2010年11月28日日曜日

Split the Difference

☆☆★★★       森原裕二      2010年

9月に劇場公開もされたMr.Childrenのドキュメントフィルム。今年
の3月から何度かおこなわれた超小規模なライブと、その練習風
景などをバンドに密着して撮っている。どのぐらい小規模かという
と、烏龍舎の社員を30人ぐらいスタジオに招待してライブ、とかそ
ういうレベルで、いくら社員でもうらやましすぎる。

ここでは、ミスチルの楽曲じたいがひとを揺さぶるパワーを持って
いることはあまり考慮せず、あくまでドキュメンタリー映画として観
る。そうしてみると、ドキュメンタリーとしてはごく平凡である。落第
であるといってもいい。特段、撮り方に工夫があるわけでもなく、
ディレクターがメンバーに鋭い質問をして困らすわけでもない。た
だ何時間も素材を撮って、それなりに編集しただけである。だから
クレジットはディレクターよりエディターが上なんだろう。これを劇場
で見せられてもなぁ、と思う。

そして本作を観ると、いかにして最近のミスチルの「ピアノ偏重アレ
ンジ」が出来上がっていくかがわかる。昔の曲、たとえばCROSS
ROADなんかをやる時に、1番をピアノとヴォーカルだけでしっとりと、
2番からバンドアレンジになだれ込んでドラマチックな感じを演出す
る、というパターンが最近のミスチルには非常に多い。はっきり言っ
て多すぎて辟易している。言うまでもなくそれは、小林武史が演奏
に積極的になり始め、ライブアレンジを検討していく上でそういうの
を「いいね」と言っているからなのだが、どうも見る限り、桜井さんも
そういうアレンジを積極的によしとしているようだ。桜井さんからピア
ノバージョンを提案している場面もある。だが、何度聴いても私には
普通のバンドアレンジのほうがずっと良いように思えて仕方がない。
Everything(It's you)をワンコーラスどころかツーコーラスまでピアノ
のみでやられた時にはさすがに頭にきた。それに比べてAnother
Mind、虜、Heavenly Kiss、アンダーシャツのなんとカッコいいことか。

まあしかし、桜井さんがそれでよしとしているなら、これは根が深い。
とうぶんピアノ偏重は治まりそうもない。やれやれ。

                                                            11.22(月)  DVD

2010年11月24日水曜日

トロッコ

☆★★        川口浩史       2010年

ひさびさに観たよ、どうしようもない映画。
一緒に観に行った友達には悪いことをした。
いやぁ、残念な映画だったー。

とにかく出てくるカットのすべてに何の引っ掛かりも無い。
こちらを「ほほう」と思わせてくれるカットもセリフもひとつ
も無く、ただただ凡庸きわまりない陳腐そのもののシーン
が延々と続き、はっきり言ってうんざりだった。

私は尾野真千子という女優に宿命的に惹かれているの
で、この映画も尾野さんが目当てであったのだが、うー
ん、出ない方が良かったかな。
芥川の原作もこんなにひどいんだろうか、そんなはずは
あるまい、読んでみよう、と原作を読む気にさせることが
この映画の唯一の効能かもしれない。










<併映>

Shikasha

☆☆★★★      平林勇     2010年

10分間の短編映画。
荒地で何かを探す男たち、棺おけのような狭い空間で
縄でぐるぐる巻きにされている母子。なにか禍々しい、
不吉なものを画面に現出させることに成功しているん
じゃないだろうか。少なくとも、2時間あった「トロッコ」よ
りもはるかに映画として充実していた。

                            11.13(土)  渋谷シネマアンジェリカ

2010年11月23日火曜日

ケンタとジュンとカヨちゃんの国

☆☆★★       大森立嗣     2010年

ビルの解体屋の下っ端として、日々粉塵にまみれな
がらいわゆる「はつり」に明け暮れていたケンタ(松
田翔太)とジュン(高良健吾)が、ある日静かな狂気
をもってして、解体屋の事務所とイジめられた先輩
(新井浩文)の愛車を思いっきり「解体」し、ナンパし
たブスのカヨちゃん(安藤サクラ)とともに網走まで旅
をするロードムービー。
設定は悪くない、キャスティングもかなりセンス良い、
お膳立てはそろっている、しかし面白くなかった。

なんだか核になるもののない映画、という気がした。
雰囲気と状況だけ。ちゃんとした映画の“体”は成し
ていただけに、残念な感じだった。
良い脚本があれば、傑作を撮れるひとなのかもしれ
ない。
ちなみに麿赤兒の息子である。大森南朋の兄。

                                        11.9(火)  早稲田松竹

2010年11月18日木曜日

息もできない

☆☆☆★★      ヤン・イクチュン     2010年

主人公は暴力を厭わず、金を返さないやつに殴る蹴るは
当たり前という、容赦ない借金取立て屋のチンピラ。見る
からに凶悪なツラがまえをしている。が、実は監督・脚本・
主演のヤン・イクチュンその人らしい。エンドクレジットでも
それは分からず(ハングルだったので)、帰って来てネット
で情報を見ていて驚愕。
そのチンピラだが、彼の家庭は彼が幼いときから荒廃して
いる。そして、同じように崩壊した家庭に身を置き、家では
心休まることがなく、学校にもなじめない一人の少女が、こ
の強面のチンピラと出会い、徐々に心を通わせていく、とい
うお話。

韓国映画というものは表現がストレートで、ベタになってしま
うことを恐れない。という傾向があると思う。本作にも、「おい
ちょっとやめろよ。照れるだろ」と言いたくなるようなベタな表
現が散見。人を殴って稼いだ金で、チンピラが甥っ子にこっ
そりお菓子やらおもちゃを買ってやっている「ほんとは心優し
い男」の描写なんて、邦画だともう恥ずかしくてできない。そ
れを無自覚にやるような映画には、ロクなものはないと思っ
て間違いないが、本作ではそれほど違和感なく観れるのが
不思議である。チンピラが少女の膝の上で思わず泣き出す
シーンなど、けっこうベタに感動する。

ひねくれてるのも好きだが、ストレートなのもたまにはいいな、
という気になった。秀作といって良いと思う。

                                            11.9(火)  早稲田松竹

2010年11月17日水曜日

戦場のピアニスト

☆☆☆★★     ロマン・ポランスキー   2003年

題名から勝手にメロドラマを想像して、たまには甘いのも
いいか、と思って観たのだが、ご存知のように実際は、一
切の甘さを排した徹底的にストイックな2時間半であって、
想像と違い過ぎてしばし茫然となる。

時は第二次大戦、ユダヤ人である主人公一家はドイツ軍
(横柄なドイツ軍!)によってじわじわと住む所を追われ、
ゲットーに閉じ込められ、同胞を殺され、しまいには強制
収容所に向かう列車に乗せられて(おそらくは)全員死ぬ。
ただ一人生き延びた主人公は、知人を頼りながら、逃げ
て、隠れて、また逃げて、延々と逃げ続ける。ピアニスト
だったのは最初だけで、あとはピアノなんかロクに出ても
来ない。隠れ家にはあったが、身を潜めているので弾け
ない。指を乗せて動かすだけで、音を鳴らすことはできな
い。
戦争という運命に押し流され、翻弄され続ける主人公。
戦争が終わり、ピアニストとして劇的に復活をとげた様子
が、ごくあっさりとしか描かれないのも、一貫してて良い。

                                            10.31(日)  BS hi

2010年11月4日木曜日

ハート・ロッカー

☆☆☆★★       キャスリン・ビグロー    2010年

「オーケストラ!」と続けて観ると、冒頭のほんの数分でこれが「別
次元」の映画であることを思い知らされることになった。画面の情
報量と密度がまったく違う。私は瞬く間に緊密な「砂漠の戦争」に
没頭させられ……たかったのだが、いかんせん画面が揺れに揺
れる。ハンディカメラのブレブレ映像で臨場感を出したいのは分か
るが…。揺れまくり、カットを切り返しまくった挙句に、ちょいちょい
インサート映像まであり、「爆弾処理をベランダから見つめる現地
の住民」だの「びっこの猫」だのが1秒ずつぐらい挟まれる。しかも
その画面も揺れる。むしろそっちの方が揺れが激しい。
はい、そうです。すっかり酔って気持ち悪かったです。私は「揺れ」
に弱いのです(宣言)。「A」も「A2」(森達也 監督)も「マラドーナ」
(E.クストリッツァ 監督)も、漏れなく気分が悪くなりました。

しかしそれでも、この映画は面白かった。ときどき目を閉じて休憩
しながらの鑑賞でもじゅうぶん戦場のひりひりする感じは伝わって
きたので、あなたがずっと目を開けていられるなら、もっと面白い…
かもしれない。ドキュメンタリー風の劇映画というのは、いかに「あ
ざとい」「都合がいい」と思わせないかが勝負だろうが、その辺は
かなり巧かったと思う。いかにも「アメリカ映画」している箇所も散
見されて、そういうのはもう飽きたなあ、とは思ったが。

                                    10.23(土)  ワーナーマイカルシネマズ釧路