2016年8月29日月曜日

ガンジー


☆☆☆★★★   リチャード・アッテンボロー  1983年

188分におよぶ超大作映画。
かったるいんだろーなーと思いながらも、前からガンジーの生涯
に興味があったので、身構えながら観はじめた。
ガンジーといえば「非暴力・不服従」。暴力は何も生まない。言う
のは簡単だが、時は20世紀のはじめ、大英帝国が植民地支配
しているインドである。3億5000万人のインドの民衆を、わずか
10万人の英国人が支配している。支配層による苛烈な差別、搾
取、脅迫はあたりまえ。農村地帯ではすさまじい貧困が常態化
し、不満が全土に充溢しており、いつだって一触即発である。
でも、3億5000万 vs 10万なんだから、民衆が蜂起すれば勝てる
んじゃね? と考える輩がいたっておかしくはない。

そんななかで、非暴力を説くのだ。ガンジーの武器は「説得力」
だけである。彼には何の組織も肩書きも無いのだから、その発す
る言葉と行動だけで、ひとびとを説得していく。ガンジーの謙虚
でユーモアを忘れない人柄に、観ていて魅了される。
どこかの国の、発する言葉は貧しく、態度は傲慢で、議論の場
で痛いところを突かれると顔を真っ赤にして激怒するガキのよう
な指導者とは大違いである。

前半は南アフリカで弁護士としてインド人の「基本的人権」を獲
得する戦いに尽力するガンジーが描かれる。この時はだいたい
スーツを着ている。後半、インドに帰ってから、労働者と同じ服
を、ということで、どんどん簡素な白い布1枚になっていく。おな
じみの姿であるが、こんなに半裸のシーンが多いと、マイクが
付けられなくて大変である。アフレコなんだろうか…。

                                                           8.21(日) BSプレミアム


2016年8月28日日曜日

青いパパイヤの香り


☆☆☆★     トラン・アン・ユン    1994年

サイゴンの裕福な家庭で、少女のムイが使用人として働きは
じめるシーンからはじまる。かつて幼い娘を亡くしたことのある
一家は、ムイを大切に扱うが、同じぐらいの年ごろの末っ子は
どうやら好きなコに意地悪をするタイプらしく、バケツの水をこ
ぼしたり、トカゲで脅かしたりと、何かとちょっかいかけてくるも
のの、ムイはおとなの余裕で受け流す。その辺りのシーンもほ
ほえましい。
成長したムイは別の役者が演じていて、『夏至』の主役のコと
同じであった。調べると『ノルウェイの森』以外の作品にはすべ
て出演しているようで、監督のミューズなのだろう。

みんな口数が少ないうえに声も小さく、虫の音のほうが大きい
ぐらい。若い女が髪を洗うというシーンは『夏至』でも何度か
あったモチーフで、監督の嗜好と思われる。今はやりの言葉
でいえば、「性癖」か。
執拗なまでに横移動のトラックショットが繰り返されるのも、こ
の映画の特徴である。ムイが働く家は、実際サイゴンにあって
もおかしくないように見えるが、フランスに建てられたセットと
のこと。

                                                                 8.20(土) DVD


2016年8月24日水曜日

夏の庭 The Friends


☆☆☆      相米慎二     1994年

ズッコケ3人組を思い出すような仲良し少年3人組が、
太っちょ少年の親戚の葬儀をきっかけに、ひとの"死"
に興味を抱く。「もうすぐ死ぬらしい」という噂(しかし
ひどいな)をたよりに、三國連太郎を観察することに
したのだが……。

『ションベン・ライダー』で見せたあの異常なまでの長
回しは、適度に抑えられていて、とても見やすい。し
かし台風の夜の告白はすこし唐突のように思った。
もちろん3人組と老人とが互いに心を開いていく描写
は積み重ねられてはいたが、あの告白の内容の重
さに比べると、まだまだという感じ。

                                         8.14(日) BSプレミアム


2016年8月21日日曜日

盛夏のテレビ、あれこれ


夏は戦争に関連する番組が増える。
力の入った番組も多い。その中から2本、ちょっとした感想。

「百合子さんの絵本」(ドラマ)

ときは戦争前夜。
ストックホルムに武官として駐在し、戦争を止めるべく信念を
もって重要な情報を日本に打電し続けた人物の話。香川照
之と薬師丸ひろ子が夫婦を演じた。
主演のふたりが良いので、1時間半でもずっと観ていられる。
そしてストックホルムの風景の美しいこと!

最初、ストックホルムの滞在しているホテルで、暗号の換算表
を部屋に置いて、ドアを開けたまま薬師丸ひろ子が夫を追い
かけて廊下に出て、そのままふたりして外出したのには驚愕
したが、あの時は換算表は無事だったのだろうか。メイドも秘
書も信用できないって話をしていたのに……。


「加藤周一 その青春と戦争」(ETV特集)

死後に発見された、加藤周一が17歳頃からつけていたノート。
それをただ取り上げるのではなく、いまの大学生に読ませる
という趣向が良いと思う。

大学生たちはいろいろ感想を言っていたが、ほとんど忘れた。
ただ、中にひとり、女の子だったが、20歳前後の加藤について、

 「まわりの大衆と同じように生きることもできず、かといって
 東大医学部にいるインテリたちのことも、どこか醒めた目で
 観察していて、インテリである自分自身をも皮肉な目で眺め
 ている、結局どこにも属すことのできないひとだったんじゃな
 いか」

という趣旨のことを言っていて、私がなんとなく思っていたこと
をズバリと言葉にされたようで、ハッとした。

それと大江健三郎さんの講演がすこし流れたが、とても聞き
取りづらくて、心配になった。

2016年8月16日火曜日

パイレーツ・ロック


☆☆☆    リチャード・カーディス    2009年

時はブリティッシュ・ロックの黄金時代。
退屈な「公共の」ラジオ放送をぶっとばす"海賊ラジオ局"が、
不良の音楽・ロックンロールを流しまくるという題材には胸お
どる。次々に炸裂する60年代のロックは最高にゴキゲンだが、
一方でストーリーがあまりにペラペラのスカスカで、脚本家を
メインに仕事をしている監督とは思えない。手抜き工事であ
る。
反体制・反権力ってあんなお気楽なものなんだろうか。
乱痴気騒ぎもたまにはけっこうだが、もっと政治権力との息
詰まる攻防が描かれてもいいんじゃないか。

"Elenore"という曲、わたし大好きなんですが、ああいう使わ
れ方をするとはね…。

                                                 8.13(土) BSプレミアム


2016年8月14日日曜日

夏の読書


『情事の終り』
グレアム・グリーン 著  上岡伸雄 訳  新潮文庫

良い小説だった。
ここまで文章に技巧を凝らした小説とは予想しなかった。
やっぱり先入観はいけない。グレアム・グリーンというと、
どうしても"信仰"とか"神"の問題がぐちゃぐちゃ入って
いる(失礼)のだろうと無意識下において敬遠していたの
か、2年以上も本棚のいつでも手に取れる位置にいたの
に、手に取らなかった。

正直なところ私はサラが愛を捨てるのと引き換えに神を
信じるようになる過程にそれほど興味は持てないし、そ
れが劇的なものとも思えないのだが、とにかく文章のう
まさには興奮した。文章もプロットも、まぎれもなくイギリ
ス式の小説といえるだろう。そして私はどうもイギリス式
の小説が好きである。

途中、サラの日記が長く引用される章があり、これは日記
文学でもある。でもあんな文学的な日記を書くひとはいな
かろうから、そこのリアルさは追求していないようだ。










『からくりからくさ』
梨木香歩 著   新潮文庫

これもよかった。
主人公・蓉子の祖母が亡くなるところから物語は始まる。
蓉子は染織を趣味と生業の間ぐらいの感じでやっている。
祖母のいなくなった家を下宿にして、染織関係の勉強をし
ている学生に貸すことに決め、与希子、紀久、マーガレット、
そして蓉子の、4人での生活が始まることになる。

こちとら若い女の子の共同生活というだけで興味津々な
のだが、基本的にアートな志向をもった娘たちなので、あ
まり余計なことには頓着せず、淡々と自分の勉強や作品
づくりに精を出す。この植物を煮出してこういう色を出す、
という描写が楽しい。
蓉子には、とても大事にしている"りかさん"という人形が
あって、これがたぐり寄せるさまざまな偶然が、のちのち
色んな謎やら秘密やら厄介ごとやら、要するに「小説的
なこと」を生み出していくのである。

これがおもしろいんだけど、同時にけっこうややこしい。
与希子と紀久の親戚とか先祖の名前がいっぱい出て来
るのだけど、誰が誰なのかよく分からなくなって、途中か
ら考えるのをやめてしまった。しかし布に見られる模様や
パターンから、能面や果てはクルド民族にまで広がって
いく展開の壮大さがあって、飽きさせない。途中ちょっと
都合よすぎるんじゃないか、と思わないでもなかったが。

小説は読んだことがなかったが、このひとが文章がうま
いのは知っていた。『百年の孤独』の解説を書いていた
のを読んで、その豊かで的確な書きぶりにいたく感心し
たことがあった。じゃあ小説も読めよ、という話か。
9割がたは蓉子の視点で書き進められているのだけど、
たまにふっと与希子や紀久やマーガレットの主観に入れ
替わる瞬間がある。1つの場面で何回も入れ替わりがあ
ると、それが少し文章にぎこちなさを与えているように感
じることもあった。

2016年8月12日金曜日

シン・ゴジラ


☆☆☆★★★     庵野秀明     2016年

恐ろしいほどのテロップとセリフを詰め込んだカットと、セリフ
は無いけれども雄弁なカットと、破壊の限りを尽くすゴジラと、
それらが渾然一体となった120分に目がまわりそうだった。
ああ、この短いカットにどれだけの手間と時間と金がかかっ
ているか…。そういうのが少しはわかるだけに、この映画に
かけるスタッフの情熱と気迫をビシビシ感じずにはいられな
かった。そして何よりも、すべての設計図を描いた庵野秀明
という天才の、想像力。どうなってるんだよ、ほんと。
観ながら感じたのは、「カメラがいてほしいなと思う場所に、
カメラがちゃんといる」ということだ。ゴジラに踏みつぶされる
家に住んでいたひと、ゴジラになぎ倒されたビルで働いてい
たひと、鉄橋が飛んできた時の戦車の中…。ディテイルの積
み重ねがリアリティを生むというのもあるし、何より誠実さが
伝わってくる。スピルバーグの『宇宙戦争』でも思ったことで
あるが。

役者は、言葉は悪いけれど、使い捨てのように豪華俳優が
現れてはすぐ消えていった。「あ、こんなひと出てるんだ」と
思う暇もなく……。
石原さとみは、欲しいものは何でも手に入れてきたアメリカ
育ちのスーパーエリートの役だったが、頑張って見ればそう
見えなくもなかった。

                            8.6(土) TOHOシネマズ 市川コルトンプラザ