2022年8月31日水曜日

読書⑧

 
『デイジー・ミラー』
ヘンリー・ジェイムズ 著 小川高義 訳
新潮文庫

いま『テヘランでロリータを読む』を読んで
いる途中なのだが、この秘密の読書会をめぐ
る魅惑的かつ長大な文章の、全4章のうち1章
がヘンリー・ジェイムズに割かれており、そ
ういえば恥ずかしながら1冊も読んだことが
ないので、前に買ってあったこちらを先に読
むことに。文庫本、薄いし。

ピーター・ボグダノヴィッチによる映画版の
『デイジー・ミラー』でだいたいの筋立ては
覚えていた(珍しく)。ヒロインのデイジー・
ミラーは美しいアメリカ娘。レマン湖畔の保
養地に、母親と弟と一緒に観光に来ている。
周囲が眉をひそめるほどに、自由奔放で蠱惑
的なデイジーに主人公は翻弄されながらも、
冷静に観察することも怠らない。

デイジーは結局、軽率な行動が招いた熱病で
若くして死んでしまうのだが、埋葬された墓
地の描写に関する、訳者の解説が興味深い。














『きみは赤ちゃん』
川上未映子 著     文藝春秋

ひさびさに再読。
「妊娠中」と「出産後」に分かれていて、
どちらも甲乙つけがたくおもしろい。
さまざまな苦痛やもどかしさや怒りや疑問
を感じるたびに研ぎ澄まされる、なんとも
秀逸な表現に声を出して笑ってしまうこと
もしばしば。
夫の呼称がいつもの「あべちゃん」から不
意に「あべ」に変わる瞬間が絶妙である。


2022年8月27日土曜日

読書⑦

 
『ギフテッド』
鈴木涼美 著     文藝春秋

いつか小説は書くのだろうと思ってはいた
が、初の小説で芥川賞候補とは驚いた。
落選はしたが、スタートとしては上々なの
では。

新宿に暮らす水商売の女。身体には刺青が
いくつも彫られており、そのうちの1つは
かつて母に肌を焼かれた跡をうまくごまか
すためのもの。その母が死期を前にして、
ひとり住まいの娘の部屋に滞在するところ
から物語は始まる。

センセーショナルな表現を期待して読むと、
抑制のきいた「体温の低い」文章を意外に
思うもしれない。エッセイの過剰なまでの
饒舌さとはまったく味わいの違う文章で、
こちらはこちらで好ましく感じた。














『はじめての おうちモンテッソーリ』
北川真理子 著     KADOKAWA

イタリアのマリア・モンテッソーリ博士に
よって提唱されたモンテッソーリ教育は、
子どもには元来、みずから発達・成長して
いく力が備わっているので、それを阻害す
ることなく、なるべく自分で力を伸ばして
いけるように環境を整えるというもので、
全国に実践園があり、そこには専門の教育
者と独自の教具がある。
でも、基本的な考え方を知れば、おうちで
もできることがありますよ、というのがこ
の本の要旨である。例えば、子どもは物を
落として割ってしまったりこぼしてしまっ
たりすることで学び、次から落とさないよ
うにしようと考えるものであるので、最初
からストローマグではなくガラスのコップ
を使いましょう、とか。
なかなか興味深い指摘も多いのだが、当然
ながら家庭で実践できるものとできないも
のがある。まあ精神性を知るだけでもおも
しろい。





2022年8月22日月曜日

馬上の二人


☆☆☆★  ジョン・フォード   1961年

ジェームズ・スチュワート、リチャード・ウィ
ドマークの共演。
数少ないフォードのカラー作品のひとつ。
話としては新味はなく、コマンチ族にさらわ
れた白人の子どもたちを奪回するため、軍に
一時的に雇われた保安官のジェームズ・スチュ
ワート。彼はかつてコマンチの酋長と取引を
した実績があるのである。意に沿わない任務
と安い報酬に思いっきり毒づく保安官と、そ
れを宥めながら命がけの道行き(コマンチは
白人を殺して頭の皮を剝ぐという設定)を共
にする紳士的な騎兵隊員リチャード・ウィド
マークとの対比がおもしろい。というか、そ
れがこの話のすべてである。途中の川べりで
の二人の長いワンカットには唸らされるが、
蓮實氏がしきりにフォードの晩年の作品を美
しいと形容する、その意味はいまだに図りか
ねている。

                             8.11(木) BSプレミアム




2022年8月15日月曜日

読書⑥


『ショットとは何か』
蓮實重彥 著   講談社

映画において題名のとおり「ショットとは何
か」ということを、新旧問わず、洋の東西問
わず、膨大な「映画の記憶」を参照しながら
考察していく。

『見るレッスン』と内容的にカブる部分もあ
るが、まあ出てくる知らない映画の多さよ。
そしてそもそもの始めから、蓮實氏の映画の
見方が普通じゃないことが垣間見えるエピソ
ードが印象的。
『リオ・グランデの砦』(1950)でジョン・
ウェインがマッチを擦ってランプを灯すと暗
闇にいたモーリン・オハラが現れる場面を目
にして、中学生の頃に観た『わが谷は緑なり
き』(1941)の類似したショットと「同じこ
とをやっている!」と思った、というのだか
ら、もう最初から映画を「ショットの連鎖」
に還元して見る習慣が自然とあったというこ
とである。ちなみに私は公開年が9年離れた
この2本のジョン・フォードの映画を、来た
る『ジョン・フォード論』の予習のために
半年ほどの間しか空けずに観たのであるが、
「言われれば、そんな場面があったかなー」
程度の記憶である。













『緑の歌』
高 妍 作    ビームコミックス

『猫を棄てる』の挿絵を描いた台湾の女の子
の作品。村上春樹と細野晴臣への愛があふれ
たマンガで、なんだか自分の学生時代を読ん
でいるようでこそばゆい感じもある。そして
「プラトニック」という辞書の項目に載せた
いほどの素朴な純愛ストーリーに、忘れかけ
ていた何かを図らずも思い出しそうになる。
友人と行った細野さんの50周年コンサート
(@国際フォーラム)初日がマンガに描かれ
ていて驚き。


2022年8月4日木曜日

【LIVE!】 小沢健二


So kakkoii 宇宙 Shows

01. 流動体について
02. 飛行する君と僕のために
03. 大人になれば
04. アルペジオ
05. いちょう並木のセレナーデ
06. 今夜はブギー・バック/あの大きな心
07. あらし
08. フクロウの声が聞こえる
09. 天使たちのシーン
10. ローラースケート・パーク
11. 東京恋愛専科・または恋は言ってみりゃボディー・ブロー
12. 運命、というかUFOに(ドゥイ、ドゥイ)
13. 強い気持ち・強い愛
14. 天気読み
15. 高い塔
16. 泣いちゃう
17. ある光
18. 彗星

<Encore>
01. 失敗がいっぱい
02. ドアをノックするのは誰だ?(イントロのみ)
03. ぼくらが旅に出る理由
04. 薫る(労働と学業)
05. 彗星

                  6.25(土) 東京ガーデンシアター


もともとは2020年、ガーデンシアターのこけ
ら落としだったはずの公演が、1年延期され、
さらにまさかのもう1年延期されての、ようや
くの開催。このライブに込めるオザケンの気合
いはバンドメンバーの衣装を手がけることを始
めとして、凝りに凝りまくったメドレー中心の
新旧を自在に行き来するセットリスト、「離脱
!」の掛け声で演奏のテンポが半分になる謎の
ややこしいルール、そして物販にまで漲ってい
た。

何より驚いたのは、オケの指揮者(しかも服部
隆之)やハープ奏者までいる30人の大編成バン
ドなのに、ギターはオザケン本人だけ。サポー
トギターなし! リズム楽器でもあるギターの
テンポがほんのちょっとでも狂うと、とっても
カッコわるいことになるのに、それを歌いなが
ら1人で完璧にやる、しかも恐ろしく複雑なメ
ドレー構成と「離脱!ルール」まであって、す
べてをミスなくこなすのはまさに至難というか
ほとんどミッション・インポッシブルと言って
よいだろう。よほどの自信とみた。そして実際
オザケンは歌いまくりの弾きまくりでやっての
けたのである。細かい部分ではミスだらけと本
人は言っていたが、正直ぜんぜん分からなかっ
た。
ついでにいうとコーラス隊もおらず、3曲ぐら
いでバンドの誰かがコーラスを入れてた以外
は、歌声すべてがオザケンのみ。よっぽど自
信がある…のかは分からないが。
それにしても充実したライブで、もちろん2年
待った甲斐があったというか、天才が気合い
入れて準備するとここまでになるのか、とひ
とつの到達点を見せられた思い。

ベストアクトは、「フクロウの声が聞こえる」
の熱唱・熱演もかなり良かったのだが、前もそ
の曲にした気がするので、「泣いちゃう」~
「ある光」の流れに。