2016年6月28日火曜日

レ・ミゼラブル


☆☆☆★     トム・フーパー   2012年

食わず嫌いせずに観てみた。
スクリーンではなく、自宅のテレビで観たことは最初
に断わっておく。

冒頭の、巨大な船を曳いている受刑者たちなど、映
像的なスケールの大きさやダイナミズムは大作映画
のそれであり、映画的愉悦という点では、良質なハリ
ウッド映画に劣るものではない。
ある意味リアリズムとは対極にあるものなのだから、
できるだけセリフを排除して、歌と映像で徹底的に映
画として盛り上がっていく姿勢は潔いものだろう。

リアリズムの対極にあるというのは例えば、「私は自
分がジャン・バルジャンだと名乗り出て無実の男を救
うべきだろうか、いやそれでは市長として積み上げて
きたものが無になる」……などなど、心情をすべて歌
で説明してくれる、みたいなことである。

それらをワンカットの役者の表情に託すのがリアリズ
ム映画だとすれば、私はやはりリアリズムに親しんで
きたし、そちらを好むものである。

                                            6.18(土) BSプレミアム


2016年6月25日土曜日

ヒメアノ~ル


☆☆☆★★    吉田恵輔    2016年

ムロツヨシと濱田岳のおとぼけコンビによる恋愛漫談
かと思っていた矢先、タイトルが出てからのギアの変
わり方が斬新。そこからは役者魂が全開の森田剛に
よる、メッタ刺し劇場の始まりである。家に忍び込んで
帰って来た人間を殺す。掘り返された庭を不審に思っ
て見回りに来た警官を殺す。人を刺す瞬間の森田くん
の表情が忘れられない。

しかしシリアルキラーを演じたジャニーズって他に誰か
いるのかね。しかも、その場面は直接的には無いが、
明らかに強姦してからメッタ刺しで殺してるからね。い
いのかジャニーズ……。

ネカフェで3時間しか寝てない森田くんのカサカサの肌
が恐い。しかし酒飲んで観たのはちょっと失敗だった。
ほんとは遠い世界のできごとみたいで全然恐くなかった。
『クリーピー』はしらふで観よう。

                         6.16(木) ヒューマントラストシネマ渋谷


2016年6月23日木曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


KYO-MEIワンマンツアー ~運命開歌~ 

ツアー最終日。
今回は初日および最終日を観ることになった。東京での
ライブがそういう日程だったからなのだが、趣向としては
なかなかおもしろかった。


01. 暗闇でダンスを
02. ダストデビル
03. 戦う君よ
04. その先へ
05. 胡散
06. 赤眼の路上
07. コワレモノ
08. シュプレヒコールの片隅で
09. 悪人
10. 君を守る
11. 冬のミルク
12. 美しい名前
13. tonight
14. 魂のアリバイ
15. シンフォニア
16. 刃
17. カナリア

(Encore)
01. 舞い上がれ
02. 罠
03. コバルトブルー

(Encore 2)
01. 無限の荒野

                                      6.12(日) 新木場スタジオコースト


序盤、マツのドラムも栄純のギターもいまいちで、なんか
初日の方がまだうまかったな、ま、でもそういうのもこの
バンドらしいけど、などと思っていた。
初日と変えてきた曲はどれも良かった。

生命線 → 赤眼の路上、 カラビンカ → コワレモノ

ということか。そこまでやるなら"美しい名前"も変えてほし
かったところ。ぜひ、私が数年前から主張している"初めて
の呼吸で"を採用してほしい。

ベストアクトは"コワレモノ"。めずらしくそれぞれソロをとっ
てメンバー紹介をしていた。

ダブルアンコールの"無限の荒野"には狂喜。
これしかないでしょ!と思っていた。

2016年6月22日水曜日

天使の涙


☆☆☆★    ウォン・カーウァイ    1996年

2本目。やっと座れた。

もとは『恋する惑星』の3つめのエピソードとして構想され
たというだけあって、テイストが似ている。
冒頭の編集・音響のクールさには魅了されたものの、中
盤がちょっと、ダレたかな。私の集中力の問題かもしれ
ないが。

二挺拳銃で容赦なく標的を葬る殺し屋と、彼に仕事を与
えるマネージャー的な女との、ドライだけど濃密な関係を
軸に物語は進む。そこに口がきけない金城武の破天荒
な話がはさまって展開されていくのだが、なんだかよくわ
からなかった。これ必要?

                                                   6.12(日) 早稲田松竹


2016年6月18日土曜日

恋する惑星


☆☆☆★★★   ウォン・カーウァイ  1995年

鼻歌まじりに早稲田松竹に行ったらいままででいちばん
混んでおり、初めて"立ち見"を告げられた。のみならず、
立ち見すらも私で最後みたいだった。すごいな、ウォン・
カーウァイの人気は健在。でも観終えたいま、それもわか
る気がする。映っている街は猥雑で薄汚いのだが、なぜ
かポップでエネルギッシュで、魅力的である。

2つの話がくっついて出来ている。
フラれてパイン缶をバカ食いするモウ刑事(金城武)の話
と、ストーカー女でやっていることは怖いが、とびきりキュ
ートで憎めないフェイ・ウォンと振り回されるトニー・レオン
の話。分量もクオリティも、フェイ・ウォンとトニー・レオンの
話のほうが多いし、断然良い。やっぱストップ・モーション
は効果的にやるとカッコいいよなー。
音楽のセンスは抜群。これも人気の一因だろう。タランティ
ーノ的なセンスだと思う。

"恋する惑星"という邦題がこれ、なかなか言い得て妙。
原題は"重慶森林"、英題は"CHUNGKING EXPRESS"
だから、日本独自のタイトルということか。ミニシアターブ
ームの先導としてだいぶヒットしたらしいが、キャッチーな
邦題も一役買っていたのではなかろうか。やっぱ何にで
もいえることだが、女の子が観に行かないとヒットはしない
もんね!

                                                    6.12(日) 早稲田松竹


2016年6月13日月曜日

ディストラクション・ベイビーズ


☆☆☆★★      真利子哲也     2016年

描かれているのはほとんど"暴力"。
柳楽くんは、はじめは三津浜で、その後は大街道や銀天街
など、松山市の中心部で、とにかく喧嘩をふっかける。相手
がギターを背負ったバンドマンだろうといきがってる大学生
だろうと強面のヤクザだろうと、関係はない。一瞬も躊躇す
ることはない。ひたすら衝動にまかせてファイトを挑み、とき
に勝ち、ときに負けて気絶するまで殴られる。が、またムクリ
と起き上がって、次のファイトに挑むのである。怪物みたい
な奴を、柳楽くんが好演している。

想起するのは初期の北野武だろう。
ひさしぶりにここまで"乾いた"映画を観た。
くしくも「ニッポン戦後サブカルチャー史Ⅲ」で、北野武の
映画、特に『ソナチネ』を採りあげて宮沢章夫が、"何もし
ない身体"について熱っぽく語っていたが、まさにこのフィ
ルムにおける柳楽優弥の身体性は、『ソナチネ』における
北野武の挙動と相通じるものがある。

途中、菅田将暉という女しか殴れない大学生を相棒にして、
小松菜奈を誘拐して、車で連れ回す。行き着く先はもちろん
一種の破滅なのだが、『デス・プルーフ』的な爽快感もある
ラストである。

                                                    6.1(水) テアトル新宿


2016年6月8日水曜日

海よりもまだ深く


☆☆☆★★★    是枝裕和    2016年

参っちゃったね。

いつもの俳優使って、おなじみの、ゆるく崩れかかった
"家族"の話で、テーマ曲がハナレグミで……なんだよ
是枝さん、自己模倣に走っちゃったのかよ、と観る前は
思っていた。

あっという間に是枝さんの世界に連れて行かれて、映
画が終わり、なんだ今回短かったな、85分ぐらいか?
と思って時計を見たら、しっかり120分経ってるではな
いですか。

なんだかあまりにも巧すぎてムカつくけど、おもしろかっ
た。
しかし「海よりもまだ深く」って何のフレーズだろうと思っ
ていたら、そういうことかよ! やられた。

そして阿部寛がデカいということがよく分かった。

                                             5.30(日) 渋谷シネパレス


2016年6月4日土曜日

【LIVE!】 小沢健二


"魔法的" Gターr ベasス Dラms キーeyズ


セットリストは書かないが、新曲が半分、おなじみの
曲が半分という構成だった。

新曲がどれも素晴らしい!
曲調はさまざま、歌詞はますます哲学的だったけど、
耳になじみのいい良質なポップスに仕上がっていた。

おなじみの曲のほうは、歌詞に「魔法」という言葉が
使われている曲が優先的に選ばれているようだった。
しかし考えてみればオザケンの歌詞における「魔法」
の使われる頻度というのは、他の歌手に比べてかな
り高い。「恋しくて」や「ある光」にも出て来るから、い
ずれ歌うかなーと思って待っていたけど、結局歌わ
なかった。よく探せばまだまだあるだろう。

わたしは遅れてきたオザケンファンであって、リアル
タイムで聴き始めたのはようやく"eclectic"からであ
る。それはそれは熱心に聴いたものだ。出遅れはし
たけれど、小沢健二(と彼の作る音楽)への愛は、
海よりもまだ深いという自負はあった。
にも関わらず、復活の"ひふみよ"ツアーにも、"東京
の街が奏でる"にも仕事や勤務地の都合で行くことが
できず、絶望のあまり霧多布岬から身を投げようかと
思う日もあったが、なんとか思いとどまり、こうして生
きて動いているオザケンを観ることができた。すべて
をひっくるめて、"魔法的"、ということで、おあとがよ
ろしいようで…。

                                        5.25(水) ZEPP TOKYO


2016年6月1日水曜日

父 パードレ・パドローネ


☆☆☆   パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ  1977年

タヴィアーニ兄弟という映画作家がいることは寡聞にして
知らなかった。私のイタリア映画への苦手意識を取り去っ
てくれることを期待して観たのだが、結果は……残念なが
ら、そういうことにはならず。

父が息子を容赦なく打擲する。
それも不毛の地と呼んで差支えなさそうな、荒涼とした大
地で。なんとも殺伐とした画である。

                                                  5.22(日) BSプレミアム