2020年6月17日水曜日

読書⑮


『呪われた腕 ハーディ傑作選』
トマス・ハーディ 著 河野一郎 訳 新潮文庫

なにかイギリスものが読みたいと思い、手
に取った。ハーディは19世紀イギリスを代
表する作家で、昔は英語の教科書でおなじ
みだったという。私は授業で読んだ記憶は
ないが。そして読み終わるまで、ポランス
キーの『テス』の原作者だとは、私の中で
結びついていなかった。

イギリス小説のなにが良いって、実存主義
とか不条理とかモダニズムとかに、関係あ
ろうがなかろうが、そんなことは脇に措い
てもとにかく「おもしろい」ということに
尽きると思う。
この「傑作選」も市井のひとびとのなにげ
ない生活をベースにしながら、時に都合の
いい偶然を物語の中に導入することで、細
かいことはさておきストーリーをぐいぐい
進めていく。表題作も不気味で良いが、他
も粒がそろっていて、なにげない描写が頭
から離れなくなる。
巻末の解説対談で村上春樹は、ハーディの
風景描写にはまるとしばらく抜け出せなく
なる、というようなことを言っている。あ、
言い忘れましたがこれは「村上柴田翻訳堂」
シリーズの1冊です。








『東京美女散歩』
安西水丸 著    講談社文庫

こないだ再放送していた「鶴瓶の家族に乾
杯」の志村けんの回は「美女を探す」とい
う目的で福島県を旅して、道ゆくひとから
訊き出した「誰々さんとこの娘が美人だ」
とかの情報を頼りにあちこち動いていて、
ジェンダーとかポリティカル・コレクトネ
スの観点からは眉をひそめられるかもしれ
ないが、これが意外に企画として成功して
いておもしろかった。むろん、志村けんと
いうキャラクターあっての企画であって、
誰でも真似すればおもしろくなるわけでは
ないだろうが。

2007年から「小説現代」に連載されたとい
う本書も、「美女に出会う」ことを第一義
として、東京のあちこちを散歩するという
ことで、企画の趣旨にはその番組と似たと
ころがある。水丸さんはもちろん「このへ
んで有名な美人いませんか?」とか訊いた
りはしないのだが、赤坂生まれの東京人で
ある水丸さんにはそれぞれの街の「イメー
ジ」が始めから有る場合が多く、「ここは
こういう街だから、こういう美人がいそう
だ」というイメージがわりに有るようであ
る。そしてなんといっても、地名から想起
される「昔の女」のエピソードの多さには
驚嘆すべきものがある。昔の女を語っても
自慢にならないのがさすが都会人である。

後半だんだん旧跡の歴史的由来の話が比率
的に多くなってきて、退屈になってくるも
のの、安西水丸ファンには必読の1冊だと
考える。




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