2014年11月29日土曜日

秋に読んだ本④


『すべて真夜中の恋人たち』
川上未映子 著      講談社文庫

本、喫茶店、光、雨、服。
すべてが「真夜中」のイメージと合わさって、静謐で独特な
世界をかたちづくることに見事に成功している。
人物も会話も展開もよくて、最高傑作ではないでしょうか。
『ヘヴン』より圧倒的に良いと思います。

川上作品にはわーっとまくしたてる人物がよく出て来るが、
口喧嘩を描写させたらほんとに天下一品ですね。今回も肝
になる部分にある言い争いがあって、それがなんとも効果
的だし、印象的だし、じんわりとしみてくる。おもしろかった。










『アは「愛国」のア』
森達也 著   潮出版

「尖閣・竹島・靖国・従軍慰安婦・死刑制度・原発・捕鯨・憲法
9条…について、若者たちと、とことん語り合ってみた!」と帯
にあるように、森さんがさまざまな立場・考え方をもつ6人の
若者と討論した内容をまとめた本である。森さんもよくやるよ
と思うが、わざわざその中に安倍晋三を強烈支持する嫌韓・
嫌中のほとんどネトウヨみたいなひとまで呼んで、喧嘩になら
ないように議論している。ただ、補足するとこのひとはけっこう
マジメに支持しているというか、単なるネトウヨなどではなくて、
安倍晋三の推し進めている政策とか外交、それが意味するこ
と、いろんな政治家の過去の発言やなんかにもとても詳しい。
それを踏まえての支持であり、先だっての都知事選では田母
神氏に投票したと、まあそういう人物らしい。どうしてもこの森
さんとはある意味で「対立しかしない」ひとのキャラが立ってし
まうのは致し方ない。
構図としてはだいたいこのひとが森さんの「お花畑的発想」を
糺すべく挑発し、森さんはその政治的言説の言い換えやごま
かし、メディアによってもっともらしく報道されていることの欺瞞
やすり替えを、ひとつひとつ丁寧にくつがえしていく。

9月に出た本なので、まさか今年のうちに衆議院選挙があると
は森さんもまったく思っていない。でも、投票する先が無いわ
と思っているひとがいたら、一読してみてもいいかも。参考に
なったり、ならなかったりするかと。

2014年11月27日木曜日

インターステラー


☆☆☆★★     クリストファー・ノーラン    2014年

宇宙モノに正直それほど興味は無いが、監督を信用して観に行
く。ハリウッドの大作映画を映画館で観るのは久しぶりだ!

結果としては、やっぱり大味だけど、かえってそこが良かった。
ツッコミを入れたいところが累計100か所はあったと思うが、まあい
いじゃない、という気分で3時間の上映を楽しく終えることができた
のは、さすがクリストファー・ノーランというべきか。こういう映画は
途中でシラけたらおしまいである。ブラックホールから水平線ぎり
ぎりの重力ターンで脱け出す? はっはーん、さてはなんでもアリ
かい、やってられんわ! となったら終わりである。なんでもアリ感
は否めないが、少なくともシラけはしなかった。力作であることは
疑いない。
まあでもちょっと長いな。

                                                             11.22(土) 新宿ピカデリー


2014年11月25日火曜日

【LIVE!】 真心ブラザーズ、藤井フミヤ


マゴーソニック2014 ~オラ、真実の愛が知りてぇ!~

<藤井フミヤ>
01. 女神(エロス)
02. 嵐の海
03. TRUE LOVE
04. Another Orion
05. Stay with me.
06. 恋の気圧
07. UPSIDE DOWN

<真心ブラザーズ>
01. 空にまいあがれ
02. BABY BABY BABY
03. splash
04. あいだにダイア
05. I’M SO GREAT!
06. どか~ん
07. EVERYBODY SINGIN' LOVE SONG
08. 拝啓、ジョン・レノン

(Session)
01. NANA(チェッカーズ)
02. ENDLESS SUMMER NUDE(真心ブラザーズ)
03. Twist and Shout(The Beatles)

                                                    11.21(金) 渋谷公会堂

一昨年ぐらいから真心ブラザーズの2枚組のベスト盤を
よく聴いていた。でもライブに行ったことがなかったので、
先週ふと思い付いてチケットを買ってみた。渋谷だし。
藤井フミヤもわりと好きだし。

真心が主催のイベントということで、先にフミヤ先輩登場。
独特な歌い方は変わってないが、マイクスタンドを使った
パフォーマンスに釘づけになる。えらいカッコイイ。動きも
どことなくマイケル的。股間を押さえたり。

そして真心が登場。こういうイベントの時は、フミヤファンも
いることだし、ベスト盤的な選曲になるのでは、という期待
は的中。知ってる曲ばかりだひゃっほーい。「拝啓、ジョン・
レノン」が聴きたかったんだよ。最高。わたしはYO-KINGの
声が好きだ。ノンビブラートの、あの突き抜ける感じというか、
迷いの無い感じ。

最後はもちろんセッション。
チェッカーズはやるだろうと思ったが、まさかの"NANA"!
う~ん、良かったけど、普通に"ジュリアに傷心"とかの方が
盛り上がったような。
本編ではやらなかった"ENDLESS SUMMER NUDE"をや
り(ちょっと練習不足だった?)、ビートルズで締めて、私とし
ては満足の一夜だった。真心のライブはこれからも行こう。


2014年11月21日金曜日

秋に読んだ本③


『花のノートルダム』 
ジャン・ジュネ 著  中条省平 訳   光文社古典新訳文庫

「最も汚れたものが最も聖性を帯びる」という話型は文学史上に
しばしば出て来るのだが、いまひとつ感覚がわからないというか
なんというか。代表的なのは『罪と罰』のソーニャとかね。

その話型の極北にあるような、このジュネの小説。なんとも強烈。
10月はトリュフォーを観まくっていたので、よっしゃ、いっそ映画も
小説もフランスもので「フランス月間」にしてまえ! と意気込んで
読み始めたものの、なかなか苦戦したのであった。

「花のノートルダム」とは何なのかというと、中盤になるまで出て来
ないのだが、美少年の男娼のあだ名なのである。だがこの小説の
主人公は明らかにディヴィーヌという男娼であり、ミニョンというこれ
また美男のヒモと生活している。語り手は、ジュネ本人を思わせる
ジャンという男で、刑務所でこの物語を書いたことになっており(実
際ジュネは獄中でこの処女作を書いたらしいが)、他にもいっぱい
登場人物がいて、非常にややこしいのである。そして、まあとにかく
犯罪者か同性愛者か両性愛者しか出て来ない。翻訳はがんばって
るようなのだが、いかんせん読むのに骨が折れる。
おもしろかったらサルトルの『聖ジュネ』にも挑戦してみようと思って
いたけど、うーん、どうかな。









『きみは赤ちゃん』
川上未映子 著     文藝春秋

いやー笑った。
未映子さん渾身の出産&育児エッセイ。おもしろい。
すべての出産がこんなに地獄のような大変さではないのだろうと思
うが、しかし大変な出産というのは大変な出産なのだ。なのだろう、
きっと。いずれにしても男には想像するしかない&想像できるはず
もない経験である。

阿部和重の小説は好きじゃないが、ここに出て来る「あべちゃん」は
いいやつである。男性性の代表として未映子さんに攻撃されるあべ
ちゃんを思わず擁護したくもなる。

2014年11月15日土曜日

ふしぎな岬の物語


☆☆☆          成島出        2014年

『あなたへ』を観たときに覚えた感覚がよみがえった。
こんな映画をつくって一体どういうひとが喜ぶのかがよく
わからない、という感覚である。基本的に「いいひと」しか
出て来ず、悪人に見えても必ず最後にはそのひとなりの
事情があることが説明される。不条理なことも起こらない。
特別切り口が斬新なわけでもない。ただの喫茶店の話で
ある。

ものすごく眠い状態で映画が始まってしまったけれど寝な
かったので、別につまらなかったわけではない。
ただ「不思議だなぁ」と思いながら観ていた。

これで95本。
ここまで来ればあとはなんとでもなる。
「ごめんね青春!」を繰り返し観ても、「うぬぼれ刑事」の
再放送を観ても、佐々木昭一郎のドラマの再放送を観て
も、「山賊の娘ローニャ」がイマイチでも、本数にはならな
いけど余裕である。
あぁ心に余裕があるってのはいいことだなぁ。


~関係ないけど~
16日(日)からのNHK-FM「サウンドクリエーターズ・ファイル」
は2週にわたって真心ブラザーズ!
前回は喋りはおもしろいし選曲は良いし、なかなか最高だっ
たので、宣伝しとこう。私ももちろん聴きます。私は先々週と
先週のグループ魂も聴きました。

                                                       11.3(月) 新宿バルト9



2014年11月13日木曜日

秋に読んだ本②


これも9月に読んだ本ですが。

『郵便配達は二度ベルを鳴らす』
ジェイムズ・M・ケイン 著  池田真紀子 訳  光文社古典新訳文庫

映画は2種類あるよな、と思っていたら、なんと4度も映画化されて
いるらしい。4度は伊達じゃない。

ちなみに「郵便配達」はストーリーとまったく関係がない。
舞台はアメリカ。ハイウェイ沿いのしがないレストランに、ならず者
の主人公がふらっと立ち寄る場面から始まる。そこで働くことになっ
たならず者はレストランの経営者の美しい妻とすぐ火遊びをし始める。
やがて本気になった二人は、亭主を殺す計画を考え始める…。
『オン・ザ・ロード』みたいな乾いたアメリカが好きなひとにもいいし、
タランティーノみたいなクライム・アクションが好きなひとも楽しいはず。

ホントに「読み出したら止まらないで賞」をあげたいおもしろさで、休憩
なしで読了。無駄の無い描写と、ワクワクするようなセリフの応酬に何
度もうなる。このまま映画の脚本として俳優に渡しても支障なさそうに
思えるぐらい無駄がない。

今度映画も観てみよう。
私の嫌いなヴィスコンティの映画化がいちばん有名のようだ。









『道草』
夏目漱石 著   新潮文庫

『明暗』のひとつ前の長篇。ということは、完成させた小説としては、
漱石の最後の小説ということになるか。

主人公は健三という名だが、多分に漱石の自伝的要素が強いと言
われている。親族がたくさん出て来るのだが、出て来るやつ出て来
るやつみな、こんな親族ばかりじゃ、そりゃ胃も悪くなるわ、という感
じのロクでもない養父、養母、姉、兄、義父などが、次々と列をなして
漱石の家に金の無心に来る。この小説をひとことでまとめると「親族
が金を借りに来る小説」以外にはないだろう。巻末解説によると、こ
こまで一時期に集中していたわけではないらしいけど、でもおおむね
本当のことらしい。有名人はいつの世もたいへんだ。
勝手な想像だけど、村上春樹に言っても「僕はそういうの嫌なんです
よ」とかいって貸してくれなそうだよね。大江健三郎は結局貸してくれ
そう。「…ちょっと待ってなさい」とかいって、書斎に取りに行ってくれ
そうな。

『道草』には最初の小説の原稿を出版社に渡したという記述もある通
り、時期的には『吾輩は猫である』を執筆した当時のことと見られる。
『猫』では色々な青年が訪ねてきて先生も愉快そうだったが、一方で
こんな不愉快なことも満載だったようである。



2014年11月11日火曜日

光の音色 -THE BACK HORN Film-


☆☆★★        熊切和嘉         2014年

まあファンだから観ますよ。いくら評判が悪くてもね。

ストーリーパートの方をもうちょっとおもしろくできたんでは?
熊切監督ともあろうひとが、死んだ妻をリヤカーにのせて運ぶ
男の話を、ただ時間軸をいじくっただけにしか見えず。あまりに
もおもしろくない。

キネマ旬報の星取り表ではなぜか北川れい子が大絶賛してい
た…。なんで?

                                                       11.2(日) 新宿ピカデリー


2014年11月9日日曜日

秋に読んだ本


9月に読んだ本ですが。

『エマ』
ジェイン・オースティン 著  中野康司 訳    ちくま文庫

ちくま文庫の裏に書いてあるあらすじ。

 エマ・ウッドハウスは美人で頭が良くて、村一番の大地主のお嬢さま。
 私生児ハリエットのお相手として、美男のエルトン牧師に白羽の矢を
 立てる。そしてハリエットに思いを寄せる農夫マーティンとの結婚話を、
 ナイトリー氏の忠告を無視してつぶしてしまう。ハリエットはエマのお膳
 立てにすっかりその気になるのだが――。19世紀英国の村を舞台に
 した「オースティンの最も深遠な喜劇」

あらすじだけ読むとゲロつまんなそうだし、驚くべきことに
あらすじ以外のことは本当に起きないのだが、いつもなが
らオースティンの小説はめちゃくちゃに面白い。なぜなのか。
前にも書いたように、登場人物たちはみな定職も持たず(な
ぜなら貴族だから)、ダンスパーティーと食事会に文字通り
明け暮れ、恋愛と家の名誉と土地の管理しか頭に無い。男
女で手紙を交わすこともほとんどないので、お互いの人柄を
知る機会といえば、食事会やパーティーにおける「紳士的な
会話」に限られる。前にも書いたけど、こんな条件で恋愛小説
を書けと言われてもまず無理だろう。オースティンの小説を支
えるのは、キャラクターの造形と、鋭い人間観察なのである。

これでジェイン・オースティンの6作の小説のうち、長いの3つ
(『高慢と偏見』『マンスフィールド・パーク』『エマ』)が片付いた
ことになる。何年か前に『ジェイン・オースティンの読書会』とい
う映画があったが、私にもそろそろその読書会に参加する資
格があるかもしれない。









『女子の生きざま』
リリー・フランキー 著    新潮文庫

オースティンが描いたのが19世紀貴族の「女子の生きざま」だと
すれば、こちらはゼロ年代を生きる"女子"たちへ、リリーさんが
満腔の愛を込めて送る「指南書」である。おもろい。



2014年11月7日金曜日

トリュフォーの思春期


☆☆☆★★★      フランソワ・トリュフォー    1976年

素晴らしい映画で3週間にわたったトリュフォー映画祭を締めくくる
ことができて余はたいへん満足している。最終日の最終回だった
こともあり、上映後の劇場には自然と拍手が起こった。

子どもを使うのがうまいトリュフォーだが、全篇にわたりほぼ子ども
の演技だけで構成され、即興も多いと聞いて、正直観る前は不安
だった。しかし杞憂。なんたる杞憂。子どもたちの自然な表情や演
技に魅了される。

原題は「おこづかい」の意だそうな。
たしかに「思春期」はヘンであって、登場するのはいずれも10歳前
後と思しき幼い子どもたちである。思春期といったら、いくら早熟な
フランスの子といえどもせいぜい中学生だろう。

10月はさながらトリュフォーにささげた一か月であった。有楽町の
ビックカメラに通いすぎて、飽きた。13本のトリュフォー映画を観た
が、気に入ったのは

①トリュフォーの思春期
②終電車
③夜霧の恋人たち

となろうか。『恋愛日記』もなかなか。やっぱりカラーになってから
のほうがおもしろい。

                                                          10.31(金) 角川シネマ有楽町


2014年11月5日水曜日

隣の女


☆☆☆       フランソワ・トリュフォー     1981年

小さい田舎町に暮らす主人公の家の隣に、昔自分を捨てた女が
引っ越して来る。なので「隣の女」。今ならさしずめ火曜10時の枠
で放送される不倫ドラマだ。
愛の作家・トリュフォーの面目躍如かと思いきや、あんまりおもし
ろくなかったな。私はどうも、欲情に身を焦がして抑制の効かない
男女を見ると、つい「バカだ」と思ってしまって全然共感できない。
ジェラール・ドパルドューもファニー・アルダンも、愛ゆえになのか
「いやいやそれはダメでしょ」という行動を取って、結果的にそれが
破滅を招くわけで、いかにも回避可能なリスクなのだった。どうせ
わたしは冷たい人間ですよ。

                                                         10.31(金) 角川シネマ有楽町


2014年11月2日日曜日

終電車


☆☆☆★★     フランソワ・トリュフォー    1980年

これは見事。
『大人は判ってくれない』は別格とすると、今のところ一番よく出来
ていて、おもしろいと思う。サスペンスとしても、恋愛映画としても、
一級品である。
ナチス占領下のパリが舞台。戦争中なので原則夜11時以降は外
出禁止で、"終電車"を逃すと大変なことになった、という説明が
まず入る。電気が不足していたから(だったか?)、寒さから逃れる
ため、市民は夜の映画館や劇場に殺到したという。
そんな時代のモンマルトル劇場の女主人をカトリーヌ・ドヌーヴ。
劇場では「消えた女」という芝居を打とうとしている。つまり劇中劇
のかたちで、稽古から公演までのけっこうスリリングな日々がつづ
られるわけである。これがかなりよく出来ていて、おもしろい。

冒頭「これは元の35mmを4Kでデータ化して2Kで処理した云々」
という字幕が出た。詳しい意味はわからなかったが、デジタル・リマ
スター版ということらしい。たしかに映像は綺麗だった。

                                                          10.26(日) 角川シネマ有楽町


2014年11月1日土曜日

黒衣の花嫁


☆☆☆       フランソワ・トリュフォー      1968年

ジャンヌ・モロー、『突然炎のごとく』からはだいぶ月日が経って
いるし、そもそも「そういう役」だからかもしれないけれど、なんだ
か目が据わってて「怖いおばはん」なのである。彼女はけっこう
正当と思える理由から復讐を企て、冷徹に着実にそれを実行し
ていく殺人者なのだが、可憐さがひとかけらも無くて、残念なこと
に彼女の復讐を応援する気持ちがまったく湧いてこない。

そして、今年はこれで90本目。ククク、余裕だぜ。

                                                      10.26(日) 角川シネマ有楽町