2016年11月30日水曜日

ブラッド・ワーク


☆☆☆★★   クリント・イーストウッド   2002年

"Blood Work"は「血液検査」の意。
血、血液型、臓器移植、連続殺人、血文字のメッセージ。
とにかく血のイメージで埋め尽くされたサスペンス。

今回のイーストウッド様は元FBIの心理捜査官。事件現場
の様子や遺留品からプロファイリングをする専門家である。
なぜか港に停泊中のクルーザーで生活している。

イーストウッドの"神がかり"が始まる前の作品だが、よく出
来ていて、一気に観させる。やはりタフガイを演じさせれば
右に出る者はいないね。ブルースハープが印象的に使わ
れる。イーストウッドは音響にもとても気を遣っているから
毎回感心させられる。

                                                  11.21(月) BSプレミアム







<ツイート>
来年2月に新潮社から新作長篇だそうで。
あれから、実に3年10ヶ月ぶりだそうで。
あれから、僕たちは、なにかを信じてこれたかな…ということで。
アンデルセン賞の講演では「また一人称に戻って、主人公に
名前は無い」と語ったそうで。
つまり、ひとことでいうと、月並みですが、まあその、虚飾を
とり払うと、や、率直に言って、畢竟、その実、というかまあ、
楽しみ、ですね。
僕は発売日、会社休みますね…。

2016年11月28日月曜日

ダゲレオタイプの女


☆☆☆★★    黒沢清    2016年

世界最古の写真技術のひとつ、ダゲレオタイプ。
長時間の露光が必要なため、被写体は40分とか
60分とか、そういう単位で「一切動かない」ことを求
められる。特殊な器具で身体を固定された状態で、
ひたすら耐えるのである。

ダゲレオタイプを得意とする写真家のステファン。
才能には恵まれており、注文は絶えない。彼は注文
仕事以外にも、妻を被写体に写真を撮っていた。
妻が死んだいまは、娘をモデルに写真を撮っている。
主人公の若い男は、アシスタントとして現場で働き始
めるが、やがてステファンの「妄執」ともいうべき写真
への異常な情念を垣間見るようになる。

フランスの俳優を使い、フランスのスタッフで撮っても、
どこをどう見たって黒沢清の映画である。というかむ
しろ、近年の日本で撮った作品よりも黒沢清の色が
偏執狂的に出ている。それは、俳優がフレームアウト
したあとに不気味な漸進を始めるカメラや、意味あり
げにフレームに映り込む鏡、幽霊の緩慢な動き、誰
もいなくなった部屋、勝手に開くドア、階段を上り、転
げ落ちてくる俳優をワンカットで撮ること、音響の不吉
さ、自然界ではあり得ない照明の使い方、生者と死者
との境界の曖昧さ(もしくは境界が存在しないこと)。
だれが言ったか「黒沢清の全部盛り」状態で、ファン
にはきっとご満足いただける内容である。私? もち
ろん大満足である。

                                             11.14(月) シネマカリテ


2016年11月25日金曜日

ミス・サイゴン


ミュージカルにはてんで疎いので、どう鑑賞していいか
もいまいち分からなくて、そわそわしていた。それでも
ただ茫然と舞台を見つめ、歌を聴いていると、いちいち
が新鮮である。帝国劇場に足を踏み入れるのからして
初めてなので。

ストーリーはシンプル。
ベトナム戦争のさなか、アメリカ兵とベトナム女性の恋、
それを無情に引き裂く戦火、時の流れ…。歌で説明で
きる範囲なので、必然的に分かり易くなるのだろうし、
そうでないと困る。そしてシンプルで分かり易い話型と
いうのは限られるから、話はどこか神話めいてくるよう
に思う。オペラがギリシャ悲劇や神話・民話の類と親和
性があるのと無関係ではあるまい。

それにしても数をこなしていないゆえに、自分がこのミュ
ージカルを語る言葉をほとんど持っていないことに気付
く。いかに普段、映画を語るときは、原作と比べてどうだ
とか、監督の他作品と比べてどうだとか、「関係」の中で
しか語っていないということだろう。

                                                   11.9(水) 帝国劇場


2016年11月23日水曜日

永い言い訳


☆☆☆★★★    西川美和    2016年

西川さんは、容赦がない。『ゆれる』でオダギリジョーが
さっさと部屋を去ったあとのトマトの輪切りのアップや、
『ディア・ドクター』でスイカを食べながら「自分は偽物だ」
と鶴瓶が告白するシーンを観て、「こんな映画を撮るひ
とは恐ろしいひとに違いない」と震えたものだ。

特に男女関係を描くとき、その刃は最も研ぎ澄まされる
感じがする。本作でもっくんは妻がバス事故で死んだそ
の時、愛人を家に入れて行為に耽っていた。西川さんが
もっくんに用意した罰には心底震えずにはいられない。

もう一人の主役は竹原ピストル。素晴らしい。
そして子どもたちが可愛い! 利発で健気な長男にも
涙腺を刺激されるが、やはりいま人類でいちばん可愛
いと思われる白鳥玉季ちゃんである。「とと姉ちゃん」で
星野の娘だったコです。はたして演技をしている自覚が
あるのか無いのか。ハラハラしてしまう。

脚本の言葉はよく練られている。こう言ってくるんじゃな
いか、という予想はことごとく裏切られ、重要なセリフが
来る、とこちらが身構えると、無音だったりする。竹原ピ
ストルに最初に電話したときの、セリフを排除したカット
には思わずシビれる。

                                       11.9(水) TOHOシネマズ渋谷


2016年11月20日日曜日

何者


☆☆☆★★      三浦大輔     2016年

就活がテーマというだけでゲンナリする。
企業説明会だエントリーシートだOB訪問だと、就活の世界を
巧く切り取ってみたところで、いまどきの若者たちの浅はかな
戦略とみみっちい争いしか映るまい。就活が彼らにとって切実
な問題であることは、かつて就活生のひとりとして胃の痛くな
るような日々を送った私にもじゅうぶん分かる。いわゆる「お祈
りメール」が積み重なることによる焦燥も、手に取るように分か
る。しかしもちろん、切実であることと、映画として観客を納得
させられるだけのものが描けるかは別問題である。
本作はある仕掛けを用意することで、就活という世界の「狭さ」
を脱しようと試みていて、その意気や良しだし、試みは成功し
ていると思う。ラスト30分まで退屈ぎみだったが、そこでギアが
入ってからはなかなか素晴らしい展開だった。

手持ちカメラを多用している。なぜこれ手持ち?と思うカットも
多かった。手持ちが好きじゃないもんで(酔うから)。多用する
と、やはり「ここぞ」というときの効果が薄れる。
有村架純がバックショットで訥々と岡田将生に反論するシーン
は良かった。しかしそれ以外はあまりに摑みどころのないキャ
ラクターだ。彼女こそ、いったい何者なのだろう。

画像は、ほろよいのCM。ではなくて、本編の1シーン。
学生のくせして良い部屋に住みすぎなんだよ!

                                                    11.5(土) 新宿ピカデリー


2016年11月8日火曜日

グッドフェローズ


☆☆☆★★   マーティン・スコセッシ   1990年

チンピラがマフィアの世界でのしあがっていく様を描いた
一代記。テンポよく、センスよく。きっと『日本で一番悪い
奴ら』にも影響を与えているだろうことは想像に難くない。
モデルの人物が堕ちるとこまで堕ちて、田舎で暮らすと
ころで終わるのも共通している。

ロバート・デ・ニーロも出ていることだし、当然ながら『ゴッ
ドファーザー』に似てくる運命にあるわけだが、それを回
避すべく(かどうかは知らないけれど)、ものすごい量の
オールディーズソングを投入している。さながらサンデー
ソングブックを流しながら映画を観ているのかと錯覚する
ほどの、60年代70年代のドゥワップ、ガールズポップ、果
てはハードロックから80年代のストーンズまで、実に多彩
で楽しい選曲である。好きなんだねー。

                                                   11.2(木) BSプレミアム


2016年11月3日木曜日

淵に立つ


☆☆☆★★         深田晃司       2016年

『ほとりの朔子』で感心してから、ずっと動向は気にしていた。
『さようなら』は結果的にはパスしてしまったが、また名画座で
観られるだろう。

ピアノを弾く少女のバックショットでの幕開けは、どうにも既視
感を誘う。『トウキョウソナタ』も『岸辺の旅』もそんな感じだった
ような…。ことほどさように、随所に"黒沢清感"がただよう。
浅野忠信が出ているからだけではない。カメラワークはそうで
もないが、ロケーションの選び方やキャラクターの造形なんか
に、それを感じる。ピアノの使い方にも。

刑務所帰りの、いつも真っ白なワイシャツを着て異様に姿勢
が良い浅野忠信が、文字通りの「異物」として家庭に入り込ん
でくる。紳士的だが不気味な男を、浅野が期待どおりの素晴
らしさで演じる。ほんと好きだわーこのひと。

ショッキングな内容でもあるので、安易におすすめはしない。
不穏、大好き!と叫んでいたきりちゃんは好きかもしれない。

                                                        10.24(月) シネパレス


2016年11月1日火曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN / 片平里菜


ビクターロック祭り 番外編『IchigoIchie Join 5』

■片平里菜

1. この空を上手に飛ぶには
2. 夏の夜
3. 女の子は泣かない
4. 煙たい
5. ロックバンドがやってきた
6. BAD GIRL
7. Come Back Home
8. 始まりに


■THE BACK HORN

1. 世界を撃て
2. 戦う君よ
3. シンフォニア
4. セレナーデ
5. 風船
6. 悪人
7. その先へ
8. 刃
9. 魂のアリバイ
10. コバルトブルー

[ENCORE]
1. With You
2. 最高の仕打ち w/片平里菜
3. サニー w/片平里菜

                               10.18(火) リキッドルーム恵比寿


あきらかにファン層がカブらないジョイントライブだが、
どうせ片方は特に興味の無い音楽を聴くのだから、
音がデカいだけのロックバンドよりは見目麗しい女子
のほうがいいに決まっている。
片平里菜さんは伴都美子を思わせる美人であった。
声もよく出ている。最後の曲はマイクを使わずに歌っ
た。肝心の歌はもう忘れてしまったが。

そしてバックホーン。
1曲目からひさびさの「世界を撃て」をかましてくる。
山田はけっこう高音が苦しそう。あまり調子がよくな
かったようだ。歌詞が飛んだのか、「戦う君よ」で珍し
くワンフレーズ歌えなかった。
そして「悪人」ではPAのミスで一部Vocalが出なかった。
あそこでしか使わないReverbだと思うので、なんらか
の設定ミスか。明日は我が身なので、たるんでるとか
そういうことは言わない。

ベストアクトはこれまたひさびさに聴いた「セレナーデ」。
1stアルバムの2曲目を、いまやってまだまだカッコい
いって、なかなかないことだと思うよ。