2016年12月30日金曜日

ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~


☆☆☆★ ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー 2016年

パリ・オペラ座の芸術監督に史上最年少で就任した振付師
ミルピエ氏の新作発表に密着したドキュメンタリー。ちなみに
『ブラック・スワン』の振付を担当した縁でナタリー・ポートマン
の夫となった人物でもある。

前半は正直、踊りらしい踊りも見えず周辺事項ばかりなので
退屈ぎみだったが、後半になるとがぜん面白くなった。
33分の新作を完成させるまでの40日間の記録だったが、ダン
サーたちとイメージを共有するため、言葉を尽くし、比喩表現
を駆使し、時には自分で踊ってみせ、ほんとうに少しづつ完
成に近づけていく。公演とはもちろん振付だけすればいいの
ではない。オーケストラ、衣装、舞台装置、小道具、照明、宣
伝……。33分とはいえほんとうに手間がかかる。

同じ"踊り"という身体表現ながら、「コンテンポラリー」と「クラ
シック」を完全に対比して捉えていることが興味深かった。
まあ字義通りではあるのだが。

英語タイトルは"RESET"とのこと。意味深だ。
劇中で1度この言葉が使われたような気がするが、詳しくは
覚えていない。


これで100本! なんとか達成。

                                           12.30(金) Bunkamuraル・シネマ


ビリギャル


☆☆☆     土井裕泰    2015年

おおむね退屈だったが、おもしろいところもあった。
よく「努力できるのも才能のうち」などというが、この
コは努力する才能があったのだろう。塾と家で勉強
して学校で寝るというのは私には理解できないが。
あまり寝心地がいいとも思えない。
しかし受験勉強の最中はヘンな思考方法になって
いたとは振り返っていま思うことである。

有村架純は下手ではない。巧い、とは言い切れな
いが。しかし可愛いなぁ。それはたしかである。

演出は意外とあっさりで手堅い。ベタベタしてない
のは好感がもてる。しかし引っ掛かるものもあまりな
い。
監督は『涙そうそう』のひとらしいが、TBSのドラマ
がメインの仕事のようで、経歴には話題になった
ドラマのタイトルがずらりと並ぶ。ヒットメーカーと
呼んでよさそうだ。

画像は熱のど鼻に、ルルが…ではなく、映画のワ
ンシーン。

                                                12.28(水) TBS


2016年12月29日木曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


マニアックヘブン vol.10

01. マテリア
02. ラフレシア
03. 赤い靴

04. ミスターワールド
05. アポトーシス
06. 人間
07. ディナー
08. 白い日記帳
09. 怪しき雲ゆき
10. リムジンドライブ

11. 花びら
12. 新世界
13. 春よ、来い(Cover)
14. 浮世の波
15. ラピスラズリ
16. 蛍
17. 上海狂騒曲

(Encore)
01. 母さんの唄
02. 天気予報
03. さらば、あの日

                             12.25(日)東京キネマ倶楽部

会場がある鶯谷には初めて降りたが、いかがわしい
街ですね。東京キネマ倶楽部は、そのいかがわしさ
を存分に吸収しているホールである。実際にSMのイ
ベントなんかも行なわれるという。さもありなん。日本
で『アイズ・ワイド・シャット』を撮るなら、ここだね。

"マテリア"が1曲目ってヘンに思われるかもしれない
が、これがなかなかどうして、ハマっていてシビれる。
続く"ラフレシア"で爆発して、前半はいい具合に進む。

ところが10曲目のあとのMCで、山田の声が掠れすぎ
て聞き取れないほどになっていることが分かる。以降、
声は回復せず、山田も申し訳なさそうだったが、それ
でも掠れた声で懸命に歌い続ける。誠実ゆえである。
それにしても、ここ2年ぐらいで、山田の声が絶好調
だったことってあったかなー。少し心配だ。

ベストアクトは"上海狂騒曲"。港の倉庫で金属バット
がうなりをあげる歌なのに、ちょっと涙が出た。

2016年12月28日水曜日

風に濡れた女


☆☆☆★     塩田明彦    2016年

ロマンポルノ・リブートの塩田明彦作品。これまた
私の大好きな監督である。

自由にやってておもしろくはある。だけど、いまひ
とつ弾けきらなかった感もあるかなー。どこまで
行っても「知的遊戯」というか…。
タイトルもロマンポルノにしてはスノッブすぎやし
ないか。
あるいは、モテキの劇団員が「女断ち」のために
森の小屋で隠遁生活、という設定があまり気に
入らなかっただけかもしれない。

                                 12.20(火) 新宿武蔵野館


2016年12月25日日曜日

ジムノペディに乱れる


☆☆☆★★    行定勲    2016年

おもしろかった! 
日活ロマンポルノ、復活の5作のうちの最初の1本。
"ロマンポルノ・リブート・プロジェクト"と銘打たれた
企画で、5人の「気鋭の」監督がロマンポルノを競作
する。今後もわたくしのとても好きな監督が続々登
場するのである。

行定さんがほんとうに自由に撮ってるなぁ、というの
が、観ているほうの幸福感につながっているように
思う。行定さんが撮ると、ポルノもなぜか格調高い。
繰り返されるサティの調べのせいなのか。ピアノを
使った演出にはハッとさせられた。

行定勲は岩井俊二のもとで助監督をやって薫陶を
受けた。その行定勲がこれだけ自由におもしろいロ
マンポルノを撮った。そうすると、ぜひ岩井俊二にも
撮って欲しくなるのが人情というもの。絶対に依頼
は行ってるだろう。ものすごく観たい。

97本。あと3本!

                                     12.16(金) 新宿武蔵野館


2016年12月21日水曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


KYO-MEIホールツアー ~月影のシンフォニー~

01. トロイメライ
02. サニー
03. 声

04. 閉ざされた世界
05. ジョーカー
06. 雨
07. カラス
08. 悪人

09. パッパラ
10. 白夜
11. 美しい名前
12. コオロギのバイオリン

13. シンメトリー
14. 戦う君よ
15. ブラックホールバースデイ
16. シンフォニア
17. With You

<Encore>
01. 言葉にできなくて
02. コバルトブルー
03. 刃

                                12.8(木) 中野サンプラザ

いつものバンドにシンセサイザーとストリングスを加えた
編成でのライブ。去年4月の渋谷公会堂と同じである。
手ごたえがあったのか、今回は全国5か所でのツアー。
その最終日であった。

ホールの環境のせいか、近年のバックホーンのライブで
いちばん音が良かったように思う。格別、分離がいいとい
うわけではなく、若干リバーブ感は多めなのだが、とても
気持ちいいバランスだった。山下達郎が、サンプラザか
NHKホールでしかやらないのはこういうわけか。

ロックバンドがストリングスなんか入れ始めるのは、一般
的には「悪い兆候」とされるが、バックホーンはこういう時
でも、「俺たちも、やりたいことあるんで」みたいな不遜な
態度でやることはない。きちんとストリングスが合う曲を
選んで、丁寧なアレンジを施したうえで、聴き手の気持ち
を考えたセットリストを組み、一生懸命やる。彼らが誠実
なバンドと言われる(私と友人のふたりから)所以である。

ジョーカー ~ 雨→アウトロでストリングス合流 ~ カラス
の流れはいったい誰が考えた! 最高すぎた。

2016年12月19日月曜日

アズミ・ハルコは行方不明


☆☆☆★★    松井大悟    2016年

「その日」は思いがけずやって来た。
ついに…、ついに私にも"同い年の監督"の映画を観
て、しかも「感心する」日がきたのである。うわー。

おおげさな出だしですいません。
石井裕也がたったの4コ上だから、早晩そういう日が
来るとは思っていたが、けっこう早かった。

なかなかよく出来た映画だ。原作はあるにしても。
蒼井優のスプレー画が非常に役割としても重要だが、
グラフィティ・アートとしてなかなかカッコいいので映画
に説得力を加えている。
手持ちカメラが多用されているが、嫌じゃなかった。む
しろ使いどころを心得て、効果的だったと思う。
時系列がバラバラになっていて、どういう話か筋道たて
て説明しろと言われると実はよく分からなかったので困
るのだが、私の苦手なフードプロセッサー映画(『渇き。』
『ナチュラル・ボーン・キラーズ』など)みたいな感じでは
なかったので安心。要はルサンチマン渦巻く地方都市
におけるたくましい女子たちの話である。

蒼井優はあいかわらず巧いけど、今回は高畑充希に
持って行かれたか。絶妙の演技だった。映画を観てい
て純粋に「うわ、うぜー」と思ったのは、『悪人』の満島
ひかり以来である。
加瀬亮はムダづかいではないか。あんなチョイ役で。
石崎ひゅーいは拾いものというか、鬱屈ぶりがなかな
か良かった。

                                              12.8(木) 新宿武蔵野館


2016年12月17日土曜日

ラルジャン


☆☆☆    ロベール・ブレッソン    1983年

一枚の贋札が引き起こす事件が、じわりじわりとその周りの
人間たちの平穏な日常を狂わせていく。偽証を強い、盗み
を働き、妻子は去る。
サスペンスフルに描こうと思えば、いくらでもサスペンスフル
になる話なのだが、映画はおそろしくシンプルに、淡々と進
んでいく。目の前で起こっていることが深刻なことだと思えな
くなってくる。しかし、確実に登場人物の人生は破滅の一途
をたどっているのである。ブレッソンの遺作。

これで95本。あと5本!

                                                    12.4(日) BSプレミアム


2016年12月14日水曜日

俺たち文化系プロレスDDT


☆☆☆★   松江哲明     2016年

上映前、スーパー・ササダンゴ・マシンによる解説つき
だった。
映画ではプロレス団体どうしの抗争が描かれるのだが、
正直プロレスにいささかも興味の無い者にとっては、こ
の上映前解説が無ければまったくなんのことやら分か
らなかったと思う。それってどうなんだろう。
音楽はジム・オルーク。










DDTの大家健ってひとは良い顔してるね。
キャラも暑苦しいのがいいし、部屋がめちゃくちゃ汚い
のもチャーミングに映る。

                                                  12.3(土) 新宿バルト9


2016年12月12日月曜日

【LIVE!】 相対性理論/Omar Souleyman


相対性理論 presents 『証明Ⅰ』

【Omar Souleyman】

セトリ不明。
打ち込みリズムトラックに、ぴーひゃらとアラビアンな
シンセがのり、そこにアラビアンなターバンを巻いた
おっさんのまくしたてるラップが重なる。
盛り上げる気があるのか無いのか、時おり手拍子を
するのと、マイクを脇にはさんで手を持ち上げるよう
な、いわゆる「騒いで」なジェスチャーをする他は、表
情にも音楽にもまったく変化がない。こちとら歌詞が
とんと分からないので、歌の内容は分からず、ずっと
空耳アワーを探しているような状況だった。曲名も分
からないので、たとえ空耳を発見したところで投稿す
ることもできない。


【相対性理論】

01. たまたまニュータウン
02. とあるAround
03. ウルトラソーダ

04. 人工衛星
05. ふしぎデカルト
06. Q/P

07. ケルベロス
08. わたしがわたし
09. キッズ・ノーリターン
10. 弁天様はスピリチュア
11. わたしは人類
12. 13番目の彼女
13. FLASHBACK

<Encore>
01. 天地創造SOS

                                11.29(火) 新木場Studio Coast

ツインドラム編成だった。片方がイトケン? もう、誰が
正規メンバーかもよく分かっていないのだが、演奏力の
向上はたしかである。ギターなんか初めの頃は自分が
作ったフレーズが難しくて、それを弾きこなすので手いっ
ぱいといった風情だったが、いまや涼やかに余裕である。
ライブのスタイルはいつも通り。3曲ぐらいやって、やくし
まるがペットボトルの水をゆっくりと飲み、ひとことシャレ
を言って、また曲に入る。その繰り返し。その間、客席は
水を打ったように静まり返っている。
ベストアクトは「FLASHBACK」。CDではリズムが控えめ
なのだが、ズンズンくるバスドラが心地よかった。


2016年12月10日土曜日

この世界の片隅に


☆☆☆★★    片渕須直     2016年

予告篇の能年ちゃんの声を聴いて観に行くことを決めた。
それだけですでに泣きそうだったので、本篇は独りで観
に行ったのだが、まったく泣くような場面はなく。無事切り
抜けた。しかし「ありゃ」とか「わぁ」とかの能年ちゃんの声
がかわいい。広島弁もかわいい。

日本が戦争へと突き進むなか、広島の呉に生きた市井
の人々を暮らしを、落ち着いたトーンで描いている。その
何気なさがかえって涙を誘うそうだが。まあ分からんでも
ない。

平日の昼間だというのに映画館は満員。
つくづく今年は、邦画のヒットに恵まれた年だった。

                                              11.29(火) テアトル新宿


2016年12月9日金曜日

kapiwとapappo ~アイヌの姉妹の物語~


☆☆☆     佐藤隆之     2016年

アイヌの歌と、それを受け継ぎ、歌う姉妹のドキュメンタ
リー。阿寒や釧路の懐かしい風景は嬉しいが、いまどき
そのへんの大学生だってもうちょっとうまく撮るのではな
いかと思える撮影のまずさ。音も、これってポスプロあっ
たんだろうか、と思えるほどである。

きっと芸大生に毛の生えたような若いディレクターが、身
ひとつで未知の世界に飛び込んで、拙いながらも懸命
に撮ってきたんだろうと勝手に解釈し、なるべくあたたか
い気持ちで観ていた。ところが、聞けば廣木隆一や堤幸
彦なんかの下でもう何作も助監督をやってきたひとだそ
うじゃないですか。つまり映画のイロハを分かってるひと
である。イロハどころかXYZまで分かっているはずだ。そ
ういうひとが、インタビューであんなに雑にカメラをぶん
回したり、マイクが吹かれて何も聞こえないような場所で
大事なことを訊いたりするもんだろうか。よくわからない。
ただ、あんなにぶん回されても不思議と酔わなかった。

                                          11.24(木) ユーロスペース


2016年12月6日火曜日

<ツイート> 漱石のこと


75分観るのが毎回大変だったけどおもしろかった
『夏目漱石の妻』もまだ記憶に新しいけふこのごろ
ですが、今月は漱石の番組が再放送もふくめ多い
こと多いこと。「漱石」と名のつく番組をすべて予約
してたらとてもHDDがもたないが(予約するけど)、
その先陣を切った姜尚中のETV特集はなんといふ
か薄味すぎて無難すぎて、私にはちっともおもしろ
くなかった。
こないだの中上健次の番組はまだ刺激的だったが、
あれもナビゲーター(娘の中上紀)がもっと盛り上げ
てくれれば(知的に、ね)、といふ思ひをぬぐへず。
だいたいいつの間に姜尚中は漱石を語る知識人の
第一人者みたくなったのか。なんか新書は出したら
しいが、ほんとにそんなに好きなのか。研究してる
のか。声と顔が良いからテレビ向きではあるけど。

洪水のやうに押し寄せる番組、どれがおもしろいの
か、玉石混淆とは思ひますが、
「"虞美人草"殺人事件」の再放送もあります!
(12/7 BSプレミアム)
これは私が長嶋甲兵といふディレクターを知った最
初の番組でもあり、なかなか観ない類の番組です。
『虞美人草』を読んでゐなくてもおもしろい、といふ
のがミソです。

そしておそらく同じ制作陣による
「深読み読書会 『三四郎』」
(12/9 BSプレミアム)
も期待できます。期待してます。

どれを観ようか迷ったら、ぜひ。

2016年12月4日日曜日

天国の日々


☆☆☆★★★    テレンス・マリック   1978年

季節労働者、といえばいいのだろうか。
麦や綿花、果樹園など、収穫のある時期だけ各地からやって
来て日銭をもらいながら労働し、収穫が終われば、また各地
へ散ってゆく。
そんな決して豊かとはいえない暮らしをしていたビルとリンダ
の兄妹と、ビルの恋人のアビー。ビルはリチャード・ギア。
ある時、アビーが大農場の若き当主に見初められるが、ビル
は同時に彼の余命が長くないことを知る。ビルはひとまずア
ビーを結婚させ、農場主が死ぬのを待つ、という計画を思い
つく。

一度結婚した、つまり計画はスタートしたのだから、ビルとア
ビーは当然軽はずみな行動は厳に慎むべきである。しかし
そこは映画。いちゃいちゃしている所を見られ放題で、夜中
に湖で逢引きしたりなんかして、脇が甘すぎる二人なのであ
る。

とはいえこの映画の主役は、季節によってその表情を移ろわ
す農場の美しい風景である。同時に、それを絵画のように説
得力のあるカットとして切り取ったカメラである。農場がイナゴ
の大群に襲われるシーンもある。どうやって撮ったんだろう。
そうとう手間はかかってるだろうが、かけただけのことはある。
美しく壮絶なカットの連続には息をのむばかり。

音楽はエンニオ・モリコーネ。
だけどオープニングはサン=サーンス。「あれ、これって有名
だけどモリコーネだったっけ?」と思うこと必至である。

                                                        11.23(水) BSプレミアム