2020年11月28日土曜日

読書㉕


『土屋耕一のことばの遊び場。』
(東京糸井重里事務所)
「ほぼ日」で知って、箱に入った2冊組を
勇んで購入したのは、はるか昔…。もう読
まれることはないのかと思っていたよ。








『ことばの遊びと考え』
土屋耕一 著  糸井重里 編

糸井重里が編集したこちらは、エッセイが
数編と、コピーやキャッチフレーズの名作、
またコピーに対する土屋さんの考えなどを
集めたもの。文体は洒脱で、都会の知的な
オトナといった感じ。

ちょっとおふざけで「ハット」を題材にコ
ピー講座なんかもやっていて、ここでは実
際に読者の作品を募集してはいないので、
読者投稿に「ありそうなコピー」も自分で
考えているのだが、よくまあ次から次へと
出てくるものだ。ほんとに感心する。


『回文の愉しみ』
土屋耕一 著  和田誠 編

もう1冊の方、和田誠が編集したのは、回文
を中心に「ことばあそび」全般に関する文章
を集めたもの。もちろんエッセイの中にもポ
ンポンおしげもなく自作の回文が出てくるし、
読者からの投稿もある。その上、土屋さんが
メモとして書き留められていたものも一挙放
出されていて、何ページにもわたってひたす
ら回文が載っているその眺めは壮観である。
土屋さんの代表作は
 軽い機敏な子猫 何匹いるか
 (カルイキビンナコネコナンビキイルカ)

が有名だそうだが、たしかにキレイに決まっ
ている。

 春、谷に咲く 七草に似たる葉

なんてのもオシャレですな。



2020年11月25日水曜日

欲望の翼

 
☆☆☆★   ウォン・カーウァイ  1992年

デジタル・リマスター版を鑑賞。
冒頭から、大学の売店の女の子に「1分ぼく
にくれ」とかいうレスリー・チャンのやたら
スカした男っぷりが笑えるのだが、こういう
キザなのは大真面目にやらないと様にならな
いですよね。レスリー・チャンはちゃんと全
力でカッコつけてて良い。このクサい演出が
ぐっと洗練されると『恋する惑星』になって
いくのだろう。

しかし今更だけどトニー・レオンがカッコい
いのは分かるのだが、レスリー・チャンって
そんなにカッコいいかね。あの下積み時代と
か無さそうな、ちょっとノーブルな感じが良
いんだろうか。

ラストが船室で身だしなみを整えるトニー・
レオンで終わるのは、続編を考えていたから、
とのこと。

                                  11.9(月) 新文芸坐




2020年11月21日土曜日

楽園の瑕 終極版

 
☆☆☆★   ウォン・カーウァイ 2008年

池袋の文芸坐にて、ウォン・カーウァイ特集。
未見の2本が上映される日を狙って、仕事終
わりに駆けつける。

1994年製作の『楽園の瑕』を大幅に作り直し
た「終極版」。追撮はしていないようだが、
編集が元のとはぜんぜん違うらしい。

砂漠地帯にぽつんとある家に住み、「殺し」
を請け負って殺し屋を派遣するブローカーを
レスリー・チャンが演じて、寓話のような幻
想的なストーリーが展開される。年に一度訪
ねて来るレスリー・チャンの友人と、もうひ
とり似たような顔のひとが出て来て、途中ま
で私はふたりが同じ人物だと思って観ていた
のでわけが分からなくなった。
戦闘シーンのコマ落としとかスローモーショ
ンが香港映画っぽくて良いですなー。クリス
トファー・ドイルの映像は独特の美学があっ
て、観ていて飽きない。やっぱこのひとすご
いんですかね。

                                   11.9(月) 新文芸坐







これにて100本! 無事達成。
2016年以来となる。

2020年11月18日水曜日

空に住む

 
☆☆☆    青山真治    2020年

不慮の事故で両親を喪ってしまった主人公
(多部未華子)。叔父夫婦のはからいで、
都心にある高層マンションで飼い猫と暮ら
し始める。
勤めている小さな出版社での仕事と、ひょ
んなことから出会った同じマンションに住
む人気芸能人(岩田剛典)との"オムライ
ス交際"とが並行して描かれていく。しか
しながら、とりたてて特筆すべきこともな
い淡々とした描写で、「これは何だ?」と
引っ掛かるようなこともなくするすると流
れていく。これ、青山真治が撮る必要あっ
たのかな…。
冒頭に無造作に置かれた防犯カメラの映像
のような不穏なカットだけが浮いているよ
うに感じる。

あと、これはいわゆる「猫映画」でもある。
猫はなかなかの演技をしている。

                         10.25(日) 新宿ピカデリー




2020年11月14日土曜日

【演劇】 獣道一直線!!!

 
作・宮藤官九郎  演出・河原雅彦

出演
生瀬勝久 池田成志 古田新太
山本美月 池谷のぶえ 宮藤官九郎

劇場で観劇するのは去年の『キレイ』
以来か。やはりいいものですなー。
新しいPARCO劇場はもちろん初めて。
ピカピカの劇場にふさわしいのかどう
かはさておき、木嶋佳苗の婚活殺人事
件をおもなモチーフにしながら、とこ
とんバカバカしいクドカンの世界が展
開される。ラストはどこか『ファーゴ』
的な不条理さ。
男3人(生瀬勝久、池田成志、古田新太)
よりも、やはり出色は池谷のぶえの怪
演だろう。コントのおばちゃん役、お
ばあちゃん役で見慣れている彼女だが、
その変幻自在の芝居に翻弄されるうち
に、ものすごく色っぽく見えてくるか
ら不思議である。

                      10.24(土) PARCO劇場




2020年11月11日水曜日

スパイの妻

 
☆☆☆★★   黒沢清    2020年

印象に残るのは、撮影2日目に撮られたと
いう、広い倉庫での蒼井優と高橋一生の長
い芝居。黒沢は非常に少ないカットで、演
劇的ともいえる動きを蒼井優に指示して、
長回しでその芝居を捉える。まあいつもの
黒沢清の感じでしょ、と思われるかもしれ
ないが、これほど監督の力量とチームとし
ての技術力が試されるシーンもあるまい。
もちろん俳優の技術も、だ。
そして古いフィルム「のように」映像加工
された、劇中劇の巧みな使い方にも感嘆す
る。国谷さんとのインタビューでも、何に
凝ったかと訊かれて、凝ったといえば劇中
劇のフィルムにはかなりこだわったと答え
ていたが、物語上で重要なのもさることな
がら、シネフィルとしてはあそこをおろそ
かには出来ない、というところだろう。

蒼井優はもはや独りで「115分もたす」こ
とのできる女優になった、と私は思ってし
まった。もちろん慶賀すべきことである。

                        10.23(金) 新宿ピカデリー




2020年11月7日土曜日

おしゃれ泥棒

 
☆☆☆★  ウィリアム・ワイラー 1966年

オードリー・ヘップバーンとピーター・
オトゥールによる洒脱なロマンティック
コメディ。
オードリーの父親は贋作専門の画家。そ
の腕前は一級である。ある夜、家に忍び
込んだ泥棒(と彼女は思っている)と贋
作師の娘が恋に落ちる。ふたりは、美術
館で展示の決まった贋作のヴィーナスの
像が正式な鑑定を受ける前に取り戻さな
くてはならなくなり、厳重に警備された
深夜の美術館に忍び込む…。

まあ深く沈思しなくてはならないような
ことは何もない、軽快にしておしゃれな
映画である。オードリーの衣装はジヴァ
ンシイが担当したという。ブーメランで
警報を無効化するというアイディアはな
かなかおもしろい。

                   10.11(日) BSプレミアム




2020年11月3日火曜日

【LIVE!】 エレファントカシマシ

 
日比谷野音の観客ありのライブを、
配信で観ました。

[一部]
 1.「序曲」夢のちまた
 2. DEAD OR ALIVE
 3. Easy Go
 4. 地元のダンナ
 5. デーデ
 6. 星の砂
 7. 何も無き一夜
 8. 無事なる男
 9. 珍奇男
10. 晩秋の一夜
11. 月の夜
12. 武蔵野
13. パワー・イン・ザ・ワールド
14. 悲しみの果て
15. RAINBOW
16. ガストロンジャー
17. ズレてる方がいい
18. 俺たちの明日

[二部]
19. ハナウタ〜遠い昔からの物語〜
20. 今宵の月のように
21. 友達がいるのさ
22. かけだす男
23. so many people
24. 男は行く
25. ファイティングマン
26. 星の降るような夜に
27. 風に吹かれて

(アンコール)
EN1. 待つ男

                 10.4(日) PIA LIVE STREAM

最近の宮本さんはソロに注力しているよう
だが、毎年恒例の野音はエレカシで。
「今宵の月~」「風に吹かれて」などが好
きだったライトな「エレカシ好き」から、
初期のアルバム5枚をはじめとする絶叫と
憤怒と哀しみの詰まった曲たちを愛好する
ようになってからも、すでに15年以上の
年月が経過する。しかし私は恒例の野音に
は1度しか行ったことがないのである。抽
選に応募しても当たらない年も何度もあっ
た。けっこう激戦なんですよこれが。
そんな野音で、制限つきとはいえ観客もあ
りで、ひさしぶりのライブができて宮本さ
んはやはりうれしそうだった。もちろん、
ファンとしてもうれしい限りである。

ベストアクトは"かけだす男"~"so many
people"の珠玉の流れ、としたい。


2020年11月1日日曜日

読書㉔


『この気持ちもいつか忘れる』
住野よる 著   新潮社

小説と一緒に、THE BACK HORNの5曲入り
CDが付いているという変わった本である。
若年層からずいぶん人気があるらしい著者だ
が、まあ正直私には関係のないライトノベル
作家だと思っていた。しかし今回は私の最も
愛するバンドとの「コラボレーション企画」
なので、まあ無視するわけにもいかぬだろう。
けっこう長い小説なので、おもしろくないと
これはツライぞ、と警戒しながら読み始めた。
結果、まあツライというほどではないけれど、
義務感も手伝ってなんとかだましだまし最後
まで読み通した、という感じ。まあ私には関
係のない作家という認識に変わりは無い。
ちなみにCDはけっこう良い出来である。










『サル化する世界』
内田樹 著    文藝春秋

対してこのひとの文章はいつもおもしろい
んですよねー。

今回も内容はバラバラだが、どれもおもし
ろい。「比較敗戦論のために」という文章
では、見方によってはフランスは第二次大
戦の「敗戦国」だし、イタリアは「戦勝国」
であるという見解が示されて、うーん、そ
んなこと歴史の授業では教わらないよなー
と目を啓かされる思いがした。