2011年1月28日金曜日

マッチポイント

☆☆☆★★    ウディ・アレン    2005年

観終わって、すがすがしい風はまったく吹き抜けてい
かない、嘘と虚栄と裏切りに満ちた殺人ミステリー。
これ、ウディ・アレン? という感じのシリアス一辺倒な
話なので、はてと首を傾げる向きもおられようが、こ
れはこれで良い。嘘と裏切りと不倫を描いてもオシャ
レになってしまうのが大先生。全篇に流れるオペラの
調べ。感服いたしました。

主人公の男(ジョナサン・リス・マイヤーズ)の顔が良い
よね。生真面目で気が弱そうだけど、野心をたぎらせ
た冷酷な男にもなれる。スカーレット・ヨハンソンをうま
いこと愛人にして、取り繕うために妻にも愛人にも嘘を
つきまくって平然としている刻薄さに、アル・パチーノが
演じたあのマイケル・コルレオーネをちらりと思い出し
たり。といったら褒めすぎか。褒めすぎかなんていった
ら失礼か。

本作で大先生がスカーレット・ヨハンソンに惚れ込みま
くって、次の『タロットカード殺人事件』や『それでも恋す
るバルセロナ』に出演させてその度に「男を惑わす色っ
ぽい女」を演じさせて、おいおっさん自分が楽しんでるだ
けだろ、と突っ込みたくなるのは今更いうことでもないが、
まあ、色っぽいのは分かるけども、あんま好みじゃない
な。おれの意見なんかどうでもいいだろうけど。

                                          1.23(日) BSフジ

2011年1月27日木曜日

きみの友だち

☆☆☆★★       廣木隆一     2008年

観終わって、自分の中にすがすがしい風が吹き抜けていくような、
素晴らしい秀作。ストーリーを整理してみると、時制があっちこっち
に飛んで結構ややこしい話だが、場面のつなぎはあくまで自然。
こういうところに、数をこなしている職人監督の巧さが出るのだろう。
人物の表情も分からないほど遠いロングショットと、まさに「じりじり」
という感じでゆっっっくり動くカメラが、これぞ映画の雰囲気を醸し出
している。ロングショットと長回しというのは一種の贅沢のような気が
している今日このごろ。そういう意味では贅沢な映画だった。

観ているうちに、そこで語られている内容が最優先事項ではなくなり、
ただその映画の空気にずっと浸っていたい衝動にかられることが稀
にある。この映画は久しぶりにそういう感覚になった。それは好きな
作家の本を読むときの感じと共通する部分がある。或る作家を好き
になって、著作をつぎつぎと読んでいくと、そのうちに、ただこの人の
「文章」が読みたいだけなんだ、ということにはたと気付くときがある。
いうなればその読書においては、内容よりも文章のほうが優位にあ
る。その人の語彙の選び方、語尾の特徴、接続詞の位置、漢字とひ
らがなのバランス。そういったものを心ゆくまで味わいながら、ついで
に内容も理解する感じといったらいいか。村上春樹は完全にこれで、
正直なところ内容はさほど重要でない。ただあの文章を読んで「うま
いなぁ」と唸りたい、という一心なのである。
映画ではあまりそういうことは無いが、たまにそういう監督に出会う。
いわばその監督の「文体」が心地良いのだろう。

それにしても、吉高由里子が中学生役で出ていたが、あんな色気の
ある中学生いたら困るな。

                                                       1.22(土)  BS JAPAN

2011年1月24日月曜日

ノルウェイの森

☆☆★★★    トラン・アン・ユン   2010年

友だちのつき合いでもう一度観る。
虚心坦懐に、ARATAな気持で鑑賞することを心がけた
つもりだが、評価は変わらず。映画としておもしろくは
決してなく、永沢さんとレイコさんという魅力的な人物は
ただのナルシストと変なおばさんにしか見えず不憫で
あった。松山ケンイチはまあ悪くはない。菊池凛子は、
あいかわらず顔の主張が強すぎて直子に重ねることが
どうしてもできない。そんな中、緑役の水原希子だけが
救いになっている。それはワタナベにとっても、観客に
とっても…。

上映終了後、友だちと回転寿司を食いながら「僕はも
ちろんマグロを食べるよ」「お茶を飲むかということなら、
飲むよ、もちろん」とすべてに「もちろん」をつけて遊ぶ。

                          1.15(土)  ワーナーマイカルシネマズ釧路

2011年1月23日日曜日

TAKESHIS'

☆☆★★★      北野武     2005年

初期の神がかり的作品群に比べると、画面に緊張感がない
のは明らか。役者の演技や淡々とした進行は、いつも通りと
いえばそうなのだが、まるで魔法が切れてしまったかのように、
観ていて退屈してしまう。原因は演出なのか、脚本なのか、役
者なのか、はたまた全部なのか。
脚本は悪くないような気がする。夢と夢が、あるセリフや小道具
で繋がっていくという脚本は凝っていて面白い。ハッとする場面
は何度もあった。でも銃を馬鹿みたいにバンバン打ちすぎだと
いう人もいて、まあ、そのとおりだね。別に打ってもいいのだが、
『その男、凶暴につき』で白竜が逃げるたけしに向かって打った
弾が通行人の女の子の頭に当たって血が壁に飛び散るという
シーンを、実にサラっと、何でもないことのような演出でやってし
まうような、ああいうのがまた観たい。
役者でいえば、ひさしぶりに京野ことみの存在を思い出したけど、
けっこう可愛いね。

                                                            1.11 (火)  HTB

アンストッパブル

☆☆☆★     トニー・スコット    2011年

人為ミスで無人の貨物列車が動き出し、そりゃもう
アンストッパブルで、色んなものや試みを無情にも
蹴散らして200kmぐらい暴走した挙句、最後は勇敢
な男たちによって間一髪のところで止められるとい
う、小学生以上なら誰にでも想像のつく話だが、こ
れがなかなか良かった。こちらも試験勉強で疲れて、
「あー何も考えなくていい映画みにいこう」という初期
条件で観に来ているから、これでまったく問題ない。
いろいろ考えたいひとは「ゴダール・ソシアリスム」を
観ればいいのさ。
この「勇敢な男たち」が大学出の生意気な若手と叩
き上げのベテラン技術士、というのがなんだか身に
つまされた。そしてフーターズのくだりには泣けた。

音響と映像だけでもっていく映画。昔はこんな映画、
興味も湧かなかったけどなー。環境のなせる業か、
それとも年々好みも変わってきているということか。

                   1.10 (月)  ワーナーマイカルシネマズ釧路

2011年1月17日月曜日

ゲーム

☆☆☆★★★    デヴィッド・フィンチャー   1997年

洗練された悪ふざけの映画。マイケル・ダグラスの投資会社社長
のもとに、音信不通だった弟(ショーン・ペン)が現れ、「ゲーム」の
話をする。刺激の無い日常を一変させてくれるという「ゲーム」に
半信半疑で参加登録をしたが最後、じわじわと奇妙なゲームの世
界に実生活が侵食されていく。
このゲーム、ほんとに会社でお膳立てしてやるとしたら、金がいくら
あっても足りないし、悪ふざけが過ぎるし、あちこち辻褄の合わない
部分もあるので、「ありえねー」と一言で片付けるのはたやすい。た
やすいが、そう一蹴してしまうにはあまりにもったいないほどちゃんと
「映画」になっている。ラストに呆れるひとも少なくなかろうが、私は
楽しめた。
なにより新年早々「いやあ、映画って良いもんですね」と水野晴郎風
に思わせてくれたのは嬉しい。最新作「ソーシャル・ネットワーク」が
楽しみである。

                                                          1.9(日)    BSフジ

2011年1月10日月曜日

ベストテン <旧作>

2009年以前の映画でランキング。

1. ソナチネ 
☆☆☆☆ 北野武 1993年
今年、最も幸福な100分。完璧。スクリーンで観れる機会が
あれば、ぜひ観たい。

2. 仁義なき戦い
☆☆☆☆ 深作欣二 1973年
男の美学、ヤクザの美学が詰め込まれた映画。そんなもの
が好きだとは自分でも知らなかった。

3. あの夏、いちばん静かな海。
☆☆☆★★★ 北野武 1991年
永遠に続いて欲しいとさえ思った100分。これもスクリーンで
観たい。

4. サッド・ヴァケイション
☆☆☆★★★ 青山真治 2007年
愛憎なかばする青山真治だが、これは傑作。浅野忠信の
凄みが遺憾なく発揮されている。

5. 瀬戸内少年野球団
☆☆☆★★★ 篠田正浩 1984年
面白いと思ったことがない篠田正浩だったけど、この映画は
最高だった。なんだ、ちゃんと撮れるじゃん(上から目線)。

6. 母べえ
☆☆☆★★★ 山田洋次 2007年
おれにも檀れいみたいな叔母さんが居たらいいなあ。
ここにも浅野忠信。

7. 黒猫・白猫
☆☆☆★★★ エミール・クストリッツァ 1999年
相変わらずのハイテンション・ムービー。クストリッツァの平均
点の高さにはただただ驚く。

8. 殺人の追憶
☆☆☆★★★ ポン・ジュノ 2003年
こういう、シリアスなんだかふざけてんのかよく分からないのが
韓国映画の魅力のひとつ。

9. 3-4×10月
☆☆☆★★ 北野武 1990年
今年はたけしにやられっぱなしだった。私にとっての「たけし元
年」であります。

10. 俺たちに明日はないッス
☆☆☆★★ タナダユキ 2008年
タナダさん、好きっす。これからも新作観ます。

別枠1. 丹下左膳餘話 百萬兩の壺
☆☆☆★★★ 山中貞雄 1935年
あまりに古いので別枠ということで。しかし、テンポの良さ、編集
の良さは、いまの映画は全然及ばないんじゃないか。
大河内傳次郎って良いよね。

別枠2. チャップリンの独裁者
☆☆☆★★★ チャールズ・チャップリン 1940年
まあ今頃観てなんだおまえって感じですよね。すいません、
他のチャップリンも観ます。

<講評>
ランキングをつけてから、気付いたことがある。
なぜか、旧作ベストテンはすべて、DVDを借りて観たやつか、
BSを録画したやつである。名画座で観た作品はひとつも入っ
て来なかった。この結果はなんとも解せない。なぜなんだ。
私は名画座が好きで、休みの日にはまず、何はともあれ都内
の名画座で何をやってるかを調べたものだが(こちらに来る前
の話ね)。あんなに通った名画座では、ロクな映画を観ずに、
DVDで借りてきた映画を観ては喜んでいたとは…。まあ良い
映画が観られればなんでもいいじゃねーか、という向きもある
だろうけど。なんとも複雑な心境ではある。
そういう2010年でした。おしまい。

2011年1月6日木曜日

ベストテン <2010年公開>

1. 川の底からこんにちは
☆☆☆☆ 石井裕也 

2.(500)日のサマー
☆☆☆☆ マーク・ウェブ

3. 時をかける少女
☆☆☆★★★ 谷口正晃

4. アウトレイジ
☆☆☆★★★ 北野武

5. 抱擁のかけら
☆☆☆★★★ ペドロ・アルモドバル

6. 息もできない
☆☆☆★★ ヤン・イクチュン 

7. 告白
☆☆☆★★ 中島哲也

8. 渇き
☆☆☆★★ パク・チャヌク

9. ハート・ロッカー
☆☆☆★★ キャスリン・ビグロー

10. 秘密結社鷹の爪 THE MOVIE Ⅲ
☆☆☆★★ FROGMAN

次点 ライブテープ
☆☆☆★ 松江哲明