2023年4月29日土曜日

読書③

 
『街とその不確かな壁』
村上春樹 著   新潮社

新作は中篇らしいという話もあったのでそんな
に長くはないのかと思っていたら、意外なほど
厚い本が店頭に積み上げられていた。

影をもたないひとびとの暮らす高い壁に囲まれ
た街、金色の毛をもつ単角獣、図書館で「古い
夢」を読む「夢読み」などなど、懐かしいモチ
ーフが登場して、「いま」の村上春樹の文章で
書き直されていく。比喩は前作より多めで、お
もしろいものが多数あった印象。打率が高いと
いうか。

ものすごく珍しい「あとがき」によると、その
昔「文學界」に発表した「街と、その不確かな
壁」は『世界の終りとハードボイルド・ワンダ
ーランド』に生まれ変わることで完全に昇華さ
れたのだとわれわれ読者は思っていたが、春樹
のなかではまだ終わっていなかったということ
らしい。「夢」はいつも村上春樹の小説の中で
重要な意味を持つが、「高い壁に囲まれた街」
がそれほど決定的に重要なモチーフだったとは。
しかし40年越しの執念をもって書き直さねばな
らないほどの小説だったのかというと、読み終
えたばかりのいまは、もうひとつ腑に落ちない
ところはある。また2年ほど置いて読み直せば
感想も違ってくるとは思うのだが。




2 件のコメント:

  1. 貴君にしては距離感のある感想だね。私は未読ですが。2度ほど手にしましたが、レジには足が向きませんでした。

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  2. そうですね。春樹でなければ書けない小説であることは確かなんですが、春樹がいまこれを書く必然性のようなものが、いまひとつ感じられず…。

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