2020年7月29日水曜日

ニノチカ


☆☆☆★★ エルンスト・ルビッチ 1939年

グレタ・ガルボとメルヴィン・ダグラス。
最近ワイルダーの作品が多く放送されてい
るので、その流れでワイルダーの師匠のル
ビッチも選ばれたのか。実に楽しい映画で、
観終わったあとも、登場人物のその後を考
えるとニコニコしてしまうような映画であ
る。もうひと押し何かあれば★ひとつあげ
たいところ。

共産主義国のロシアから資本主義の花の都
パリへ3人の役人が派遣される。この3人組
が資本主義に染まっていく様がおかしいの
だが、本国から見るとまじめに仕事をして
いるか疑わしいので、上司のグレタ・ガル
ボがコチコチの共産主義者として任務遂行
のためやってくる。贅沢なもの、享楽的な
ものには目もくれないガルボだが、たまた
ま道を訊いたメルヴィン・ダグラスと惹か
れあってしまい…。
クールビューティのガルボが笑うのは非常
に珍しかったらしい。

                            7.15(水) BSプレミアム


2020年7月27日月曜日

ジョン・F・ドノヴァンの死と生


☆☆☆★★  グザヴィエ・ドラン  2020年

アメリカの人気俳優ジョン・F・ドノヴァン
が29歳で死んだことを伝えるニュースから映
画は始まる。俳優と秘密の文通をしていた少
年ルパートは衝撃を受けるが、やがて成長し
て新進の俳優となる。文通した100通以上の
手紙を含む自叙伝を刊行したルパートは、プ
ラハで(そういえば、どうしてプラハだった
んだっけ)ジャーナリストによるインタビュ
ーに応じるが…。
幼いルパートを演じたジェイコブ・トレンブ
レイ。子役ってすごすぎる…。ナタリー・ポ
ートマンはよく見ないと分からないぐらい母
親になりきっている。幼いルパートと母親の
和解、そして人気俳優へ登りつめたジョンと
母親の和解が並行して描かれるが、ルパート
の話の方が中身はあるし後味がいいし、子役
の演技はハンパないし、心に残る。
エンディングでThe Verveの懐かしい曲がか
かったのでちょっと驚いた。山崎洋一郎の
rockin'onを読んでいたひとなら知っている
と思う。実は私もCD持っている。

                            7.14(火) 新宿ピカデリー



2020年7月25日土曜日

キリング・フィールド


☆☆☆★★ ローランド・ジョフィ  1984年

クメール・ルージュによる内乱が続くカン
ボジアを舞台に、アメリカ人記者(サム・
ウォーターストン)と現地人の通訳の友情
と運命を描く大作。S・シャンバーグの原
作はピューリッツァ賞をとっている。
プノンペンへの反政府軍の乱入と、そこか
らの脱出劇が前半。なかなか手に汗にぎる
ものがある。後半では、脱出できなかった
通訳(ハイン・S・ニョール)は強制労働
に従事させられている。そこからの脱出行
がまたすさまじい。

                          7.13(月) BSプレミアム



2020年7月23日木曜日

読書⑱


『買い物とわたし ~お伊勢丹より愛をこめて~
山内マリコ 著   文春文庫

お買い物エッセイ。といっても単に「こんな
もの買いました」というのではなく、たとえ
ばパーカーならパーカーで、いま持ってるの
はあの時に買ったこういうもので、それを買
い直す(買い直したい)のはなぜか、私なり
にこう考えて、そして買ってみて、どういう
感じか、というのを短くまとめてある。どち
らかというと買ったものよりも、買う前のあ
れこれの方が、いっちょまえに近頃、いろん
な買い物をするようになった私にも思い当た
ることばかりでおもしろい。服飾関係やイン
テリアが多いが、そうでないものもある。
2014年に週刊文春に連載されていたコラムな
のだが、当時の私はお買い物にほとんど関心
がなく、新宿伊勢丹など足を踏み入れたこと
もなかったので、文春は買っていたのに(そ
れもコラムが目当てで)読んでいなかったの
である。人間とはおとなになっても変わるも
ので…。









『村上T 僕の愛したTシャツたち
村上春樹 著  マガジンハウス

『ポパイ』に連載されていたTシャツに関す
るコラム集。たまーに読んでいたが、どうせ
本になるからと思って、いちいち雑誌を毎号
追いかけてはいなかった。
こういうコラムを書かせても村上春樹という
ひとは実にうまいのだが、いろいろあるなか
で白眉はやはり、想像がふくらんで短編小説
まで書いてしまった"TONY TAKITANI"の黄
色のTシャツだろう。あとがきには、トニー
滝谷さん本人から連絡があってTシャツの謎
が解けた話が書いてある。





2020年7月21日火曜日

翔んだカップル


☆☆☆★    相米慎二   1980年

相米慎二の映画デビュー作で、主演は薬師丸
ひろ子と鶴見辰吾。あたりまえだが、ふたり
とも若い。
マンガ原作というのも納得のストーリーで、
ひょんなことから高校生の男女が一つ屋根の
下で生活することになる、まあいわゆるラブ
コメである。
カメラワークは凝ってはいるが、代名詞の長
回しもそれほど顕著ではなく、そのぶん観や
すい仕上がりになっている。いかんせん話が
くだらないのがもったいないところ。

                          7.10(金) BSプレミアム



2020年7月19日日曜日

うつくしいひと


☆☆☆   行定勲    2016年

熊本をロケ地に、熊本出身の俳優を中心
に撮られた短篇。主演は橋本愛と姜尚中。
高良健吾や石田えりも出ていて、短いわ
りに豪華である。姜尚中がまじめに演技
してるとなぜかこちらが恥ずかしくなっ
てくるが、別にむちゃくちゃ下手とかそ
ういうわけではない。むしろ評論家にし
ては演技になっていると思う。いい声だ
し。
ストーリーはとりとめないというか、他
愛ないというか。はじめ不審な男として
登場する姜尚中とか、ホイットマンの詩
を引用するところとか、話が転がってい
く感じになんとなく岩井俊二的なものを
感じる。

                7.10(金) サンクス・シアター


2020年7月16日木曜日

翼よ!あれが巴里の灯だ


☆☆☆★★ ビリー・ワイルダー 1957年

単独での無着陸大西洋横断飛行を成し遂げ
たリンドバーグの成功譚を映画化。それは
つまりニューヨークを出発してからパリま
で、交代なしで33時間ひたすら飛びつづけ
るわけで、これをまともに描くとただ睡魔
と闘っているリンドバーグをコックピット
内で写し続けるだけになってしまうのだが、
そこは脚本の腕の見せどころ。脚本家出身
のワイルダーは135分、まったく退屈させ
ない。

リンドバーグを演じるのはジェームズ・ス
チュアート。
まず出資者を募り、大西洋を横断できる飛
行機を作るとこから始めなければならない
のだが、大手の航空機会社の提示した条件
に納得できず、田舎の町工場みたいなとこ
に任せることになる。ここが『紅の豚』み
たいでいちばんワクワクする。鷹揚な社長
と腕のたしかな技術者がいて、ひさびさの
大口の注文に湧きたってみんなでわいわい
作るのである。きっと宮崎駿もこの場面が
好きだったに違いない。

ようやく歴史的な単独飛行を開始してから
も、まだ上映時間は60分以上ある。モノロ
ーグで主人公の考えを垂れ流しながら睡魔
と闘ったり、上空の冷気で機体にトラブル
が起こったりするのは、まあ誰でも考えつ
く事で、それだけでは間がもたない。工夫
のしがいがあるというものだが、ワイルダ
ーはコックピットに迷い込んだ蠅を話し相
手にしたり、出発間際に女の子にもらった
手鏡をうまく使ったり、回想をはさんだり
と、ほんとうに脚本の手本のような構成に
うならされる。

                           7.9(木) BSプレミアム



2020年7月14日火曜日

ペイン・アンド・グローリー


☆☆☆★★ ペドロ・アルモドバル 2020年

「書けなくなった」映画作家が主人公で、
アントニオ・バンデラスが演じる。頭痛を
筆頭として、現在も様々な痛み(Pain)を
抱える主人公だが、過去の恋愛に関する痛
み、主演俳優の演技に不満があったデビュ
ー作、そしてそのデビュー作で得た映画監
督としての栄光(Glory)と正面から向き
合うことで、映画作家としての再生を果た
していく。

アルモドバルは前からとても好きな監督で、
撮る画からにじみ出てくる「変態性」にか
けては右に出る者なし、と評価している。
本作は映画監督が主人公だから多かれ少な
かれ自伝的なのかもしれないが、それにし
ては主人公の変態性が控えめなような。ア
ントニオ・バンデラスは顔は毛むくじゃら
だが瞳がキレイで少年のようである。そし
てアルモドバル作品の女神、ペネロペ・ク
ルスも主人公の幼いときの母親役で出演。
ちょっと所帯じみたペネロペ・クルスもま
た良いじゃないですか。冒頭の、川辺で洗
濯の合間に女たちが歌い踊る場面が美しい。

                7.7(火) Bunkamuraル・シネマ



2020年7月11日土曜日

情婦


☆☆☆★★ ビリー・ワイルダー 1957年

アガサ・クリスティ原作の法廷もの。原題は
"WITNESS FOR THE PROSECUTION"つまり
「検察側の証人」。資産家の老婆が殺された
事件の裁判において、容疑者のアリバイが成
立するかどうかが主眼となってくる。

舞台は容疑者の弁護を引き受けることになる
チャールズ・ロートンの事務所と、裁判所の
ふたつだけ。なのだが、話の「もって行き方」
が実にうまい。ふだんはタバコと酒が好きな
口の悪いおじいちゃんのチャールズ・ロート
ンが法廷ではやり手になる豹変ぶりと、病院
から付き添いと監視のためについてきた看護
婦とのやりとりがおかしい。
陪審員制度を利用したトリックとも言えそう
で、今の日本にも無関係ではないだろう。マ
レーネ・ディートリッヒ、見事な芝居である。

ちなみにチャールズ・ロートンが生涯に一本
だけ監督した映画が、ロバート・ミッチャム
主演でカルト的な人気がある『狩人の夜』。
これは自分のための備忘録として。まあこの
ブログはほとんど自分のための備忘録なのだ
が。

                              7.6(月) BSプレミアム



2020年7月8日水曜日

読書⑰


『塩一トンの読書』
須賀敦子 著   河出文庫

一見奇妙な題は筆者のイタリア人の義母
の言葉に由来する。
 「ひとりの人を理解するまでには、す
  くなくも、一トンの塩をいっしょに
  舐めなければだめなのよ」

なかなか面白い表現だと思うが、もとも
とは夫婦について言われたこの言葉を、
読書に、それもとりわけ古典を読むとい
う営為に当てはめたものがこのタイトル
なのである。

イタリア、フランスの小説・映画の話題
が豊富で、いわゆる「そそる」書評がう
まい。一方で、腰を据えて『細雪』を論
じた文章もあり、「読書の歓び」を共有
するようでとても楽しい。






『街場の読書論』
内田樹 著   潮新書

「読書」「書評」や「著作権」「リーダビ
リティとは」について、ブログや雑誌等に
寄稿した文章を集めた、いつものコンピレ
ーション本。新書版にしてはかなり大部で
はあるが、1つづつは短いのでコツコツ読
める。総じてとてもおもしろかった。この
人の文章がおもしろいのは、全面的に賛成
できない論旨であってもそれなりに「読ま
せる」ことだろう。

後半にまとまっている著作権に関する一連
の意見表明。本を書く人間にとっての、
「読者と書籍購入者」の違いをめぐる話は、
最初は「いやー、そうは言っても」と思っ
たのが、繰り返されるにつれて「うーん。
そうかもしれん…」と思ってしまう、いと
も与しやすき私。

2020年7月5日日曜日

中間発表


いつもの年となにも変わらず始まった2020
年、初映画は寅さんだった(もうずいぶん前
のようだ)。岩井俊二の新作にあふれる美少
女への偏愛に満足を覚え、ポン・ジュノの快
挙に喝采を送り、『ジョジョ・ラビット』に
魅了され…。
一方で名画座の会心のプログラムに私の心は
引き裂かれた。休日に狙いをつけて、高峰秀
子特集、ロシア映画特集、ジャ・ジャンクー
特集、さらに梅宮辰夫の追悼特集に駆けつけ
た、ところで…。
映画館は閉まってしまった。

自宅にいる時間が増えたので、ほぼ3日に2本
のペースで旧作を観ていくことになったが、
Amazonプライムに手を出したことも災いし、
それでもうちのHDDの映画がカラになること
はなかった。

ということで、現在の鑑賞本数は53
今年こそ100本を狙える、というか今年100
本行かなかったらもう、退職するまで行くこ
とはないのでは…。絶好の機会。なので後半、
あと47本、なんとしても…。

上半期の収穫。旧作では『県警対組織暴力』
『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』
『シンドラーのリスト』が印象に残っている。
あとチャップリンの代表作をじっくりと観る
ことができたのも素敵な時間であった。
新作は上記の4作。あとは下半期のラッシュ
に期待するとしよう。


2020年7月3日金曜日

8日で死んだ怪獣の12日の物語


☆☆☆    岩井俊二   2020年

YouTubeに発表された連作短篇。
コロナと闘う怪獣をネットで購入した男の
12日間の記録、という体裁をとっている。
出演は斎藤工。ちょっとだけ武井壮が出て
いる。
最初ただの球体だった「怪獣のもと」が、
朝起きるたびに形が変わっていて、それを
そのつど「知り合いの怪獣に詳しいひと」
の意見を訊きながら解釈していく。
最後に流れるピアノの曲が岩井俊二っぽい。

7月に正式な劇場版が公開されるとのこと。

                                6.25(木) YouTube



2020年7月1日水曜日

キングダム


☆☆☆    佐藤信介   2019年

美術とロケにお金がかかっていることは、
画面からひしひしと伝わってきた。"大陸
的"な画だったと思う。まあそれと、長澤
まさみの戦闘シーンが目の保養にとても
良いこと以外は、特筆すべきところのな
い映画。あ、あと大沢たかおのいつもと
違う芝居も、だんだんクセになる感じで
よかった。
原作マンガは読んでないので知らないが、
映画版に限っていえばストーリーは凡庸
そのもので、それぞれ名のある役者の見
せ場を確保するための最大公約数的な展
開に落ち着いただろうことは、11人もプ
ロデューサーが名を連ねていることから
推して知るべし。

                               6.24(水) 日テレ