2019年6月27日木曜日

インサイダー


☆☆☆★★   マイケル・マン   2000年

アル・パチーノとラッセル・クロウ。
タバコ会社に不利な内部告発をしようとする科学者と、
その爆弾インタビューを放送するために奔走する硬派
なニュースショーのプロデューサー。それを全力で潰
しにかかる不気味なタバコ業界。マイケル・マンの持
ち味が存分に発揮された重厚なクライム・サスペンス
に仕上がっている。

しかしマイケル・マンも相当な偏執狂に見える。これ
カメラ1台だったとしたら、いったい何回違うアング
ルで撮っているのかと思うぐらい、違う方向のショッ
トが積み重ねられる。現場は何回も何回も同じ芝居を
やらされてかなりうんざりじゃなかろうか…。さすが
に2カメは出しているかな。それにしてもしつこい。

                                           6.23(日) BSプレミアム


2019年6月21日金曜日

故郷


☆☆☆★★   山田洋次   1972年

こうなったら気力の続く限り。
ということで4本目。

瀬戸内の小島で砕石の運搬をする「石船」を
生業とする夫婦を描く。主演は井川比佐志と
倍賞千恵子。石船はしかし、大型船には運搬
量で敵うはずもない。船体にも経年からくる
ガタがきており、修理費もばかにならない。
周囲はやんわりと、廃業して広島で就職する
ことをすすめるが…。

時代の奔流に翻弄されながらも懸命に生きる
夫婦を、淡々としたドキュメンタリー的な実
直なカットの積み重ねで説得的に描く。渥美
清はなにかと親切な魚の行商人で登場。個人
的には寄合いで飛び交っていた伊予弁が懐か
しい。
なにかと「沁みる」映画だった。

                                  6.8(土) BSプレミアム


2019年6月17日月曜日

ダウン・バイ・ロー


☆☆☆★★   ジム・ジャームッシュ  1986年

ひさしぶりに映画を観たので、なんだかノリノリに
なってきて、3本目を再生。これがまたいい映画。

オープニングのTom Waits  "Jockey Full of Bourbon"
車窓からのゆるやかなトラックショットと、のちに
分かるが、カヌーからの同じような速度のトラック
ショットが混ぜ合わされた映像にしゃがれた歌声が
かぶせられ、自主映画をこころざす者たちがこぞっ
てマネしたというだけあって、めちゃカッコいい。

トム・ウェイツ、ジョン・ルーリー、ロベルト・ベ
ニーニという"おかしな三人組"による脱獄ものなの
だが、物語はいつも脱臼させられていて、ちぐはぐ
で行き当たりばったりなものである。無口なアメリ
カ人ふたりと、おしゃべりで明るいイタリア人とい
う対比が成功している。

ラストの分かれ道はよくこんな場所見つけてきたな
という感じの、見事な分かれ道。案外あっさり捕ま
るかもしれないが、なかなか余韻のあるラストであ
る。

                                             6.8(土) BSプレミアム


2019年6月15日土曜日

デイジー・ミラー


☆☆☆   ピーター・ボグダノヴィッチ   1974年

当時日本では公開されなかった映画らしいが、こないだ
BSで放送されていた。ボグダノヴィッチの『ペーパー・
ムーン』がとてもよかったので録画してみた。
ヘンリー・ジェイムズの原作を、当時の衣装や美術を忠
実に再現して映画化した、いわゆる"文藝映画"といって
いいだろう。奔放な美女に振り回される紳士という、い
たって正統的な物語を実直に映画化しており、まあなん
というか、マジメ…? シビル・シェパードはたしかに
美しいが。

                                                6.8(土) BSプレミアム


2019年6月9日日曜日

アメリカの友人


☆☆☆★★   ヴィム・ヴェンダース  1977年

パトリシア・ハイスミスを原作に、ヴェンダースが
「本気出して」サスペンスを撮ったようなフィルム。
腕の良い額縁職人(ブルーノ・ガンツ)とアメリカ
人の怪しげな画商(デニス・ホッパー)との間の、
友情のような共犯のような、なんとも微妙な関係が
描かれる。
素人が殺し屋の真似事をさせられるという話なので、
サスペンスとしてはスマートさではなくその稚拙さ
にハラハラさせられる。「あぁ、もう! いま殺せば
よかったのに」みたいな。それも妙な話だが、この
ヨナタンというひとの良い額縁職人を応援したくな
る。またハンブルクのロケーションが良いし、ヴェ
ンダースの美意識も各所に炸裂していて、なかなか
魅力的なフィルムになっている。デジタル・リマス
ターで修復されたらしい色彩も見どころである。

あとギターの劇伴がかっちょいい。
The Kinksの"Too Much on My Mind"も印象的に使
われている。

                                           6.8(土) BSプレミアム


2019年6月7日金曜日

読書⑤


『犯罪小説集』
吉田修一 著   角川文庫

そのものズバリの題だが、犯罪(事件)が関係
する短篇小説が5篇収められている。
最初の「青田Y字路」はちからの入った濃密さに
圧倒される展開で、かなりシビれる出来だった。
牽引力というか「もっていかれる」感じが、他
の4篇とは全然違うように思う。アルバムも1曲
目がほとんどアルバム全体の印象を左右する。
短篇集も最も出来のいいものを巻頭に持って来
るのが正解だろう。

5篇にいずれもモチーフになった実際の事件があ
るらしい。世情に疎いもので、大王製紙の御曹司
の事件ぐらいしか分からなかったが。
ひさしぶりに吉田修一の文章を堪能した。映像を
喚起する力に秀でた文章は、カット割りすら浮か
ぶようである。









『火あぶりにされたサンタクロース』
クロード・レヴィ=ストロース 著 中沢新一 訳 角川書店

クリスマスの異教化を憂えた教会によってサンタク
ロースが火あぶりにされるという事件が、1951年に
フランスで実際にあった。その象徴的な事件を端緒
として、クリスマスそのものの歴史を丹念に解明し
ていく論文が本書である。本文と同じほどの分量の
中沢新一による解説が付いている。

当方、頭が鈍いため、本文・解説と読んでもいまい
ち分からなかったのだが、もともとは死者をもてな
す祭礼だったクリスマスが、アメリカ文化(コマー
シャリズム)の流入や時代の求めるものの移り変わ
りによって、一気に変容していったってことで、い
いのかな。