2021年3月29日月曜日

男たちの挽歌Ⅱ

 
☆☆☆   ジョン・ウー  1987年

前作で死んでしまったチョウ・ユンファを
再び出演させるために考え出されたアイディ
アはなんと…、双子の弟がアメリカにいた
というもの! ばかばかしくて思わず笑う
が、正面突破とはこのことである。

前作は、なんとかスレスレのところで「マ
フィア映画」「クライム・アクション」の
体裁を保っていたが、ここまでくるともう
完全に「バカ映画」に片足踏み入れている。

かまいたちと劇団ひとりは相変わらずなの
に加えて、今度は対立する組の凄腕の殺し
屋が鼠先輩にしか見えず、どこまでも映画
に集中させてくれない。

                            3.5(金) BSプレミアム




2021年3月27日土曜日

モダン・タイムス

 
☆☆☆★  チャールズ・チャップリン  1936年

チャップリンが大きな歯車に巻き込まれる
場面が有名な映画。資本主義への諷刺を多
分に込めた内容だが、夜のデパートで恋人
と遊んだり、自動で昼食を取る機会の実験
台にさせられたりと、楽しい場面も満載で
ある。そしてエンディングにはあの"SMILE"
が流れる。

ヒロインのポーレット・ゴダードとはのち
に結婚して離婚しているらしい。相変わら
ずセリフはひとことも無いが、キャバレー
でデタラメ外国語で"Titina"を歌うシーン
がある。

                           3.7(日) BSプレミアム




2021年3月24日水曜日

読書③

 
『クララとお日さま』
カズオ・イシグロ 著  土屋政雄 訳

小説ごとにまったく違う世界を構築して提示
するカズオ・イシグロだが、AIを搭載する
「人工親友」クララと病弱な少女ジョジーと
の交流を軸にした近未来SF的な話なので、読
んでいて『わたしを離さないで』を思い出す
のは私だけではないだろう。「その世界では
当たり前の単語」をさも当然のようにポンと
放り込んで、読者に納得させてしまう手腕は
やはりたいしてもので、本作でも「向上処置
(Lifted)」とか「クーティングズ・マシン」
「汚染」などの単語が不気味に存在している。

しかし翻訳者も悩んだとは思うが、小説中で
明らかに「絶対者」ひいては「神」の「AI版」
ともいうべき"The Sun"を、「お日さま」と
いういくぶん幼児的な訳語で置き換えていい
ものかどうか。せめてカバーイラストは絵本
テイストでなくもっと厳しいものにした方が
よかったのではないか。少なくとも本文中で
外見がほぼ描写されることのない(もちろん
意図的に、だろう)クララの絵を登場させる
のは、感覚として私には理解できない。










『人新世の資本論』
斎藤幸平 著  集英社新書

「話題の人文書」というだけで、いつもなら
敬遠してしまうところ、友人が"激推し"して
くれたので読んでみたら、なんておもしろい
んでしょう。平易な文章で読みやすく、批判
と分析は明快かつ痛快で(SDGsは「大衆の
アヘン」である!)、提案は具体的で、夢物
語に終わってはいない。
終章から引用すると、

  資本主義が引き起こしている問題を、資
 本主義という根本原因を温存したままで、
 解決することなどできない。解決の道を切
 り拓くには、気候変動の原因である資本主
 義そのものを徹底的に批判する必要がある。
  しかも、希少性を生み出しながら利潤獲
 得を行う資本主義こそが、私たちの生活に
 欠乏をもたらしている。資本主義によって
 解体されてしまった<コモン>を再建する
 脱成長コミュニズムの方が、より人間的で、
 潤沢な暮らしを可能にしてくれるはずだ。

まあ本書が言っているのはこういうことで、
個人的には「資本主義こそが私たちの生活に
欠乏をもたらしている」ということの説明に
グッときた。こういう「素人にも分かりやす
い本」を書ける学者って、けっこう貴重だと
思う。





2021年3月21日日曜日

【LIVE!】 アイナ・ジ・エンド

 
  first solo tour "THE END" 

 1. ハロウ
 2. NaNa
 3. サボテンガール
 4. 金木犀
 5. 日々
 6. あぁ揺れてる
 7. 勘違いべいびー
 8. 粧し込んだ日にかぎって
 9. 死にたい夜にかぎって
10. 静的情夜
11. 虹
12. 誰誰誰
13. STEP by STEP
14. きえないで

Encore
15. 彼と私の本棚
16. スイカ

        3.1(月) 東京国際フォーラムホールA


新しく好きになったミュージシャンのライブ
に行く、という行為はものすごく久しぶりだ
が、やはり良いものです。

アイドルとは思えない、やさぐれた声に魅か
れてシングルやアルバムを買っていたアイナ
・ジ・エンドさんの初ソロツアーに行ってき
た。声質としてはGLIM SPANKYに近いかも
しれないが、ヴォーカリストとしては昔の椎
名林檎を彷彿させる。ソロ・アルバムを亀田
誠治がプロデュースしたのは、意外性には欠
けるが必然かもしれない。
BiSHの振付けを全部考えているだけあって、
ステージ上での身体表現には目を瞠るものが
ある。26歳にしては妖気が出すぎ…。もちろ
ん歌もすばらしい。今後も楽しみですな。





2021年3月19日金曜日

追憶

 
☆☆☆★  シドニー・ポラック  1974年

ロバート・レッドフォードとバーブラ・
ストライサンド。
バーブラはあまりヒロイン顔ではないが、
主義主張を曲げて折り合いをつけるとい
うことがどうしてもできない勝気な女性
の役がよくはまっている。
メロドラマと思いきや、苦いラストシー
ンにも納得の「大人の映画」になってい
る。

"THE WAY WE WERE"のメロディが何度
も何度も流れるが、不思議としつこいとは
感じなかった。名曲たるゆえんか。

                          3.1(月) BSプレミアム




2021年3月16日火曜日

ウェイトレス ~おいしい人生のつくりかた~

 
☆☆☆★  エイドリアン・シェリー 2007年

アメリカ南部の片田舎のダイナーで、粗野
で嫉妬深い夫から逃走するための貯金をし
ながら働くジェナは、天才的なパイづくり
の名人。
いよいよ家出を決心したところで妊娠が分
かり、さらには産婦人科の医師とも不倫関
係に陥り、事態はどんどんややこしくなっ
ていく…。

ジェナの同僚ふたりも個性的というかおも
しろいが、ジェナに友情のような好意を持っ
ている店のオーナーのおじいちゃんが良い
感じである。

しかし観る気をなくさせるサブタイトル。
悪い映画ではない。のちにミュージカルに
なったが、映画には歌は「パイの歌」とも
いうべき1曲しか出て来ない。

                                    2.28(日) DVD




2021年3月12日金曜日

男たちの挽歌

 
☆☆☆    ジョン・ウー  1986年

兄(ティ・ロン)はマフィアの大物、弟
(レスリー・チャン)は念願かなって警
官の卵。兄の相棒がチョウ・ユンファ。
闇社会から足を洗うべく、兄は「最後の
仕事」に赴くのだが…。みなさんご存じ
の通り、映画において「これを最後に足
を洗う」という仕事では必ず誰かに裏切
られて失敗して、死ぬか捕まることを意
味する。もちろん本作も例外ではない。
派手なガン・アクションと男臭い友情と
裏切りの物語、そしてジャッキー・チェ
ン映画のようなコメディ要素で、一世を
風靡した1作とのこと。続編も作られた。

しかしティ・ロンが私にはかまいたちの
山内に見えてしまい、チョウ・ユンファ
がどうしても劇団ひとりを彷彿とさせ、
話になかなか集中できない。まあそんな
大真面目に観る映画でもないからいいの
だが。

                       2.23(火) BSプレミアム




2021年3月10日水曜日

【LIVE!】 中井智彦コンサート


 "I Live Musical! '5"

ミュージカルの曲を歌いまくるというコン
セプトのコンサートシリーズ第5弾。私で
もほとんどの曲を聞いたことがあったから、
ミュージカルファンにはよほどおなじみの
曲ばかりだっただろう。
力強い歌声、そして生バンドの演奏、もう
それだけで生演奏に飢えている耳には聴き
ごたえがあった。
ゲストは岡幸二郎さん。「レ・ミゼラブル」
の曲を2曲歌ったが、さすがに格上、という
感じ…。その後、同じ曲を2人で歌い、聴き
比べてもらうという斬新な試み。これはお
もしろかった。

会場は道玄坂のユニクロの上にあるライブ
ハウス。元映画館のようだが、こんなとこ
ろにライブハウスがあったんですね…。

      2.20(土) 渋谷PLEASURE PLEASURE



2021年3月6日土曜日

【LIVE! <配信>】村上JAM いけないボサノヴァ

 
 Blame it on the Bossa Nova

2回目の村上JAMはボサノヴァをテーマに、
規模を拡大。大西順子のスペシャルバンド
に加えてゲストは小野リサ、村治佳織、山
下洋輔という豪華さ。ジョアン・ジルベル
トとアントニオ・カルロス・ジョビンの曲
を中心に、圧巻の、ソウルフルな演奏が展
開された。
春樹は村治佳織のギターをバックにしたが
えて(!)「1963/1982年のイパネマ娘」
を朗読。プロじゃないので若干つたないけ
ど、私は春樹の朗読はけっこう好きです。
というかそもそも、私もいいかげん長いこ
と村上春樹のファンをやっているが、配信
映像とはいえ「動いている春樹」を見るの
は「エルサレム賞」の受賞スピーチの映像
以来、2回目。さすがに髪は後退している
ものの、まあまだまだ元気そうである。
最低でもあと1冊は長篇を書いて欲しい。
もう文体の濃密さは『騎士団長』でいける
ところまでいったと私は思っているので、
今度はもう少しちからの抜けた文体になる
のではないかと予想している。

                     2.14(日) TOKYO FMホール




2021年3月3日水曜日

捜索者

 
☆☆☆   ジョン・フォード  1956年

"最高の西部劇"という呼び声も高い本作。
コマンチ族により弟一家を皆殺しにされ、
姪を連れ去られたジョン・ウェインと、
姪の婚約者の若者による果てしない追跡。
不思議なほど心にあまり染みてこなかっ
た。観る側の気分の問題だったかもしれ
ないが…。

最近はジョン・フォードの映画があると
録画するようにしている。こないだ文芸
誌をまとめて売った(ほとんどが春樹の
短篇が載った『文學界』)ときに、せっ
かくだからと蓮實重彥の「ジョン・フォ
ード論」の序盤を一夜漬けのように読ん
だら、まんまとジョン・フォードが観た
くなってしまったからである。思うツボ
か!

                      2.14(日) BSプレミアム




2021年3月1日月曜日

三人の名付け親


 ☆☆☆   ジョン・フォード  1948年

三人組の銀行強盗が、保安官から逃げる
途中で身重の女を乗せた幌馬車を見付け
る。女は赤ん坊を産み落とすと、三人に
名付け親になってくれと頼み、息絶えた…。

かくして食料も水も乏しい砂漠で、しか
も逃亡しながら、三人でなんとか赤ん坊
を育てようとする(というか生き延びさ
せる)。
まあ設定はなかなかおもしろいのだが、
どうも私にはそれほどおもしろさが分か
らなかった。しかし砂漠で喉が渇いて死
ぬというのは、絶対に嫌な死に方のひと
つだね。

                        2.14(日) BSプレミアム