2023年4月29日土曜日

読書③

 
『街とその不確かな壁』
村上春樹 著   新潮社

新作は中篇らしいという話もあったのでそんな
に長くはないのかと思っていたら、意外なほど
厚い本が店頭に積み上げられていた。

影をもたないひとびとの暮らす高い壁に囲まれ
た街、金色の毛をもつ単角獣、図書館で「古い
夢」を読む「夢読み」などなど、懐かしいモチ
ーフが登場して、「いま」の村上春樹の文章で
書き直されていく。比喩は前作より多めで、お
もしろいものが多数あった印象。打率が高いと
いうか。

ものすごく珍しい「あとがき」によると、その
昔「文學界」に発表した「街と、その不確かな
壁」は『世界の終りとハードボイルド・ワンダ
ーランド』に生まれ変わることで完全に昇華さ
れたのだとわれわれ読者は思っていたが、春樹
のなかではまだ終わっていなかったということ
らしい。「夢」はいつも村上春樹の小説の中で
重要な意味を持つが、「高い壁に囲まれた街」
がそれほど決定的に重要なモチーフだったとは。
しかし40年越しの執念をもって書き直さねばな
らないほどの小説だったのかというと、読み終
えたばかりのいまは、もうひとつ腑に落ちない
ところはある。また2年ほど置いて読み直せば
感想も違ってくるとは思うのだが。




2023年4月9日日曜日

フェイブルマンズ

 
☆☆☆★★★  スティーヴン・スピルバーグ 2023年

スピルバーグの自伝的な物語。
「FABLEMAN」というのはファミリーネーム
で、名乗るだけで英語圏のひとには一発でユ
ダヤ系であることが分かるらしい。もちろん
スピルバーグはユダヤ系である。
ひさびさの映画館に心が浮きたっていたのも
後押ししたのか、151分の長尺とはとても思
えない幸福な時間だった。体感は100分。

映画づくりに魅せられるとは、深い業を背負
うこと…。なるほど自分の好きに映画を撮っ
て評価されてきたと思われがちなスピルバー
グにも、葛藤や苦悩はあったということか。

やはりこの世代の映画人にとって映画の神様
はジョン・フォードなのである。デヴィッド・
リンチが演じたフォードはインパクト大。そ
れに関連したラストカットが洒脱で微笑まし
い。

                        3.20(月) TOHOシネマズ池袋