2011年9月30日金曜日

東京公園


☆☆☆★★      青山真治     2011年

ハスミンの弟子たちの中でも、聞いてて(読んでて)ムカムカする
ようなスノッブな物言いがいちばん多い青山真治巨匠。だが、と
きどき傑作を撮るからやはり気になる。「Helpless」と「サッド ヴァ
ケイション」は傑作だと思った。「ユリイカ」とか「エリ・エリ・レマ・サ
バクタニ」とかは、まあ私にはよく分からんわ。しかし宮﨑あおい
をこれだけの本数自分の映画に出演させた監督は他に居ない
(はずだ)し、なんといってもあおいさんの映画女優としてのキャリ
アの始まりは「ユリイカ」からであるというのは覆しようがないこと
である。そこんとこは、まあ、感謝しないでもない。俺はどの立場
のひとなんだ…。

本作は、結果からいえば「秀作」であった。(あの)青山真治が、
三浦春馬と榮倉奈々で、一般受けするような軽い映画をちゃちゃっ
と撮った、ということで話題になった作品で、公開時から気になって
はいた。実際観てみると、なるほど話の展開こそ奇をてらわない素
直(?)なつくりだが、セリフの端々、ショットの端々に「おお!」と身
を乗り出してしまうようなカットがあり、気を抜けない。
そして、いちばんの肝となる例の場面、あまり詳しくは書けないけど、
三浦春馬がカメラを構えて小西真奈美を撮る重要な場面があって、
その濃密なワンカットを観るだけでも、本作を観る価値はあるだろう。

榮倉奈々もなかなか良いね。最初バーに現れたときは、うわ、下手
だなーと思ったが、最後のほうは全然気にならず。スノッブな演技指
導が入ったのかな。

                                                         9.25(日)  目黒シネマ


2011年9月29日木曜日

監督失格


☆☆☆★       平野勝之     2011年

いやこれ、感想書くの厄介ですわ。
まず平野監督の『由美香』から説明し始めないといけないし、そもそも
平野さんはAV監督で、AV女優の林由美香とかつて不倫関係にあり、
その由美香さんと北海道の礼文島まで自転車で旅した模様は一度
「わくわく不倫旅行」というAVドキュメンタリーになり、その後…(以下略)
まあ結局、北海道旅行のときの由美香さんの「監督失格だね」という言
葉から本作に至ったわけです。

急逝してしまった由美香さんに捧げた作品としては、松江哲明監督の
「あんにょん由美香」というフェイクっぽいドキュメンタリーがあったが、
本作は先に言った北海道旅行と、関係者のインタビューと、由美香さん
の遺体を発見したとき(平野さんが第一発見者だった)の映像で成り立っ
ている。ひとが一人なくなっているわけで、あまり軽々におもしろかったと
かおもしろくなかったとか言えない、というのも感想を書きにくくしているの
は間違いないだろう。なんというか、そのままそっと自分の中に留めてお
くのがいいかな、と思ったというのが正直なところ。うーむ。なんか中途半
端な感想になってしまったが。

                                9.23(金) TOHOシネマズ六本木


2011年9月27日火曜日

修羅雪姫 怨み恋歌


☆☆☆       藤田敏八     1974年

友人との待ち合わせにちょっと時間があったので、原田
芳雄の追悼特集をやっていた新文芸坐に飛び込みで。

「修羅雪姫」というタイトルは、敬愛するタランティーノ方面
で耳にしてはいたが、あまり詳しくは知らず、しかも本作は
『修羅雪姫』の続編。続編から観るっていうのは初めてだし、
ひょっとしてヤバいかな…と思いつつ入ったが、内容は話
のスジもあったもんじゃないほとんどC級に近いB級アクショ
ン映画で、結果的に非常に朗らかな気分で劇場をあとにす
ることができた。
低予算だからなのか知らないが、もうツッコミどころは満載
で、中でもいちばん根幹に関わることなのだが、女殺し屋・
修羅雪姫を演じる梶芽衣子のアクションシーンにおける「体
のキレ」が全然良くないのには唖然とするしかない。これま
で追っ手の警官をさんざん斬り殺しながら逃避行を続けて
来たらしいのに、劇中で見る限り、1対1でも簡単に取り押さ
えられそうである。
まあしかし、そんなのは些細なこと。大事なのは、梶芽衣子
という物凄いキレイな女優が、女殺し屋に扮して悪党どもを
右に左に斬り伏せることであって、それ以外のことは全部オ
マケなのである。

                                9.22(木)  新文芸坐


2011年9月20日火曜日

神様のカルテ


☆☆☆★★       深川栄洋     2011年

櫻井くんの意外な好演にまず驚く。それに、脇役たちのなかなか
に絶妙な配置、当然ながらあおいちゃんの眩しい笑顔、これらの
併せ技で★ひとつ増量しました。
ぼさーっとした内科医の櫻井くんはけっこうチャーミングだった。
重度のクセ毛という設定にも、個人的に親近感をおぼえる。

まずねー、脇役が良かったんですよ。いつまでも若いけど最近目
つきがちょっと悪くなった池脇千鶴が櫻井くんと同期の看護師、
ひさびさにスクリーンで観たけど、やっぱ良いな。年とって渋くなり
存在感が増した要潤、まあまあ良かった。近頃完全に俳優業に
も色気を出してる原田泰造、まあ良い顔してるんだよね、基本的
に。役者顔。
ただ。ただですね、何といおうと、この映画を1800円とれる映画と
して成立させたのは、ひとえに加賀まり子の功績であって、それ
以外に無いのである。その女優魂たるやすさまじかった。格が違
う。今回の鬼気迫る加賀まり子の前では、宮崎あおいもただの可
愛いおねーちゃんに過ぎなかった感がある。

予告編で「毎日迷ってるよ…これでいいのか」と憂い顔で言う櫻井
くんと、「万歳!」ってなぜか泣きながらバンザイ三唱するあおい
ちゃんを見た時は「あぁ、これはもうダメだ…」と半ば諦め、観念し
て観に行ったのだが、まあ内容はベタながら好感のもてる映画で
あった。ちゃんと作ってるというのが伝わってきた。

                         9.18(日)  ワーナーマイカルシネマズ釧路


2011年9月18日日曜日

ゴーストライター


☆☆☆★★      ロマン・ポランスキー    2011年

しっかりと作りこんであるサスペンス。批評をみると「チャイナタウン」
が引き合いに出されていることが多いので、ああいう感じかと思った
ら全然違った。展開はフツーに速いし、カットもバンバン切り替わるし
で、衒わず王道をずんずん行っている感じ。
これは誰が見てもそれなりに楽しめると思う。集中して観ないとだめ
ですよ、もちろん。

                          9.10(土)  ヒューマントラストシネマ渋谷


2011年9月16日金曜日

花と爆弾 [人生は五十一から⑥]


小林信彦 著    文春文庫

最初に週刊文春を読みだしたのは、高島俊男さんの「お言葉
ですが…」が読みたいからだった。まさに珠玉のコラムだった
と、今でも何の躊躇もなく言える。しかし連載は終わってしまい、
次に颯爽と現れたのは大宮エリーの「生きるコント」だった。
高島さんのコラムとは毛色が全然違うが、けっこうおもしろくて
二年(だっけ)にわたった連載はリアルタイムで読んだ。しかし
高島さんの連載が終わってしまった喪失感は大きく、文春は
「原色美女図鑑」で買うかどうかを判断するような申し訳ない
感じになった。お天道様に顔向けできない。
そして「生きるコント」も終わってしまい、いよいよ文春を買う理
由がなくなったかといえば、実はいまは毎週のように買ってい
るのである。
それは、小林信彦の「本音を申せば」がおもしろくなってきたせ
いで、この連載を読むのが毎週の楽しみになっている。もう二
十年近くやっている連載なので、昨日今日おもしろくなったわけ
ではない、もちろん。私が小林さんの文章のリズムの精妙さに
徐々に気付き始めたからだと思う。噛み締めながら読んでます、
毎週。


2011年9月15日木曜日

八つ墓村

☆☆☆     市川崑    1996年

まあ、普通かな。
個人的には、トヨエツ金田一は愛嬌があってよかったと思うけど。
「LOFT」を観たときから、トヨエツの奥にある「おかしさ」には好感
を持っているので。

                                9.4(日)    BSフジ


「おじさん」的思考


内田樹 著    角川文庫

2冊目の著書、とたしか書いてあったので、いまでは「無数」
にある彼の著作のなかでは最初期ということになる。最近
文庫に入った、のかな。おおかたは名物ブログからのセレ
クションだが、最後にわりと長い「漱石論」みたいなものが
書き下ろしで収録されている。「大人になる」とはどういうこ
とか、「虞美人草」と「こころ」をもとに、明治期における「成
熟」をからめて考察するもので、けっこうおもしろかった。

一緒に『レヴィナスと愛の現象学』も買ってみたが、こっちは
えらいむずかしそうだな。


2011年9月6日火曜日

少年の日の思い出


ヘルマン・ヘッセ 著   岡田朝雄 訳    草思社

ヘッセ青春小説集、とサブタイトルにある通り、表題作のほかに

・ラテン語学校生
・大旋風
・美しきかな青春

を収める。この3篇も無性に良い。ヘッセの文章はなんでこんなに
心地良いのか。登場する人物に向けるヘッセのまなざしはどこま
でも優しい。

「少年の日の思い出」というと、おおかたの人は「教科書のやつ!」
という反応らしい。戦後すぐから現在まで、多くの国語教科書(中学
生用?)に採用され続けてきたらしく「あの、蝶をつぶしちゃうやつで
しょ?」という感じで、日本で最も有名なヘッセの作品のようだ。
だが私はどうも読んだ覚えが無い。
国語の教科書は、授業でやらないところも全部読んだはずなので、
覚えがないということは宮崎県で採用している教科書には載ってい
なかったということだと思う。私が覚えてないだけかもしれないが。

そういえば以前も、「赤い実はじけた」とかいう、教科書に載っていた
小説の話で場が盛り上がってた時に、全然そんなの読んだ覚えが
なくて、ひとりポカンとしていたことがあった。つまんなそうな題名だか
ら別にいいんだけど。
どうなんでしょう。宮崎以外の出身のひとは「え、『赤い実はじけた』知
らないの?」という感じなんでしょうか。


2011年9月5日月曜日

チャイナタウン


☆☆☆★★     ロマン・ポランスキー    1974年

この映画をつらぬいている独特の緊張感、この「隙のない」感じが
たぶんポランスキーという人なのだろうな、と思った。
主人公はロス在住の私立探偵(ジャック・ニコルソン)。彼がいつも
どおり依頼にもとづいて浮気調査をしていると、1件の殺人が起こり、
探偵はそこに否応なく巻き込まれ、やがてそれは大きな組織的陰謀
へとつながっていく、という言ってみれば「王道」のプロット。だが、サ
スペンスというにはテンポがゆっくり目に設定されており、展開はあ
くまで優雅。伏線はしっかり張るが、説明はほとんどしないので、集
中して観ていないと「おいしいところ」を見逃すことになるだろうし、お
そらく私も気付いていない伏線はいくつもあっただろうと思う。

しかしジャック・ニコルソンって良いね。
「カッコーの巣の上で」といい「シャイニング」といい、忘れられない演
技をしてくれる。

                                              9.3(土)  BSプレミアム


2011年9月4日日曜日

ドラゴン危機一発


☆☆☆        ロー・ウェイ       1971年

ともあれ1本ぐらい観とくか、と思って「ブルース・リーの主
演作」というものを初めて鑑賞。26になって初めて観るの
は遅かった感があきらかであったが、そこそこおもしろ
かったですよ。しかし母親との「不戦の誓い」のペンダン
トを見る度に、へんな効果音が鳴るのは恥ずかしかった。

                                           8.28(日)  BSプレミアム