2021年6月1日火曜日

読書⑥

 
『発酵文化人類学』
小倉ヒラク 著   角川文庫

「チコちゃん」でもやっていたけど、「発酵」
と「腐敗」とは、メカニズムとしては同じで、
「食べてお腹をこわすかどうか」の違いしか
ないのだという。そこからしてもう不思議が
いっぱいなのだが、古代の昔から人類は「人
間に有益な」微生物を飼いならして発酵食品
を世界中で生み出しているっつーから、人類
の知恵、パねぇっすよね。

本書はそういう様々な地域の発酵食品の成り
立ちを概説しながら、その文化的側面や、現
代の生産者たちの創意工夫や心意気のような
ものに至るまで、けっこう欲張りな感じで盛
り込んでいる。説明がうまいので分かり易い
けれど、その反面、正直言って話が長いと感
じる部分もある。この章もそろそろ終わりか
な、と思ってからが長い。
とはいえ魅力を伝えるのがうまく、紹介され
ている発酵食品は全部試食してみたくなる。










『闇市』
マイク・モラスキー 編  新潮文庫

日本の戦後文化の研究者である編者が「ヤミ
市縛り」でセレクトしたアンソロジー。つま
り作中にヤミ市やヤミ取引きが登場して、物
語に深く寄与している小説のみを集めている。
著名な作家であってもなるべく単行本に収録
されていないマイナーな作品を優先したとい
うだけあって、私など聞いたこともない作品
が並ぶ。収録作は下記。

「貨幣」 太宰治 / 「軍事法廷」 耕治人
「裸の捕虜」鄭承博/「桜の下にて」平林たい子
「にぎり飯」 永井荷風 / 「日月様」 坂口安吾
「蜆」 梅崎春生 / 「野ざらし」 石川淳
「蝶々」 中里恒子 /「訪問客」 織田作之助
「浣腸とマリア」 野坂昭如

どれも粒ぞろいで、読みごたえ十分であった。
「軍事法廷」という中編は、闇ドルの取引に
手を染めて危ない橋を渡っている男が主人公
というのが新鮮だし、「裸の捕虜」は芥川賞
候補というのもうなづける圧巻の描写と迫真
性で読ませる。「蝶々」の中里恒子は女性初
の芥川賞作家だが、敗戦で虚脱した軍人の夫
と対照的に、ヤミ屋台で活き活きと働く妻の
姿が忘れがたい。太宰の「貨幣」は語り手が
百円札という異色の短篇で、この語りがまた
絶妙に良い。


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