2021年3月24日水曜日

読書③

 
『クララとお日さま』
カズオ・イシグロ 著  土屋政雄 訳

小説ごとにまったく違う世界を構築して提示
するカズオ・イシグロだが、AIを搭載する
「人工親友」クララと病弱な少女ジョジーと
の交流を軸にした近未来SF的な話なので、読
んでいて『わたしを離さないで』を思い出す
のは私だけではないだろう。「その世界では
当たり前の単語」をさも当然のようにポンと
放り込んで、読者に納得させてしまう手腕は
やはりたいしてもので、本作でも「向上処置
(Lifted)」とか「クーティングズ・マシン」
「汚染」などの単語が不気味に存在している。

しかし翻訳者も悩んだとは思うが、小説中で
明らかに「絶対者」ひいては「神」の「AI版」
ともいうべき"The Sun"を、「お日さま」と
いういくぶん幼児的な訳語で置き換えていい
ものかどうか。せめてカバーイラストは絵本
テイストでなくもっと厳しいものにした方が
よかったのではないか。少なくとも本文中で
外見がほぼ描写されることのない(もちろん
意図的に、だろう)クララの絵を登場させる
のは、感覚として私には理解できない。










『人新世の資本論』
斎藤幸平 著  集英社新書

「話題の人文書」というだけで、いつもなら
敬遠してしまうところ、友人が"激推し"して
くれたので読んでみたら、なんておもしろい
んでしょう。平易な文章で読みやすく、批判
と分析は明快かつ痛快で(SDGsは「大衆の
アヘン」である!)、提案は具体的で、夢物
語に終わってはいない。
終章から引用すると、

  資本主義が引き起こしている問題を、資
 本主義という根本原因を温存したままで、
 解決することなどできない。解決の道を切
 り拓くには、気候変動の原因である資本主
 義そのものを徹底的に批判する必要がある。
  しかも、希少性を生み出しながら利潤獲
 得を行う資本主義こそが、私たちの生活に
 欠乏をもたらしている。資本主義によって
 解体されてしまった<コモン>を再建する
 脱成長コミュニズムの方が、より人間的で、
 潤沢な暮らしを可能にしてくれるはずだ。

まあ本書が言っているのはこういうことで、
個人的には「資本主義こそが私たちの生活に
欠乏をもたらしている」ということの説明に
グッときた。こういう「素人にも分かりやす
い本」を書ける学者って、けっこう貴重だと
思う。





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