2017年3月31日金曜日

仁義なき戦い 頂上作戦


☆☆☆★★★    深作欣二    1974年

松方弘樹・追悼特集で「仁義なき戦い」の二本立て。

あるいは観たことのないひとは誤解しているかもしれ
ないので蛇足ながら前置きするが、「仁義なき戦い」
はまぎれもない"会話劇"である。言ってみれば「仁義
なき戦い」シリーズのおもしろい所と「真田丸」のお
もしろい所は、まったく一緒である。
そりゃあ体を張ったアクションシーンも見どころでは
ある。絶妙のストップモーションにはシビれるし、カ
タギとはいえない商売の女たちの艶っぽさを楽しみに
している御仁もおられるかもしれない。
しかし言わせてもらえば、そんなものは他の映画でも
見られる。「仁義なき戦い」を観ている時の私の脳は、
いつもヤクザたちの広島弁によるメッセージとメタ・
メッセージの応酬にシビれているのである。優れたセ
リフにはいつも二重、三重の意味が込められているよ
うに思う。笠原和夫はそういうセリフを書けるひとだ。

             3.25(土) 新・文芸坐


2017年3月30日木曜日

パーマネント野ばら


☆☆☆        吉田大八       2010年

そういえば原作は西原理恵子だった。
菅野美穂のパーマ屋に集う庶民たちのハートフルな交流
でも描いているのかと観る前は思っていたのだが、そこ
に集う庶民たちはみんな等しくイカれていた…。
行き場の無い恋愛、終わりの無い単調な生活。どこまで
行ってもどこにも行けないような"行き詰まり感"がやる
せなく描出されていて、退屈こそしないが、それは観て
いておもしろいかというと、さほどでもない。ラストシ
ーンの狂気が黒沢清っぽいと思った。
別に失敗作ではないけれど…。

                                              3.18(土) BSプレミアム


2017年3月24日金曜日

読書⑤


「劇場」
又吉直樹 著   新潮2017年4月号

ほんとうに「書ける」ひとであることを証明した2作目だ。
「恋愛小説」を志向したというが、まあ青春小説という気
もする。理由は、恋愛には必ず付随するある要素を排除し
ていたから。おそらく意図的に。
誰が見ても分かることだが、小説の成否はなんといっても
"沙希"という人物にかかっている。私には沙希はとても魅
力的な人物に見えた。

Nスペも観たけど、読む前に観なくてよかったよ。終盤の
ものすごく大事な場面まで朗読しちゃうんだもん。あれは
倫理的にアリなのか。私が又吉なら「えーマジか」と思う
と思うのだが。
『火花』の感想で「難しい」という声を多くもらって微妙
な思いだったという又吉。あれを難しいとかいう奴はもう
置いて行けばいいんじゃないかと思うが、又吉はそうは思
わず、なら次はもっとわかりやすく書こうと思ったという。
優しいのだ。









『神さまってなに?』
森達也 著   河出文庫

清水富美加の出家と同時期に文庫化されたので、ちょ
うど「神さまってなんだろうなぁ」とぼんやり考えて
いた時期でもあり、読み始めた。

森さんお得意の「そこで僕はかんがえる。」みたいな
感じの、読者にも考えさせる論法で、もともとは中学
生を対象にした「14歳の世渡り術」というシリーズの
1冊らしい。
森さんは仏教、キリスト教、イスラム教についてその
成り立ちから丁寧に説明し、もちろん宗教が戦争に利
用されてきた歴史や人間が集団化した時の危険につい
て持論を展開するのも忘れない。

森さんの知人が旅行から帰ってきたら熱心なキリスト
教徒になっていた話が興味深いが、逆にいえばそのよ
うな偶然みたいな"奇跡"でもなければ、おおかたの日
本人は「信仰」って何のことだかよくわからないので
ある。千眼美子さんのFAXにもそんなようなことが書
いてあったっけ…。少なくとも私はあのFAXに、日本
人の「信仰」に関する無関心さへの正確な理解を見ま
した。混乱の中にありながら、とてもよく書けている
文章だと思いましたけどね。私は文章のうまい女子に
は好感をもってしまうのです。まあ本人が書いたかは
知らないけども。




2017年3月21日火曜日

M★A★S★H


☆☆☆★★   R.アルトマン   1970年

朝鮮戦争の戦闘地帯に設営された「移動野戦病院」
通称"MASH"。何の略だかは忘れた。
そこへ赴任してきたふざけた3人の医者が起こす騒
ぎをブラックユーモアにまみれた描写でつないでい
く。ひたすら悪ふざけとシリアスな外科手術とが交
互に展開される2時間は、ひとによっては嫌悪の対象
でしかなかろう。冒頭を飾る"Suicide is Painless"と
いう歌も、ひきつった笑いにしかならないと思われる。
プロテストソング風のフォーク・ロックで、「自殺は
苦しくないよ」と歌われるこのテーマ曲が映画全体を
象徴している。
権力者なんて半分はコケにされるために存在している
と思っている人間にはけっこう笑えた。
侮辱だと勝手に周りが騒いでいる権力者もいるようだ
が、ぜんぜんヌルいですよね。もっと徹底的にコケに
して、呂律がまわらないぐらいにしてやりましょうよ。
あ、いつもまわってないか…。

                                          3.14(火) BSプレミアム


2017年3月19日日曜日

人生フルーツ


☆☆☆★★      伏原健之     2017年

地上波で放送されたバージョンで、劇場版より15分ほど
短いようだが、ここはご勘弁ねがってカウントさせてい
ただきます。かんにんかんにん。

はじめは老夫婦の穏やかな生活が淡々と描写される。畑
で育てた野菜や果樹で日々の食卓が彩られ、質素だがあ
る意味でとても豊かな生活。やがて視聴者には、夫婦が
暮らすのが愛知県の高蔵寺ニュータウンという宅地の一
画であり、夫の津端修一はその宅地計画の中心を担った
建築家であることが分かってくる。修一さんは90歳を過
ぎても現役の建築家なのである。

良い作品だった。ハーブ&ドロシーの時にも感じたが、私
は素敵な老夫婦ものにめっぽう弱い気がする。

                                                  3.10(金) フジテレビ


2017年3月8日水曜日

愚行録


☆☆☆★    石川慶     2017年

住宅街での一家惨殺事件、その現場をゆっくりドリーする
カメラを見ていて、そりゃ当然『怒り』を思い出す。いつ
壁に"怒"と血文字で書いてあるんだろうと待っていたが、
書いていなかった。当たり前だけど。

本筋にいたるまでのサイドストーリーが長すぎて、肝心の
満島ひかりの話のときにはだいぶ興味を失って少し寝てし
まった。脚本は向井康介なんだがなー。
殺害現場も、殺害にいたる過程も、殺人者の証言も、思わ
せぶりなだけで、決して恐くない。

ただ冒頭の、障碍者を装う妻夫木くんのシーンは実に「い
やな感じ」でとても映画的なシーンだった。★1コ追加。

                                                 2.19(日) 新宿ピカデリー


2017年3月6日月曜日

読書④


『騎士団長殺し 第1部 顕れるイデア編
『騎士団長殺し 第2部 移ろうメタファー編
村上春樹 著   新潮社

ちょうど休めない仕事が金、土とあり、月曜からまた仕事
だったので、ほんとうは日曜の1日で読んでしまうつもり
だった。それなのに、読んでも読んでも終わらない。その
日(つまり2/26だが)朝の8時半から深夜2時半まで、リ
ポビタンDを飲みながらほとんどぶっ続けで読んだが、そ
れでもまるで読み終わらなかった。
単純に会話が少なく、地の文が多いというのもあるだろう。
そして『1Q84』からだが、文章の「密度」とでもいうべき
ものが凄まじい域に達している。日本でいちばん文章の巧い
作家が、さらに自分の文体を磨きあげていくさまを目撃でき
るのは幸せなことだ。

RPGのテレビゲームみたいだという往年の批判もなんのその、
今回もアイテムとダンジョンとモンスターがわんさか登場し、
主人公「私」(名前は与えられていない)は持ち合わせの知
恵と勇気とウィットで冒険をクリアし、現実世界(?)に帰
還する。今回は珍しいことに、開始早々に主人公の現在の
(つまり「帰還」後の)状況が明かされるので、バッドエン
ドが待っていないことはあらかじめわかっている構成になっ
ている。そして主人公の住む家は数年前にArneという雑誌で
見た春樹の大磯の家を想起せずにはおかない。海よりも山が
見える…。

第3部はあるのだろうか。第2部の巻末には<第2部終わり>
としか書かれていない。数日来、そのことが気になって仕
方ない。仕事が手につかない…というほどでもないが。
免色という人物について、第3部でもっと多くのことが明ら
かになってもいいような気もする。