2020年6月7日日曜日

読書⑭


『島とクジラと女をめぐる断片』
アントニオ・タブッキ 著 須賀敦子 訳 河出文庫

「島」とはポルトガル領アソーレス諸島
(アゾレス諸島とも表記される)の9つの
島のこと。島に関係するスケッチのよう
な文章もあれば、命がけの捕鯨船に乗せ
てもらう「捕鯨行」というルポのような
文章などもある。
いかにもフィクションらしいのは最後の
「ピム港の女」ぐらいなのだが、この無
造作に放られたような短篇がまた良い。

『インド夜想曲』で知られるタブッキと
いう人物はイタリアに生まれながら、フ
ランスでペソアの詩に出会ってポルトガ
ルに熱中し、そのままポルトガル語で小
説まで書いてしまうという、なかなかに
興味深い人生である。









『お前らの墓につばを吐いてやる』
ボリス・ヴィアン 著 鈴木創士 訳 河出文庫

憎悪を燃料にして乾いたハイウェイを走
り続けるアメリカ車のような文章である。
昔から『墓に唾をかけろ』の邦題で有名
な小説の新訳。
バックトンというアメリカ南部の街を舞
台にした、乾いた文体による犯罪小説で、
想起するのは(安易なような気もするが)
『郵便配達は二度ベルを鳴らす』。バッ
クトンという名の街は検索しても出て来
ないのだが、架空の街だろうか。

ヴィアンはチャンドラーの小説の仏訳者
だったというのがとても興味深い。




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