽しい手紙を月
に一度といわず、二通も三通も書く。おじさんの返信はない
ので、小説はジュディの手紙でほぼすべてが構成されてい
る。そこにはルームメイトのこと、勉強のこと、大学の行事
のこと、そして密かな恋のことがつづられるのだが…。

いやー、これ以上は言えないな。
ていうかみんな、こういう話だって知ってた? 私は知りま
せんでした。










『ニューヨークより不思議』
四方田犬彦 著    河出文庫

ジム・ジャームッシュの『ストレンジャー・ザン・パラダイス』を
もじって、「Stranger than New York」というわけである。

四方田氏がコロンビア大学の研究員としてニューヨークに1年
間滞在したのは1987年。その時の見聞のあれこれを、おもに
アジア系のアーティストたちとの交流に特化してエッセイに著し
たのが本書の前半部分。ほんとにこんなに色々なひとたちと
仲良くなれるのか、というほど多くの人名が親しげに出て来る。
四方田氏のことだから、まあ……。話半分で聞いたほうがいい、
というと怒られそうだけど。
寡聞にして知ってる名前はほとんど出て来ない。ナムジュン・
パイクとチェン・カイコー、河原温、あとは『ラスト・エンペラー』で
溥儀を演じたジョン・ローンぐらいなものか。

後半は、それから28年後。2015年に四方田氏はふたたびコロ
ンビア大学の招きでニューヨークに滞在する。今度はキューバ
人アーティストとの交流に多くのページが割かれる。

こんなこというと怒られそうだが、たぶん本人に会ったら鼻持ち
ならない人物だと思うのだけれど、四方田氏の文章は心地よい。
とても好きな文章だ。

2015年11月2日月曜日

【LIVE!】 サカナクション


SAKANAQUARIUM 2015-2016 “NF Records launch tour”

01. ナイトフィッシングイズグッド (Iw_Remix)
02. アルクアラウンド
03. セントレイ
04. Klee
05. Aoi
06. 蓮の花
07. 壁
08. years
09. ネプトゥーヌス
10. さよならはエモーション
11. ネイティブダンサー
12. ホーリーダンス
13. 夜の踊り子
14. SAKANATRIBE
15. アイデンティティ
16. ルーキー
17. 新宝島

Encore
01. グッドバイ (NEXT WORLD REMIX)
02. ミュージック
03. モノクロトウキョー
04. 白波トップウォーター

                                                        10.26(月) 日本武道館


なんでもかんでもコストパフォーマンスで考えるのはつまらない
傾向だとは思うけれど、これは「元のとれる」ライブというか、チ
ケット代を遥かに超えるパフォーマンスだったと思う。質が高い。

今回、個人的に確かめたかったことがあって、ほんとにあんな
キーの高い曲ばかりを歌って、山口一郎の喉は2時間もつのだ
ろうかと正直私は疑っていた。しかし彼は涼しい顔で、ほとんど
ピッチの狂いもなく歌い切ったのである。たいしたやつだ。

アンコールまでほぼMCなしで粛々と進行したので、てっきり喋る
のは好きじゃないんだと思っていたら、アンコールではよう喋る。
そして意外に硬軟おりまぜた慣れた話しぶりで、おもしろい。
うーむ。なかなかすごいやつだ。

かつて私はライジングサンでの圧倒的なパフォーマンスを見て、
このバンドはBUMP OF CHICKEN並の人気が出てもおかしく
ないと書いた。バンドはそこから明らかに、大衆向けというよりも
マニアックな方向に舵を切った(という言い方は正確ではないか
もしれない。それは誰かが舵を切るものではなく、最初から山口
一郎の中にあったものだと思うから)ため、そこまでのポピュラリ
ティを獲得するには至っていないが、確かに誰も先駆者のいな
い道をかき分けながら進んでいるように見える。こんなに追いか
けがいのあるバンドも久しぶりだ、とそんな事を考えた夜であった。

ベストアクトは、もともと好きな曲というのもあるが、「壁」に。

2015年10月31日土曜日

アクトレス~女たちの舞台~


☆☆☆★       オリヴィエ・アサイヤス      2015年

「キネマ旬報」の女優特集でジュリエット・ビノシュの記事を読んでい
たのだが、新作はなかなかおもしろそうだし、51歳になられたジュリ
エット様を観よう、とふと思い立ち、チケットを買って40分後にはもう
劇場に居たというわけである。釧路ではよくこういうことをしていたが、
東京の映画館は混んでるから、地味な映画でないとなかなか難しい。

彼女が当ブログの公式ミューズであることはいまさら繰り返すまでも
ないことだろうが、あいかわらずの美しさ。特に第1章の映画祭パート
でのうるわしさに心を奪われる。内容も第1章のほうが断然よくて、後
半は明らかに「マローヤのヘビ」の再演がどうなるのかで長いこと引っ
張り過ぎである。ジュリエット様を脅かす若き才能としてクロエ・グレー
ス・モレッツが出て来るのだが、ようやく火花を散らし始めるのは映画
の最終盤。「なかなか始まらないなー」から、終盤に至り若干の「もう
どうでもいいや感」が漂いはじめてしまった。
物語のカギを握るマネージャー役のクリステン・スチュワートという女
優、ずいぶん巧いなぁ、けど知らないなぁと思っていたら、「トワイライ
ト」シリーズでティーンの間では既に絶大な人気らしい。ティーンじゃ
ないから知らないね。

原題はこんなヘンな題名ではなく「シルス・マリア」。第2章の舞台と
なるスイスの田舎の地名である。まあ、私も含めて日本の観客には
「シルス・マリア」と言われてもピンと来ないひとが多いだろうから、
何か付けるのは良いと思うが、なんだかねー。

しかし洋画を劇場で観るのはだいぶ久しぶりだ。最近、観たい洋画
がほとんどない。

                                                              10.25(日) シネマカリテ


2015年10月24日土曜日

秋の読書


『海の向こうで戦争が始まる』
村上龍 著     講談社文庫

シェムリアップのホテルで読み始め、そこで読み終えた。
なかなか快適なリゾートホテルだったもので、読書だって
進みますわ。

「限りなく透明に近いブルー」に続く、2作目の小説である。
研ぎ澄まされた文章感覚による流麗で、きらびやかで、と
きにグロテスクな描写がこれでもかと展開される。ひとつ
の文学的な境地だとは思うけど、「若書き感」に胸焼けが
しないでもない…。
文章は「読ませる」が、まともなストーリーは無きに等しい。
ここから『コインロッカー・ベイビーズ』まではだいぶ大きな
飛躍があるように思うが、次の小説がそれなのである。
おもしろいですなぁ。









『正しい保健体育』
みうらじゅん 著     理論社

まあなんというか、みうらじゅんに興味のないひとには、
なんの意味もない本ではある。みうらじゅんが、高校生
むけに性教育を語っている体で、ふざけまくっている本
である。教科書だと思って買わないようにしてください。

2015年10月21日水曜日

バクマン。


☆☆☆★★         大根仁         2015年

「ジャンプ」でアンケート1位を獲る!(そして小松菜奈と結婚
する!)を目標に、高校生マンガ家として全身全霊でマンガ
に取り組むふたりの主人公 (神木隆之介、佐藤健)。
とても「頑張れば報われる」世界ではないわけだが、そこは
「ジャンプ」のモットー「友情・努力・勝利」を物語の展開にも
援用することで、爽やかで正統的な青春映画になっていた。
ベタな展開を微妙にズラしてくるうまさや、「ペン先」に異様な
ほど執着した描写や音響も、面白かった。つい最近「浦沢直
樹の漫勉」(Eテレ)を観ていなければ、この辺の描写はもっ
と新鮮だったと思うが、それは大根仁のせいではない。
主人公を美少女キャラにすげ替えて人気が上昇する、という
のはちょっと安易な気がしたが。

佐藤健が憧れるヒロインは小松菜奈。『渇き。』では、おクスリ
はやるは援交はやるは同級生は死に追い込むわで、悪魔み
たいな女の子だったものだが、一転して声優を目指し頑張る
透明感のある美少女。陰のある笑顔が印象に残る。

エンドロールが凝ってておもしろかったので★半分増量かな。

                                                   10.19(月) TOHOシネマズ渋谷


2015年10月19日月曜日

岸辺の旅


☆☆☆★★★         黒沢清       2015年

かなり良かった。
冒頭の、たどたどしくピアノを弾く少女には、「なんか『トウキョウソ
ナタ』みたい…」と思ったが、無事、まったく違う作品になりました。
黒沢清の良いところが、映画のおもしろさとうまく結びついていた
と思う。だいたい「死者と旅するロードムービー」という素材からし
てもうピッタリなのは明白である。

いつも「役者は誰でもいい」感じがする黒沢作品だが、今回は珍し
く(というか初めて?)ラブシーンまであり、さすがに演じる役者に
肉体性があまり感じられないのでは困るだろう。そういう意味でも、
今作の浅野忠信と深津絵里は実に素晴らしかった。私は、最初に
浅野忠信が「うん…」と言っただけで、「これは良い映画になるかも
しれない」という予感に胸が高鳴った。
そして蒼井優……。ほんとに小憎らしいぐらいに巧い。登場はごく
短いシーンのみだが、その印象は鮮烈である。
島影さんを演じた小松政夫もよかったよ。

どうしてか黒沢清の映画はいつも、スクリーンを見つめるというより
も、こちらがカメラを覗き込んで俳優の動きを観ているような気分に
なる。だからカメラが動くと不吉な予感にざわざわするし、ゆっくりと
パンした先で誰かが急に画面に飛び込んで来たりするとギクッとす
る。飛び降り自殺があると(今回はなかったが)、「やばいもんを見
てしまった…」という気になるのである。

次回作も、その次も決まっているらしい。やっぱり黒沢清からは目
が離せませんなー。ちなみに私は新宿に向かう小田急線で見かけ
たことがあります。ノートに何かメモってました。「じ、次回作の構想
か…」とドキドキしました。

                                                            10.10(土) テアトル新宿


2015年10月17日土曜日

勝手にしやがれ!!成金計画


☆☆☆★           黒沢清       1996年

「白い粉」をめぐる騒動を軽快に描く。「英雄計画」に比べると
だいぶバカバカしいが、力が抜けていてこちらの方が好き。
本来の味に近いのはこちらなんだろうという気がする。

                                                  9.30(水) シネマヴェーラ









<ツイート>
21日(水)からTBSで、石井裕也が脚本・演出のドラマが始まる
そうですな。「おかしの家」。観てやろうじゃないの。

2015年10月13日火曜日

勝手にしやがれ!! 英雄計画


☆☆☆★     黒沢清     1996年

「勝手にしやがれ」シリーズを観るのは初めて。
なのにシリーズ最終作から観ることになってしまった。
哀川翔と前田耕陽のコンビが繰り広げる活劇のシリーズである。
ときどき絡む洞口依子と大杉漣の斡旋屋が良い味出している。

低予算・短期間を逆手にとった黒沢清らしいひねりの利いた演出
が魅力のシリーズらしいが、今回は寺島進演じる狂信的な青年
に二人が振り回される話で、意外にダーク。痛快ではない。
女優ウォッチャーとしては、二十歳そこそこの黒谷友香が出てい
るのが見逃せない。

                                                       9.30(水) シネマヴェーラ








<ツイート>
Eテレで「ニッポン戦後サブカルチャー史Ⅱ」が始まった。
第1回のテーマはなんと「女子高生」。これがすこぶる面白かった。
かゆい所に手が届く構成で、それこそ痛快だった。

女子高生の制服というのはフシギだなーと前々から思っていたのだ。
話は戦後どころか明治にまでさかのぼる。洋装を取り入れた「女子
の制服」は、女学校の誕生とともに既にあったのである。ただしその
時点ではセーラー服ではない。セーラー服は、はじめ福岡県のある
学校が採用し、それが評判となって全国に普及し、「女子高生といえ
ばセーラー服」のイメージが定着するほどになっていったというのだ。

そして限りなく怪しい(?)フィールドワークを通して1985年に『東京
女子高制服図鑑』をものした森伸行が登場。都内の高校の女子の
制服を、路上や電車で観察してはスケッチしていたというからこの人
は凄い。何かと紙一重である。しかも発表した当時は、赤瀬川原平
に師事する現役大学生だったというから驚きである。つまりフィール
ドワークは高校生のときから…。かなり危ない…いや知的に早熟な
高校生である。

女子高生というものの特殊性・特権性に、鋭く切り込んでいく番組だっ
た。『桃尻娘』のあとに、ちゃんと太宰の「女生徒」を紹介したのもグッド。


しかしツイートの方が長いね。

2015年10月11日日曜日

ぼくらが旅に出る理由


♪ 遠くからとーどーく、宇宙のひかり~

ということで、カンボジアとベトナムに行って来ました。

【シェムリアップ】







【ハノイ】






2015年9月30日水曜日

サンダーボルト


☆☆☆★       マイケル・チミノ      1974年

原題は"THUNDERBOLT AND LIGHTFOOT"

銀行の金庫を大砲で破壊して圧倒的な素早さで犯行を終え
ることから「サンダーボルト」の異名をもつのがイーストウッド。
昔の仲間に追われているところをジェフ・ブリッジス演じる「ラ
イトフット」というチンピラの兄ちゃんに助けられ、旅を続けるう
ちに、ふたりはコンビを組むことになる。そこに昔の仲間が絡
んできて…。

ロードムービーであり、クライム・アクションでもあるのだが、
全体を流れる空気はなんだかのんびりしている。
のちに大作ばかり撮るようになるマイケル・チミノの初監督作。
この時点では『ダーティハリー2』の脚本をイーストウッドに気
に入られたただの脚本家だったそうだ。

実はこれで92本目だったりする。
東京に転勤して、今年こそ100本観てる暇はないだろうと思っ
たが、とてもあっさり達成しそうである。日々のたゆまぬ努力
のおかげであろう。とあるビッグ・プロジェクトに組み込まれる
来年こそ、無理かも……。

                                                       9.24(木) BSプレミアム


2015年9月29日火曜日

回路


☆☆☆★★         黒沢清        2000年

お目当てはもちろんこちら。

黒沢清の映画に出て来る幽霊たちは、直接人間を殺すことは
ほぼない。むしろ魅入られた人間が精神に異常をきたして自殺
するか、他の人間を殺し始める。それがまた怖いのだが。
今回は、霊界から溢れた幽霊が地上に現れ、普及し始めていた
インターネット回線を伝わって移動・増殖するという話。
恐怖演出は、もちろん怖いのだけど、「冴えてる」までは行かない
かな。
人が飛び降り自殺するのをさりげなくワンカットで撮ってるのだけ
ど、どうやってるんだろう。たしか『叫』にも同じようなシーンがあっ
た。

                                                        9.13(日) シネマヴェーラ


2015年9月23日水曜日

ココロ、オドル


☆☆★★         黒沢清       2004年

シネマヴェーラの黒沢清"レトロスペクティブ"に参戦。
レトロスペクティブとは「回顧上映」の意。

これは短篇映画だが、存在すら知らなかった。
なんか雑誌の付録DVDのために制作されたとのこと。

相変わらず、何がなんだか分からないが、即興でやって
いる場面が多いのか? エチュードみたいな感じだった。

                                            9.13(日) シネマヴェーラ









<ツイート>
まったく関係ないんだけど、「MJ」でNegiccoの「アイドル
ばかり聴かないで」という曲をチラッと耳にしたときに、
それこそ雷に打たれたような衝撃が走り、すぐにiTunes
で買ってしまった。曲自体はもう2年前の曲とのことなの
で、マメにアイドルをチェケラしてるひとには有名なのだ
ろうけど。

歌詞もなかなかおもしろいのだけど、一聴すればすぐ分
かように、小西康陽がプロデュースしている。もろにピチ
カート・ファイヴのサウンドである。独特の流麗なストリン
グスにのせて、「アイドルばかり聴かないで ねえ、私を
見てよね」という歌詞を、アイドルであるNegiccoが歌うと
いう、なんとも倒錯した感じにかなりグッとくる。倒錯にこ
そグッとくるとか言ってると、なんだか自分が島田雅彦に
でもなった気分ですが。
愛聴してます。

2015年9月21日月曜日

残暑の読書②


残暑もそれほど厳しくないですが。


『職業としての小説家』
村上春樹 著      スイッチ・パブリッシング

私も村上主義者のはしくれなので、正直いって一度ならず
読んだことのある話も多い。
普段の生活、長篇小説と短篇小説とエッセイの位置づけ、
執筆の方法、学校がおもしろくなかったこと、ジャズ喫茶を
やってた頃のこと、『風の歌を聴け』を最初ためしに英語で
書いてみたこと、奥さんに最初に読ませること、登場人物
に名前を付けるのが気恥ずかしかったこと、などなど…。
枚挙にいとまはない。

でも、初めて書いた(と思われる)ことも、同じぐらい多いな、
という印象。文学賞について思うこと、小説家の「寛容さ」に
ついて、また、10回ぐらい書き直すというのは聞いていたが、
各回でどういう風に書き直すのかは初めて明かしたのでは
ないか、あとは、キャラクター設定をするときの詳細や、子ど
もの頃や学校でのエピソードにも、初めて読むものが少なか
らずあった。そしてどれも興味深いものばかりであった。

もちろん村上春樹という小説家の成り立ちも興味深いのだ
が、やはり村上主義者のはしくれとしては(2回目)、「なぜ
村上春樹はこの本を書こうと思ったのか」という方にも関心
が向かってしまう。そしてそれは、66歳という年齢とも無関
係ではないだろう。











『紫式部の欲望』
酒井順子 著       集英社文庫

『源氏物語』を、作者である紫式部の「欲望」から読み解いて
いくという、なかなか意欲的なエッセイ。こういう本を手に取る
とこをみると、私はいまでも『源氏』を読みこなすことに一種の
憧れがあるんだなと思う。足を骨折して1ヶ月入院せざるをえ
なくなったら、また谷崎訳に挑戦してみたいものだ。でも、ほん
とにそうなったらそうなったで、他に読みたい本がいっぱいあ
る。『白鯨』も『魔の山』も読みたいし、『感情教育』も『荒涼館』
も、『明暗』も池澤夏樹訳の『古事記』も、『サハリン島』も…。
ということで、「1ヶ月入院したら何を読むか」というのは私の中
ではしばしば真剣にやる妄想なのだが、皆さんはそんなことな
いですか。ないですよね。










2015年9月19日土曜日

世界の果ての通学路


☆☆☆         パスカル・プリッソン      2012年

世界は広い。
ケニアには、象に遭遇しないよう注意しながらサバンナを15km
歩いて通学している兄妹がいる。アルゼンチンには、愛馬にま
たがって妹と一緒に荒野を学校に向かう優しい兄がいる。本当
に見渡す限り何もない荒野である。
かくいう私も、レベルは比較にならないが、毎日11kmの道のり
を、自転車で爆走して高校に通っていた。それもポータブルMD
でレッチリを聴きながら。危険走行である。

目のつけどころは面白いのだが、この映画にはおおいに疑問
がある。
本当に子どもたちの通学に密着して撮ったのなら「はじめての
おつかい」のような画にならないとおかしい。しかし実際は、観
ていただければ分かるが、かなり綿密なカット割りのもと構成
された流麗なシークエンスが展開される。ケニアの兄妹を迎え
打つアングルの次に切り返しで後ろからのカットがあり、足の
アップの歩きフォローがあり、兄の越しショットがあり、妹の越
しショットがあり、ロングショットがあるかと思えば湖の対岸から
のショットまであったりする。中には、絶対に同じ動作を3回繰
り返してもらわないと撮れない(カメラが写り込むから)カットが
平然と連続で並んでいたりする。まあつまり、これは密着ドキュ
メントではなく、再現ドラマに近いものだと思ったほうがいい。

以前「怒り新党」で観た海外の胡散くさい猛獣ハンターの番組
(アナコンダと水中で格闘したりするやつ)にも驚き呆れたが、
海外のひとってこういうのはあまり抵抗ないんだろうか。想像し
てみて欲しいが、「はじめてのおつかい」がものすごい計算され
たカット割りで展開されたら、誰も観なくなると思うのだが。

                                                       9.8(火) BSプレミアム


2015年9月16日水曜日

ミッション:インポッシブル


☆☆☆★★      ブライアン・デ・パルマ      1996年

初めて観ました。
冒頭のたるんだ感じの作戦会議と作戦行動に、なんだこんな
もんか…と思ってしまったが、なるほどあれは全然布石なわけ
ね。さすがはブライアン・デ・パルマ。観終わって疑問点もいくつ
かあるにはあるが、結局、最後には手に汗握らされてしまった。
おもしろかったです。

ジム役のジョン・ヴォイトって、『真夜中のカーボーイ』の、あの
自信過剰の絶倫男か! そしてアンジェリーナ・ジョリーのお父
さん…。

                                                        9.7(月) BSプレミアム


2015年9月14日月曜日

肉弾


☆☆☆★         岡本喜八        1968年

寺田農、主演。ちょっと雰囲気が緒方拳とカブるが、かなり
の怪演である。岡本喜八流のユーモアが炸裂する一作。

女優・大谷直子のデビュー作らしい。『ツィゴイネルワイゼン』
の妖艶さは忘れがたいが、この頃はまだ女学生の役がぴっ
たりである。惜しげもなく裸体をさらしている。原田美枝子と
いい、昔の女優はえらいなぁ。

                                                    9.7(月) BSプレミアム


2015年9月11日金曜日

ロマンス


☆☆☆★★★       タナダユキ      2015年

落ち目の映画プロデューサーを大倉孝二、ロマンスカー
の売り子を大島優子が演じる。全篇、ほぼ二人による芝
居で展開していく。口八丁と厚かましさで世を渡ってきた
業界人を大倉が見事に体現していてかなりおもしろいの
だが、大島優子もまったく引けをとらない堂々とした演技
で、正直いって期待以上。この役は「ふてくされていても
可愛い」というのが条件だと思うが、なかなかにキュート
だった。

こういうの好きだわぁと思いながらキネマ旬報を読むと、
モルモット吉田さんはけっこう酷評。あらら…。
まあたしかにロマンスカーという設定はあまり活きてい
なかった。

                                                9.4(金) 新宿武蔵野館


2015年9月9日水曜日

残暑の読書


「橋を渡る」
吉田修一 著

まだ単行本になっていないが、週刊文春の連載を毎週律儀に読んだ。
いちおう、長篇小説を1冊読んだことになろう。

読み終わった今だから分かるのだが、これは一気に読むべき小説で、
雑誌連載には不向きだ。構成としてはいくつかの短篇小説のような断
片が提示され、それが最後のピースで収斂していく。最後は近未来が
舞台のSF風のピースなのだが、そこに来るまで、各々の断片の関連
性はまったく分からない。

近未来SFというのは吉田修一の新境地かもしれないですね。おそらく
50年後ぐらいの世界で、そこでは「サイン」と呼ばれるクローン人間(?)
たちが、半分ぐらい市民権を与えられて生きている。サインと結婚する
こともできるようだが、その結婚生活の内実は、主人と召使の関係と変
わりない。おおかたのサインたちは、兵士や家政婦や、言い方は悪い
が慰みものとして生きているようだ。
その世界に生きる、元兵士のサインを主人公として最後のピースは展
開し、そこに、それまでのいくつもの断片に登場した人物の、つまり50
年前の人物たちのとった行動が、様々に影響を与えていることが少し
ずつ分かってくる。なかなか巧みな構成になっているのである。

単行本が出て、文庫になったぐらいでもう一度読み返してみよう。

一時、文春が嫌韓・嫌中記事を派手に書いていたとき(今もなくなって
はいないが)に「ひとり不買運動」をしていたのだが、この連載が始まっ
てからは、買わざるを得なくなった。運動は一時休戦となった。
でもまた再開してもいいかもなと思っている。百田尚樹の連載なんかを
ありがたがってる週刊誌はほんとはあまり買いたくない。



『「4分33秒」論』 「音楽」とは何か
佐々木敦 著     ele-king books

5回にわたる「4分33秒」についての講義を採録したもので、ほんとにま
るごと1冊「4分33秒」の話をしているという、狂気の書である。
「何も演奏されない曲」について、これまで書かれた批評も引用しなが
ら語り続けるわけである。批評ってすごいよね。


2015年9月7日月曜日

モーターサイクル・ダイアリーズ


☆☆☆★★       ウォルター・サレス      2004年

ふと思い立って借りて来た。
バイクの音をどういう風にしてるのかなーというのを確認した
くて再見したのだが、そういえばバイクは中盤までも行かない
とこで壊れるんだった! 忘れていた。日記を書いてるシーン
もごくわずかだし、「モーターサイクル」も「ダイアリー」も、なん
だか実状を反映していない。でもまあ、カッコいいタイトルだか
らいいか。

チェ・ゲバラが医学生だった時の「南米大陸バイクの旅」を元
にしたロードムービーである。嘘のつけない、真面目で一本気
な青年として描かれている。
あの銅山の夫婦に会ったことが、彼にとって決定的な経験に
なった、ということなんだよね? 久しぶりに見返して、やっぱ
り良い映画だと思った。

                                                                  8.29(土) DVD







<ツイート>
9/12から渋谷のシネマヴェーラで黒沢清の特集上映が始まる。
東京近郊にお住まいの方は、これを逃す手はない。どれを観て
も、時間を損することはないと保証します。私も通えるだけ通お
うと思っている。きっと橋本愛や前田敦子も出没するのでは…?
分からないけど。

2015年9月5日土曜日

黒部の太陽


☆☆☆★         熊井啓        1968年

黒部ダムの建設に文字通り骨身を削って尽力した男たち
の姿を「骨太に」「重厚に」描く超大作映画。三船敏郎と石
原裕次郎、二大スターの共演で当時話題だったらしい。

工事は当然、困難に次ぐ困難が降りかかり、もうこれでき
ねぇんじゃね、という空気が現場にも漂い、士気は下がり
まくっていた。掘れば掘るほど、水が噴き出してきて作業
員が流されるし、補強材も壊れる。補強材が壊れる直前
のミシミシいう音が恐い。

本作とか『八甲田山』とか、昔はこうやって凄まじい製作費
をかけて、大物俳優にも尋常ではない肉体的な負担を強
いて、それでも大赤字という話は聞かないのでちゃんと元
が取れていたのだろう。斜陽斜陽と言われながらも、それ
だけ多くのひとが劇場に足を運んだということだ。

                                                   8.25(火) Blu-ray Disc


2015年9月3日木曜日

この国の空


☆☆☆★★       荒井晴彦        2015年

茨木のり子の「わたしが一番きれいだったとき」を、戦時下
に生きた二十歳の女の子(二階堂ふみ)に重ねたその企み
はナイスである。
荒井晴彦の脚本はさすがに巧みで、隣に住む、妻子を疎開
させた男(長谷川博己)と関係を結ぶのは分かっているのに、
うまく焦らすというかかわすというか……。そうやってじりじり
しながら待っていると、川辺での工藤夕貴のセリフに驚くこと
になる。

二階堂ふみはなんだか変わった喋り方をしていたが、小津や
成瀬を観て自分なりに昔の女の子の喋り方を研究したらしい。
ふーん。彼女もけっこうなシネフィルなんだよね。末恐ろしいわ。

そしてとてもナイトシーンの多い映画だった。
照明さんお疲れ様です。

                                                     8.24(月) テアトル新宿


2015年8月29日土曜日

盛夏の読書②


盛夏といいつつ、涼しい日が続いてますが。


『コインロッカー・ベイビーズ』
村上龍 著     講談社文庫

今まで読んでいなかったのは迂闊だった。とんでもない傑作。
読みながら残りページを気にして「あぁ終わっちゃう、読み終
わりたくないなー」という本は、年に1冊あるかないかぐらいだ
けど、まさにそれであった。
冒頭は母親が産んだばかりの赤ちゃんをコインロッカーに置
き去りにする場面である。そこからあっという間にハシ、キク、
アネモネの物語に引きずり込まれ、さながら海中を漂うようで
ある。だんだんと、水面に戻って息つぎするよりも、このまま
海中にいるほうが快適なような気がしてくる。危険だ。

ハシの物語は、こないだ読んだジュネを思わせる同性愛の要
素が色濃い。天性の歌声で歌手として芸能界で成功し、やが
て精神に変調をきたして転落していくという、普遍的な「栄光
と破滅」の物語でもある。一方のキクは運動選手であり、ハシ
のように精神が不安定ということもない。アネモネと出会い、
"ダチュラ"の謎を追い求めていたが、ある決定的な事件のさ
なかに殺人を犯し、函館刑務所に服役することになる。
なによりハシとキクはふたりとも、嬰児のときコインロッカーに
置き去りにされた孤児である。一度は死にかけるが、熱さで
息を吹き返し、泣き声をあげた「生き残りの孤児」である。
ふたりが九州の離島で一心同体のように育ち、やがて都会に
出てたくましく生きるさまは『悪童日記』を思わせる。

様々な要素がすさまじい濃度で、たたきつけるように書きつけ
られた小説である。思えば、このどこか一部を切り取って希釈
したようなうすっぺらい映画をこれまでたくさん観せられてきた
ような気がする。各方面に与えた影響は大きいのだろう。

がぜん村上龍に興味がわく。いくつか読んでみよう。










『8割の人は自分の声が嫌い』 心に届く声、伝わる声
山﨑広子 著    角川SSC新書

ふだんこういうタイトルの本は手に取ることもないが、森達也が
推薦していたのもあって読んでみた。

しかし声というのは本当に微妙なバランスの上にはかなく、危う
く成り立っているものなのだ。声に体調が出るというのはみんな
なんとなく分かるだろう。私が思い出すのは、キャンディーズの
スーちゃんの葬式で流れた、死の直前に録音されたスーちゃん
の声で、あの弱々しく力のないスーちゃんの声は、今思い出した
だけでもゾッとしてしまう。朝のワイドショーで流していいものでは
なかった。

いちおう商売柄、人間の声に興味を持っている。
広瀬すずちゃんにも教えてあげたいけど、人間の声を録る、そ
して声をドラマの内容にベストフィットするように加工するという
のも、これなかなか奥深い世界なのである。あ、断わっておくが
私は広瀬すずの発言には全然腹は立ってない。本当に疑問に
思ってたことを素直に言っただけなんだと思う。ただそれがテレ
ビだったので騒ぎになってしまっただけだ。私も十代の頃は(と
いうか今でも、か?)、いま思うと冷や汗が出るような失礼なこと
をいろんな人に言っていた。



2015年8月27日木曜日

ソロモンの偽証 後篇・裁判


☆☆☆★            成島出        2015年

いよいよ学校内裁判が始まる。
ネタバレになるので詳しくは書かないが、結局なんとも律儀
というか、最初から明らかに怪しかった奴が、やはり決定的
な秘密を持っているという展開で、意外性も何もあったもん
じゃない。

主役はオーディションで選ばれ、映画の役名でデビューした
藤野涼子。まだあどけないが、まっすぐで偽りの無い眼には
たしかな力がある。役にもピッタリ。
黒木華は今回は気が弱くて人のいい新任教師という役どころ。
好演していたが、持ち味を活かせてた感じはあまりないかも。

前篇121分、後篇146分となかなか長い。でももともと長い話な
のだろう。むしろ「省略してる感」があった。

                                                        8.18(火) 早稲田松竹