2020年4月29日水曜日

スパニッシュ・アパートメント


☆☆☆★ セドリック・クラピッシュ 2002年

ごく平均的なフランス青年(ロマン・ドュリス)
が、まあそれほどの野心も目的もなく1年間の
スペイン留学。バルセロナのボロいアパートで
シェアハウスをして、人種も国籍も性別も、性
的嗜好さえもバラバラの若者とわいわい共同生
活を送る。

フランス青年は愛するママンと彼女(オドレイ・
トトゥ)をパリに残してくるのだが、空港で別
れるときの情けない顔がいい。まあでも、ああ
なるのもわからんでもない。

まあしかしみんな勝手なことばっかり言って、
議論好きだから議論が始まるのだが、譲らない
ところはまったく譲らない。外国人のめんどく
ささが炸裂していて、なかなかおもしろかった。

                                          4.17(金) DVD


2020年4月28日火曜日

街の灯


☆☆☆★★  チャールズ・チャップリン 1931年

主人公の浮浪者が街角の花売り娘に恋をする、
――観たことないのにそれは知っている、と
いうほどの、まさに「映画の中の映画」だろ
う。初見ですが、ね。

盲目の花売り娘はチャップリンがタクシーで
来てタクシーで去ったと思い込み、お金持ち
だと思う。このへんも巧いが、品行方正な優
等生的映画を想像していると、冒頭の除幕式
の像に酔っ払って寝ているシーンから裏切ら
れることになる。酔っ払ったときと素面のと
きで記憶がつながらない富豪の男や、金を稼
ぐために仕方なく出たボクシングの試合など、
サイドストーリーがしっかりおもしろいのが
すごい。

                             4.16(木) BSプレミアム


2020年4月26日日曜日

【演劇】 三人姉妹


もちろん劇場じゃなくて昔の録画を観てる
だけですからね……

KERA meets CHEKHOV Vol.2/4

作:アントン・チェーホフ
上演台本・演出:ケラリーノ・サンドロヴィッチ

余貴美子、宮沢りえ、蒼井優。
この三姉妹の上には兄がひとりいて、兄が大
学に入って学者になった暁には、みんなでモ
スクワに引っ越す、というのが三姉妹の夢見
るところ。しかし、兄はあまりうだつが上が
らず、博打にはまり、借金まで作る。
次女はいちばん奔放な性格で、結婚している
が結婚生活には満足しておらず、赴任してき
た軍人の堤真一と恋に落ちる。激しい性格の
次女を演じる宮沢りえの美しいこと! いつ
もひいきにしてる蒼井優もこれではさすがに
分が悪いか。
最近ケラリーノづいてまして。原作を読んで
ないが、おそらくそれほど現代風にアレンジ
したりせずに、素直に「そのまま」やってい
るように感じる。それでも三姉妹に降りかか
る不条理、絶望、そして希望はしっかりと伝
わってくる。

                             4.12(日) BSプレミアム


2020年4月24日金曜日

読書⑨


『ペーター・カーメンツィント』
ヘッセ 著  猪股和夫 訳 光文社古典新訳文庫

『郷愁』の名で知られるヘッセのデビュー作。
『青春彷徨』という訳題もあったらしい。前に
北海道にいたときにヘッセ・ブームがあり(私
の中だけで…)、新潮文庫(高橋健二 訳)で読
みかけたのだが、途中でなんとなくだるくなっ
てやめてしまった。

村人のほとんどが「カーメンツィント」という
姓をもつ、アルプスの麓の小さな村に生まれた
ペーターが、自然の中で成長し、チューリヒと
いう都会に出て大学でまなび、仕事を得て、恋
なんかもして(実らないけど)、やがて中年に
差し掛かり、老いた父親のいる故郷へと帰って
くる。この人生の道程を、まったく冷静沈着、
「若書き」というものと無縁の文体でつづって
いる。若干タルいという印象は今回も変わらな
かったが、時間が死ぬほどあるので2日で読み
終わった。これを読むと、やはりヘッセの小説
がおもしろくなるのは『車輪の下』以降なのか
なという感じがする。









『明治開化 安吾捕物帖』
坂口安吾 著  角川文庫

こういうものを安吾が書いていたとはつゆほど
も知らなかったのだが、要は肩肘はらずに読め
るシリーズものの探偵小説である。出張のサラ
リーマンがキヨスクで買い求めて新幹線ででも
読んだのだろう。連載は昭和25~27年だから、
新幹線はまだ無いが、奥付によると刊行された
のは昭和48年とのこと。

最大の魅力はトリック云々というよりも、安吾
の歯切れのいい、落語のような文章そのもので
ある。読んでいて爽快だ。

2020年4月23日木曜日

何がジェーンに起ったか?


☆☆☆  ロバート・アルドリッチ  1962年

小さい頃、人気子役だった妹。しかし大人に
なると人気が翳り、反対に姉(ジョーン・ク
ロフォード)のほうが演技力を評価されて人
気は逆転。だが、不慮の事故で姉は車椅子生
活となり、いまは妹(ベティ・デイビス)が
面倒をみている。妹はもう一度スターに返り
咲く夢を捨てておらず、姉に嫉妬してきつく
当たり…。

サスペンス、ホラーの要素もあるのだが、演
出になじめず。なぜそこで大声で助けを呼ば
ない! なぜそこで引き返す! なぜもっと
早く電話しない!
もっと早く助かる手段はいくらでもあったの
に、なぜ、なぜずくめでちっとものれなかっ
た。
でもベティ・デイビスの怪演に★ひとつ進呈。

                               4.11(土) BSプレミアム


2020年4月21日火曜日

【演劇】ドクター・ホフマンのサナトリウム ~カフカ第4の長編~


作・演出 ケラリーノ・サンドロヴィッチ 

カフカの長編小説は、『城』『審判』『アメ
リカ』のいずれも未完の3作しか残されてい
ないが、もしも第4の長編小説が発見された
ら、――という仮定のもと、「小説の草稿が
発見された現代」「カフカがその小説を書い
た時代」「小説の中の世界」を自在に行き来
しながら、次第に3つの世界の境界が溶け合っ
ていく、というややこしい設定。だが、巧み
な脚本でこんがらがることはなく、それぞれ
の世界に一瞬で連れて行かれる。

主演は多部未華子と瀬戸康史。
芝居で観る多部ちゃんは、幼い感じもありつ
つコケティッシュで、非常にいい。瀬戸康史
もテレビで観るよりいいと思った。

トランペットとヴァイオリンの入った生演奏
が実にカッコいい!

                             4.10(金) BSプレミアム


2020年4月19日日曜日

バンド・ワゴン


☆☆☆★   ヴィンセント・ミネリ  1953年

近年、小林信彦は文春のコラムでMGMミュージ
カルへの惜しみない愛を語るが、わたしはその
コラムを愛読していながらミュージカルに疎く、
"MGM"が何なのかもよく知らなかった。ミュー
ジカル映画の全盛期を支えた映画スタジオで、
MetroとGoldwynとMeyerが合併してできたの
がMGMなんですね。
とりわけこの『バンド・ワゴン』のすばらしさ
を語った文章を読んだのはもはや1度や2度では
なく、御大よっぽどお好きらしい。

落ち目のミュージカル俳優をフレッド・アステ
アが演じる。前衛的な演出家と組んで、はじめ
は大失敗するものの、みんなのミュージカル愛
でいちから再出発して成功を収めるという王道
のストーリー。それを華やかで楽しい楽曲が彩
る。

                                     4.9(木) BSプレミアム


2020年4月17日金曜日

読書⑧


『斜陽』
太宰治 著    新潮文庫

初読です。おはずかしいことに。
私が子どもの頃は、日本で10番目に売れた
本だったと思う。いまはどういう順位になっ
ているのか知らんが。
「恋と革命」に生きることを決意した没落
貴族の娘の話、と要約できなくもないが、
これは実に異様な話である。蛇のエピソー
ドの執拗さをわざわざ挙げるまでもなく、
小説ぜんたいに不気味な、まがまがしいも
のが込められている気配がして、読んでい
て寒気がするようであった(発熱はない。
あしからず)。

読後、「葉桜と魔笛」がむしょうに読みた
くなり本棚を探すも、どうやら実家に置い
てきたようで見当たらない。なむなむ。









『ナイン・ストーリーズ』
J.D.サリンジャー 著  柴田元幸 訳 ヴィレッジブックス

言わずと知れたサリンジャーの短篇集。
野崎孝でとおい昔に読んだと思うのだけど、
例によって覚えていない。柴田訳はとても
読みやすくて、言葉のチョイスなども私は
好きだった。

何にでもランキングをつけたがるのは「男
の子の常」かもれないが、たとえそのよう
な誹りを受けようとも、ひとつベスト5を
決めることにする。

1. バナナフィッシュ日和
2. ディンギーで
3. エスキモーとの戦争前夜
4. エズメに―愛と悲惨をこめて
5. コネティカットのアンクル・ウィギー

こんなにも執拗に「子どもとおとなの会話」
を書いていたかとあらためて驚く。うまい
なぁ、と舌を巻くこともあれば、ちょっと
「やり過ぎ」かなと感じるものもある。
春樹が最近書いた「ウィズ・ザ・ビートルズ」
は「エスキモーとの戦争前夜」に似てるね。










<ツイート>
「タイムマシーンに乗って」とか「ボレロ」
のMVって有るんだ! 24年ファンやってる
けど知らなかったよ…。

2020年4月15日水曜日

チャップリンの黄金狂時代


☆☆☆★★  チャールズ・チャップリン  1925年

ナレーションはあとから付け足したんですね。
いま観ると、わりと無理やり詰め込んでいる
ようなところもある。たしかにサイレントで
は分かりにくい部分もあり、ナレーションに
よる説明はあったほうがいいと思う。ちょっ
と多いかもしれないが。

傾いた小屋の中での攻防、パンとフォークに
よる洒脱なダンス、飢えのあまり靴を食べる
シーンなど、有名な場面がもりだくさん。実
にたのしい。

                                4.8(水) BSプレミアム


2020年4月13日月曜日

読書⑦


『本当の翻訳の話をしよう』
村上春樹 柴田元幸 共著 スイッチパブリッシング

「復刊してほしい翻訳小説」にはじまり、
「ジョン・チーヴァー」や「短篇小説の書
き方」についてなど、村上×柴田でおこなっ
た対談を多数収録。チャンドラーやカポー
ティの文章を村上訳と柴田訳を並べて比較
しているものがあり、興味深い。
春樹はいちど逐語的に訳したあと、いった
ん元の英文を忘れて、文章として自然にな
るよう直すらしい。結果、両者の訳を比べ
ると明らかに春樹の訳文は長い。少なくと
も今回の箇所についていうと、柴田訳の方
がスッキリしていて好みではある。
柴田さんによる、明治から翻訳史をたどっ
た入魂の、わりと長めの講演も収められて
いる。









『東京湾景』
吉田修一 著    新潮文庫

出先で時間ができたので、読み落としてい
た吉田修一の中では比較的有名な1冊を。
最近いわゆる「湾岸地区」でのまとまった
仕事があったので、何度も通ったこともあ
り、あのだだっ広い埋め立て地の雰囲気が
勝手に浮かんできた。――のはいいとして、
小説としては、私の「あまり興味ない方の
吉田修一」というか、まあ表紙の平凡な首
都高の写真からしてそんな感じはあったが、
どうも薄味で噛みごたえの無い話である。
物語を駆動する役目を果たす「青山ほたる」
という小説家と、物語の核となる亮介が昔
つきあった「高校の英語の先生」。どうも
この二人が血肉がともなっていないという
か、薄っぺらい感じがした。








2020年4月11日土曜日

デューン/砂の惑星


☆☆☆    デヴィッド・リンチ  1984年

カルト的な人気を誇るSF大作である。
未来の宇宙を舞台にしているが、国家間の権謀
術数だったり、神話的なモチーフだったり、親
子間の葛藤だったり、『スターウォーズ』を引
き合いに出すまでもなく、わりと既視感…。
ホドロフスキーも映像化を断念した原作を、ま
だ『イレイザーヘッド』と『エレファント・マ
ン』しか撮っていない駆け出しに任せたわけで
ある。しかし初めてのビッグ・バジェットとは
思えないリンチの落ち着きというか、堂々とし
た演出ぶりには感心する。いろいろ気持ち悪い
ひとやら生物やらが出て来て、楽しそうである。

のちにリンチ作品の常連となるカイル・マクラ
クレンの映画初出演作! スティングも肉体美
を披露している。

                                   4.6(日) BSプレミアム


2020年4月8日水曜日

読書⑥


なぜとはいわないが、読書がすすむ。


『スタン・ゲッツ ―音楽を生きる― 
ドナルド・L・マギン 著 村上春樹 訳  新潮社

「微に入り細を穿つ」とは本書のためにある
ような言葉だ。音楽の神に魅入られたとしか
思えない天才的なテナーサックス奏者の詳細
を極めた伝記を、ずっと昔から彼を最も敬愛
するジャズ・ミュージシャンと言っていた村
上春樹が訳した「大著」である。

どうやら人間的にはとても問題の多いひとで、
長いことアルコールとドラッグの中毒を克服
しようとして果たせず。しょっちゅう内なる
"怒り"が抑えきれなくなって、奥さん(2番目
の)を殴打したり、家の中をめちゃくちゃに
破壊したりしている。にもかかわらず、ひと
たびサックスを手にステージにあがれば「そ
の夜のゲッツの演奏はすばらしかった」とい
う伝記作家の記述がどこまでも繰り返される。

ジャズは即興の音楽であり、本書にあるとお
り、その営為はその場でメロディを作曲して
いるのと同じである。よくそんな心理状態で、
天上の音楽のような創造性を発揮できるもの
だ、という感想を誰もが禁じ得ないだろう。

読了後、毎日スタン・ゲッツの音楽を聴いて
いるのは言うまでもない…。

新潮社にしては珍しく誤植が何か所もあり、
ひさびさに趣味のメールを送ってしまった。










『コンビニ人間』
村田沙耶香 著   文藝春秋

これも語り手が相当にゆがんでいるのが、な
んとなく、受賞の順番はこちらが早いが『む
らさきのスカートの女』に似た空気を感じさ
せる。こちらの主人公はコンビニの仕事をお
ろそかにするどころか「愛しすぎている」の
は異なるが。
妹に「まともな会話の仕方」を教えてもらっ
ているという設定がおもしろいが、まあそれ
でもこんなひといたら、たぶん同級生の女子
会には混ぜてもらえないか、一度で放逐され
るだろう。








2020年4月6日月曜日

ギターを持った渡り鳥


☆☆★★★    齋藤武市   1959年

渡り鳥シリーズの第1作。ずいぶんヒットし
たらしい。全部で8作の「渡り鳥」が撮られ
ることになる。今回は宍戸錠の追悼で放送さ
れた。

馬車の干し草の上にギターと一緒に寝転んだ
小林旭が函館に着くという、けっこう気恥ず
かしい西部劇風の場面から始まる。

そこから始まるストーリーは東映の健さんの
映画などを見慣れている目にはどうも内容が
スカスカでマイトガイ・小林旭のキャラクタ
ーもはっきりせず、中途半端に映った。おも
しろくない…。

浅丘ルリ子は最初わからなかった。
宍戸錠はフラリとやってくる売人であり殺し
屋でもある男で、存在感が不気味である。

                                  4.5(土) BSプレミアム


2020年4月4日土曜日

読書⑤


『人間』
又吉直樹 著   毎日新聞出版

初の新聞連載とのことで、新聞連載って新聞
とってないからリアルタイムで読むことない
けど、漱石みたいでいいよね。それとやはり
定期的にやって来る区切りがだんだん癖にな
るというか、独特のリズムが生まれると思う。
島田雅彦の『忘れられた帝国』とか、吉田修
一の『悪人』とかも新聞連載だったですね。

本人を思わせる主人公に、実在の人物を思わ
せる登場人物や、実在と思われるバーとかも
出て来て、けっこう際どいところを行ってる
ような気もしたけど、やはり人物の造型がお
もしろくて、一気に読まされた。
長篇が書けたらもう何も怖くないだろう。ど
んどん書いていってほしい。









『むらさきのスカートの女』
今村夏子 著   朝日新聞出版

芥川賞受賞作。
「こちらあみ子」から既にある程度の知名度が
あったこともあり、近年ではわりと受賞が話題
になったほうではないか。

語り手の職場にやって来た「むらさきのスカー
トの女」。初めはさも変人のように描写されて
いるが、読み進めるとだんだん雲行きが怪しい
というか、描写自体を疑いだすというか、語り
手の方に違和感を覚えることが多くなり、やが
て…。

途中まではわりと牽引力があるというか、読ま
せるな、と思いながら読んでいたが、その後の
展開にはさほど感心せず。




2020年4月1日水曜日

さらば、わが愛/覇王別姫


☆☆☆★★  陳凱歌(チェン・カイコー) 1993年

京劇の役者として、激動の中国の歴史に翻弄
されながらも芝居に生涯をささげたふたりの
男を、絢爛豪華な映像と冴えわたる演出で描
き切った172分の大河ドラマ。

主演はレスリー・チャンとチャン・フォンイ
ー。幼少期、超絶スパルタの京劇の養成所か
ら始まるのだが、これが完全に虐待である。
やがて役者として頭角を現すふたりは、京劇
の演目『覇王別姫』で共演を繰り返し、人気
を博す。中国映画だからといって何でも「大
陸的」で済ますのもどうかと思うけれど、や
はりこの時間軸の壮大さと大地の雄大さをお
もうと、そう呼びたくなってしまう。

それにしても街の飾りや遊郭の構造など、去
年末の『ストレンジャー 〜上海の芥川龍之介
〜』に似ているカットが多かったように思う。

                              3.18(水) BSプレミアム