2021年4月29日木曜日

絞死刑

 
☆☆☆★★★  大島渚  1968年

拘置所の敷地内にある処刑場の詳細な描写
が始まり、やがてキャメラは刑場の中へ。
刑務官たちの立ち会いのもと、強姦致死の
罪で死刑が確定している在日朝鮮人Rの絞
首刑が滞りなく執行された……はずだった。
しかしRの心臓は止まらず、記憶を失った
ままRはよみがえる。自分の罪を忘れてし
まい、心神喪失状態にあるRを再度処刑す
ることはできない。教育部長(渡辺文雄。
怪演!)が中心となり、皆で寸劇を演じる
ことによってRの犯行を再現し、Rに自ら
の罪を認識させようと躍起になるのだが…。

とにかく脚本の力がすごい。死刑制度、朝
鮮人差別という問題に真正面から切り込み
ながら、ブラックユーモアという言葉では
足りないほどの猛毒に満ちた映画である。
大島映画の常連役者たちと素人がまぜこぜ
になった状態で、よくこんなにノリノリの
演技を引き出せたものだ。

                       4.13(火) シネマヴェーラ




2021年4月27日火曜日

儀式

 
☆☆☆★★★  大島渚  1971年

これは傑作でしょう。とてもまともな神
経で作られた映画とは思えないが、完成
度が高いゆえ、誰にも真似できない境地
に到達している気がする。

葬式や結婚式で、数年に一度会う程度の
親戚の若者たちを中心に据えて、なんと
も薄気味悪い愛憎関係や親子関係がつむ
がれる。血縁とは、"家"とはいったい何
だろうか、と考え込んでしまうような映
画である。

凝ったアングル、異様なカットが目白押
しで、圧倒されているうちに、気付くと
とんでもないシーンになったりする。花
嫁不在の結婚式を耐え抜いたあとの"エア
初夜"は、トラウマになりそうな強烈なシ
ーンである。ヒロインの賀来敦子はなぜ
眉毛が無いのだろうか…。

                     4.12(月) シネマヴェーラ




2021年4月25日日曜日

ノマドランド

 
☆☆☆★  クロエ・ジャオ  2021年

今年の注目作ということで、まあロード
ムービー好きとしては気になる作品でも
あるし、いちおう観に行った。
『スリー・ビルボード』の好演も記憶に
新しいフランシス・マクドーマンドを主
演に、キャンピングカーで寝泊まりしな
がら季節労働の仕事をして、孤独ながら
も自由のある生活をしている<ノマド>
たちを描いた作品。描かれるノマドは明
らかに高齢化してきており、昨今のあち
らの世相を反映している。「イージー・
ライダー」とは違う、というわけだ。
マクドーマンドの芝居は鬼気迫るものが
あって惹きつけられたが、題材が好みで
ないからか、あまりノれず。

            4.9(金) TOHOシネマズ新宿




2021年4月23日金曜日

【LIVE!】 桑原あい

 
 ソロピアノアルバム発売記念コンサート「OPERA」

 1. Livin' On A Prayer
 2. New Cinema Paradice
 3. Leonora's Love Theme
 4. Loro
 5. 星影のエール
 6. Waltz For Debby
 7. Going To A Town
 8. Everything Must Change
 9. The Back
10. Daydream Believer

       4.6(火) 東京オペラシティ リサイタルホール

オペラシティに小さい方のホールがある
のは知らなかったが、こぢんまりしてい
て良い会場だった。新しいアルバムの
"OPERA"はここでレコーディングされた
とのこと。
コンサートはピアノのみ。そして1曲を
のぞいてすべてカバー曲。
1曲目のBON JOVIからアクセル全開とい
うか、この曲の弾きっぷりがいちばん凄
かったような気もする。パワフルでしな
やかで、カッコよかった。アンコールな
しで一気呵成にラストまで走り抜けた。



2021年4月21日水曜日

少年

 
☆☆☆★    大島渚   1969年

10才の少年に「当たり屋」をさせながら
国内を北上していく一家を描いたロード
ムービー。少年は学校に行くこともなく、
もちろん友達もいない。強権的な父親が
暴力で一家を支配している。
まだ物心つかない幼い弟と一緒に雪原の
中、ぼうっとしているシーンが印象的で
ある。
両親役の渡辺文雄と小山明子は大島映画
の常連中の常連。このあと観る作品にも、
すべて出ている。というかそもそも小山
明子は大島渚の妻である。

                      4.5(月) シネマヴェーラ




2021年4月19日月曜日

新宿泥棒日記

 
☆☆☆★★     大島渚     1969年

渋谷のシネマヴェーラにて大島渚の特集上映。
期間中はできるだけ通うことにする。

最初が『新宿泥棒日記』となったのは単に時
間が合ったからに過ぎないが、圧倒されるよ
うな熱量をたたえた過激なフィルムであった。

全篇にわたって唐十郎が朗々と唄う奇妙な歌
が繰り返し流れる中、紀伊國屋書店で本を万
引きする横尾忠則。それを見咎める横山リエ、
店長のところに連れていくと田辺茂一そのひ
とが拙い(失礼!)芝居をしている。
状況劇場の紅テントのカットがはさみこまれ
たり、セックスについて延々と語り合う、い
ま観ると「ナンセンス!」としかいえない議
論をながなが聞かされたかと思えば、フーテ
ン族が寝転んでいる53年前の新宿の街並みに
思わずハッとさせられる。まさに新宿という、
私自身がいちばん足繁く「文化」を求めて通っ
ている街の、ある一瞬を鮮やかに切り取った
映画は、新宿騒乱のきっかけとなったという
交番投石事件を映したあと、断ち切られるよ
うにプツリと終わっている。

                             4.5(月) シネマヴェーラ




2021年4月17日土曜日

本気のしるし <劇場版>

 
☆☆☆★★★   深田晃司  2020年

森崎ウィン、土村芳の主演。
メ~テレが制作した連続ドラマを232分の劇
場版に再編集したもの。途中休憩もあり、も
ちろん長いのだが、体感時間は3時間ぐらい。
たいへんおもしろかった。
およそテレビドラマらしからぬカメラワーク
で、カットは少なく、長回しも多い。ズーム
も多用されている。らしい。あまり気付かな
かったが、トークショーで指摘されていた。

音は良くも悪くもテレビドラマ的で、セリフ
はよく聞こえるが抑揚に乏しいというか、情
緒はあまりない。音楽の少なさは恐ろしいほ
どで、水槽のボコボコ音と、波音、セミの声
などのSE、そして何より踏切の警告音が印象
を残す。

短いトークショーがあって、文芸坐のやたら
熱いひとと、深田監督が登壇。備忘録として
簡単に記しておく。
・原作マンガは十代のときに読んで好きだっ
た。いつか映像化したいと周囲には言いふら
していた。
・結局男が好きなのは、頼りなくて「俺が守っ
てやらなきゃ」と思わせる女性だと言われる
が、実際にそういう男の願望を具現化した女
性がいたらこんなに周りを傷付けるし本人も
傷つく、そういうものを描きたかった。
・ズームの多用はアルトマンの『ロング・グッ
ドバイ』をやりたかった。森崎ウィンが飼っ
ているザリガニが「マーロウ」なのはオマー
ジュ。
・23分10話のドラマをそのままつなげても、
映画になっていなかった。再編集は予想以上
に苦労した。

                                   4.1(木) 新文芸坐




2021年4月14日水曜日

Love Letter

 
☆☆☆★★★  岩井俊二  1995年

何度観ても飽きることのない、私のオール
タイムベストの1本。冒頭の雪景色が神戸
に見えなかろうと、酒井美紀がいくらなん
でも鈍感すぎだろうと、そんなことはどう
だっていい!
この室内シーンの光の美しさ…。そしてこ
の行き当たりばったりのようなストーリー
展開、これぞ岩井俊二、という感じである。
じいちゃんが樹を背負って病院に走るシー
ンでいつも感動してしまう。そして最後は
「おっげんきですかーー?」の声の調子っ
ぱずれなトーンにずっこけそうになる。し
かしそれも含めてすべてが愛おしい映画な
のである。

                        3.28(日) BSプレミアム




2021年4月11日日曜日

14歳の栞

 
☆☆☆★    竹林亮   2021年

埼玉県春日部の、とある共学の中学校の
1クラス36人全員の日常を追ったドキュ
メンタリー。もちろん「全員」というの
がミソである。みんなおそらく実名で、
モザイクなども無い。そういう意味では
最近あまりないストレートですがすがし
いドキュメンタリーではあるが、なにせ
1人にあてられる時間が3分ぐらいしかな
いため、なんだか映画というよりも長い
長い予告編を見せられているようである。

普通であれば「ひとの内臓を見てみたい
から看護師をめざす」とあっけらかんと
語った女の子にもう少しフォーカスする
ところだろうが、けっこうあっさり通過
する。彼女にはぜひ『タリウム少女の毒
殺日記』を観てもらいたい。

          3.26(金) ホワイト シネクイント




2021年4月9日金曜日

【演劇】 天保十二年のシェイクスピア

 
作・井上ひさし 演出・藤田俊太郎
音楽・宮川彬良

ブルーレイで鑑賞。
下総の対立するヤクザ者一家の抗争の話に、
ありとあらゆるシェイクスピア劇の要素を詰
め込んだ野心作。それを宮川彬良がさすがの
引き出しの多さというか、ごった煮の、なん
でもありの音楽で迎え撃つ。さながら一騎打
ち、という感じである。
To be or not to be, that is the question.
いわずと知れた『ハムレット』のセリフだが、
これを平成から明治まで、歴代の訳者がどう
訳したかを滔々とまくしたてる場面が、今回
の役者泣かせ。だって一文字も間違えられな
い。浦井健治ががんばっていた。

「よそ者」として現れ、口先の達者さでのし
上がっていく不具者を高橋一生が演じる。頭
のネジがぶっ飛んでる人物をやらせると巧い
ね。声も野太くて、歌も悪くない。舞台向き
である。

                           3.21(日) Blu-ray Disc




2021年4月6日火曜日

Fukushima 50

 
☆☆☆    若松節朗   2020年

多くの、というかほとんどの日本人が固唾を
のんでなりゆきを見守ったあの数日間に、福
島第一原子力発電所で何があったのか。第一
級の役者と優秀なスタッフを集結して、クオ
リティはたしかに高い。美術セットとCGは特
に見事だと思う。

しかしそれだけの予算とスタッフをかけて、
この映画は何を映像化したかったのだろう。
観終わっても私にはよく分からなかった。
原発事故の検証ならNHKスペシャルの「メル
トダウン」シリーズに分があるのは明らかだ。
はるかに詳細だし、分かりやすい。
苛酷な現場で奮闘した現場の人間たちを称え
るため? だが、自分とこの会社の設備が制御
不能になり暴走したら、何があろうとそれを
食い止めようと努力するのは現場の人間なら
当たり前のようにも思える。時にトンチンカ
ンな上層部に対して現場は体張ってるんだと
叫ばれても、そりゃあそういうものだろう。
誰も経験したことのない事態なのだ。誰かが
意思決定しないといけないし、誰かが閣僚の
相手をしなければならないのだ。
海外メディアがそう呼んだからと、タイトル
にまでなった"Fukushima 50"という呼称も、
私にはヒロイックに聞こえるが、はたして現
場にいた人間だけが英雄なのか? そもそも
何一つとして原発事故後の処理をめぐる事態
が好転していない状況下で、この映画はいっ
たい誰に向けて作られたのか、私には疑問が
浮かぶばかりであった。

                                     3.20(土) 日テレ




2021年4月4日日曜日

【演劇】 日本人のへそ

 
こまつ座
作・井上ひさし  演出・栗山民也

主演は小池栄子。共演に井上芳雄、朝海ひ
かる、山西惇ほか。
久しぶりにこまつ座の芝居を観る。大学生
のときはよく行っていたものだが。

「吃音」をひとつのテーマとして、劇中劇
の形で物語は進む。「どもり」を克服する
ための劇を、吃音患者たちに演じさせると
いうのだ。1幕の冒頭、ヘレン(小池栄子)
が岩手から各駅停車で上京する長い旅路を、
車掌に扮した山西惇が遠野から上野までの
全駅を連呼して表現する。なかなか圧巻で
あった。こういうのがあるから「膨大なセ
リフ量」とか「役者泣かせ」とか言われる
んだろうが。

観終わってから知ったのだが、これが井上
ひさしのデビュー作ということらしい。す
でに完成度が高く、まったくデビュー作と
いう感じはしない。ストリッパーを主人公
にしたのは、フランス座の作家だった記憶
も新しかったからか。小池栄子は完全に身
体を「仕上げてきている」感じがあり、美
しかった。

               3.17(水) 紀伊國屋サザンシアター




2021年4月1日木曜日

シン・エヴァンゲリオン劇場版:||

 
☆☆☆★   庵野秀明   2021年

出張から帰り、まあ何はともあれエヴァを観
に行くことにする。
これにて「終劇」ということで、色んな落と
し前がどんどん付けられていく。特に終盤の
怒濤のような「走馬灯」心象風景も含めて、
要するに完結篇であった。

内容には触れない。というか「なんか知らん
がこの人は最後こうなったらしい」以外のこ
とは、説明しろと言われてもできないのだが。
『破』『Q』以上に、「これまでの『エヴァ』
の殻を打ち破ろうという意図(というか義務
感?)」は感じられるものの、どうも「また
このパターンか」という感じが拭えない。
ディテールは新しいのだが、話型が一緒とい
うか。まあそれは神話をモチーフにしてる以
上、「『新しい話型』などというものは無い」
ということなのかもしれない。
しかし素朴な疑問として、アスカはなぜずっ
とあの格好だったのかが謎だった…。羞恥心
とか無いのは前からかもしれないが、せめて
普通に服を着てたほうがいいのでは…。

                        3.14(日) 新宿ピカデリー









3.27(土)追記
『プロフェッショナル 庵野秀明』を観る。
「おとなになり損ねたひと」(Ⓒ 鈴木敏夫)
はエヴァに落とし前を付けた後、どのような
作品をつくっていくのか…。