2020年6月29日月曜日

デッド・ドント・ダイ


☆☆☆★★  ジム・ジャームッシュ 2020年

ビル・マーレイはさすがにもうおじいちゃん
だった。アダム・ドライヴァーは『パターソ
ン』から続けての出演。2人のカウリスマキ
の映画のようなトボけた芝居がみどころ。ゾ
ンビ映画であることを忘れてしまう。
ティルダ・スウィントンは『オンリー・ラヴァ
ーズ・レフト・アライブ』と見た目が同じな
もんで、はじめから吸血鬼にしか見えんが、
今回の役柄は日本刀を振り回す葬儀屋という、
輪をかけてヘンなもの。

約3か月ぶりの映画館は、やっぱりいいもの
だった。ご祝儀ということで★半分は進呈。
画像はコーヒーを求めてさまようイギー・
ポップ。

                      6.23(火) TOHOシネマズ渋谷


2020年6月27日土曜日

リオ・ブラボー


☆☆☆★  ハワード・ホークス 1959年

『真昼の決闘』に不満をもっていたハワード・
ホークスはジョン・ウェインを主演に据え、
本作で王道の娯楽西部劇を作ろうとしたとい
う。
小さな街道の町。タフな「町の保安官」ジョ
ン・ウェインがある男を逮捕して留置場に入
れるが、実はそいつが犯罪集団の大物の弟で、
大勢で奪い返しに来るのは必然、しかしこち
らの手勢はそれほど頼りにならず…。

アル中の保安官補にディーン・マーティン。
陽気な牢屋番がウォルター・ブキャナン。腕
のたしかな若造にリッキー・ネルソン。3人
が唄うシーンが楽しい。謎の美女にアンジー・
ディキンソン。

のちに『アラモ』に流用されたという「皆殺
しの歌」の哀愁を帯びたメロディがいい。

                         5.30(土) BSプレミアム


2020年6月24日水曜日

読書⑯


『美しいアナベル・リイ』
大江健三郎 著   新潮文庫

老齢の作家が日課の散歩中に、かつて国際
的に活動していた映画プロデューサーであ
り、東大の同級でもあった男と再会する。
二人は三十年前、『ミヒャエル・コールハ
ースの運命』をいくつかの国で別々に映画
化するプロジェクトにおいて中心的な役割
を果たしていたが、アクシデントがあり計
画は頓挫した…。

小説の大部分は三十年前の映画プロジェク
トの経緯なのだが、そこに主演女優として
「サクラさん」という、子役時代から人気
のあった架空の女優が登場する。この人物
は誰にも似ていないように注意深く書かれ
ていて、原節子ではないと言うためにわざ
わざ「鎌倉には別の『永遠の処女』と言わ
れる往年の大女優が住んでいるが」(正確
な引用ではありません)というようなエク
スキューズまで書いてある。

それにしても大江さんの変わった日本語の
文章を久しぶりに読むと「あぁ、私はまた
大江健三郎の文章を読んでいるんだ」とい
うちょっと危ない感じの歓びを脳が感じる
のである。
題名にある「アナベル・リイ」とは、ポー
の詩に出てくる美少女で、少女時代の可憐
なサクラさんを"アナベル・リイ"に見立て
て撮られた8mmフィルムの存在が、あと
あと大きな問題となる。








『静かな生活』
大江健三郎 著  講談社文芸文庫

大江家を思わせる一家を主人公とした、フィ
クションと私小説の"あわい"を行くような、
まあ言ってみれば「いつもの小説」なのだ
が、3人きょうだいの真ん中、長女の"マー
ちゃん"が物語の「語り手」となるところが
異色である。なんだか文章もいっきに瑞々
しくなったようで、読んでいて新鮮であっ
た。

両親がアメリカに半年行くことになり、家
には子ども3人が残されることになる。よっ
て小説の中心はおのずと知的障害のある長
男のイーヨー、語り手の長女のマーちゃん、
受験勉強中の次男のオーちゃんたちの日常
である。作家自身を思わせる「お父さん」
の言動も、いちど娘のマーちゃんのフィル
ターを通して描写されることで、この作家
のユーモア感覚がもっとも好ましい形で表
出しているように思う。
小谷野敦はこの短篇集を非常に高く評価し
ていたが、わたしも同感である。






2020年6月21日日曜日

ライムライト


☆☆☆★★★  チャールズ・チャップリン 1952年

いい映画ですねー。
チャップリンが扮するのは、笑いをとれなく
なって久しい喜劇役者。これまでずっと自己
プロデュースでやってきたひとが、老境の自
分を客観視してこういう作品を生み出すとい
うのは感動的なものがある。舞台袖で迎える
最期というのは、チャップリン自身の願望の
ようにもみえる。

                          5.29(金) BSプレミアム


2020年6月19日金曜日

緋牡丹博徒


☆☆☆★    山下耕作   1968年

藤純子を主演にした東映任侠物のヒット
作。当時の人気はそれはもう大変なもの
だったらしい。今ではその熱気を感じる
のは難しいが…。
もちろん高倉健も出るし、いいところで
ヒロインを助けるし、話の筋は「いつも
と同じ」。それでも、お竜に恩義を感じ
て忠誠を誓う「不死身の富士松」と「フ
グ新」というサイドキャラが良い味だし
ている。お竜に惚れるそそっかしい親分
を演じるのは若山富三郎。

                   5.28(木) BSプレミアム



2020年6月17日水曜日

読書⑮


『呪われた腕 ハーディ傑作選』
トマス・ハーディ 著 河野一郎 訳 新潮文庫

なにかイギリスものが読みたいと思い、手
に取った。ハーディは19世紀イギリスを代
表する作家で、昔は英語の教科書でおなじ
みだったという。私は授業で読んだ記憶は
ないが。そして読み終わるまで、ポランス
キーの『テス』の原作者だとは、私の中で
結びついていなかった。

イギリス小説のなにが良いって、実存主義
とか不条理とかモダニズムとかに、関係あ
ろうがなかろうが、そんなことは脇に措い
てもとにかく「おもしろい」ということに
尽きると思う。
この「傑作選」も市井のひとびとのなにげ
ない生活をベースにしながら、時に都合の
いい偶然を物語の中に導入することで、細
かいことはさておきストーリーをぐいぐい
進めていく。表題作も不気味で良いが、他
も粒がそろっていて、なにげない描写が頭
から離れなくなる。
巻末の解説対談で村上春樹は、ハーディの
風景描写にはまるとしばらく抜け出せなく
なる、というようなことを言っている。あ、
言い忘れましたがこれは「村上柴田翻訳堂」
シリーズの1冊です。








『東京美女散歩』
安西水丸 著    講談社文庫

こないだ再放送していた「鶴瓶の家族に乾
杯」の志村けんの回は「美女を探す」とい
う目的で福島県を旅して、道ゆくひとから
訊き出した「誰々さんとこの娘が美人だ」
とかの情報を頼りにあちこち動いていて、
ジェンダーとかポリティカル・コレクトネ
スの観点からは眉をひそめられるかもしれ
ないが、これが意外に企画として成功して
いておもしろかった。むろん、志村けんと
いうキャラクターあっての企画であって、
誰でも真似すればおもしろくなるわけでは
ないだろうが。

2007年から「小説現代」に連載されたとい
う本書も、「美女に出会う」ことを第一義
として、東京のあちこちを散歩するという
ことで、企画の趣旨にはその番組と似たと
ころがある。水丸さんはもちろん「このへ
んで有名な美人いませんか?」とか訊いた
りはしないのだが、赤坂生まれの東京人で
ある水丸さんにはそれぞれの街の「イメー
ジ」が始めから有る場合が多く、「ここは
こういう街だから、こういう美人がいそう
だ」というイメージがわりに有るようであ
る。そしてなんといっても、地名から想起
される「昔の女」のエピソードの多さには
驚嘆すべきものがある。昔の女を語っても
自慢にならないのがさすが都会人である。

後半だんだん旧跡の歴史的由来の話が比率
的に多くなってきて、退屈になってくるも
のの、安西水丸ファンには必読の1冊だと
考える。




2020年6月15日月曜日

北陸代理戦争


☆☆☆★★    深作欣二     1977年

シネマトゥデイより引用。

 『新仁義なき戦い』シリーズの一編として
 企画されながらも、主演をするはずだった
 菅原文太さんが降板。『仁義~』の看板を
 外して仕切り直すも、撮影中に渡瀬恒彦さ
 んが運転したジープが転倒して重傷・降板。
 果ては当時進行中の抗争をモチーフとして
 いたことから、映画公開後に本作のモデル
 となった人物が射殺されるなど、スキャン
 ダラスな側面がクローズアップされた因縁
 の作品として知られている。
            (文・壬生智裕)

というわけで、大変にいわくつきの映画なわ
けだが、職場の先輩とときどきヤクザ映画の
話をしていたら、「よかったら観てみて」と
この映画のDVDをくれたのであった。深作は
これを最後に実録路線をやめてしまったとの
こと。

福井におけるヤクザの抗争を活写しており、
『仁義なき~』シリーズの広島弁が福井弁に
置き換わっただけの作品と言えなくもない。
そして福井弁の応酬がものすごく解らない。
もともと聞き取りにくいのと福井弁がディー
プなののダブルでかかってくるので、たぶん
半分ぐらいしか理解できなかった。

                                    5.24(日) DVD


2020年6月13日土曜日

プレイス・イン・ザ・ハート


☆☆☆★★  ロバート・ベントン 1984年

タイトルは地味だが、なかなか胸に染みる
良い映画である。
保安官の夫を亡くし、ローン返済が滞って
家を差し押さえられそうになりながらも、
「今できること」にベストを尽くし、健気
にたくましく生きる女性を描く。最初コソ
泥として家に入り込んできた流れ者の黒人
のモーゼスとバディを組んで、綿花栽培を
やり遂げる過程は爽快ですらある。

アメリカに特有のすさまじい嵐に襲われる
シーンがあり、尋常じゃない強風を実際に
吹かせている。中盤の山場のシーンなのだ
が、どうやって撮影したのだろう? アメ
リカの特効さんがすごいのか。見ごたえの
あるシーンになっている。

主演はサリー・フィールド。この映画で2回
目のアカデミー主演女優賞を得たとのこと。
すごく美人というわけではないが、か弱く
も見えるけど、可愛くて、芯が強い凛とし
た姿が、映画に一本筋を通している。ジョ
ン・マルコヴィッチの映画デビュー作でも
ある。盲目の気難しい青年の役を好演して
いる。

主役とはあまり関係ない、ダブル不倫カッ
プルの方のエピソードに、あまりストーリ
ー上の重要性が無いのが惜しいといえば惜
しい。「ハリウッド式脚本学校」だときっ
とその部分を指摘されるだろう。

                        5.23(土) BSプレミアム


2020年6月9日火曜日

イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ


☆☆☆★★★   バンクシー  2011年

バンクシーみずから監督した現代アートの、
特にウォールアート(またの名を"壁の落書
き")事情に特化したドキュメンタリーなの
だが、主人公というかおもな被写体はティエ
リーというロサンジェルスの古着屋である。
どうしてバンクシーではなく古着屋が主人公
なのかは観ると分かり、観ないと分からない
(当たり前だ)。しかしこの選択こそが、映
画を格段に面白くしたといっていいだろう。

バンクシー本人もインタビューを受け(穏や
かでユーモア混じりでおもしろい)、作品も
紹介される。いろんなウォールアートが出て
くるが、やはりバンクシーの作品は間違いな
くアートと呼ぶにふさわしいものである。

ティエリーはバンクシーの薫陶を受けて自分
の古着屋を放り出してアーティストになろう
とするのだが、その二番煎じ感がまた絶妙で
ある。

               5.21(木) Amazonプライムビデオ


2020年6月7日日曜日

読書⑭


『島とクジラと女をめぐる断片』
アントニオ・タブッキ 著 須賀敦子 訳 河出文庫

「島」とはポルトガル領アソーレス諸島
(アゾレス諸島とも表記される)の9つの
島のこと。島に関係するスケッチのよう
な文章もあれば、命がけの捕鯨船に乗せ
てもらう「捕鯨行」というルポのような
文章などもある。
いかにもフィクションらしいのは最後の
「ピム港の女」ぐらいなのだが、この無
造作に放られたような短篇がまた良い。

『インド夜想曲』で知られるタブッキと
いう人物はイタリアに生まれながら、フ
ランスでペソアの詩に出会ってポルトガ
ルに熱中し、そのままポルトガル語で小
説まで書いてしまうという、なかなかに
興味深い人生である。









『お前らの墓につばを吐いてやる』
ボリス・ヴィアン 著 鈴木創士 訳 河出文庫

憎悪を燃料にして乾いたハイウェイを走
り続けるアメリカ車のような文章である。
昔から『墓に唾をかけろ』の邦題で有名
な小説の新訳。
バックトンというアメリカ南部の街を舞
台にした、乾いた文体による犯罪小説で、
想起するのは(安易なような気もするが)
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』。バッ
クトンという名の街は検索しても出て来
ないのだが、架空の街だろうか。

ヴィアンはチャンドラーの小説の仏訳者
だったというのがとても興味深い。




2020年6月5日金曜日

シックス・センス


☆☆☆  M・ナイト・シャマラン 1999年

期待ほどでもないなー、という印象。
初見なのだが、有名な「どんでん返し」の
ことは、漫然と生きているうちにどこかで
耳にしたか読んだかで、観る前から知って
しまっていた。なので、初めて観るにも関
わらず、のちにつながる伏線や矛盾点を意
識しながら観るという、妙な状態で観るこ
とになった。

2回目の鑑賞にも耐えるようにがんばっては
いるけど、でもやっぱ無理あるよね…。特
に結婚記念日のレストランのシーンはおか
しいと思う。

                         5.19(火) BSプレミアム



2020年6月3日水曜日

Wの悲劇


☆☆☆★★    澤井信一郎    1984年

さすがは荒井晴彦の脚本で、ただのアイド
ル映画とは一線を画しており、劇中劇の扱
い方など唸らされる。
人気劇団の研究生(薬師丸ひろ子)が、大
女優(三田佳子)のスキャンダルの火の粉
をかぶる代わりに大きな役を与えてもらう。
腹をくくった薬師丸の嘘八百を並べた記者
会見がなかなか奮っている。

薬師丸ひろ子の酔っ払う演技がキュートな
のだが、酔った芝居といえば個人的には
『わが母の記』の宮﨑あおいが忘れがたい。
厳しい演出家の役で蜷川幸雄も出演。研究
生のライバルは高木美保。今ではすっかり
コメンテーターだが、美人である。

                          5.17(日) BSプレミアム


2020年6月1日月曜日

ゴッドファーザー PART Ⅲ


☆☆☆★★★  F.フォード・コッポラ 1991年

個人的にはとても好きな3作目。
ヴィンセント(アンディ・ガルシア)の方が
マイケルよりも人間味があって好きだからか
もしれない。ただ、生意気で頭に血が上りや
すい性質を父親のソニーからまともに受け継
いでしまったので、この世界で長生きはでき
ないかもしれない。

ソフィア・コッポラが当時不評だったとよく
耳にするけれど、そんなに悪くないと思うが。
ジョーイ・ザザ ← ドン・アルトベッロ ← ル
ケージという流れのようだが、このルケージ
という男の影がうすくて、どれだけ悪いヤツ
なのかが最後までよく分からない。

                           5.16(土) BSプレミアム