2020年10月29日木曜日

チャンオクの手紙

 
☆☆☆★   岩井俊二   2017年

これが「手紙シリーズ」の最初なのか。韓
国で制作されたらしい、私は存在すら知ら
なかった。YouTubeで無料公開していたの
で観られた…。ストーリーは『ラストレタ
ー』とは違う話である。

ペ・ドゥナが主演。好きです。ちょっと常
盤貴子に似てきたような気が。
ファーストカットからなかなか意気に溢れ
た長回しで、どこまで続くのかとにやにや
してしまった。撮影監督は「手紙」シリー
ズと同じ神戸千木。どうも「friends after
3.11」からの付き合いのようだ。もしくは
AKB48のドキュメンタリーのときからか。

日本の家庭とは家族同士、特に義母と嫁と
の関係性も異なるようで。まさにそこに焦
点が当てられた韓国版ホームドラマといっ
た趣きである。新鮮でおもしろかった。
『チィファの手紙』よりもよっぽど"岩井
俊二的"だったように思う。

                               9.27(日) YouTube




2020年10月26日月曜日

テネット

 
☆☆☆★★★  クリストファー・ノーラン 2020年

最後の★はもう努力賞というか、この途方も
ない撮影をよくやり遂げましたという「敬意
の加点」が半分。演じている俳優たちですら
台本が理解できなくて監督を質問責めにした
というが、このおそろしいほど複雑なプロッ
トを保ちながら、かつエンタメとして成立さ
せることの困難さよ! 「映画に必要だから」
という理由で本物のジャンボ・ジェットを建
物に激突させて炎上させることができるのは
今やクリストファー・ノーランだけだろう…。

ノーランはおそらくある種の使命感をもって
「敢えて」超大作映画を作っているんだと察
する。はっきり言ってこんな映画、大変なだ
けで、苦労に見合うだけのもの(報酬、名誉、
達成感…)が得られているとは到底思えない。
余計なお世話ながら、ね…。
いずれにせよ私たちにできるのは、ただただ
映画館に観に行くこと、それだけだ。「難し
そう」「150分は長い」とか諸々の理由で観
に行っていないひとは、考えを改めて観に行
くべし。わけが分からなくてもいいじゃない
ですか。


実はこれで95本目なのである。
フフフ、今年はもらった……!

                             9.26(土) 新宿ピカデリー




2020年10月23日金曜日

ようこそ映画音響の世界へ

 
☆☆☆★   ミッジ・コスティン  2020年

"音響"という観点から映画史を振り返る
試みはすばらしい。映像とは違った進化
の歴史があり、重要作品として『ナッシュ
ビル』とか『スター誕生』とか、意外な
名前があがってくる。モノラルだった音
響をステレオにするのすら、そんな必要
はないと制作側から反対されたというの
だから、まさに隔世の感がある。
音の面から言って、映画史の最大の転換
点は『スター・ウォーズ』と『地獄の黙
示録』の2作だということである。そし
てウォルター・マーチの影響は広く深い。

しかし登場する音響マン、みんな楽しそ
うに仕事をしている。楽しいことばかり
じゃないと思うけど、ああいう風に自分
の仕事を語れるというのは羨ましいこと
だ。

                         9.22(水) シネマカリテ




2020年10月21日水曜日

【LIVE!】 桑原あい THE PROJECT


[ MEMBERS ]
桑原あい(ピアノ)
鳥越啓介(ベース)
千住宗臣(ドラムス)
 
 1. Deborah's Theme (Ennio Morricone)
 2. MAMA
 3. All life will end someday, only the sea will remain
 4. Money jungle (Duke Ellington)
 5. March Comes in Like a Lion
 6. That's The Ball Game
 7. The Day You Came Home
 8. 919
EC. Dear Family

                            9.21(月) ブルーノート東京


ブルーノート東京で初めてライブを観る。
なんたるおしゃれ空間…。
本来ジャズとはこういう場所で聴く音楽
なのだろうか、とふと思うが、出てくる
料理もおいしく、食べながら開演を待っ
てるうちに、そんな疑問は消え失せてし
まった。
そして演奏。80分ほどだったか。全身を
使って弾くパワフルなピアノが特徴のひ
とだが、この日もアグレッシブに、小気
味いい演奏だった。ベースの鳥越さんの
余裕のプレイにも魅了される。


2020年10月18日日曜日

チィファの手紙


☆☆☆★     岩井俊二    2020年

『ラストレター』と同じ話を中国で映画化し
たもの、監督も撮影監督も同じということで、
よっぽどのマニア向けである。
それなのに、同じ職場の同期と映画館でばっ
たり会ってしまい、しかもどちらもこの映画
が目当てという偶然が既に岩井俊二っぽくて
なんだか気恥ずかしい。

ほんとに『ラストレター』と同じ話なんだが、
夏休みを冬休みに置き換えているからか画が
寒々しいのが残念である。キャストも、広瀬
すずと森七菜のほうが可愛いと私は思います。
そりゃあ『ラストレター』にも観ていて恥ず
かしいショットはたくさんあったけど、初め
てマスクを外すときに女優のまわりをぐるぐ
るまわるカメラも、確かに恥ずかしいけれど
も、岩井さんがそうしたいなら、受け入れま
す! と思えた。しかしなぜか今回は恥ずか
しいだけだった。
全体をとおして、岩井俊二の色が薄めだった
気がする。あんなに「何を撮っても岩井俊二」
になってしまうひとなのに、どうしたんだろ
うか…。

                                   9.19(土) バルト9




2020年10月15日木曜日

Red

 
☆☆☆★   三島有紀子   2020年

2本目は島本理生の原作があるこの映画。
冒頭から雪、また雪の峠をひた走る車。
乗っているのはなんだか思いつめたような
男女。電話ボックスから電話をかける夏帆、
それをボンネットにもたれ、虚無的にタバ
コを吸いながら見ている妻夫木くん。
さっそく男女のただれた愛の予感がする幕
明けだが、それにしてもあの『天然コケッ
コー』の夏帆が…。しつこいね。

冒頭シーンは時制としては映画の終盤で、
1年ほど時を戻して始まったのは、よくあ
る「何不自由してないが愛のない結婚生活」
を間宮祥太朗と営んでいる夏帆が、「昔の
先輩」でちょっと無頼な感じの妻夫木くん
と再会することで心が激しく揺れ動くとい
う話で、話型としては新鮮味はまったくな
く、実は映画としてもずっと「どこかで観
たような…」という感じがしていた。でも
ラブシーンはとてもキレイに撮れていた。
リアルというのともまた違うのだが、凡庸
な言い方になるけど女性監督が撮ったラブ
シーンだな、という感じ。女優をキレイに
撮ることを第一義としている感じがした。

あとこれはネタバレになるので色を変える
が、
妻夫木くん、新潟に来られるのであれば、
依頼主に挨拶ぐらいしないと絶対ダメだろ!
黙って帰るなんて社会人失格! と誰もが
思ったはず。

                            9.11(金) キネカ大森




2020年10月13日火曜日

ブルーアワーにぶっ飛ばす

 
☆☆☆★   箱田優子   2019年

キネカ大森にて、夏帆の主演作2本立て。
いきなりユースケ・サンタマリアとの不倫
シーンから始まって、もう夏帆もとっくに
大人なんだから当たり前なのだが、ああ、
『天然コケッコー』のあの夏帆が…不倫と
はなぁ……とはなはだ勝手な感慨を抱いて
しまう。

共演は『新聞記者』で好演していたシム・
ウンギョン。ここでは「後輩」の役だが、
ちからの抜けた演技で非常にうまい。コ
メディでも充分通用すると思う。
一方で、南果歩の不気味な演技も見もの。
背筋がさむくなる好演であった。

ところで、最後までおもしろく観たのだ
けれど、このラストカットって、要るの
かね? なんかそういう話にして無理や
り意味を持たせない方がいいように思っ
たけどなー。

                        9.11(金) キネカ大森




2020年10月11日日曜日

読書㉓

 
『心は孤独な狩人』
カーソン・マッカラーズ 著 村上春樹 訳 新潮社

「村上Radio プレスペシャル」での発言に
よると、マッカラーズというひとは「月か
ら落ちてきた隕石みたいな作家」。要はい
かなる系譜にも属さない特異な作家であり、
のちに続くフォロワーもいない。一代限り
の突然変異のごとき存在ということらしい。
その作家としてのスタイルは23歳(!)の
デビュー作『心は孤独な狩人』で既に完成
されており、若き春樹は読んで深い感銘を
受けた。実をいうとさきの『結婚式のメン
バー』の翻訳は、本命の『心は~』を訳す
ための準備運動だった、と。思い入れは相
当なものがあるようだ。

1930年代末、アメリカ南部で決して豊かと
はいえない生活を営む市井の人々、聾唖の
青年、黒人の医師、アナーキストの技師、
妻を亡くしたカフェのオーナー、音楽を愛
す少女…。章ごとに視点を移しながら、丁
寧にそのヴォイスを拾い上げていく長大な
群像劇である。決して読み始めたら止まら
ない、という類の小説ではない。登場人物
たちはそれぞれ偏屈だったり、怒りと絶望
を溜め込んでいたり、あるいは恋をしたり
しているが、とにかく一人一人を徹底的に
描き込むことで重層をなして、物語の厚み
を増していく。読み終わったときに、人物
たちのヴォイスが自分の中に、たしかな存
在として残るような小説である。










『着せる女』
内澤旬子 著   本の雑誌社

作家ともだちの「受賞式に来ていくスーツ」
を見繕っているうちに、男をパリッとした
スーツで変身させていく楽しさに目覚めて
いく内澤さん。結局連載中に6人の男たちを
バーニーズ・ニューヨーク銀座店へと引っ
張っていき、スーツのことを知り尽くした
「スーツ・ソムリエ」の見立てる、一見す
ると"意外な"、でも着せてみるとピタリと
合うというスーツの奥深い世界に酔いしれ
る…。

私は普段スーツを着る職場ではないので、
今年は一度もスーツを着なかったな、とい
う年だってある。最近ではそういう年のほ
うが多いぐらいである。なので用語はもと
より、スーツの細部にまつわる流行につい
てなど、まったく知らないことばかりで驚
くことしばしば。読んでいると、1回きり
のはずだったこのコラムが長期連載になっ
ていったのも分かる気がする。





2020年10月8日木曜日

ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー

 
☆☆☆★  オリヴィア・ワイルド 2020年

勉強に生徒会にとわき目もふらずマジメに
頑張ってイェール大学合格を見事勝ち取っ
た主人公だったが、勉強せずにチャラチャ
ラ遊んでた同級生たちも意外と良い大学に
行くことに大いにショックを受け、それな
らせめて卒業パーティーで派手にハジけよ
うと決断する。
めざす「ニックの家のパーティー」はSNS
で実況されていて、動画で様子はいくらで
も分かるのに、住所が分からなくてなかな
かたどり着けないというのがミソなのだが、
いかにも現代的である。

『リチャード・ジュエル』にも出演してい
た女優のオリヴィア・ワイルドの初監督作。
設定はひねってあるが、映画としてはわり
と王道なつくり。よくできていて、楽しく
観ることができた。内容があるかと言われ
ると、まあさほど無いけれど。

                            9.9(水) シネクイント




2020年10月6日火曜日

【LIVE!】 THE BACK HORN


 KYO-MEI MOVIE TOUR SPECIAL -2020-(ライブハウス編)

 1. その先へ
 2. Running Away
 3. シンフォニア
 4. 白夜
 5. 暗闇でダンスを
 6. がんじがらめ
 7. ジョーカー
 8. ガーデン
 9. ヘッドフォンチルドレン
10. 泣いている人
11. 瑠璃色のキャンバス
12. ハナレバナレ
13. 戦う君よ
14. コバルトブルー

【ENCORE】
 1. 無限の荒野

             9.6(日) PIA LIVE STREAM

こないだはレコーディングスタジオからだった
が、今度はライブハウスから。Veats Shibuya
とかいうVictorのライブハウスらしい。去年の
秋にできたばかりとのことで、今後行くことも
あるだろう。

演奏と山田の喉の調子を含めた総合的なクオリ
ティは前回の「スタジオ編」方が上だった感は
ある。がしかし、やはり山田の、ときに苦悶に
身をよじるような激しいアクションも「込み」
でのバックホーンということもあり、"ジョー
カー"の演奏など鬼気迫るものだった。

ベストアクトは、「白夜」「ジョーカー」も良
かったが、この2曲が良いのは当たり前という
ことにして、意外に良かった「ハナレバナレ」
にしましょうかね。




2020年10月5日月曜日

男はつらいよ 寅次郎わが道をゆく


☆☆★★★   山田洋次   1978年

シリーズ第21作。マドンナは木の実ナナ。
さくらの幼馴染で、浅草のレビューで踊り
子をしているという設定。レビューの舞台
袖や楽屋にカメラが潜入したりするのは、
寅さんシリーズではめずらしい。
倍賞千恵子はSKDの出身なんですね。

寅さんが木の実ナナに夢中になってレビュ
ーに通い詰めるので、ほぼ全篇東京にとど
まっていて、地方色が非常に薄い回である。
いちおう熊本で武田鉄矢に出会うくだりが
あるが。言っちゃ悪いけどあまり笑えない。

                                9.6(日) BSテレ東




2020年10月3日土曜日

ミッドナイト・イン・パリ

 
☆☆☆★★  ウディ・アレン  2012年

オーウェン・ウィルソン。共演にレイチェル・
マクアダムス、マリオン・コティヤール。
これから作家で食っていこうという青年が、
かねてからの憧れだった「1920年代のパリ」
にタイムスリップして、当時の文化人たちと
交遊する。

公開時以来の再見だが、内容というよりも、
オーウェン・ウィルソンの「驚いた顔」をよ
く覚えている。ちょっと変わったお顔立ちで
すよね。
スコットとゼルダのフィッツジェラルド夫妻
と友だちになり、ヘミングウェイと言葉を交
わし、ガートルート・スタインに自作を読ん
で評してもらう。主人公の有頂天の喜びよう
に、こちらも思わずうれしくなってくる。

                            9.1(火) BSプレミアム




2020年10月1日木曜日

はりぼて

 
☆☆☆★★ 五百旗頭幸男 砂沢智史 2020年

富山市議会で汚職の露見ドミノが起こり、
ものすごい人数の市議が謝罪したり辞職
したり、またはその両方をしたりした顛
末を、皮肉と怒りと笑いをけっこう良い
バランスでミックスした秀作になってい
る。『さよならテレビ』よりよほど面白
かった。

議員たちの見苦しい言い訳、開き直り、
恫喝、挙句のしおらしい謝罪会見に、場
内は爆笑であった。「制度論」を振りか
ざして「オレには関係ない」を通す憎た
らしい市長に比べれば、汚職はしてもど
こか一生懸命な派閥の長老のほうがまだ
可愛げがある。

                       9.1(火) ユーロスペース