2023年12月31日日曜日

PERFECT DAYS

 
☆☆☆★★★  ヴィム・ヴェンダース  2023年

淡々としたトイレ清掃員・平山(役所広司)
の日常が描かれる。無口ながらも、その仕
事ぶりから平山の人柄が伝わってくる。こ
ういうのが芝居だし、こういうのを演出と
いうんですよね。
もちろん日常だけでは映画は終わらず、い
ろいろと平山の平穏な日々をかき乱す要素
が現れてきて、そのたびに小さく波紋がゆ
れ、やがてまた静かな水面に戻る。そのへ
んのすべてに感心したわけでもないが、全
体として充実感のある作品になっていた。
平山がカーステレオでかけるカセットと寝
る前にしょぼいスタンドで読む小説のセレ
クトがなかなか興味深かった。
一年の最後にこの映画を観られて満足であっ
た。

最近『野生の棕櫚』が文庫になったのはこ
の映画のおかげなのか? 『11の物語』は
知らなかったのですぐに買うと思います。

                   12.28(木) TOHOシネマズ渋谷




2023年12月30日土曜日

 
☆☆☆★    北野武    2023年

誰もが知る戦国時代の織田信長、豊臣秀吉、
明智光秀らの相克を「首」を主眼に描く。
なるほど、歴史の授業では「首をとる」こ
とが勲功の証と教わったが、とった首を故
郷まで持って帰るのも、多くの首の中から
大将の首を探すのも、実際にやると一苦労
だったろう。戦国武将どうしの男色を露骨
に描くやり方は『御法度』への目配せか。

加瀬亮が元気そうでよかった。久しぶりに
姿を観たが、名古屋弁の信長を『アウトレ
イジ ビヨンド』のように演じていて楽しそ
うだった。
しかしたけしが喋るたびに「こんどのセリ
フは聞き取れるだろうか」と不安になるの
が、物語への没入を妨げる。

                12.15(金) TOHOシネマズ渋谷




2023年12月27日水曜日

キラーズ・オブ・ザ・フラワームーン

 
☆☆☆★  マーティン・スコセッシ  2023年

いったいどれだけの時間をこれまでスコセッシ
に捧げてきたのだろうか…。この映画も3時間
26分ある。長い映画に惹かれてしまうので、
つい毎回観ているが、ものすごく良いかとい
うと、そうでもないことが大半…。

ディカプリオとデ・ニーロの共演である。
デ・ニーロは一癖も二癖もある地元の有力者を
演じて楽しそう。まあ極悪人なんだけど。ディ
カプリオの妻となる先住民のモリーははじめは
聡明な感じで、ミステリアスな雰囲気と相俟っ
て魅力的に描かれていたのだが、終盤はだまさ
れっぱなしで、なんかキャラが替わった感じ。
『ガス燈』のイングリッド・バーグマンですよ
ね完全に。

               11.18(日) TOHOシネマズ日比谷


 

2023年12月22日金曜日

愛にイナズマ

 
☆☆☆★   石井裕也   2023年

石井裕也は続けて2作公開するやり方を常套
手段にしているが、わざとそうしているのだ
としたら、これはなかなかおもしろい試みで
ある。普通の監督が1本作る間に2本、しか
もまったく方向性の違う作品を撮るのだから、
量産型の職人監督でないとできないことであ
る。そして現にこうしてまんまと2本とも観
に行かされているわけで…。

『月』とはまったく違う、だいぶ力の抜けた、
自主映画を軸とした家族の物語である。疎遠
な家族が自主映画の撮影のために強制的に一
緒にすごすうちに過去の記憶が違う意味を持
ち始めて…と書くとなんだかどっかで観たよ
うな話ではあるが、家族それぞれのキャラク
ターと役者(佐藤浩市、池松壮亮など)が強
烈なので、なかなか変わった味わいの映画に
なっている。「家族」という題材を執拗に追
求し続けてきた石井裕也ならではともいえる。

松岡茉優は「2時間観ていられる女優」で、
そこがまさに彼女のすごいところだと確信し
た。飽きることがない。

      11.16(金) ヒューマントラストシネマ渋谷




2023年12月17日日曜日

 
☆☆☆★   石井裕也   2023年

役者は、リスクのある役をよく引き受けたと
思う。そこはすばらしいとしか言いようがな
い。磯村くんを筆頭に、いろんな映画賞をも
らうのは当然だ。なんせ「がんばります!」
と言いながら障碍者を殺戮していく役なのだ。

ただ作品としては、先に原作小説を読み、
「これは映画化不可能だな」と思い、実際に
映画を観て、「やっぱり映画化は不可能だっ
たな…」というのが最初の感想である。

脚本・監督の石井裕也の真摯さは伝わってく
るし、脚本にするにあたって、相当悩んだの
だろう跡もなんとなく見える。二階堂ふみの
役がちょっと言動が不自然だし、宮沢りえと
オダギリジョーの夫婦が抱える事情も、映画
のために「捻り出された設定」という感じが
否めない。ラストカットが昼間の月なのはい
いとして、その前のカットが回転ずしの物撮
りというのも、ぶっ飛んでいて私には意味が
分からなかった。

                        11.1(水) ユーロスペース




2023年12月2日土曜日

読書⑦

 
『遠い声、遠い部屋』
トルーマン・カポーティ 著 村上春樹 訳 新潮社

昔観た映画を再び観ると、記憶があまりに
残ってないことに愕然とするのはいつもこの
ブログで嘆いていておなじみだが、とは言っ
てもうっすらとした記憶はあり、まったく何
ひとつ覚えていないということはない。
それに引き換え、本書は大学時代に旧訳でた
しかに一度読んでいるはずなのだが、最初か
ら最後までこの新訳を読み通しても、何一つ
として記憶に思い当たる登場人物も文章も無
いのはどうしたことか。衝撃的である。大学
時代の自分は半分寝ながらページだけめくっ
ていたとしか思えない。

すでに幾つかの優れた短篇で文壇に華麗に登
場していたカポーティによる、初の長篇小説
である。「村上春樹の翻訳書あるある」なの
だが、「訳者あとがき」で春樹が思い入れも
たっぷりに的確な批評を展開しているので、
いざ何か感想を書こうとしても、もうこのあ
とがきで充分じゃないかと思えてしまう。
本書に関しても、
「カポーティ固有のイメージの、華麗なショ
ーケース」
「不思議な情景、不思議な人物たちが次々に
登場し、その像が大写しになり、色合いを変
えて微妙に歪み、そして霞んで消えていく」

その通りであるし、これ以上の評言があると
も思えない。努力を放棄した格好ではあるが…。













『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー 2』
ブレイディみかこ 著   新潮社

1作目を文庫で楽しく読んだのですぐに2作目
もソフトカバーで買ったものの、例によって
寝かせすぎてとっくに文庫になってから読む
という無駄…。

主人公の男の子は同年齢の日本の子どもに比
べるとはるかに大人っぽく、その言動はたし
かにおもしろい。学校や地域でのいろいろな
出来事を、根本から丁寧に考え、素直に受け
止めていく姿はなかなか気持ちがいい。

学校の演奏会で、クリスマスの定番曲として
ザ・ポーグス&カースティ・マッコールの
"Fairytale Of New York" という曲を演奏す
るにあたってのひと悶着を書いた一篇があり、
知らない曲だったのでどれどれと聞いてみた
ら良い曲だった。歌詞に出て来る罵倒語が同
性愛者に対する差別用語を使っているのが、
子どもが歌う曲としていかがなものかという
ことらしい。

…なんて書いたのが一昨日だが、その直後に
この曲の男性ボーカルであるシェイン・マガ
ウアンの訃報が伝えられた。なかなか波乱に
満ちた生涯だったようで、『シェイン 世界
が愛する厄介者のうた』という映画もあるら
しい。













<ツイート>
私が生まれて初めて聴いたライブがミッシェル・
ガン・エレファントだった。とにかく衝撃的に
音がデカかった。あれでロックンロールに頭を
ぶん殴られて、人生だいぶ変わったかもしれな
い。もちろん良い方向に、だと思うが。