2012年3月29日木曜日

最近かたづいた本⑨


『物情騒然。 人生は五十一から④
小林信彦 著   文春文庫

寝る前に小林さんのコラムを一つか二つ読んでから布団にもぐり
こむようになって久しいが、いまだに飽きがこない。目利きの確か
さと記憶力。どうもこの二つが魅力である。私は文章も好きだ。
端々まで神経が行き届いていて、確かな美意識に支えられた文章
だと思う。


『デミアン』
ヘルマン・ヘッセ 著  高橋健二 訳  新潮文庫

抽象的でさっぱり分からない部分も多いが、あまり立ち止まらずに読
み進めるようにした。読み終わったいま、物語全体を眺めてみると、
相当に奇妙な物語に思える。ベアトリーチェ? ピストーリウス? ア
プラクサス? エヴァ夫人? なんだかうまく消化できないままだ。胃
もたれしている気分。

実は高校生のとき、読書感想文の課題として読んで以来だが、そし
てその感想文に自分が何を書いたかは何ひとつとして思い出せない
のだが、どうせたいした事は書けなかったろう。いま書けと言われても
書ける気がしないというのに、いったい当時何を書いたんだろう。まあ
書くことのないテーマについて無理やり作文をひねり出す術も、当時
は会得していたのかな。



2012年3月28日水曜日

DOCUMENTARY of AKB48 Show must go on 少女たちは傷つきながら、夢を見る


☆☆☆           高橋栄樹          2012年

前作(寒竹ゆり 監督、 岩井俊二 製作総指揮)は、わりとメンバー個人
のパーソナリティに焦点を当てていた。こちらとしても去年の時点では、
まだメディアに出て来る子ですら顔と名前が一致しない状態だったので、
細切れのインタビューではあったが、なかなかおもしろく観た。

そして今回、紹介はもう済んだということなのか、メンバーのパーソナリ
ティに関してはほぼ何も触れられることなく、2011年というヘビーデュー
ティーな年を、AKB48がどう駆け抜けたかに、ひたすらフォーカスをしぼっ
ている。そして、前作よりはだいぶつまらなくなった。

全体が低調だったわけではなく、おもしろく観た部分もある。おそろしい
スピードで巨大化していくAKB48という存在に、メンバー自身も("中心メ
ンバー"でさえも)とまどい、混乱している様をためらいなく映す台湾・香
港公演の様子なんかはわりあいおもしろかった。台湾や香港での熱狂
的な歓迎ぶりに「なんだか私の知ってるAKBじゃないみたい」と率直に
困惑を口にするまゆゆ。「てんやわんや」という言葉があんなにしっくり
くる現場は見たことがないほどの、西武ドーム公演の舞台裏の大混乱
ぶり。
でも見所といったらそれぐらいか。画像は、過呼吸の発作を抑えながら
出番を待つあっちゃん。

                                             3.24(土)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2012年3月27日火曜日

本日休診


☆☆☆★          澁谷実         1952年

公開当時はたいへん話題になった、大ヒット作なんですよ、との
山田監督のコメント。へぇ。戦争で気が触れた青年の役を三國
連太郎が演じているが、その青年に対する周囲の応対の温か
さが、ひとつ映画のトーンを明るくしている。

澁谷実と木下恵介は仲が悪く、食堂で鉢合わせしそうになると
助監督があわてて止めた、という話を山本晋也が披露していた。
高峰秀子のエッセイを読む限り、木下恵介というひとはあっけら
かんとした天才で、とても敵を作りそうなひとには思えないが、ま
あ人間にはいろんな面があるということか。
画像は三國連太郎。若い。

                                                       3.22(木)  BSプレミアム


2012年3月25日日曜日

家族


☆☆☆★         山田洋次      1970年

「"家族"の映画50本」の締めくくりは、山田洋次みずからの
作品、その名も『家族』。かなりの異色作、といって過言でな
いだろう、奇妙な日本縦断記である。異色作といったのは、
物語につきまとう「死」の気配が、なんだか「らしくない」という
気がしたからだ。いつも外角低めにシャープな球を決めてくる
山田監督の、高めに浮いた「暴投」のような気がしてしまう。

一家族が、列車で長崎から中標津まで北上するという試み、
アイディアがとてもおもしろいし、それ自体は成功しているの
だけれど、ある登場人物の死に違和感を禁じえないところも
あり、ちと減点。

                                                      3.20(火) BSプレミアム


2012年3月24日土曜日

最近かたづいた本⑧


『お言葉ですが… 別巻4
高島俊男 著    連合出版

今のところ本書が高島さんの最新刊。
あいかわらずの健筆で、おおかたはおもしろいが、なんだか資料を
紹介しているだけのような味気ない文章もちらほらある。漢字の読
み方、呉音と唐音の違いは、これまでもたびたび高島さんの文章に
出て来たが、本書の説明がいままででいちばん詳しくて分かり易い。


『黒澤明という時代』
小林信彦 著    文春文庫

「映画は封切のときに観ないとダメなんだ」という著者の言葉が作中
にあるが、もちろん一面の真実ではあるのだろうけど、"それをいっ
ちゃあ、おしめぇよ"という気もするのである。

小林さんは本書で、製作年の順に、黒澤明の監督作をリアルタイム
でどういうふうに観てきたか、そしてDVDで全作品を観返して、いま
どう思うかをつづっている。白眉はやはり最初の章「『姿三四郎』で
戦時下に登場」だろう。黒澤明のデビューがいかに鮮烈で、破格の
"新人"だったか、戦時下の日本人がいかにこの映画に熱狂したか
が、当時10歳の小林「少年」の目を通して描かれる。この章を読む
と「なるほど、こりゃ封切で観ないとダメかもな」と思ってしまうのだ
が…。だっていま「姿三四郎」を観ても、わりと普通の柔道映画です
もんね。フィルム切られてて完全じゃないし。




2012年3月21日水曜日

真実一路

☆☆★★★        川島雄三       1954年

本作にも出ていますが、淡島千景も亡くなってしまいましたね。
「雰囲気のある人」というのか、独特のたたずまいがあって、
BSのおかげで『夫婦善哉』から『鰯雲』まで、いろいろ観ていますが、
不思議なほど幅広い役を演じているひとです。

この映画、私にはあまりおもしろくはなかったが、もうちょっと「遊び」
がある方が好きだなぁ、という感じ。

                                              3.15(木) BSプレミアム


2012年3月19日月曜日

戦火の馬


☆☆☆★★    スティーヴン・スピルバーグ    2012年

特に言うことはないのだが…。
この映像を前に言葉を費やすのはむなしい、などと思ってしまうほど
美しい映像だった。撮影はヤヌス・カミンスキー、音楽はジョン・ウィ
リアムズ、監督はスピルバーグ。まあ、そういうことですよ。

予定調和なことやられると退屈するんでね、という"うそぶき"すらをも
吹き飛ばしてゆく「黄金のパターン」のすさまじい腕力の前に、我々は
なす術もない。無抵抗。戦争が終わって馬が戻ってきて、泣いたよね、
当然。そりゃそうだよ。どうしようもないもの。

                                            3.9(金) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2012年3月17日土曜日

ものすごくうるさくて、ありえないほど近い


☆☆☆★        スティーヴン・ダルドリー      2012年

「不在」をめぐる物語。
なかなかおもしろかった。
普通、ここまで真面目にやられると、私の場合は退屈してしまうところ
だが、登場人物の「次の」行動が読めないのと、予定調和なセリフを
吐かないので、最後まで映画的興味は持続した。
主演の子役は抜群の、素晴らしい演技力だった。どうやって見付けて
くるんでしょうね。あの喋らないおじいさんも良い感じだった。

雑にまとめると、話は私の好みではないが、とにかく何もかもが「巧い」
映画だった、ということになろうか。
題名もおもしろいし。"Extremely Loud and Incredibly Close"
観終わっても意味はよくわからないけど。

                                            3.3(土) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2012年3月14日水曜日

我ら、時


オザケンを愛するみなさん、実によろこばしいことですね。
春、祝祭です。慶事です。
小沢健二というミュージシャンに興味のない方にも説明をしておくと、
小沢くんはこの10年間に2枚しかアルバムを出しておらず、音楽活動
らしき活動をしてこなかったのですが、2010年に突然ツアーをおこな
い、そしてこのたび「我ら、時」と題されたボックスセットが発売される
のです。それには「ドゥワッチャライク」の連載や「うさぎ!」の連載を
まとめたものと、2010年のツアーの曲目すべてをおさめた3枚組CD
が入っているというわけです。

釧路に赴任するにあたって、ライブや展覧会の類に行くことはすっか
り諦めて旅立ったつもりではあったが、オザケンの2010年のツアー
に行くことが叶わなかったことだけは、枕を涙で濡らすぐらい悲しかっ
た。いまだったら有給をとって札幌に観に行くのだが、当時私はまだ
一年目であり、研修中であり、すいませんオザケン観に行きたいんで
すけど、とは言えなかった。
だからこのボックスセットはうれしい! 断固うれしい!
15000円だろうがそんなことはまったく関係がない。

ちなみに3月から4月にかけて、小沢くんは東京オペラシティでコンサ
ートをやるらしい。行くべきか、とも思ったが、2010年のツアーとはだ
いぶ趣きが違いそうなので、やめとくことにした。2010年のツアーでは
「LIFE」の曲をやります、とわざわざ宣言していたのだ。ある日突然オ
ザケンが日本でツアーをやると言い出して、しかも「LIFE」の曲をやり
ますと宣言するなんて、まるでマイケル・ジャクソンが生き返って日本
武道館でコンサートをやります、といったのと同じぐらいの驚きだった
のだ。いやほんとに。それなのに私は行くことができなかった…。それ
は世界中の不幸をいっぺんに自分が背負っているような悲しさだった。

まあ個人的感慨はそのぐらいにして。
順序としては、はじめにボックスセットがあり、それから発売記念に東京
オペラシティのコンサート開催、そしてパルコミュージアムでの展覧会を
やる、という流れらしい。私はこの中でおそらくボックスセットを買うこと
しかできないが。



2012年3月12日月曜日

黒いオルフェ


☆☆☆       マルセル・カミュ      1960年

冒頭から鳴り響くサンバのリズム。いくらカーニバル期間中の
リオ・デ・ジャネイロの話だからって、夜寝るとき以外ほぼ全編
にわたってズンチャカズンチャカ鳴っているのはどうかと思うが、
陽気でエネルギーに満ちた映画である。
ただいかんせん、ストーリーが雑すぎやしないか。
もうちょっと伏線を張るとか、まともな人間をひとりぐらい登場さ
せるとか、そのぐらいはして欲しい。

                                                              3.1(木) BSプレミアム


2012年3月10日土曜日

ツィゴイネルワイゼン


☆☆☆★★★       鈴木清順      1980年

これには参った。圧倒された。
スクリーンで観てよかった。

冒頭、女の水死体から「蟹」のクローズアップを見せつけられた
時は、正直いって大丈夫かコレ、と思ったが、あとは一気でした。

海辺のシーン。会話する人物のすぐうしろには、波が白く泡立つ
荒れた海が映っているのにも関わらず、波の音も風の音もまった
く聴こえない。録り忘れか。そんなわけねーか(笑)、と思っていた
ら、やがてそれは我々の聴覚の自由を制限する試みであることが
わかってくる。つまり、ここでこういう音がするだろ、という場面でそ
の音がしない。逆に突拍子もない音がへんな場面で聴こえてくる。
それらに「うお!」「なんだ今の?」といちいち反応すれば、すでに
清順じいさんの掌のうえというわけである。まあこの頃はまだ清順
おじさんか。

音もさることながら、映像もなんとカッコのよいこと。
原田芳雄、大谷直子、藤田敏八、大楠道代、みんな良いが、特筆
すべきはやはり大谷直子の"妖気"であろう。ちぎりこんにゃく!

原作は内田百閒の「サラサーテの盤」。こんど読んでみよう。

                                                         3.1(木)  品川プリンスシネマ


2012年3月5日月曜日

世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド


村上春樹 著  新潮文庫

高校のとき読んで以来、一度も読み返していなかった。
村上春樹の小説でなぜか唯一これだけ。読み返そうと試みるも、
最初のエレベーターとピンクのスーツの太った娘の描写で挫折し
ていたのである。あそこがけっこうダルいんだよね。

一人称の違う主人公の章が交互に繰り返す、のちの『海辺のカ
フカ』や『1Q84』でも採用される形式(厳密にいえば『1Q84』は一
人称ではないけども)を最初にやり始めたのが本作だが、その2
作と違うのは明らかに片方の章「ハードボイルド・ワンダーランド」
の方がおもしろいということですね。特に会話の冴えにはあらため
て驚いた。得意の比喩も惜しげなく披露されているが、次が『ノル
ウェイの森』、その次が『ダンス・ダンス・ダンス』であることを考え
ると、まだ途上の観あり、といったところ。

しかし人気ランキングでしばしば1位になるのは、正直よくわからな
いなー。私は『ノルウェイの森』と『ダンス・ダンス・ダンス』、もう1作
といわれれば『ねじまき鳥クロニクル』を最も好む者である。まあ
結局は、緑、ユキ、笠原メイと、主人公との会話が好きなんだね。


2012年3月2日金曜日

J.エドガー

☆☆☆★★     クリント・イーストウッド    2012年


映画はしばしば、時間軸を飛び越えて移動したいという欲望に抗う
ことができない。…と、ハスミンっぽく始めてみましたが、時間軸を
ぐちゃぐちゃにすることに関して最も強度があるのは映画でしょうね。
本作も、過去と現在を行ったり来たりで忙しいが、エレベーターやら
競馬場やらを巧みに使うので、さほど混乱はない。

イーストウッドが子どものときからずーっと、FBIの長官だったという
J・エドガー・フーバーなる人物。不勉強ながら私は知らなかったが、
大統領が8人変わってもFBIのトップに君臨し続けたこの特異な人物
にディカプリオが扮している。なかなかの怪演で、良かったと思うが、
アカデミー賞は候補にもしてくれないんだね。

それにしても最近「ゴーストライト」がやけに目に付くのである。去年
のポランスキーの新作『ゴーストライター』はそのものズバリだが、
『ドラゴン・タトゥー』でも、主人公が「ハリエット殺し」を調査するのは、
大事業家の老人の「自叙伝執筆」を隠れみのにしながら、であった。
本作でも映画を駆動するのは、エドガーがゴーストライターに向かっ
て、自らの人生を語る言葉である。『1Q84』で天吾がふかえりと関わ
りを持つのは、まさに「ゴーストライト」という行為を通してであった。
なので本作でエドガーが評伝を書きたいからライターを呼べ、と言い
出したとき「あ、イーストウッド、かぶったな」と思ってしまったのである。


                                      2.17(金)  ユナイテッドシネマ札幌


2012年3月1日木曜日

若者たち


☆☆☆       森川時久      1967年

当時の若者は、こんなにも激情に駆られてばかりだった
のだろうか…。いくらなんでもここまでではないと思うが、
とにかく怒鳴る、泣く、取っ組み合いの喧嘩をする、で
忙しくってしょうがない。
なにかと「クール」がもてはやされる昨今、この圧倒的な
「暑苦しさ」が新鮮である。

佐藤オリエという女優、当時かなりの人気だったらしい。
なるほどちょっと翳のある美人である。幸の薄い役が似
合う。しかし、わりと六十年、七十年代の邦画を観ている
はずだが、何か出てたかなぁ。覚えがない。
お父さんは彫刻家の佐藤忠良とのこと。釧路市のシンボ
ル「幣舞橋」の彫刻にこの人の作品がある。

                                                   2.14(火)  BSプレミアム