2021年11月28日日曜日

友だちのうちはどこ?

 
☆☆☆★★ アッバス・キアロスタミ 1987年

イラン北部の村。小学校の教室から始まる。
この映画のあとにキアロスタミが宿題に追わ
れるイランの子どもたちのドキュメンタリー
を撮っただけあって、先生は宿題の提出にす
ごく厳しい。提出できない子がいると、悲し
い顔をして退学もほのめかしながら執拗に問
い詰める。

それなのに隣の席の友だちのノートを間違っ
て家に持って帰ってきてしまったアハマッド
少年。ノートを届けなければ友だちが退学に
なってしまうと、ジグザグの山道を通って隣
村まで走り、色々な人に訊いて探し回るも、
とうとう友だちのうちは分からないまま夜に
なってしまう…。

最大の魅力は子どもたちの表情である。不安、
困惑、思いやり、とにかく素晴らしい表情が
見事にカメラに収められている。本作に関し
ては実は芝居と関係なく子どもを不安にさせ
てその表情をインサートしているなんて話も
聞くが、もちろんそういう撮影手法は褒めら
れたものではないけれど、だからといってこ
の作品の価値が貶められるものでもないだろ
う。

                       10.31(日) ユーロスペース




2021年11月25日木曜日

風が吹くまま

 
☆☆☆★ アッバス・キアロスタミ 1999年

首都テヘランから、クルド系の小さな村を
訪れたテレビ・クルー。彼らは変わった風
習の村の葬儀を撮影するために、数日間の
予定で来たのだったが、あたりを付けてい
た危篤の(はずの)老婆には、数週間経っ
ても死はいっこうに訪れず、ディレクター
はクルーからもテヘランからもせっつかれ
て苛立ちを深めていく。
とはいえ深刻なトーンは一切なく、無常観
の漂う村でひとり右往左往する都会人の姿
が淡々と描かれる。意図的にディレクター
以外のクルーの姿はまったく見せず、カメ
ラに写るのは奔走するディレクターとのん
びりした村人たちだけ。

移動電話も簡単にはつながらなず、テヘラ
ンから電話がかかってくると「切らないで
待って!」と叫びながら村で一番高い丘ま
で車を疾走させなければならない。これが
またキアロスタミ的なジグザグ道で可笑し
い。

                     10.28(木) ユーロスペース




2021年11月22日月曜日

風立ちぬ

 
☆☆☆★★  宮崎駿   2013年

釧路の劇場で2度観て以来、わりと久しぶり。

飛行機は戦争の道具ではなく、"美しい夢"と
カプローニに語らせながらも、二郎が作るの
は紛れもなく戦争の道具である。
二郎とて、小さい頃から飛行機乗りに憧れ、
視力の問題でそれは叶わぬから、勉強して設
計士となった。自分の手で飛行機を作るとい
う"美しい夢"を実現したかっただけなのに、
時代がそれを許さない。
そのもどかしさは、飛行機を描くのが好きで
たまらないが、映画にするためにはストーリ
ーに戦争を絡め、兵器としての飛行機を描か
ないわけにはいかないという宮崎駿のアンビ
バレントでもあるような気がする。
そして菜穂子の決断。あまりに「キレイに」
描かれ過ぎとは思うが、生身でない感じが
この映画の菜穂子にはふさわしいのかも。

ジブリ映画の中でも特に劇伴がすばらしい作
品だと思った。

                               10.27(水) 日テレ




2021年11月19日金曜日

桜桃の味

 
☆☆☆★   アッバス・キアロスタミ 1997年

ユーロスペースでキアロスタミの特集上映。
このイランが誇る巨匠をずうっと観たくて、
名画座でもテレビでもいいからやってくれと
切望していたのだが、なぜかBSプレミアムで
は放送されることがない。今回はデジタル・
リマスターされた7作品の特集上映。

まずはカンヌでパルムドールを受賞した「桜
桃の味」。冒頭から延々と、あまりに長く続
く車内での要領を得ない会話に意識も遠のき
そうになるけれど、たしかに「こんな映画は
観たことがない」。
自分の自死を手伝ってくれる人間を探してあ
てもなく土埃舞う山道を走っては車内から道
ゆく人に声をかけて、まわりくどい説得にか
かる。クルド人の兵士と神学生には断られ、
最後に博物館の老人の言葉に感銘を受けて自
死を思いとどまることになるという展開に私
は嘘くささしか感じなかったが、それはたい
した問題ではないのかもしれない。映画のあ
まりに突拍子もない、身も蓋もないラストシ
ーンで、キアロスタミ自身も「ま、別にこん
なこと信じなくてもいいんだけどさ」と言っ
ているような気すらしたのである。

                       10.26(火) ユーロスペース




2021年11月15日月曜日

読書⑭

 
『国宝 青春篇
『国宝 花道篇
吉田修一 著   朝日文庫

華やかなヤクザの新年会の描写で幕を開けると
ころは、いつもながら映画のオープニングを思
わせる。文章による「映像喚起力」とでも呼べ
ばいいのか、読んでいてとにかく映像が浮かん
で仕方ないところが吉田修一の持ち味である。
映像どころかカット割まで想像できてしまうの
は、もはや筆力というより画力といっても過言
ではない。
今作では、これまで長篇の主要な題材だった
「犯罪」や「悪」とは打って変わって、歌舞伎
の世界の業の深さ、みたいなものが描かれる。
ヤクザの家に生まれた喜久雄、由緒ある梨園に
生まれた俊介。最初はただただ芸の道を極める
ことに専心していればよかった友達同士の二人
が、やがて運命に翻弄されてゆく…。
その姿を活写するのに、吉田修一はいちから新
しい文体を拵えて小説に臨んでいる。講談調の
文体で、時に主人公に寄り添い、時に突き放す
ことも厭わない自在な「語り」の文体は、読み
進むうちに、実にこの小説にぴったりだと思え
てくる。二人の波乱に満ちた歌舞伎役者の生涯
を20章のうちに描き切るために、おしなべて駆
け足の進行になるのは避けられず、また物語も
若干、ご都合主義なところもなくはない。しか
しこの「語り」が物語をぐいぐいと進めること
で、多少強引でもなんだか勢いで乗り切ってし
まう。実にうまいことできている。

私は都内に住んでいながら一度も歌舞伎座に足
を踏み入れたことはなく、知識もからきし無い
ので、次々と繰り出される歌舞伎の演目とその
成り立ち・概略、演じるにあたっての肝に至る
まで、淀みない吉田修一の書きぶりに、これは
相当身銭を切って勉強したな、と畏敬の念を抱
いたが、巻末の瀧晴巳による解説にはさらに驚
かされた。この小説のストーリー自体にもいた
るところで歌舞伎の演目のスジと重ね合わされ
ている所があり、それは歌舞伎ファンならキー
ワードひとつで「ピンとくる」ように、そっと
埋め込まれるように各所に散りばめられている
という。うーむ、手が込んでいる。参りました。




2021年11月12日金曜日

アパッチ砦

 
☆☆☆   ジョン・フォード  1948年

ヘンリー・フォンダとジョン・ウェインの
共演というのは、制作会社も相当気合いが
入っただろう。馬の疾走シーンなど迫力満
点で、見ごたえがある。
自分の能力を過信するきらいのある上官が
ヘンリー・フォンダで、アパッチ族の酋長
とも信頼関係を築いている地元の有能な下
士官をジョン・ウェインが演じる。そこに
ヘンリー・フォンダの娘(シャーリー・テ
ンプル!)の結婚問題が絡んできて、中央
から派遣されてきた上官と地元の兵隊たち
との摩擦が顕在化してくる…。

                     10.21(木) BSプレミアム




2021年11月9日火曜日

【LIVE!】 アイナ・ジ・エンド

 
AiNA THE END Solo Tour 2021 "THE ZOMBIE"

 1. ロマンスの血
 2. NaNa
 3. サボテンガール
 4. 金木犀
 5. 日々
 6. 彼と私の本棚
 7. 家庭教師
 8. リズム(BiSH)
 9. 残して
10. 静的情夜
11. ハロウ
12. Retire
13. ZOKINGDOG
14. 誰誰誰
15. ワタシハココニイマスfor雨
16. Step by Step
17. きえないで

(Encore)
 1. ペチカの夜

            10.21(木) 中野サンプラザ

正直最近の曲はそれほど熱心に聴いてはいな
いが、会場が中野サンプラザだったので聴き
に行くことにした。私はサンプラザの音響が
いちばん好きなので。

まだツアーの序盤も序盤、2本目だったらしい
が、なかなかどうして堂々としたステージで、
しっかり歌い切った。思うに彼女がいちばん
良いのはバラードで、声質ともあいまって心
に刺さってくる感じがある。次が、変化球的
な曲調というか、"ZOKINGDOG"のようなブ
ギ、"ロマンスの血"のようなピアノ・ストリ
ングス入りのロックもまあ合っていると思う。
それに比べて、実はポップな曲があんまりお
もしろくない。しかしバラードと変化球ばか
りというわけにもいかないし、カバーでもい
いからもう少し良いポップソングがあるとい
いのにな、というのが今回の感想。

まあでも作詞・作曲の能力はアイドルがお試
しで作ってみましたのレベルをはるかに超え
ている。たいしたものだと思う。
ベストアクトは"きえないで"。




2021年11月6日土曜日

スターリンの葬送狂騒曲

 
☆☆☆ アーマンド・イアヌッチ  2017年

スターリンの死去にともなって、腹心
だったマレンコフ、中央委員会第一書
記のフルシチョフ、秘密警察警備隊長
のベリヤが権謀術数をめぐらす様を喜
劇として描く。スターリンの恐怖政治
とソ連をおちょくったブラック・コメ
ディではあるのだが、最近の映画のわ
りにはなんだか「古式ゆかしい」とい
うか、1950年代のコメディ映画を観て
いるようだった。笑いの感覚が若干古
いといってしまえばそれまでなのかも
しれない。

                      10.17(日) BSプレミアム




2021年11月3日水曜日

サウンド・オブ・メタル 〜聞こえるということ〜

 
☆☆☆★★  ダリウス・マーダー  2021年

メタルバンドのドラマーの耳が聞こえなく
なるという話で、私も歩きながらウォーク
マンで音楽を聴くのが大きな楽しみだった
りするので、ひとごとではない感じで観る。

バンドといってもドラムのルーベンと恋人
のルーの2人組で、トレーラーハウスでアメ
リカ各地を巡りながらライブに明け暮れて
いる。しかしある日、ルーベンの耳がほと
んど聞こえなくなってしまう。
本作はアカデミー音響賞を得ており、この
あたりの「歪んで聞こえる」とか「キンキ
ンうるさくて言葉が分からない」とか、そ
ういう表現にもちろん音響的な工夫が凝ら
されている。それほど革新的に新しい感じ
もしなかったが。
医師から回復の見込みはないと告げられた
ルーベンは自暴自棄に陥るが、ルーに勧め
られ、聾者の支援コミュニティへの参加を
決意する。ここの親父(ポール・レイシー)
がまた非常にシブくて良い味を出していて、
深い印象を残す。

   10.13(水) ヒューマントラストシネマ渋谷









100本達成! 今年はまだまだ観るぜ。