2021年2月27日土曜日

すばらしき世界

 
☆☆☆★★★  西川美和  2021年

寡作ながら誠実に丁寧に、独自の映画を撮り
続けている監督のひとりだと思うし、このひ
との書くセリフの切れ味が好き。エッセイの
文章もうまい。

今回は佐木隆三の原作はあるものの、役所広
司にアテ書きした脚本とのこと。人生の半分
以上を刑務所で過ごしてきたヤクザ者の役で、
『どら平太』でも思ったことだが、役所広司
の大声は威圧感があって恐い。

最初の方の、旭川刑務所の門を出てバスに乗
るシーンなんか、やはり見事だと思う。橋爪
功、北村有起哉、仲野太賀、長澤まさみなど
みんな好演だが、出色はスーパーの店長を演
じた六角精児だろう。それほど出番は多くな
い脇役ながら、このひとの人生と役所広司の
人生が交叉する瞬間をほんとうにリアルに見
せられたように感じた。

私としては、ラストカットと、「すばらしき
世界」というこのタイトルが、もちろん悪く
はないのだが…。少し狙いすぎというか、若
干「らしくない」というか。二度しか殺人が
描かれない映画に『三度目の殺人』と名付け
るような理屈っぽさを感じてしまった。

                           2.13(土) 新宿ピカデリー




2021年2月24日水曜日

勝手にしやがれ

 
☆☆☆★★  ジャン=リュック・ゴダール 1959年

久しぶりに観ると、さんざん他のわけの
わからないゴダール作品を観てきたあと
なので、ずいぶん観やすいな、と感じる。
ストーリーがあるだけで「なんてありが
たい」と思ってしまうし、モノクロなの
になんだかキラキラして見えるのは私の
目がイカれてしまったのかもしれない。
ジーン・セバーグはあくまでキュートで、
ジャン=ポール・ベルモンドはタバコ吸
い過ぎである。セバーグの部屋でうだう
だ話すシーンはあんなに長かったか…。

                      2.9(火) BSプレミアム




2021年2月21日日曜日

アーヤと魔女

 
☆☆☆★★   宮崎吾朗   2021年

3D CGは、最初こそ無機質な感じがしたが、
だんだん見慣れてくるものですな。まあだ
からといって全部これになったら良いとは
思わないけど。

大人を手玉にとる小悪魔的なしたたかさを
もつ少女というのは、いままであまりジブ
リにはいなかったタイプのヒロインではな
いか。だいぶ新鮮だった。寺島しのぶもト
ヨエツも、アフレコを楽しんでいる感じが
伝わってくる。

                                  2.4(木) NHK総合




2021年2月18日木曜日

花束みたいな恋をした


 ☆☆☆★★   土井裕泰  2021年

私はサブであれメインであれ、カルチャーを
心から愛し、カルチャーを愛すことで互いに
惹かれあい、同棲するに至ったこのカップル
の人生を寿ぐことに、もちろんやぶさかでは
ない。私だって喫茶店にあの監督がいたら分
かるし、映画の半券をしおりにしているし、
カウリスマキの映画が好きだ。なのでいつの
間にかすごく感情移入してしまって、二人が
とても他人とは思えず、有村架純の口から
「…楽しかったね(だけど別れよう)」とい
うセリフが出たとき、なんだか半分自分が言
われたような気がしてとても悲しかった。バ
カみたいだとは自分でも思うが。

脚本・坂元裕二、演出・土井裕泰。まあつま
り『カルテット』のコンビである。このおも
しろさも、どちらかというと映画というより、
上質のテレビドラマのそれだと思う。有村架
純はたまにしか発揮させてもらえない、コメ
ディエンヌとしての素質を遺憾なく発揮して
しっかり笑わせてくれた。「いい子」の役ば
かり演じさせるのはもったいない。

                       2.3(水) TOHOシネマズ新宿




2021年2月16日火曜日

鉱 ARAGANE

 
☆☆☆★★   小田香  2015年

炭鉱の地下は暗い。当たり前だが、ライト
の照らす所しかカメラには映らず、他は闇
である。地下が暗いのは想像ができるが、
そうか、と意外な気がしてしまうのは、音
の方である。炭鉱の地下には掘削機械の轟
音が響いている。耳をつんざくような、決
して愉快とはいえない機械音である。

ボスニア。ブレザ炭鉱、地下300メートル。
これらの情報は後から調べて分かることで、
ナレーションもテロップも無いため、映画
を観ている間はどこの何という炭鉱なのか
も分からない。
屈強な炭鉱夫たちが地下に吸い込まれてい
く。何語か分からない冗談を飛ばし合いな
がら煤まみれになって働く。
炭鉱夫たちの所有物がワイヤーに吊るされ
て林立している光景が印象的である。省ス
ペースと防犯のためだろうか。よくできた
システムである。

                          1.27(水) ユーロスペース




2021年2月14日日曜日

青春デンデケデケデケ

 
☆☆☆★★  大林宣彦  1992年

1965年、香川の観音寺市を舞台に、ベン
チャーズの「パイプライン」に"電気的啓
示"を受けた高校生のバンド結成物語。
男子高校生に特有の、じっとしていられ
ないの落ち着かなさを表しているのか、
荒々しいドリーバックやクレーンを多用
した移動ショットの連続が特徴的で、いっ
たいこの2時間15分のフィルムにフィッ
クスの画がいくつあったのか、おそらく
両手で数えられるほどしかなかったので
はないか。若き浅野忠信、好演している。

突然誘われる海水浴のシーンが素晴らし
い。主人公が終身バンドリーダーを授与
されるシーンの長回しにもシビれる。

                           1.26(火) 目黒シネマ




2021年2月12日金曜日

HOUSE

 
☆☆☆★★★   大林宣彦  1977年

目黒シネマにて、大林宣彦の追悼特集。
ずいぶん久しぶりに来た。ブログを調べてみ
ると2017年4月に『裸足の季節』を観て以来
ということだ。美しい5人姉妹が出てくるトル
コ映画だった。

1本目は大林のデビュー作。ずっと観たかった
ので、35mmフィルム上映で観ることができ
て感無量。

映画を撮る前から名物CMディレクターだった
とはいえ、初めてがこれとは、あまりに大胆
不敵である。のっけから、画と音の切り貼り
の自由奔放さ、遊び心と純粋さと野心のほと
ばしりに圧倒されると同時に、晩年の『花筐
/HANAGATAMI』のムチャクチャさは既に
ここに萌芽があったのかと驚嘆しきりだった。
池上季実子をはじめとする7人の女の子たち
が次々と屋敷に食べられていくというオカル
トホラーなのだが、手法があまりにも斬新す
ぎて怖がっているヒマがない。異色作であり、
傑作。
画像はピアノに食べられる「メロディ」。

                               1.26(火) 目黒シネマ




2021年2月10日水曜日

読書②

 
『チャイナ・メン』
M. H. キングストン 著 藤本和子 訳 新潮文庫

中国から、はるか海を渡ってきた祖父や父の
物語を、中国系アメリカ人の著者が、「女た
ち」の語りとしてつづる。こうまとめるルポ
ルタージュのようだが、読んでみると非常に
摑みどころがないというか、鉱山でサトウキ
ビ畑で、苛酷な労働に従事した祖先たちの話
が、あっちへ飛びこっちへ飛び、時間軸も空
間軸も歪んでいくような感じがする。
「事実から幻想の方、神話の方へと地続きで
流れていく感じが、ぼくはすごく好きなんで
す」と柴田元幸は巻末対談で語っている。










『若者よ、マルクスを読もう 20歳代の模索と情熱
内田樹 石川康宏 著  角川ソフィア文庫

また「100分 de 名著」の話題で恐縮だが、
こないだの『資本論』の回はおもしろかっ
た。いつか読んでみたい本ではあるけども、
とてもじゃないが自力で読み通す自信はな
く、公共の電波で気鋭のマルクス研究者に
解説してもらえるというのはありがたい。

放送を毎週楽しみながら、それと並行して、
本棚で惰眠をむさぼっていた本書を引っぱ
り出して読む。「『疎外』された労働者に
ついて書くとき、マルクスはつい熱くなっ
ちゃう」。なるほど。おもしろい。
それにつけてもマルクス、そしてエンゲル
スの早熟さよ…。




2021年2月8日月曜日

ガン・ファイター

 
☆☆☆★   ロバート・アルドリッチ 1961年

西部劇って観れば観るほどビジュアルの差は
あまり無く、だいたい荒地の中に小さな宿場
町があって、そこに馬に乗ったヒゲ面のよそ
者がやって来て、酒場でもめ事がある。そう
いう様式美というか決まり事の中で、各々の
特色を出していくのは登場人物のしょっぱな
の言動によるキャラクターづけと、それぞれ
のキャラの置かれている状況、ということに
なる。それぞれのキャラの最終的な目的、と
言い換えてもいい。

『何がジェーンに起こったか?』のアルドリッ
チによる西部劇はどんなもんかと思って観始
めたら、かなりオーソドックスな西部劇のマ
ナーにのっとった序盤に少し意外な気がした。
突然現れた昔の男(カーク・ダグラス)、妹
の仇として男を追う保安官(ロック・ハドソ
ン)。ふたりは牛を護送するという仕事を請
け負うことで、一時休戦して協働しているう
ちに、牧場主の母と娘にそれぞれ好意を抱い
ていく…。

"The Last Sunset"という原題はいささか軟
弱な気もするが、後半はわりと異色な、えげ
つない展開になっていく。脚本はダルトン・
トランボ。

                            1.22(金) BSプレミアム




2021年2月6日土曜日

【LIVE!】 荒吐20th SPECIAL -鰰の叫ぶ声- 東京編


 ■THE BACK HORN
 1. コワレモノ
 2. ブラックホールバースデイ
 3. 心臓が止まるまでは
 4. 美しい名前
 5. 瑠璃色のキャンバス
 6. シンフォニア
 7. 太陽の花
 8. 無限の荒野


■鰰の叫ぶ声(THE BACK HORN×9mm Parabellum Bullet)
 1. コバルトブルー
 2. ハートに火をつけて
 3. Vampiregirl
 4. 罠
 5. The Revolutionary
 6. 戦う君よ
 7. 刃
 8. Black Market Blues

           1.20(水) 昭和女子大学 人見記念講堂

前半はバックホーン単独のライブ。
配信を別にすると実に14ヶ月ぶりのライブ参
戦ということになり、こんなに間が空いたこ
とはもちろんファンになってから無い。
出だしの3曲が絶妙な組み合わせで、やっぱ
り良いなぁ、を嚙みしめながら聴いていた。
並べ方次第で曲は新たな響きを獲得する、そ
の見本のような選曲。ライブは良い…。声援
は送れないが、みんな精一杯の拍手で意思表
示をしていた。

後半は9mmとのユニット、もともとアラバキ
のために結成された。
菅原卓郎は見た目もヴォーカルも妖気が漂っ
ていて独特だが、背はうちの岡峰の方がわず
かに高かった。最近離婚した岡峰ですが、い
つもと変わりなく振舞っておられました。




2021年2月4日木曜日

慕情

 
☆☆☆★   ヘンリー・キング  1955年

終戦後の1949年、香港を舞台にした悲恋
の物語。ジェニファー・ジョーンズが中国
とイギリスのハーフの女医、ウィリアム・
ホールデンがアメリカ人の新聞記者を演じ
る。
有名な甘い旋律が全篇にわたって流れ、戦
争によって引き裂かれる男女を抒情的に描
いたメロドラマは、まあヒットしたのも頷
ける。
ふたりで泳ぎに行って、対岸に友達の家が
あるからとそのまま泳いで訪ねていくシー
ンはなかなかおもしろかった。

原題は"LOVE IS A MANY-SPLENDORED
THING"。「愛とは輝かしいもの」ぐらい
の意味か。

                1.20(水) BSプレミアム




2021年2月2日火曜日

海街diary

 
☆☆☆★★★  是枝裕和   2015年

テレビでやっていたので、公開時以来の
再見。
ロケ地の見事さ、俳優の華やかさ、脚本
の良さ、是枝さんのちょっと理屈っぽい
演出、いろんなことが奇跡的にうまくいっ
た傑作だとあらためて思った。キャスティ
ングは三谷幸喜の映画バリの豪華さだが、
オールスター映画のこれ見よがしな感じ
ではないさりげなさが良い。奇跡的とい
えば、キーとなる「すず」役のオーディ
ションで、広瀬すずが選ばれたという幸
運も忘れてはならないだろう。
この映画を観ていると鎌倉では風光明媚
な土地でこんなに爽やかな恋愛模様がい
つも織りなされているのか、と思い込み
そうになる。

                             1.17(日) BSフジ