2021年6月30日水曜日

おっぱいバレー

 
☆☆☆★★   羽住英一郎  2009年

いやー、悪くない。
けっこうおもしろかった。

まったくやる気の無かった男子バレー部
員が「1勝したら先生が胸を見せてくれ
る」という約束に大奮起してバレーボー
ルに真剣に打ち込み、やがて胸とかそう
いうことよりももっと大事なものに気付
く…かと思いきや、そうでもないという、
まあかなりのバカ映画である。

教育の現場から見るとけしからん描写も
あるだろうが、男子中学生なんてこんな
もんだと身をもって知っている「元・文
化系男子中学生」として見ると、バカ中
学生の彼らは彼らの「行動原理」にどこ
までも忠実なのである。

いつも感想を簡単にチェックしている映
画サイトを見ると、「綾瀬はるかのおっ
ぱいが見られるかと思って劇場に馳せ参
じたのに…」という落胆の声がけっこう
あったが、そんなわけねーだろ! 初めか
ら期待してないので、がっかりもしない…。

                             6.14(月) BS日テレ




2021年6月28日月曜日

バファロー大隊

 
☆☆☆★  ジョン・フォード  1960年

題名からは想像できないが、黒人差別問題
を含んだ軍事法廷ものである。
幾人もの証人による「証言」をきっかけに、
回想の形式で事件の概要が徐々に明らかに
なっていく。回想の中には西部劇らしいシ
ーンも多くあり、アパッチ族はあいかわら
ず白人を襲撃してくる。
裁判で嫌疑をかけられているのは、黒人に
より編成された第9騎兵隊のラトリッジ曹
長(ウディ・ストロード)。このひとは威
厳のある良い顔をしている。最後はいかに
も法廷劇らしいどんでん返しが待っている。
ちょっと強引な結末ではあるが。

                         6.12(土) BSプレミアム




2021年6月26日土曜日

アメリカン・ユートピア

 
☆☆☆★★★  スパイク・リー  2021年

ただのコンサートとも違うし、ミュージカ
ルというと余計遠ざかる気がする。スパイ
ク・リーによってカメラにおさめられたデ
ヴィッド・バーンのライブは、徹頭徹尾、
歌と演奏が主なのはもちろんだが、すべて
の楽器をワイヤレスにすることで可能となっ
た視覚的なパフォーマンスでもある。英語
の歌を聴いても歌詞が分からない身として
は、こうして映画になることで字幕で対訳
が読めて助かるし、真俯瞰やバックショッ
トなど、客席からでは観られないアングル
からも観られたりで、たぶん普通にライブ
を観にいくより楽しめてしまうのが良いん
だか悪いんだか。

複数人のパーカッションで生み出される、
トーキング・ヘッズ時代からの特徴のポリ
リズムが心地よい。デヴィッドおじいちゃ
んのトボけた感じの歌とほどよいダンスが
いちばんの魅力なのは言うまでもない。

                            6.10(木) シネクイント




2021年6月24日木曜日

【LIVE!】 ハンバート ハンバート

 
 ハンバート家の初夏

セットリストは見付からないので省略


       6.8(火) 渋谷クラブクアトロ

ふらっと登場して1曲目の演奏が終わると
すぐ「あのさ」と遊穂さんが言い出して
トークが始まると「来た来た」と嬉しく
なるようになってしまった。
今回、選曲は前回のツアーの延長だが、
カバー曲が秀逸だった。島倉千代子の
「愛のさざなみ」は、異色のエレキ演歌
ともいうべき原曲を、しっかりハンバー
ト調に落とし込んでくるのがさすが。
そしてまさかの「今夜はブギー・バック
(smooth rap)」。ラップ部分もしっ
かり良成がやっていて申し分なし。

ベストアクトは「今夜はブギー・バック
(smooth rap)」でしょうな。




2021年6月22日火曜日

【LIVE!】 松元ヒロ

 
 ひとり立ち

「ネタ作りをしていると、どうしても
コロナの話ばかりになってしまう」と
嘆いてらしたが、入り口はコロナでも、
多様な話題に展開していくいつもの調
子で笑わせてくれた。
備忘録として記すが、オードリー・タ
ン、鈴木義男、幡ヶ谷バス停事件、井
上ひさし、など。

                    6.4(金) 紀伊國屋ホール




2021年6月20日日曜日

ハリーの災難

 
☆☆★★★  アルフレッド・ヒッチコック 1955年

ある平和な町の丘の上で、男の死体が発見
されたことから、善良な住民たちの間にド
タバタの騒動が巻き起こる。狩猟が趣味の
老人は自分が誤射したと思い込み、死体を
埋めようと穴を掘る。それを目撃されて、
いろんなひとを巻き込んで混乱が広がって
いく。
ヒッチコックは自作の中でもとりわけ気に
入っていたとのことだが、うーん、正直いっ
て成功作とは思えず。コメディなのにあま
り笑えないところが問題かもしれない…。

シャーリー・マクレーンが、本作で映画デ
ビュー。いきなり男の子がいるシングルマ
ザーの役である。

                            6.4(金) BSプレミアム




2021年6月17日木曜日

読書⑦

 
『1964 東京ブラックホール』
貴志謙介 著   NHK出版

「戦後ゼロ年」の続編。今回のテーマは東京
オリンピックの開催された1964年。
冒頭から、1964年の東京に満ち満ちていた騒
音、ゴミ、悪臭の凄まじさ、東京は赤痢、チ
フス、コレラが流行する"疫病都市"だった。
そして8月下旬、五輪直前に千葉でコレラが発
生し、大規模な消毒やワクチンの緊急接種が
行なわれたというのである。しかも笑えるこ
とに、続いて葛飾区でも感染者が発生し、感
染経路は不明のままであったにもかかわらず、
厚生省は強引に「終結宣言」を出したという。
コレラが流行していると見做されれば、選手
団の派遣をとりやめる国が出ることを恐れた
からと見られる。えーと、1964年の話ですか
らね。

ことほど左様に、当たり前ともいえるけども、
1964年と「いま」とは地続きである。特に政
治は呆れるほど変わっていない。本書を読んで
印象に残るのは、岸信介という人間の気持ちの
悪さ。"反共親米"という一点でA級戦犯からの
逆転を遂げ、CIAの工作と資金援助のおかげで
首相にまでなった。しかしそれは緒方竹虎とい
う(米国にとっての)適任者が死去したため
の、代役だという。ここまで屈辱的な政治人生
を歩んだ親を見て、子は恥に思うのが普通では
ないかと思うが、子も孫も平然と政治家になっ
て、しかも祖父に生き写しのような気色の悪い
政治家になっているのが私には不思議だし、正
視できないほどの醜さを感じる。

本書でいちばん衝撃を受けたのは、当時の出稼
ぎ労働者をはじめとして、普通におこなわれて
いたという「売血」である。「血液銀行」に自
分の血を売って給料の足しにするわけだが、あ
まり頻繁にやると当然、体調に異変が生じる。
この血液銀行を運営していたのは元731部隊の
幹部だったというのである。中国での人体実験
の研究データがソ連に流れることを防ぐために
GHQがひそかに免罪していたのだ…。この組織
はのちに「ミドリ十字」と商号をあらため、非
加熱製剤による薬害エイズ事件を引き起こし
た。私も幼心に国会で答弁している姿が記憶に
ある、厚生省のエイズ研究班長・安部英は、ミ
ドリ十字から1000万円の寄付を受け、理事に
迎えられていた…。

ほかにも、細野晴臣と森進一を比較した章(生
い立ちから音楽まで何もかもが対照的)や、当
時規模が最大だった暴力団、少年犯罪の凶悪化
からベトナム戦争の特需による景気の拡大ま
で、とにかく内容は濃密である。










『東京エレジー』
安西水丸   ちくま文庫

1942年生まれの安西水丸の、少年時代の東京
を描いている。なんでもない学生時代の思い出
のようで、やはりすごく記憶力のいいひとなん
だな、という感じがする。都会的な、醒めた視
線で描き直した少年時代。50年代終わりごろの
東京の風景が、感興をそそる。





2021年6月14日月曜日

タクシー運転手 ~約束は海を越えて~

 
☆☆☆★★  チャン・フン  2017年

1980年5月に韓国で起きた民主化運動に対す
る弾圧“光州事件”を背景に、規制をくぐり抜
けて現地入りしたドイツ人記者と、彼を乗せ
ることになった平凡なタクシー運転手との、
"実話を基にした"ドラマ。ソン・ガンホって、
映画をひとつ上の段階に持ち上げるような魅
力がある役者である。彼あってのこの映画、
という気がする。娘が家で1人で待っている
という設定が効いてるんですよね。
ドイツ人記者にはトーマス・クレッチマン。
「約束」というのは、厳しい報道管制でまっ
たく外に伝えられていなかった現地の惨状、
および軍部による虐殺の証拠となる映像を、
日本に持ち帰って全世界に伝える約束という
ことなのだが、果たしてこのタイトルは映画
の内容とマッチしているのかどうか。

                           5.30(日) BSプレミアム




2021年6月12日土曜日

【LIVE! <配信>】竹内まりや

 
 LIVE Turntable Plus

瞳のささやき
アンフィシアターの夜
マージービートで唄わせて
待っているわ
元気を出して
September
五線紙
悲惨な戦争
天使のハンマー
Oh No, Oh Yes
Natalie
静かな伝説
幸せのものさし
Sweetest Music
All I Have to do is Dream
すてきなヒットソング

  Zepp Tokyoで昨年11月に事前収録

<追加映像>
家に帰ろう
みんなひとり
プラスティック・ラブ
人生の扉
いのちの歌

               5.29(土) MUSIC/SLASH


「最高の選曲と最高の音質」とはサンデー・
ソングブックの決まり文句だが、映像・音声
の配信としては最高峰のクオリティに満足。
ちょっとマニアックな選曲に、PPMのカバー
コーナーも良かった。達郎のバックバンドが
付いて演奏はもちろん盤石。
配信にも飽きがきたこの頃では、「配信生ラ
イブには意味がない」といって初めから非圧
縮の高音質にのみ配信の可能性を見出してい
た達郎が正しかったのかもしれない。




2021年6月9日水曜日

茜色に焼かれる

 
☆☆☆★★   石井裕也   2021年

オリジナル脚本で、ある程度の規模で公開
される映画を撮れる機会はよほど定評のあ
る監督にしか許されなくなってしまった…。
原作モノも「実話に基づくストーリー」も
別にいいが、やはり異常に少なくなってし
まったオリジナル脚本を応援していかなく
てはならないと思う。『生きちゃった』も
見逃しといてエラそうなことを言うつもり
もないけれど…。

「ま、がんばりましょうよ」というのが口
癖の、なんとも摑みどころのない母親役を
尾野真千子が演じる。夫を交通事故で亡く
したが、賠償金の受け取りを拒否し、息子
を育てるためにピンサロで働いている。
この映画、脚本が成功しているとは言い難
いが、尾野真千子、ピンサロ嬢の片山友希、
息子を演じた和田庵という3人の役者が光
る。特に片山友希は出色で、このひとの出
演シーンだけ、園子温の映画になったよう
だった。いちおう褒めてるつもり…。
最後の神社のシーンの爽快感で★半分プラ
スしておく。永瀬正敏が「持って行った」
感がある。

カメラは時々不思議で、なんでもないキッ
チンでの会話のシーンが手持ちカメラで撮
られていたり、正面からのクローズアップ
を多用したりしている。熱のこもった映画
を観た、という思いで劇場を出た。

                        5.25(火) ユーロスペース




2021年6月7日月曜日

わが谷は緑なりき

 
☆☆☆★  ジョン・フォード   1941年

ウェールズの炭鉱町を舞台にしたヒュー
マン・ドラマ。
父も兄も炭鉱マンの一家に生まれた末っ
子が主人公。大学に行って立派になって
もらいたいという皆の願いを背負って、
勉強にケンカに明け暮れるが、兄の落盤
事故死をきっかけに、学校を中途で辞め
て炭鉱で働くことを選ぶ。

姉と牧師の恋、労働組合の結成、兄たち
のコーラス隊の栄誉など、いろいろなエ
ピソードが複合的に語られて、雄大な叙
事詩となっている。アカデミー作品賞を
含む5部門を受賞。

                      5.20(木) BSプレミアム




2021年6月4日金曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN

 
   『KYO-MEIストリングスツアー』feat.リヴスコール

 1. トロイメライ
 2. シリウス
 3. ブラックホールバースデイ
 4. 超常現象
 5. ジョーカー
 6. 自由
 7. グレイゾーン
 8. いつものドアを
 9. シュプレヒコールの片隅で
10. 君を隠してあげよう
11. 夢の花
12. 星降る夜のビート
13. コバルトブルー
14. シンフォニア
15. 戦う君よ
16. 世界中に花束を

<ENCORE>
 1. ミュージック
 2. ラピスラズリ
 3. 刃

          5.12(水) Zepp DiverCity Tokyo


「カルペ・ディエム」ツアーは初日を観たので、
延期されていた2回目の東京公演は行かなかっ
た。なので私としては1月の「鰰の叫ぶ声」以
来のバックホーン。それほど久しぶりでもない。
バンドとしては4月上旬まで延期になったツアー
の振替公演をやっていて、ほとんどインターバ
ル無くこのストリングス・ツアーのリハに入っ
たとのこと。

発表から10年近く経ったアルバム(それも特に
名盤の誉れ高いわけでもない)の再ツアーを、
さほど気負いもなくできるというところが、意
外と他のバンドには無い部分だと思う。震災後
に作ったアルバムなので、メンバーには思い入
れが強いのかもしれない。
まあしかし、スタンディングでライブができな
い今、ストリングスを入れたツアーというのは
時宜を得ている。
ひさびさに聴いた「シリウス」には体温が上が
るような興奮を覚える。「命はー!」を唱和で
きないのが残念至極。ストリングスの活かし方
もだんだん板についてきている。
強いていえば「コバルトブルー」「シンフォニ
ア」「戦う君よ」という最後の盛り上がり曲が
いつもと同じだったので、もうひと捻り何かあ
ると嬉しかったが。
ベストアクトは「星降る夜のビート」。


2021年6月1日火曜日

読書⑥

 
『発酵文化人類学』
小倉ヒラク 著   角川文庫

「チコちゃん」でもやっていたけど、「発酵」
と「腐敗」とは、メカニズムとしては同じで、
「食べてお腹をこわすかどうか」の違いしか
ないのだという。そこからしてもう不思議が
いっぱいなのだが、古代の昔から人類は「人
間に有益な」微生物を飼いならして発酵食品
を世界中で生み出しているっつーから、人類
の知恵、パねぇっすよね。

本書はそういう様々な地域の発酵食品の成り
立ちを概説しながら、その文化的側面や、現
代の生産者たちの創意工夫や心意気のような
ものに至るまで、けっこう欲張りな感じで盛
り込んでいる。説明がうまいので分かり易い
けれど、その反面、正直言って話が長いと感
じる部分もある。この章もそろそろ終わりか
な、と思ってからが長い。
とはいえ魅力を伝えるのがうまく、紹介され
ている発酵食品は全部試食してみたくなる。










『闇市』
マイク・モラスキー 編  新潮文庫

日本の戦後文化の研究者である編者が「ヤミ
市縛り」でセレクトしたアンソロジー。つま
り作中にヤミ市やヤミ取引きが登場して、物
語に深く寄与している小説のみを集めている。
著名な作家であってもなるべく単行本に収録
されていないマイナーな作品を優先したとい
うだけあって、私など聞いたこともない作品
が並ぶ。収録作は下記。

「貨幣」 太宰治 / 「軍事法廷」 耕治人
「裸の捕虜」鄭承博/「桜の下にて」平林たい子
「にぎり飯」 永井荷風 / 「日月様」 坂口安吾
「蜆」 梅崎春生 / 「野ざらし」 石川淳
「蝶々」 中里恒子 /「訪問客」 織田作之助
「浣腸とマリア」 野坂昭如

どれも粒ぞろいで、読みごたえ十分であった。
「軍事法廷」という中編は、闇ドルの取引に
手を染めて危ない橋を渡っている男が主人公
というのが新鮮だし、「裸の捕虜」は芥川賞
候補というのもうなづける圧巻の描写と迫真
性で読ませる。「蝶々」の中里恒子は女性初
の芥川賞作家だが、敗戦で虚脱した軍人の夫
と対照的に、ヤミ屋台で活き活きと働く妻の
姿が忘れがたい。太宰の「貨幣」は語り手が
百円札という異色の短篇で、この語りがまた
絶妙に良い。