2011年12月29日木曜日

聯合艦隊司令長官 山本五十六

-太平洋戦争70年目の真実-

☆☆☆★             成島出          2011年

山本五十六という人物のことは詳しく知らなかった。真珠湾攻撃を
指揮したひと、ぐらいのイメージしかなかったので、本作で描かれる
山本五十六像はとても魅力的で、こんなひとが海軍の現場のトップ
にいたのかという驚きと、役所広司の快演とが相俟ってたいへんお
もしろかった。
どの程度フィクションなのかが私にはまったく分からないのだけど、
半藤一利が監修だから、細かい会話とかはともかく、おおかた史実
に基づいているのだろう。

ただ、観ているうちに、あまりにカメラが動かない絵が多く、役所広司
のアップばかりなのが不満ではあった。絵の構成とかカメラの動きで
印象に残るおもしろいカットってひとつも無かったような気がする。そ
うすると、2時間ドラマと何が違うんだろうと思ってしまうのである。映画
なんだからもうちょっとさぁ、ないの? こないだキューブリックの若い頃
のことをBSでやってたけどさぁ、青の時代とかいって。カメラってやっ
ぱ動いてナンボなんじゃないの。と私がプロデューサーだったら無責任
に放言したいところである。
しかしこの映画の役所広司はほんとに良い。柄本明と香川照之はちょっ
と見飽きてきた。かれら邦画ぜんぶに出てるのか?

                                         12.25(日) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年12月24日土曜日

天空の城ラピュタ


☆☆☆☆★           宮崎駿        1986年

「完璧」という言葉に最も近い冒険活劇の傑作中の傑作では
ないですか。
もちろん何度目かわからないぐらい観たが、今回はとりわけ
あらゆる人物、あらゆる細部がグッときたなぁ。最初から最
後までグッときっぱなしという、稀有な経験だった。さらに、
余韻が数日間に渡って続き、仕事中にもパズーとシータの
幸せを願うという重症っぷり。
特にムスカに追い詰められたシータの反撃には泣けますな。

ムスカ「終点が玉座の間とは上出来じゃないか」
シータ「これが玉座ですって? ここはお墓よ、あなたと私の。
    国が滅びたのに、王だけ生きてるなんて滑稽だわ」

この一連がなければ、シータはもっと「かよわい」女の子のま
まで(海賊船の手伝いはあったものの)、もうひとつ人格に
深みが無かっただろうね。しかしここで有頂天のムスカに冷
ややかな一撃を浴びせるシータに、最高にグッときました。
まったくもって駿は。天才なんだから。

                                                            12.11(日) STV


2011年12月21日水曜日

恋の罪

☆☆☆★★       園子温     2011年

まさか「スタジオパークからこんにちは」で園子温を見る
日が来るとは思わなかった。
平日の昼間だから誰も見てないと思うけど、園さん意外
とトークがなめらかで、まともじゃない感じもチラ見させつ
つ、なかなかおもしろかったですよ。怪しいひとだよね。

さて最新作の「恋の罪」、楽しみにしてたもんで、札幌出
張の帰りに、列車を2本も遅らせて観て来ました。おかげ
で普通に帰れば夜8時半には釧路に着いているところを、
0時着ですよ。これで映画が「ハラコレ」なみにつまんなかっ
たら自害したくなるところだが、おもしろかったです。さす
がは園監督。実に久しぶりに見た水野美紀だったが、園
ワールドの住人として、いきいきと動いてらっしゃいました。
個人的には神楽坂恵パートより、水野美紀パートをもっと
見たかったなぁ。アンジャッシュの児嶋も好演。
ただ「冷たい熱帯魚」もだいぶ「しつこいなー」と思ったけ
れど、本作もけっこうしつこかったね。まずクラシックがし
つこい。わかった、わかったよ、ブラームスの1番だろ、そ
んなに何回も聴かせてくれなくてもいいよ、と思っていたら、
マーラーの5番でした。すいませんでした。
それとまあ、いろいろとしつこい。何度か閉口したものの、
それよりはハッと目の醒めるようなショットの多さに目を向
けるべきであろう。しつこい快作!

                                   12.9(金) ディノスシネマズ札幌



2011年12月17日土曜日

最近かたづいた本⑤

『小澤征爾さんと、音楽について話をする』

小澤征爾 村上春樹      新潮社

ちょっと詳細な感想を書いてる余裕がないが、
すばらしかった。小澤征爾の人間的魅力と、
その小澤征爾に「正気じゃない」と言わしめる
ほどの村上春樹のクラシックに対する深い愛に
圧倒されること間違いなし、ですな。
特に春樹のクラシック音楽を評する表現の豊か
さには、ただ感嘆するしかない。やっぱりすごい
奴ですよ。



2011年12月15日木曜日

レイクサイド マーダーケース


☆☆☆★★        青山真治        2004年

点が甘いかもしれないが、こういう映画けっこう好きなので。
お受験の面接で、父親が息子をなぜその中学に入れたいのか、
「志望理由」を面接官に説明している。あとでこれは面接の「練
習」だということがわかるのだが、貴学の校風はまことにどうのこ
うの、という空疎な内容で、男の子はうわの空である。部屋の中を
モンシロチョウが飛んでいるのでさっきからそれが気になっている。
3~4のカットに蝶がひらひら映りこむ。やがて蝶は順番を待つ女
の子の足元に飛んでゆく。それを見た女の子は、狙いをすまし、
躊躇なくシューズで蝶を踏み潰す。一瞬のできごと。顔を見合わせ
て微笑むふたり。シューズを椅子の裏から撮ったカット。蝶の体液
がおおげさなくらいネバついて、シューズと床との間に糸を引いて
いる…。

もうね、実に良いシークエンスで、こういうのを見るとやはり幸せな
気分になる。後の展開はおまえに任せた! 好きにやれ!という感
じ。

                                                             12.3(土) DVD


2011年12月12日月曜日

最近かたづいた本④


『初恋温泉』

吉田修一 著    集英社文庫

「温泉しばり」の連作短篇集。
要は、主人公が必ず温泉宿に向かうことが条件の小説集。
三題噺のような感じで、「黒川温泉」「高校生カップル」「女
の子の方の兄夫婦が離婚危機」の三題でサラっと一篇。
「青荷温泉」「おしゃべり者同士のカップル」「隣室に聾唖
の男女」でまたサラっと一篇。実際吉田氏がサラサラっと
書いたかは知らないが、読後感はあくまで軽く、後味は苦
いものと温かいものが半々。

吉田修一はどこへ向かおうとしているのだろう。安定感は
あるが、それだけという気もする。文体が好きだから読む
けども、もちょっと驚かせてくれると嬉しいが。









『私家版・ユダヤ文化論』

内田樹 著     文春新書

思うに私はユダヤ人とその文化について、あまりに知らな
過ぎた。アインシュタインやウディ・アレンがユダヤ人であ
ることぐらいは意識としてあったが、これほど多くの映画監
督・俳優、アメリカンポップスのミュージシャン、そして自然
科学の分野で、ユダヤ人の存在が際立っているとはつい
ぞ知らなかった。
神戸女学院での講義をもとにした本書は、そのへんから
説明してくれるので嬉しい。なぜ「私家版」なのかは本書
中に詳しいが、要は自分が関心がある事柄について、自
分に問いかけながらつづってきた秘蔵ノートのようなもの
ということだ。なので「日猶同祖論」だとか「モレス侯爵」だ
とか、ヘンなものがいっぱい登場してきて、それがまたお
もしろい。もちろんレヴィナス、サルトル、フロイトも登場す
るのでご心配なく。
これまで読んだウチダ先生の本の中でいちばんおもしろ
かった。



2011年12月10日土曜日

ワイルド・アット・ハート


☆☆☆★       デヴィッド・リンチ    1990年

『ナチュラル・ボーン・キラーズ』のときに、今まで男女の逃避行
モノがおもしろかったためしが無いと書いたと思うが、この『ワイ
ルド・アット・ハート』も、リンチ流の逃避行モノなのである。道中
で人殺しこそしないが、まあボニーとクライドのような感じで、お互
いへの愛だけでどこまでもハイウェイを突っ走る。その走りっぷり
は良しとしよう。ハイウェイを爆走している間は、少なくとも映画は
活き活きと動いていた。ただ、ワクワクするのも最初から中盤にか
けてで、結局はやっぱりノレなかった。男女の逃避行モノは、あい
かわらず鬼門である。

もともと、たけしが『仁義なき映画論』でやたらめったらホメるので、
気になって借りてきたのだった。たけしはこの映画のリンチを「劇
画のセンス」と言い、タバコに火をつける執拗なカットの連続を「マ
ンガのコマ割りの感覚」と喝破する。ただ、本作に関してはそうかも
しれないが、本作はリンチの作品群の中ではかなり異質だと思う。

                                                    11.24(木) Blu-ray Disc


裏窓


☆☆☆★★     アルフレッド・ヒッチコック    1954年

好きなヒッチコック作品ということで評論家なんかに投票させると、
だいたい『めまい』『北北西に進路を取れ』『裏窓』に落ち着くよう
だが、正直いって前二作はおもしろくなかったんすよねぇ…。
ひるがえって本作は、完成度はあくまで高く、映画的手法の見本
市、技のデパートの様相だし、グレース・ケリーは相変わらずキレ
イだし、サスペンスはわりと盛り上がる。ひとことでいって、非常に
いい出来である。これが名作っていうのは分かるわ…。

                                                       11.23(水) BSプレミアム


2011年12月6日火曜日

最近かたづいた本③


『仁義なき映画論』

ビートたけし 著      文春文庫


1990年の雑誌連載をまとめた文庫。おもにその年公開の映画を
たけしが観に行って、批評する。大半はボロクソにけなす。ちな
みに90年は『ダイ・ハード2』、桑田佳祐の『稲村ジェーン』、コッ
ポラの『ゴッドファーザー PART.Ⅲ』などが公開された年である。

文章はしゃべり口調なのだが、これが実際にしゃべりを録音して
まとめたものか、机に向かって原稿用紙をこりこり埋めたものな
のか、私としては気になる所である。これ、仮にしゃべりだとした
ら、この瞬発力は異常である。すごすぎる。まあロクにシナリオも
用意せずに即興で映画を撮っちゃって(『あの夏、いちばん静か
な海。』など)しかもそれが大傑作なんだから、今更おどろくよう
なことも無いんだけど、しかしなー。異次元。

読み始めたら、おもしろいのでどんどん次が読みたくなっちゃっ
て、あっという間だった。これ1冊で終わりにするのはもったいな
い。いまからでも続編を希望。


2011年12月4日日曜日

アントキノイノチ


☆☆☆★      瀬々敬久     2011年

印象としては、丁寧なつくりで、好感がもてた。
柄本明が突然泣き出すのに違和感を感じたのと、学校で刃物
持ち出して喧嘩してるやつがいるのに、先生たちが駆けつける
のが二度とも遅すぎて、ちょっとご都合主義に見えたのが惜し
かった。でもこれといって不満はないし、何はさておき映画最大
の魅力は、主演のふたりである。そこが勝負の分かれ目であっ
て、映画の成否がかかっている。岡田将生と榮倉奈々。
「東京公園」が良かったので榮倉奈々には期待していたが、期
待にはかなり応えてくれた気がする。良かった。

過去に精神的な傷を抱えざるを得なかった若い男女が、不器用
にもすこしずつ心を通わせあっていくという、非常にありきたりな
話のパターンだが、監督はその定型を使いつつも、観客がゲン
ナリしないよう、丁寧に裏切りを仕掛けている。あまり観客の予
想通りには事が運ばないようになっている。と、わたしは思った
のだが、はたして、観るひとによってそれぞれだとは思うけれど。

さだまさしの原作は読んでいない。どのぐらい原作に忠実なのか
も気になるところ。忠実であればいいってものでもないし、往々に
して、枠組みだけ残して換骨奪胎したほうが映画的にはよくなる
ものである。

<追記>
わりと良いことばかり書いたが、本作の終盤の展開には絶対に
納得できない部分がある。それにはほんとうに失望させられた。
ああいうことをやってはいけない。百歩ゆずってやるにしても、
あんなに軽々しく、ワンシーンだけでやってはいけないと思う。

                               11.21(月) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年12月3日土曜日

戦争のはじめかた


☆☆★       グレゴール・ジョーダン    2001年

紹興酒が注入されて朦朧とした頭でぼんやりと観る。
シュツットガルトに駐留している米軍兵士の弛緩っぷりと
腐敗を皮肉ったコメディ。特におもしろくはない。1本に
カウントしたかったので、我慢して最後まで観た。

                                                         11.20(日) BS 11


2011年11月30日水曜日

朱花の月


☆☆☆★       河瀬直美      2011年


説明過剰がうっとおしい「ツレうつ」から一転、説明無さすぎて
よくわからんシーンも散見されるが、説明過剰よりはよっぽど
いい。全面肯定はできかねるが、けっこう楽しめた。河瀬さん
「撮影・脚本・監督・編集」ってマジかよ。すごいな。

登場人物は、奈良の橿原に暮らす若めの男女。男は役所勤
め(?)、女は染色家、というのだろうか、布を植物の色素なん
かで染めてストールを作ったりしている。女には別に恋人が居
る。そいつは自転車で行ける距離に住んでおり、自分の工房
のようなのを持ち、彫刻などをしている。芸術家。わりと男前だ
が、顔がキリンジの弟のほうに似ている。登場人物はほとんど
この3人。

冒頭、神秘的な満月をバックに和歌が詠まれ、続けて歌の意
味が語られる。それが「ひとりの女をふたりで取り合い」みた
いな内容なので、3人の関係の把握を助けている。道ならぬ恋
をしているわりには、映画的にはあくまで静かに、淡々と3人の
日常が描かれる。地元でとれた野菜を朝に昼に食べるのだが、
ものすごく旨そうである。
奈良を舞台に万葉集を持ち出してきたことからほとんど必然的
に時間というものが主題のひとつになる。万葉集の時間、第二
次大戦中の時間、そして現在、三つの時制が互いに侵食しあう。
人間関係が錯綜し、そして、ある破局がおとずれることで物語は
終わるのだが、このラストには首を傾げざるを得ない。無理に結
末をつけようとしたように感じたので、ちっと減点。

                             11.17(木) ワーナーマイカルシネマズ釧路



2011年11月28日月曜日

ツレがうつになりまして


☆☆★★       佐々部清     2011年

あおいさんの可愛さに、これでもついつい点数をオマケしている
のだが、まったく好きな映画ではなかった。別に内容のことを言っ
ているわけではない。そりゃあ鬱病という病気についての正確な
知識は広く共有されるべきだと思うし、患者に対する周囲の理解
がこの映画ですこしでも促進されるのであれば、それに異議を申
し立てる筋合いは何もない。ただ、純粋に映画として、私はこうい
う映画はどうでもいいというだけである。

もともと神経質なところのあった夫がある日、不眠に悩まされて
訪れた病院で鬱病と診断されたことをきっかけに、夫婦で鬱病
と向き合い、病気と付き合いながら生きていくことを学んでいく、
という構造になっている。筋書きからしてありきたりだが、明らか
に肝となる箇所に置かれたセリフ、曰く、
「うつになった原因ではなく、うつになった『意味』を考えたい」
「頑張らなくていいんだよ」
「ツレがうつになったと『言えた自分』をほめたい」
こういう陳腐きわまりない、聞いててこちらが恥ずかしくて縮こまっ
てしまうようなセリフを、わざわざ重要な場面に持って来る神経を
私は疑うだけである。
繰り返すが、セリフの中身、言ってることが気に入らないわけで
はない。映画でやらなくてもいい、と思うだけである。

                            11.16(水) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年11月25日金曜日

最近かたづいた本②


『ゴダールと女たち』

四方田犬彦 著      講談社現代新書

女たち、ということで俎上にあがるのは『勝手にしやがれ』のジー
ン・セバーグ、『女は女である』『はなればなれに』『気狂いピエ
ロ』に主演し、ゴダールのミューズといえばやはり今でもこのひとの
アンナ・カリーナ、『中国女』のアンヌ・ヴィアゼムスキー、番外で
『万事快調』のジェーン・フォンダ、そして約40年前より現在に至
るまでのパートナーであるアンヌ=マリ・ミエヴィル。
「女たちを軸にゴダールを語る」というのがもちろん本書のミソで、
四方田氏の得意顔が目に浮かぶようだが、センセイ意外と今回は
おとなしめで、あんまりおもしろくなかったというのが正直な感想。
センセイなりにもっとハッタリかましてくれないと。しかし比重の問題
として、女たちのエピソードが多いとゴシップ本っぽくなってしまうし、
各映画の要約が多いとどうしても退屈である。本書は、後者に近い。












『持ち重りする薔薇の花』

丸谷才一 著       新潮社

十年に一冊しか長篇を発表しないかはりに、毎回、楽しみに待つ
に十分値する上質な小説を、われわれ庶民にご提供くださる丸谷
御大。今回は前作『輝く日の宮』から八年しか(しか!)経ってゐな
いからかなのか、読み終へてどうも「長篇読んだー!」といふ満足
感には程遠く、腹にたまらない、とでもいふか。長めの中篇といった
おもむきであった。それが悪いと言ってるわけではないが、八年ぶ
りでこれなら、十年かけて長篇を書き上げていただきたかった、と
いふ、まあ単なる読者のわがままです。十年後も、お待ちしてをり
ます。

元経団連会長の昔語りの小説なんて、丸谷さんにしか書けないし
誰も書かうと思はないだらう。中心になるのは、その元経団連会長
を勤めた人物と、若き弦楽四重奏団(カルテット)との付き合ひ。
その辺の人間関係の綾を書かせればもちろん見事なものである。
そしてやはり、正かなづかひで新作小説を読めるといふだけで嬉し
い。ただ、ハイライトが「紫一色の虹が立つ!」では、どうも寂しい気
がしたが。




2011年11月23日水曜日

マネーボール



☆☆☆★★       ベネット・ミラー     2011年

最近「実話をもとにした」と宣伝あるいは宣言する映画がやたら
多くて、そろそろ辟易ぎみであるけども、本作はそんな中でもまあ
秀作でしょうな。
話としては別に新しくも何ともない。ブラピは、金も人材も無い弱小
球団を立て直し、リーグ優勝に導くGMである。ただ相棒がいて、
若造なのだけど、これがけっこうおもしろいことになっている。日本
には記者を集めて泣きながら会見をしたGMもいたが、こちらのGM
はえらくカッコいい。
枠組みに新しさは無いけども、映画のトーンがわたしの好みだから
しょうがないやね。こういう表面上は抑制の効いていて、でも底流に
はマグマが煮えたぎっている気配が感じられる雰囲気がどうにも好
みで。表面で派手にバンバンやられるよりも、薄暗いロッカールーム
でブラピがチームの勝利に小さくガッツポーズする「いじらしい」描写
のほうを良しとする者である。

満足の鑑賞後、帰って製作者のクレジットを確認すると「製作」「脚
本」に『ソーシャル・ネットワーク』と共通の名前があるんだね。監督
こそ違えど、全体のトーンにどうも共通するものを感じたのはそうい
うわけなのか。

                                 11.13(日)  ワーナーマイカルシネマズ釧路



2011年11月22日火曜日

ハラがコレなんで

☆☆★          石井裕也         2011年

ひどかった。
少なくとも私には、どこがおもしろいのかさっぱり分からな
かったね。
札幌で観たのだが、客はわたしを入れて3人。まあ、しょうが
ない。「川の底からこんにちは」は別に大ヒットしたわけじゃ
ないし、そもそも札幌で公開してないのかもしれない。前作
「あぜ道のダンディ」も全然評判になっとらんようだし、石井
裕也なんて全国区じゃないだろう。それに、話は変わるけど
も、あれなんだってね、監督名で新作映画を観るってことあ
んまりしないらしいね、世間一般には。出てる俳優だとか、
予告編のだいたいの感じで観るかどうか決める、という人が
私のまわりにも多い。女優を見るため、というのは、私もたま
にあるから分かる。しかし、予告編なんてまったくアテになら
んだろうに。というかというか、そもそもあれなんだってね、
映画なんて普通年に何本も観るもんじゃないらしいね。まあ
それがいいのかもしんない。あるいは。

えーと、話が逸れましたが、「川の底からこんにちは」の時
ユーロスペースは爆笑の渦だった…という話は以前もしまし
たが、今回笑ってるひとは居ませんでしたな。この差はどこ
から来るのだろう。もちろん映画のデキがまったく違うわけで
す。演出がうまくいかなかったのか、脚本を練る暇がなかっ
たのか。まさかヒロインの差ではあるまい。
脚本がもともとズレているというのを強く感じた。「川の底か
ら~」にはほんとうに驚かされたし、「いちばん良いときの伊
丹十三」を彷彿させる作風だ、とまで言わしめたものである。
私に。
この作品にはそんな面影はこれっぽっちも無い。公開中の
映画の悪口はこのぐらいにしといた方が日本映画のためか
もしれないが、これを観るぐらいなら「川の底から~」を借り
て観ましょう。

                                  11.9(水)  ユナイテッド・シネマ札幌


2011年11月14日月曜日

最近かたづいた本


『蜘蛛女のキス』

マヌエル・プイグ 著   野谷文昭 訳   集英社文庫

舞台は刑務所。同室の男どうしの会話で始まる本書は、ほとんど
すべての部分がそのふたりの会話で占められる。しかも会話の大
部分は、男がもう一方の男に映画のあらすじを語って聞かせてい
るのだから、かなり奇妙な小説といえるだろう。しかしその「語られ
る映画」が、微に入り細を穿ってほんとにおもしろい、たぶん実際
に映画を観るよりもおもしろい気がする。「小説の強度」といったも
のを感じる小説だった。どんな形式だろうと、語られているのが映
画のあらすじだろうと、小説はそんなの全部飲み込んでおもしろく
してしまう、そうだろベイビー、という感じ。










『お言葉ですが… 別巻3 漢字検定のアホらしさ

高島俊男 著    連合出版

わたくしのこよなく敬愛する高島先生、あいかわらずハズレなしの
圧倒的な面白さです。『諸君!』の連載が雑誌の休刊で終わって
しまってから何をしてらっしゃるのかと気がかりでしたが、いまは講
談社のPR誌「本」に「漢字雑談」という連載があるようですね。最近
知りました。あとは、連合出版から年に一度出されるこの『お言葉
ですが…』にいろいろな文章を書き下ろしていらっしゃるようです。
わたくしは、高島先生と村上春樹にはとにかくお元気で長生きして
もらって、一文でも多くの文章をこの世に残してもらいたいと心から
願う者であります。









『本音を申せば』


小林信彦 著    文春文庫

文春連載のコラムをまとめたもの。もしも小林さんの連載がなくなっ
たら、いよいよ週刊文春は買わなくなるだろうなー。「顔面相似形」が
ある週は除いて。




2011年11月12日土曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


ツアー「魂のマーチ」

1. 敗者の刑
2. 幾千光年の孤独
3. 光の結晶
4. パラノイア
5. カラス
6. 野生の太陽
7. 墓石フィーバー
8. ガーデン
9. 夢の花
10. キズナソング
11. シリウス(新曲)
12. 声
13. コバルトブルー
14. 戦う君よ
15. 世界中に花束を

《Encore》
1. クリオネ(新曲)
2. ブラックホール・バースデー
3. サイレン

                                 札幌PENNY LANE 24     11/8


相変わらずいいですわー。
彼らの場合かならず「良いバンドだ…」という感想になる。4人のたた
ずまいがまず良いんだね。その関係性も。CDではそこまで分からな
いが、ライブだとそれが見える。

山田の声の調子は最高でした。そしてこの、初心者にやさしいようで、
実はけっこうシブいというセットリストが良いね。基本的に何をやって
くれても嬉しいんだけど、「カラス」と「墓石フィーバー」は特に嬉しかっ
た。欲をいえば「敗者の刑」→「扉」、「世界中に花束を」→「初めての
呼吸で」に換えればほぼ完璧…そんなこといっても始まらんが。

評判の新曲「シリウス」を聴いてぼんやり思ったことをそのまま書いて
みる。このバンドにもやはり初期、中期、現在で曲調が変わってきて
いるところもあって、この新曲は僕の感じでは「中期っぽい」、つまり
「ヘッドフォン・チルドレン」~「太陽の中の生活」あたりの匂いがする
曲ではあった。ただそれが「昔っぽい感じを再現してる」というふうに
はまったく聞こえないのがこのバンドの良いところであるのかな、と。
「昔の感じ」にもあざとくなくすっと移行できる。そしてまた次の曲では
現在に戻って来ても何も違和感がない。

良いバンドなんすよ、ほんとに。


2011年11月7日月曜日

ロープ


☆☆☆      アルフレッド・ヒッチコック     1948年


                                                11.3(木) BSプレミアム


2011年11月4日金曜日

ミリキタニの猫


☆☆☆★★       リンダ・アッテンドーフ     2007年

この映画の主人公、ジミー・ミリキタニは最初、ニューヨークの路上で
寝起きしながら、一心不乱に絵を描いている。絵の題材は、猫、第二
次大戦中の日本人強制収容所、そして原爆投下後のヒロシマ…。
彼、ジミー・"ツトム"・ミリキタニは、アメリカ生まれ、広島育ちの日系
人画家なのである。

これは客観的事実(と呼ばれるもの)を記録するだけがドキュメンタ
リーではないということのひとつの証明でもある。なぜなら、この映画
の取材中に9.11同時多発テロが起こり、高層ビルが焼け焦げた結果、
ニューヨークの路上は有害なガスが充満した。彼は一連の事件を意
に介さず、絵を描き続けていたが、監督のリンダはジミー・ミリキタニ
を自宅に招き、奇妙な共同生活を始めるのである。

まあそういうわけで、何の予備知識もなく観たが、「反骨」という言葉が
実にしっくりくるミリキタニさんの非常にクセのあるキャラクターが魅力
的な佳作である。

                                    11.3(木) BSプレミアム


2011年11月2日水曜日

毎日が夏休み


☆☆☆★        金子修介      1994年

脚本は、コメディとしてよく練られているし、非常に巧い。演出にも
疑問はとくに無いし、佐野史郎をはじめ役者も好きなのが出てい
る。なのに、なぜか「愛すべき映画」と思えないのは、壊れてゆく
家族という題材のせいなのか。最後には再生(?)するので、救い
はあるんだけど、なんとなく気まずい映画だった。

                                          10.30(日)   BSプレミアム


2011年10月31日月曜日

ステキな金縛り


☆☆☆★        三谷幸喜      2011年

「古来より法廷劇にハズレなし」という三谷さんの信念と、「弁護士が
落ち武者の幽霊に『証言してください!』と頼む」というアイディアの
断片から肉付けしていったというこの映画、まだ公開されたばかりだ
から詳しくは書かないけれど、まあおもしろかったですよ。
何より、あの髪型の深津絵里はほんとにキュート。ずっと観ていたい。

                                     10.29(土) ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年10月30日日曜日

映画が目にしみる [増補完全版]


小林信彦 著    文春文庫

中日新聞に連載していた短めのコラムから、映画・芸能に関する
ものをピックアプした、とのこと。「短め」とは、原稿用紙4枚程度。
寝る前にいくつか読むのに最適だったので、ここ1ヶ月ほど、ちび
ちびと読んでいた。
小林さんは、新作映画を紹介していても、ふっと五十年代、六十
年代の映画に話題が飛ぶことが多いので、この長さだと新作1本
を紹介するにも少し短いと感じる。やっぱ文春のコラムの長さが
ちょうどいいと思うんだよなー。

この頃の小林さんはニコール・キッドマンにほとんど「熱中」してお
り、ニコールの出演作が公開されるたびに取り上げ、おもしろくて
もおもしろくなくても、まあニコール・キッドマンが可愛かったから私
は満足だが、みたいな感じで結局まとめてしまう、という離れ業を
何度もお決めになっていらっしゃる。さすがである。そういえば先
週の文春コラムでは、「幸福の黄色いハンカチ」をリメイクしたドラ
マに触れていて、中身には全然感心しなかったらしいが、まあ掘北
真希が観れたから満足、とまとめてらっしゃった。けだし離れ業で
ある。


2011年10月29日土曜日

北の国から


最近更新がねぇじゃねーか、と思っていらっしゃるごく少数の
方にいくぶん言い訳をしますと、いま私はBSフジで再放送を
している「北の国から」に熱中してしまっているのです。
そう、あの「北の国から」です。ストーリーはご存知かと思いま
すが、田中邦衛の演じる黒板五郎は、妻の不倫を機に故郷
の富良野へ帰ることにしまして、しかも昔住んでいた電気も水
道も無い山小屋を掃除・改築して住むんですが、そこへ純と
蛍という小学生の子どもたちも連れて行ったからさあ大変。
お父さんに従順で天使のように可愛い蛍と、屈折する純、そ
れに妻の妹の雪子が東京から移り住んだりして、人間関係
もさることながら、やはり核心は「自然と人間」という大きな
主題が真ん中にどんとあり、やはりしっかりと芯のあるドラマ
ってのはおもしろいんですわー。倉本聰は前から好きだった
けど、肝心のこのドラマは観たことありませんでした。

ドラマは何話みてもカウントに入らないので、更新が止まって
しまっているわけで…。この更新ペースの鈍化はこれからも
続くと思われ。なぜなら、いま11話まで観たんだけど、このドラ
マは2クール、つまり24話あるわけで…。どうかご了承いただ
きたいわけで。

今年も残すことろ二ヶ月というところでドラマにはまってしまった
のは、映画100本達成に黄色信号どころか、ほぼ赤信号に近い
と思われ。今年は難しいと思われ。別に諦めたわけじゃないで
すけどね…。


2011年10月20日木曜日

ソナチネ


☆☆☆☆       北野武      1993年

どうしても観たくなって借りて来た。
これから年に一度は観ることにしようと思う。

このおもしろさはいったい何なんだろう。
説明しろといわれても、ここのこのカットがこういう
風におもしろい、とか説明することができない。た
だ「そこには幸福な時間が流れている」と言えるの
みである。乾杯。

                                            10.15(土)  DVD


2011年10月18日火曜日

人生は五十一から


小林信彦 著     文春文庫

小林さんの文春連載コラムは、98年に「人生は五十一から」
の題で始まり、一年ぶんを一冊にまとめるので、この題の文
庫本が6冊あります。2004年に「本音を申せば」とタイトルを変
えた。それが現在まで続いております。一年ぶんを一冊、の
ペースは変わっていない。
本書はその一冊目。当時の小林先生は66歳である。もう66歳
かよ!っつってね。いまでも立派に続いていますからね。すご
いことです。私のような愛読者をいまでも獲得しているのだから、
ずっと連載は続けて欲しいものですな。


2011年10月15日土曜日

映画長話


蓮實 重彦, 黒沢 清, 青山 真治     リトルモア

雑誌『真夜中』でやっていた鼎談の連載をまとめたもの。
ちなみに私は蓮實重彦や青山真治の書く文章をまともに読もう
とは思わない。黒沢清の文章はわりと好きだけど。しかしこの鼎
談は読んでみたいと思ったし、読んで実におもしろかったことを
白状せねばなるまい。取り上げる話題を映画にしぼっている、
しかも2010~11年に公開された映画が話題の中心であるという
のがまず良かった。蓮實さんは見向きもされなくなっていた小津
映画に陽の目を当てた著書が有名だが、その一方で「いま」公開
されている映画を劇場に観に行きなさい、と講義でも繰り返し学生
をあおっていたらしい。そうしてイーストウッドやスピルバーグの新
作を学生に観に行かせて、スクリーンに「映っていたもの」の話だ
けをしよう、何が見えましたか? と訊いてまわるような講義だった
という。おもしろそう。ちょっと受けてみたい。
蓮實さんの講義を立教大学で受けて、のちに映画監督になった人
たち、誰が呼んだか「立教ヌーヴェルヴァーグ」なんていう気恥ず
かしい呼び方もあるが、そのなかの一番弟子が黒沢清、その10歳
ぐらい下が青山真治、という三人の関係である。

ちょっと鼎談の雰囲気を紹介するためにある一節を引用。イースト
ウッドの『グラン・トリノ』について。

蓮實 しかしね、世間ではあれ(註『グラン・トリノ』のこと)が感動的なアメリカン・ガイの物語と見られている、それには黙ってていいんですか。
青山 われわれは感動作だなんてひと言も言ってない。
蓮實 むしろ困った困ったとひたすら困惑しているだけですが。
青山 ヘンだということしか言ってないですからね。とてつもなくヘンなものがなんでこんなに映画として異様な現在として迫ってくるのかが困ると。
黒沢 まわりでもみんないいって言うんですけど、ほんとに? よくないでしょ? って言いたくなってしまって。
蓮實 下手とさえ言えるじゃないですか。いやあヘンですよ。もともと、下手であることを超えてしまうというのは彼の撮り方だったんだけれど、それが下手だとさえ思われなくなってしまったのはなぜなんでしょう。下手というか、これで本当に大丈夫? という画をずいぶん撮るじゃないですか。『グラン・トリノ』でも教会を外から二度、最初と最後のほうで撮るけれども、あれも酷いショットでした。
黒沢 そうなんですよね。
青山 困ったカットですね、あれは。
蓮實 ここに映っている十字架が大事なんだといったって、いくらなんでもこのショットはないよ、NGという酷さでしょう。にもかかわらず、というところが困っちゃう。
青山 あの人を下手だと相対化するためのうまい人がいないのが一番の原因でしょうね。
蓮實 ウディ・アレンの『それでも恋するバルセロナ』を見たんですけど、ウディ・アレンのほうがある時期まではうまいと思われてたでしょう。
黒沢 そうかもしれませんね。 
蓮實 今度のはなかなかいいところもありましたが。
黒沢 予告篇ではぜんぜんいい感じじゃありませんでしたが……。
蓮實 カメラは『マルメロの陽光』のハビエル・アギーレサロベで、ショットとしては悪くないんですが、全体としてどうなの? という感じです。ちゃんと撮ろうとしているんだけれど、なにせウディ・アレンという人は南国の光を撮れる人じゃないでしょう。舞台はバルセロナですからね、真っ昼間のショットが全部だめなんです。

まあこんな感じです。「ヘンだ」といって褒める、嫌いな映画は容赦なく
唾棄する、その繰り返しです。「その鼎談なにがおもしろいの」と思われ
た方は、すいません、今回は縁が無かったということで(笑)



私の優しくない先輩


☆☆☆★       山本寛      2010年

カルピスウォーターでおなじみ川島海荷と「はんにゃ」の金田が
主演の学園モノ、と聞いただけで反射的にゴミのような映画であ
ろうという予想はつくのだが、意外にも、実に意外にも公開時か
ら一部で「アイドル映画として実に正しい!」という盛り上がりを
見せていてずっと気になっていた。「一部」とは、私の信用してい
る一部の人たち、の意です、もちろん。松江カントクやモルモット
吉田さんなど。

DVD借りてきて観たが、たしかに結構おもしろい。川島海荷の声
で、つたないナレーションとモノローグがこれでもかこれでもかと
多用される。いわゆる「心の声」なので、ちょっと性格悪そうな彼
女をヒロインに据えたのは素晴らしい炯眼といえる。暑苦しい先
輩をはんにゃの金田が好演。キャスティングの勝利という面も大
きいかもしれない。

                                                            10.8(土)  DVD


2011年10月11日火曜日

やわらかい生活


☆☆☆★★       廣木隆一     2005年

トヨエツは、普通にしているだけでやっぱりおかしい。廣木
監督はトヨエツの「おかしさ」をよく分かった上で演出してい
ると思う。まず、やたらに声が良いのがおかしい。脚が異様
に長いのがおかしい。無表情なのもおかしい。良い役者だよ。
使い方むずかしそうだけど。

本作は寺島しのぶが主演。いや見事。鬱病のヤクザ役で妻
夫木くんが出てくるが、同じ画面におさまっても相手にならん
わけですよ。寺島しのぶがうますぎて。

                                                         10.7(金)  DVD


2011年10月10日月曜日

私は二歳


☆☆☆        市川崑       1962年

「育児書」を原作とした、まさに異色の映画。
「育児あるある」を映画にしたようなもんなので、当然
エピソードの羅列であって、ストーリーもクライマックス
も生じない。これは、興行収入とかは心配しなかった
んだろうかスポンサーは、とつい余計な心配をしてしま
う。

                                 10.6(木)  BSプレミアム


2011年10月9日日曜日

軽蔑


☆☆☆       廣木隆一      2011年

二本立て、勿論こっちが本命。
以前に「きみの友だち」でその「文体」に引きつけられた廣木
監督。中上健次を原作とするこの映画で、火花散るような化
学反応を期待したのだけれど…。うーん。全体的にいまひと
つ散漫な印象。ちと長いよな。ロングショットと長回しが、今回
はちょっとかったるく感じられてしまった。

新宿で派手にチンピラをやってた高良健吾が、ある事件を起
こして歌舞伎町に居られなくなり、故郷の和歌山(中上だから
ね)に帰る。チンピラなので女を同行させるのだが、前から想っ
ていたストリップダンサーの鈴木杏を連れて帰り、一緒に住む。
親父が与えてくれたマンションの一室に住み、親父が紹介して
くれた酒屋で働いて、地道に暮らしていこうと夢想するが、現実
はそう巧くいくはずもなく、間もなく破綻が忍び寄る…。
ほんとに和歌山で撮られたと思しき「地元」のシーンからは、む
せかえるような「土着性」が匂ってきていて、原作は未読なのだ
けど中上健次の雰囲気はよく出ていたと思う。
和歌山のホンモノのヤクザを演じるは大森南朋。「これだ!」と
いう感じの素晴らしいヤクザっぷり。兄さん、最高です。これから
もどんどんヤクザの役をやってもらいたい。たけし映画にも出て
ほしいなー、と思って調べたらもう「アキレスと亀」「Dolls」に出てん
のね。どっちも未見。

                                                 10.4(火)  三軒茶屋シネマ


2011年10月8日土曜日

婚前特急


☆☆★★       前田弘二      2011年

期待してなかったけど、やっぱり期待するほどの作品ではなかった。
吉高由里子と石橋杏奈が出ていて、この共演を見るとつい「きみの
友だち」を思い出す。あれは良い映画だった。

                                           10.4(火)  三軒茶屋シネマ


2011年10月6日木曜日

狂った果実

☆☆☆★         中平康      1956年

「太陽族」という流行語まで生んだというヒット作。太陽族といわ
れても、いまとなってはその定義もさだかではないが、当時もこ
んな大学生ほんとに居たんだろうか。少なくとも石原兄弟はそう
だったみたいだが。

北原三枝という女優さん、のちに裕次郎の奥さんになるひとだが、
たいへんにキレイな方ですな。ミステリアスな美女。
いまの役者でリメイクするなら

石原裕次郎 → 浅野忠信
津川雅彦  → 高良健吾
北原三枝  → 真木よう子

がいいな。別にしなくていいけど。

                                              9.27(火)  BSプレミアム


2011年10月3日月曜日

モテキ


☆☆☆★★       大根仁      2011年

黙ってこの点数にしたら「秀作」に認定したことになるので、
ちょっとつけ加えたいが、率直にいって「佳作」ぐらいの出来
だと思う。ただ、ただですね、「映画は女優」なのであります。
何度も申し上げておりますが。女優が輝いていれば、その映
画はもう半分以上成功しているわけです。その観点からいう
と、本作は「正しく映画である」と言っていいと思います。長澤
まさみが期待を裏切らない素晴らしさで、思わせぶりな女を
演じる。あれは反則。
本作の予告編を見ましたか? 長澤まさみと麻生久美子と仲
里依紗と真木よう子が、森山くんの神輿をわっしょいわっしょ
いかついでいるだけで、少なくとも私はワクワクしました。「こ
れは観なければ」と思いました。しかも、珍しくマンガを予習と
して読んだりする張り切りようで、我ながら「どうした俺」と思い
ましたが、マンガは、まあ特筆するほどではないけどおもしろ
かった。私は土井さんが好きだね。

ドラマ版は観ていないのだけれど、映画を観ながら、なるほど
これはドラマ向きの素材だな、という思いが最後まで拭えなかっ
た。4人というのはいかにも多い。全員とそういうことになるには
2時間では到底たりないが、長澤まさみと麻生久美子に絞った
のは賢明な選択。人数減らすとショボくなっちゃうしね。ただ圧
倒的に長澤まさみのほうが魅力的で、これはさぞ小林信彦先生
もご満悦だろう、と思わず小林さんの穏やかな微笑を想像してし
まうことに。
それにしても最近、長澤まさみはセカンドインパクトなみに、二度
目のビッグウェーブが来ていますな。たしかにね、これは可愛いわ。

                                      9.27(火)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年10月1日土曜日

奇跡


☆☆☆★★       是枝裕和       2011年

今年福岡から鹿児島までつながった九州新幹線。
その開通日の一番列車がすれ違う瞬間を見ることができたら
「奇跡」が起こる…。
というわけで「スタンド・バイ・ミー」よろしく子どもだけで旅をする
わけだが、子どもたち自身も奇跡をたいして信じていないのが
現代風だなぁ、と。信じてはいないけど、行動する。
図書室の先生として長澤まさみ登場。ちょっと小学生には早い
かな、あの色気は。

                                          9.25(日)  目黒シネマ


2011年9月30日金曜日

東京公園


☆☆☆★★      青山真治     2011年

ハスミンの弟子たちの中でも、聞いてて(読んでて)ムカムカする
ようなスノッブな物言いがいちばん多い青山真治巨匠。だが、と
きどき傑作を撮るからやはり気になる。「Helpless」と「サッド ヴァ
ケイション」は傑作だと思った。「ユリイカ」とか「エリ・エリ・レマ・サ
バクタニ」とかは、まあ私にはよく分からんわ。しかし宮﨑あおい
をこれだけの本数自分の映画に出演させた監督は他に居ない
(はずだ)し、なんといってもあおいさんの映画女優としてのキャリ
アの始まりは「ユリイカ」からであるというのは覆しようがないこと
である。そこんとこは、まあ、感謝しないでもない。俺はどの立場
のひとなんだ…。

本作は、結果からいえば「秀作」であった。(あの)青山真治が、
三浦春馬と榮倉奈々で、一般受けするような軽い映画をちゃちゃっ
と撮った、ということで話題になった作品で、公開時から気になって
はいた。実際観てみると、なるほど話の展開こそ奇をてらわない素
直(?)なつくりだが、セリフの端々、ショットの端々に「おお!」と身
を乗り出してしまうようなカットがあり、気を抜けない。
そして、いちばんの肝となる例の場面、あまり詳しくは書けないけど、
三浦春馬がカメラを構えて小西真奈美を撮る重要な場面があって、
その濃密なワンカットを観るだけでも、本作を観る価値はあるだろう。

榮倉奈々もなかなか良いね。最初バーに現れたときは、うわ、下手
だなーと思ったが、最後のほうは全然気にならず。スノッブな演技指
導が入ったのかな。

                                                         9.25(日)  目黒シネマ


2011年9月29日木曜日

監督失格


☆☆☆★       平野勝之     2011年

いやこれ、感想書くの厄介ですわ。
まず平野監督の『由美香』から説明し始めないといけないし、そもそも
平野さんはAV監督で、AV女優の林由美香とかつて不倫関係にあり、
その由美香さんと北海道の礼文島まで自転車で旅した模様は一度
「わくわく不倫旅行」というAVドキュメンタリーになり、その後…(以下略)
まあ結局、北海道旅行のときの由美香さんの「監督失格だね」という言
葉から本作に至ったわけです。

急逝してしまった由美香さんに捧げた作品としては、松江哲明監督の
「あんにょん由美香」というフェイクっぽいドキュメンタリーがあったが、
本作は先に言った北海道旅行と、関係者のインタビューと、由美香さん
の遺体を発見したとき(平野さんが第一発見者だった)の映像で成り立っ
ている。ひとが一人なくなっているわけで、あまり軽々におもしろかったと
かおもしろくなかったとか言えない、というのも感想を書きにくくしているの
は間違いないだろう。なんというか、そのままそっと自分の中に留めてお
くのがいいかな、と思ったというのが正直なところ。うーむ。なんか中途半
端な感想になってしまったが。

                                9.23(金) TOHOシネマズ六本木


2011年9月27日火曜日

修羅雪姫 怨み恋歌


☆☆☆       藤田敏八     1974年

友人との待ち合わせにちょっと時間があったので、原田
芳雄の追悼特集をやっていた新文芸坐に飛び込みで。

「修羅雪姫」というタイトルは、敬愛するタランティーノ方面
で耳にしてはいたが、あまり詳しくは知らず、しかも本作は
『修羅雪姫』の続編。続編から観るっていうのは初めてだし、
ひょっとしてヤバいかな…と思いつつ入ったが、内容は話
のスジもあったもんじゃないほとんどC級に近いB級アクショ
ン映画で、結果的に非常に朗らかな気分で劇場をあとにす
ることができた。
低予算だからなのか知らないが、もうツッコミどころは満載
で、中でもいちばん根幹に関わることなのだが、女殺し屋・
修羅雪姫を演じる梶芽衣子のアクションシーンにおける「体
のキレ」が全然良くないのには唖然とするしかない。これま
で追っ手の警官をさんざん斬り殺しながら逃避行を続けて
来たらしいのに、劇中で見る限り、1対1でも簡単に取り押さ
えられそうである。
まあしかし、そんなのは些細なこと。大事なのは、梶芽衣子
という物凄いキレイな女優が、女殺し屋に扮して悪党どもを
右に左に斬り伏せることであって、それ以外のことは全部オ
マケなのである。

                                9.22(木)  新文芸坐


2011年9月20日火曜日

神様のカルテ


☆☆☆★★       深川栄洋     2011年

櫻井くんの意外な好演にまず驚く。それに、脇役たちのなかなか
に絶妙な配置、当然ながらあおいちゃんの眩しい笑顔、これらの
併せ技で★ひとつ増量しました。
ぼさーっとした内科医の櫻井くんはけっこうチャーミングだった。
重度のクセ毛という設定にも、個人的に親近感をおぼえる。

まずねー、脇役が良かったんですよ。いつまでも若いけど最近目
つきがちょっと悪くなった池脇千鶴が櫻井くんと同期の看護師、
ひさびさにスクリーンで観たけど、やっぱ良いな。年とって渋くなり
存在感が増した要潤、まあまあ良かった。近頃完全に俳優業に
も色気を出してる原田泰造、まあ良い顔してるんだよね、基本的
に。役者顔。
ただ。ただですね、何といおうと、この映画を1800円とれる映画と
して成立させたのは、ひとえに加賀まり子の功績であって、それ
以外に無いのである。その女優魂たるやすさまじかった。格が違
う。今回の鬼気迫る加賀まり子の前では、宮崎あおいもただの可
愛いおねーちゃんに過ぎなかった感がある。

予告編で「毎日迷ってるよ…これでいいのか」と憂い顔で言う櫻井
くんと、「万歳!」ってなぜか泣きながらバンザイ三唱するあおい
ちゃんを見た時は「あぁ、これはもうダメだ…」と半ば諦め、観念し
て観に行ったのだが、まあ内容はベタながら好感のもてる映画で
あった。ちゃんと作ってるというのが伝わってきた。

                         9.18(日)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年9月18日日曜日

ゴーストライター


☆☆☆★★      ロマン・ポランスキー    2011年

しっかりと作りこんであるサスペンス。批評をみると「チャイナタウン」
が引き合いに出されていることが多いので、ああいう感じかと思った
ら全然違った。展開はフツーに速いし、カットもバンバン切り替わるし
で、衒わず王道をずんずん行っている感じ。
これは誰が見てもそれなりに楽しめると思う。集中して観ないとだめ
ですよ、もちろん。

                          9.10(土)  ヒューマントラストシネマ渋谷


2011年9月16日金曜日

花と爆弾 [人生は五十一から⑥]


小林信彦 著    文春文庫

最初に週刊文春を読みだしたのは、高島俊男さんの「お言葉
ですが…」が読みたいからだった。まさに珠玉のコラムだった
と、今でも何の躊躇もなく言える。しかし連載は終わってしまい、
次に颯爽と現れたのは大宮エリーの「生きるコント」だった。
高島さんのコラムとは毛色が全然違うが、けっこうおもしろくて
二年(だっけ)にわたった連載はリアルタイムで読んだ。しかし
高島さんの連載が終わってしまった喪失感は大きく、文春は
「原色美女図鑑」で買うかどうかを判断するような申し訳ない
感じになった。お天道様に顔向けできない。
そして「生きるコント」も終わってしまい、いよいよ文春を買う理
由がなくなったかといえば、実はいまは毎週のように買ってい
るのである。
それは、小林信彦の「本音を申せば」がおもしろくなってきたせ
いで、この連載を読むのが毎週の楽しみになっている。もう二
十年近くやっている連載なので、昨日今日おもしろくなったわけ
ではない、もちろん。私が小林さんの文章のリズムの精妙さに
徐々に気付き始めたからだと思う。噛み締めながら読んでます、
毎週。


2011年9月15日木曜日

八つ墓村

☆☆☆     市川崑    1996年

まあ、普通かな。
個人的には、トヨエツ金田一は愛嬌があってよかったと思うけど。
「LOFT」を観たときから、トヨエツの奥にある「おかしさ」には好感
を持っているので。

                                9.4(日)    BSフジ


「おじさん」的思考


内田樹 著    角川文庫

2冊目の著書、とたしか書いてあったので、いまでは「無数」
にある彼の著作のなかでは最初期ということになる。最近
文庫に入った、のかな。おおかたは名物ブログからのセレ
クションだが、最後にわりと長い「漱石論」みたいなものが
書き下ろしで収録されている。「大人になる」とはどういうこ
とか、「虞美人草」と「こころ」をもとに、明治期における「成
熟」をからめて考察するもので、けっこうおもしろかった。

一緒に『レヴィナスと愛の現象学』も買ってみたが、こっちは
えらいむずかしそうだな。


2011年9月6日火曜日

少年の日の思い出


ヘルマン・ヘッセ 著   岡田朝雄 訳    草思社

ヘッセ青春小説集、とサブタイトルにある通り、表題作のほかに

・ラテン語学校生
・大旋風
・美しきかな青春

を収める。この3篇も無性に良い。ヘッセの文章はなんでこんなに
心地良いのか。登場する人物に向けるヘッセのまなざしはどこま
でも優しい。

「少年の日の思い出」というと、おおかたの人は「教科書のやつ!」
という反応らしい。戦後すぐから現在まで、多くの国語教科書(中学
生用?)に採用され続けてきたらしく「あの、蝶をつぶしちゃうやつで
しょ?」という感じで、日本で最も有名なヘッセの作品のようだ。
だが私はどうも読んだ覚えが無い。
国語の教科書は、授業でやらないところも全部読んだはずなので、
覚えがないということは宮崎県で採用している教科書には載ってい
なかったということだと思う。私が覚えてないだけかもしれないが。

そういえば以前も、「赤い実はじけた」とかいう、教科書に載っていた
小説の話で場が盛り上がってた時に、全然そんなの読んだ覚えが
なくて、ひとりポカンとしていたことがあった。つまんなそうな題名だか
ら別にいいんだけど。
どうなんでしょう。宮崎以外の出身のひとは「え、『赤い実はじけた』知
らないの?」という感じなんでしょうか。


2011年9月5日月曜日

チャイナタウン


☆☆☆★★     ロマン・ポランスキー    1974年

この映画をつらぬいている独特の緊張感、この「隙のない」感じが
たぶんポランスキーという人なのだろうな、と思った。
主人公はロス在住の私立探偵(ジャック・ニコルソン)。彼がいつも
どおり依頼にもとづいて浮気調査をしていると、1件の殺人が起こり、
探偵はそこに否応なく巻き込まれ、やがてそれは大きな組織的陰謀
へとつながっていく、という言ってみれば「王道」のプロット。だが、サ
スペンスというにはテンポがゆっくり目に設定されており、展開はあ
くまで優雅。伏線はしっかり張るが、説明はほとんどしないので、集
中して観ていないと「おいしいところ」を見逃すことになるだろうし、お
そらく私も気付いていない伏線はいくつもあっただろうと思う。

しかしジャック・ニコルソンって良いね。
「カッコーの巣の上で」といい「シャイニング」といい、忘れられない演
技をしてくれる。

                                              9.3(土)  BSプレミアム